源氏物語 上 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集04)

制作 : 角田光代 
  • 河出書房新社 (2017年9月8日発売)
3.94
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  • レビュー :12
  • Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309728742

源氏物語 上 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集04)の感想・レビュー・書評

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  • 訳者だというのに、「源氏物語を好きだとも嫌いだとも思ったことがなく、この物語自体に思うところも何もなかった。」そんな本音を、あとがきでさらりと告白している、小説家の角田光代さん。

    源氏物語といえば、日本人には少なからずお馴染み、

    「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。」

    そんな一文から始まる、ある一人の男「光君(ひかるきみ)」の一生と、彼を取り巻いた一族たちの約70年を綴った、54帖からなる壮大な物語。

    与謝野晶子や谷崎潤一郎、円地文子など、これまでにも日本の名だたる作家たちが、それぞれの思い入れと強調と個性によって訳し、ある意味では、常に描き直されてきた歴史的大著でもある。

    角田さん、とっても大胆発言です。

    そんな実にクールな立ち位置にいた彼女が訳すにあたって最も優先したのが「読みやすさ」。
    その言葉通り、実に平易かつ端的な現代の言葉で、リライトされています。
    例えば、古文では重要視される敬語や謙譲語等は敢えて無視し、そして反対に、省略されるはずの主語をたくさん挿し入れるなどされています。

    正直に言ってしまえば、これによって、源氏物語が本来持っている、無常観を基調にした情緒や風情、音律的な流麗さ、そして、主要な人物だけでなく端役に至るまで、それぞれの身分や置かれた状況、物語上の役割を勘案して語られる心理描写の絡まり合いが織りなすきめ細やかな美しさ等は、残念ながら零れ落ちてしまっていると思います。

    しかし、それを補うだけの利点がこの角田訳にあるのも確かです。

    まず第一に、ない主語や細かな敬語に頭を働かせて、誰の行為であるかを考えたり、つまづくことがない分、実にすらすら読めること。
    そしてそれ故に、源氏物語の小説としての魅力の土台の一つである、数ヶ月どころか、10年、20年、はたまた50年先にまで及ぶ無数の伏線が張り巡らされていることと、その伏線がきちんと回収されてさらに次の展開へと続く構成力と展開力の見事さが明確にわかる、立体的なつくりとなっている点です。

    これにより、本編ともいえる主軸展開の合間合間に、時間軸を同じくしながら本流に影響を与えない、今で言う「スピンオフ」的な帖が挟まれて、本編では展開の都合上描かれなかった主要人物たちの性格的個性を際立たせる役割を担っていたかと思えば、そのスピンオフ中に、後年本編に大きく影響する伏線的要素が実はしっかり語られていたり…という、源氏物語の長篇小説としての巧妙なつくりが際立っています。

    そして、各帖の初めに毎回挿入される、該当帖における主要な登場人物たちの相関図が、これまた、読者の頭をきちんと整理してくれて、とてもわかりやすい。

    ハードルが上がりがちな古典物語を、「異世界舞台の現代小説」であるかのように、フラットに読めるようにした角田さんの仕事は見事だと思います。

    今回刊行された上巻には、光君が誕生する第1帖の「桐壺」から、彼が権力争いの中で不遇をかこちながらも再起し、35歳で栄華を極めた第21帖の「少女」までが収められています。

    この段階で、既に回収された伏線も、回収されていないものもあります。はたまた、新たに張られたものもあります。

    他の作家さんの訳で源氏物語は読み終えているため、既に全ての展開も結末も知っている立場でも、次を読みたいと思える作品でした。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      角田さん、大好きなんです。
      角田さんの小説だったら何はさておきいち早く読みたい性分ですが、この源氏については手にとれず・・・。

      何しろ厚い(-_-;)
      おまけに角田さんのオリジナルではない。
      源氏物語に時間をかけるのは惜しい、などの理由でまだ読んでいません。

      でもhotaruさんのレビュー読んでたら、ちょっと心が動きました!
      素敵な分かりやすいレビューで読みたくなりました。
      年内にチャレンジできるかな・・・(^_^;)
      2018/02/06
    • hotaruさん
      Vilureefさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

      角田さんのファンでいらっしゃるんですね。
      私は恥ずかしながら角田さんの小説それ自体はまだ読んだことがないので(角田さんが担当された「失われた時を求めて」の抄訳だけ読みました)、この訳文に角田さんの小説が持つのと同じ個性や魅力が出ているかはまでは残念ながらわかりません。

      でも、数ある訳文の中でも特に読みやすいのは確かだと思います。

      新たな角田さんワールドを求めて、中・下巻まで刊行されたのちに、勢いで読むといいかもしれないですね。
      2018/02/06
  • 高校生の時、教科書で「若紫」を読み、これっておもしろいよなと思って古文読解テキストを購入。でも序盤で飽きて挫折。
    大学生の時、実家で母が買っていた瀬戸内寂聴訳を読むも雨夜の品定めあたりで頓挫。
    働き始めた頃ふと購入した文庫の円地文子訳も同様。
    嫁さんが持っている「あさきゆめみし」でさえ明石から先は読めず。

    こんなわけで多分生涯読み通せまいと思っていた「源氏」だが、角田光代の新訳を買おうかどうか逡巡。今回も読めるか分からないし、なにせ本にしては高額で・・・。

    しかし梅田の書店で角田さんのサイン本を見て、えいやと購入しました。彼女のコメント、「読みやすい訳を心掛けた」という言葉を信じました。

    結果は意外なほどすいすい読み進められました。
    尊敬語・謙譲語で身分関係を表すというこの小説の特徴をあえて無視したとのこと。
    角田さんの仕事は本当に素晴らしい。

    今まで読めなかった人もぜひ手にとって欲しいです。
    よく考えれば、上中下巻(既刊はこの上巻のみですが)全部買っても、新幹線の東京・大阪片道に及ばないくらいの額です(本って他のエンターテイメントに比べたらホントに廉価)。

    男だから光君の気持ちも分かると以前は思ってましたが、この小説に描かれている男女はそれぞれがそれぞれの地獄を抱えているように思えます。

    結局、簡単になびく女性には興味がなく、いろいろな理由から返事がなかったり会えなかったりする女性のことばかり考えて悶々としている源氏の姿がずっと描かれている。

    返歌がないと思い悩むのはLINEの既読スルーと変わらず、いつの世も変わらないのだなとも。

    ちょっと落ち着いたと思ったら事件が起こって、エンターテイメントとして完成されている作品のように思います。

    余談ですが、毎日通勤で通ってる道中に紫式部が住んでこの本を執筆していた場所(廬山寺)があることも最近知りました。

  • めちゃめちゃさくさく読める。『あさきゆめみし』の次に読むのにおすすめです。ときどき挟まる平安時代のおもしろトピックがちゃんと笑えるって、角田さんの功績ですね。

    しかし21世紀の倫理観で読むと光君のは腹立たしいこと極まりない。浮気性なだけでなくて、決定的な部分で思いやりがない。権力があって顔がよくて人気があれば、こんなに他者に無頓着になれるんだな、という幻滅。そしてそういう人にかかわりあった場合に生じうる女の不幸カタログの壮観なこと! 恐怖に刺激されて(先がどうなるかわかっているのに)どんどん読んでしまう。『源氏物語』が千年間提示し続けるリアリティに、殴られっぱなしになった。

  • 光君に心奪われ、惑わされ、近づいたり、離れたり、そんな女性心理を角田光代風に鮮やかに読ませてくれるだろうと、首を長くして出版を待っていた本。

    とにかく読み易さを求めたと訳者は言っている。
    確かに他の訳本よりもストーリーテーリングな感じかして、ぐいぐいと引き込まれていく。
    しかしそれ以上に期待通り、女性達の微妙な心の動きがきちんと書かれているし、驚いたのは光君の心情までも丁寧に訳されていることだった。

    早く次作を読みたい!

  • ===qte===
    源氏物語 現代のリズムに
    角田光代「歯切れよく、わかりやすく」

    2017/9/5付日本経済新聞 夕刊

     作家の角田光代が「源氏物語」の現代語訳(全3巻)に挑んでいる。歯切れよく、わかりやすい文章にすることで読み通しやすい訳書を目指したという。上巻が近く刊行される。
     「源氏物語」は約1千年前、紫式部によって書かれた。光源氏が様々な女性と繰り広げる恋愛を中心に、生と死、権力闘争など平安貴族社会の内実を描いたもので、「桐壺(きりつぼ)」から「夢浮橋」まで54帖(じょう)ある。
     これまで与謝野晶子、谷崎潤一郎らが現代語訳に取り組んできた。角田訳「源氏物語」(河出書房新社)は2014年に刊行が始まった「池澤夏樹個人編集 日本文学全集」の一つだ。
    感情表現に共感

     「『源氏物語』は学生時代にいくつかの帖を読んだだけで、特に好きなわけではなかった。すでに立派な現代語訳もあるのに、との思いもあった。でも私が唯一持っている作家のサイン本は、池澤さんの『海図と航海日誌』。そんな方に(訳者に)指名されたら引き受けざるを得ませんでした」
     思い入れがない分、プレッシャーはなかったが、どんな立ち位置で現代語訳に取り組むかは迷った。「私に求められているのは何だろうと考えた。そこで思い当たったのがわかりやすさ。原文は一文が長いので切る。逆に(現代の読者にとって)言葉足らずと感じる箇所は補いました」
     例えば「桐壺」冒頭の部分。帝に寵愛(ちょうあい)され、後に光源氏の母となる女性の地位は「女御より劣る更衣」であり、「与えられた部屋は桐壺」という説明を加えた。一方、地の文の敬語はできるだけ削り、頭に入ってきやすい歯切れのよい文章を心がけた。
     文末は「自分が書き慣れていることと、やはり読みやすさを考え、『だ・である』調を選んだ」という。
     現代語訳を進めていくうち、「源氏物語」の魅力にも改めて気づいた。「登場する女性たちは感情表現によって顔を与えられていると感じました。それは現代でも『ああ、分かるなあ』と思う感情です」
     中でも胸にひしひしと迫ってきたのが上巻最後の「少女(おとめ)」の帖。光源氏の子である夕霧と、幼なじみの雲居の雁(かり)との初恋を描いている。「2人が引き裂かれたときは、思わず泣いてしまった。それは現代語訳に取り組んで初めての経験でした」

    小説執筆は休止中

     「――ところで光君という名は、高麗人の人相見が源氏を賞賛してそう名づけた、と言い伝えられているとのこと……」(「桐壺」)とあるように、「源氏物語」には「草子地の文」と呼ばれる作者とおぼしき声が登場する。「(人物や和歌を)いちいち挙げるのはやめておきますと宣言する箇所を読むと、面倒と感じていたのだろうと思う。作者が身近に感じられて興味深い」と述べ、その部分を目立たせるようにした。
     「源氏物語」に取り組むため、15年春から小説執筆は休止中。「現代語訳が小説にどんな影響を及ぼすかは自分では分からない。でも周囲の方々が『必ず役立つはず』と言ってくれるので、それを信じています。確かに“小説心”を起こさせる要素はたまっています」。中巻は18年5月、下巻は18年末~19年の刊行を予定している。

    (編集委員 中野稔)
    ===unqte===

  • 作家、角田光代が現代語訳を手掛けた源氏物語だ。

    角田光代×源氏物語なんて、すごい組み合わせで面白そう、と期待して手に取り、読んでいて案外普通だな、と思ったけれど、「普通に読める」ことがすごいんだと後から知った。

    末尾に、もともとの文章と角田さんが訳した現代文が併記されている部分があるんだけれど、読んで驚く。原文、意味不明。なにこれ、こんななのか。

    微妙な違いの尊敬語を駆使することによって主語が誰なのかを表現している、というのが原文らしいんだけれど、なんでわざわざそんな難解なの!主語書いてよ紫式部!と驚いた。

    角田さん自身は「ばーっと読める」という勢いを重視して訳したらしく、まさに「ばーっと」読めた。

    源氏物語自体を別の訳者で何度か読んでいたことによって理解度が深まったのか・・・と勝手に思っていたけれど、そうではなくて、複雑な人間関係やら何やらがすっと頭に入って突っかかることなく理解できたのは訳文がわかりやすいからのようだ。

    誰にでもわかる平易な言葉で、面白い本を書く、というのが角田光代の素晴らしいところだといつも思うんだけれど、訳文にもそういう個性が出るんだなぁ。あまりにも平易なので個性と感じさせない個性、というか。

    どの訳文で読んでも毎度のことながら好き放題やっている源氏にはまったく共感できず、主人公である彼を好きになれないんだけれど、でも、そもそもこの源氏は「ありえない存在」として描かれているんだから、共感なんていらないのか、ただのアイコンなのか、と今回初めて割り切って思えた。

    続きも読みたい。

  • 源氏物語を、初めて通しで読んだ。

    読みやすい訳で、各話ごとに登場人物の相関図が書かれているので、私のような初心者にはぴったりだと思う。

    大体のあらすじは学生の時に授業で習っていて、プレイボーイの話だということは知っていたけど、これほどまでに節操ないとは…驚いた!
    でも、どの女の人も大事に想う気持ちに偽りはなく、こまめに手紙を送ったり、贈り物をしたりする心配りは、大したものだと感心する。

  • 源氏物語って読むの何回目だろう・・・。
    さんざん源氏物語はすごいといわれ(同時代人の日記とかにも出てくるし)、その刷り込みのまま、豪華絢爛な王朝絵巻を想像して、読むと、

    「源氏ってダメ男すぎる・・・」という一言に尽きる残念な感想になる。

    わかっている。現代人の物差しで測ってはダメなんだと。源氏物語の主題はおそらくそこにはないんだろうと。
    でも、思うわけですよ。
    女性がでてくるたびに、

    「で、ヤッ・・・・・いえいえ、いたしたの?」と。
    これは、「いたしたの?いたしてないの?」

    後朝の歌、出してるね。ってことはいたしたんですね。あら、無理やりとかやってんの?そんな手荒なことはしたくなかった?じゃあ、しなきゃいいじゃん。女がつれなさすぎてつい?・・・・おーまーえーはー!!!

    しかも、光源氏はこれでも、自分は遊んでないほう、なんていっている。じゃあ同時代人の男たちのいたしっぷりはどんな・・・・。

    思えば、ティーンエイジャーのころから、源氏を読むたびにそんなあいまいな境界線にイライラしてきた。
    いや、平凡なティーンエイジャーなので、とっかかりは、漫画ですが。「あさきゆめみし」とかは学校の図書室で読んだな・・・あれは置いておいてよかったのだろうか。

    「あさきゆめみし」おもしろかったけど、出てくるのは黒髪の女性ばかりでした。ものすごく不細工以外は、美人って描くバリエーションがあんまりないんだなと思ったな、そういえば。そういう意味では源氏物語は漫画には不向きなのかもしれません。女性の描き分け方って、原文では顔かたちよりは行動や物腰、雰囲気の世界だから。その描写を読むのも、おそらくは源氏物語の楽しみ方のひとつなんだろう。

    そうなんだろうけど、とてもそこまでの境地には至れないのでした・・・。

    ティーンエイジャーから成長してないわたし・・・。


    あ。これが源氏に初めて触れるという方。
    どうぞご心配なく。
    光源氏の報いはこれからですから。まだまだこれからですから(笑)

  • 世に優れて魅力ある男の物語がたくさんの登場人物を連ねて際限なく広がる。その一方で人の心の奥へも深く沈んでゆく。いうまでもなく日本文学最大の傑作。

  • 2018/02/18

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