源氏物語 上 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集04)

著者 :
  • 河出書房新社
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レビュー : 31
  • Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309728742

感想・レビュー・書評

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  • 訳者だというのに、「源氏物語を好きだとも嫌いだとも思ったことがなく、この物語自体に思うところも何もなかった。」そんな本音を、あとがきでさらりと告白している、小説家の角田光代さん。

    源氏物語といえば、日本人には少なからずお馴染み、

    「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。」

    そんな一文から始まる、ある一人の男「光君(ひかるきみ)」の一生と、彼を取り巻いた一族たちの約70年を綴った、54帖からなる壮大な物語。

    与謝野晶子や谷崎潤一郎、円地文子など、これまでにも日本の名だたる作家たちが、それぞれの思い入れと強調と個性によって訳し、ある意味では、常に描き直されてきた歴史的大著でもある。

    角田さん、とっても大胆発言です。

    そんな実にクールな立ち位置にいた彼女が訳すにあたって最も優先したのが「読みやすさ」。
    その言葉通り、実に平易かつ端的な現代の言葉で、リライトされています。
    例えば、古文では重要視される敬語や謙譲語等は敢えて無視し、そして反対に、省略されるはずの主語をたくさん挿し入れるなどされています。

    正直に言ってしまえば、これによって、源氏物語が本来持っている、無常観を基調にした情緒や風情、音律的な流麗さ、そして、主要な人物だけでなく端役に至るまで、それぞれの身分や置かれた状況、物語上の役割を勘案して語られる心理描写の絡まり合いが織りなすきめ細やかな美しさ等は、残念ながら零れ落ちてしまっていると思います。

    しかし、それを補うだけの利点がこの角田訳にあるのも確かです。

    まず第一に、ない主語や細かな敬語に頭を働かせて、誰の行為であるかを考えたり、つまづくことがない分、実にすらすら読めること。
    そしてそれ故に、源氏物語の小説としての魅力の土台の一つである、数ヶ月どころか、10年、20年、はたまた50年先にまで及ぶ無数の伏線が張り巡らされていることと、その伏線がきちんと回収されてさらに次の展開へと続く構成力と展開力の見事さが明確にわかる、立体的なつくりとなっている点です。

    これにより、本編ともいえる主軸展開の合間合間に、時間軸を同じくしながら本流に影響を与えない、今で言う「スピンオフ」的な帖が挟まれて、本編では展開の都合上描かれなかった主要人物たちの性格的個性を際立たせる役割を担っていたかと思えば、そのスピンオフ中に、後年本編に大きく影響する伏線的要素が実はしっかり語られていたり…という、源氏物語の長篇小説としての巧妙なつくりが際立っています。

    そして、各帖の初めに毎回挿入される、該当帖における主要な登場人物たちの相関図が、これまた、読者の頭をきちんと整理してくれて、とてもわかりやすい。

    ハードルが上がりがちな古典物語を、「異世界舞台の現代小説」であるかのように、フラットに読めるようにした角田さんの仕事は見事だと思います。

    今回刊行された上巻には、光君が誕生する第1帖の「桐壺」から、彼が権力争いの中で不遇をかこちながらも再起し、35歳で栄華を極めた第21帖の「少女」までが収められています。

    この段階で、既に回収された伏線も、回収されていないものもあります。はたまた、新たに張られたものもあります。

    他の作家さんの訳で源氏物語は読み終えているため、既に全ての展開も結末も知っている立場でも、次を読みたいと思える作品でした。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      角田さん、大好きなんです。
      角田さんの小説だったら何はさておきいち早く読みたい性分ですが、この源氏については手にとれず...
      こんにちは。

      角田さん、大好きなんです。
      角田さんの小説だったら何はさておきいち早く読みたい性分ですが、この源氏については手にとれず・・・。

      何しろ厚い(-_-;)
      おまけに角田さんのオリジナルではない。
      源氏物語に時間をかけるのは惜しい、などの理由でまだ読んでいません。

      でもhotaruさんのレビュー読んでたら、ちょっと心が動きました!
      素敵な分かりやすいレビューで読みたくなりました。
      年内にチャレンジできるかな・・・(^_^;)
      2018/02/06
    • hotaruさん
      Vilureefさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

      角田さんのファンでいらっしゃるんですね。
      私は恥ずかしながら角田さんの小...
      Vilureefさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

      角田さんのファンでいらっしゃるんですね。
      私は恥ずかしながら角田さんの小説それ自体はまだ読んだことがないので(角田さんが担当された「失われた時を求めて」の抄訳だけ読みました)、この訳文に角田さんの小説が持つのと同じ個性や魅力が出ているかはまでは残念ながらわかりません。

      でも、数ある訳文の中でも特に読みやすいのは確かだと思います。

      新たな角田さんワールドを求めて、中・下巻まで刊行されたのちに、勢いで読むといいかもしれないですね。
      2018/02/06
  • 高校生の時、教科書で「若紫」を読み、これっておもしろいよなと思って古文読解テキストを購入。でも序盤で飽きて挫折。
    大学生の時、実家で母が買っていた瀬戸内寂聴訳を読むも雨夜の品定めあたりで頓挫。
    働き始めた頃ふと購入した文庫の円地文子訳も同様。
    嫁さんが持っている「あさきゆめみし」でさえ明石から先は読めず。

    こんなわけで多分生涯読み通せまいと思っていた「源氏」だが、角田光代の新訳を買おうかどうか逡巡。今回も読めるか分からないし、なにせ本にしては高額で・・・。

    しかし梅田の書店で角田さんのサイン本を見て、えいやと購入しました。彼女のコメント、「読みやすい訳を心掛けた」という言葉を信じました。

    結果は意外なほどすいすい読み進められました。
    尊敬語・謙譲語で身分関係を表すというこの小説の特徴をあえて無視したとのこと。
    角田さんの仕事は本当に素晴らしい。

    今まで読めなかった人もぜひ手にとって欲しいです。
    よく考えれば、上中下巻(既刊はこの上巻のみですが)全部買っても、新幹線の東京・大阪片道に及ばないくらいの額です(本って他のエンターテイメントに比べたらホントに廉価)。

    男だから光君の気持ちも分かると以前は思ってましたが、この小説に描かれている男女はそれぞれがそれぞれの地獄を抱えているように思えます。

    結局、簡単になびく女性には興味がなく、いろいろな理由から返事がなかったり会えなかったりする女性のことばかり考えて悶々としている源氏の姿がずっと描かれている。

    返歌がないと思い悩むのはLINEの既読スルーと変わらず、いつの世も変わらないのだなとも。

    ちょっと落ち着いたと思ったら事件が起こって、エンターテイメントとして完成されている作品のように思います。

    余談ですが、毎日通勤で通ってる道中に紫式部が住んでこの本を執筆していた場所(廬山寺)があることも最近知りました。

  • めちゃめちゃさくさく読める。『あさきゆめみし』の次に読むのにおすすめです。ときどき挟まる平安時代のおもしろトピックがちゃんと笑えるって、角田さんの功績ですね。

    しかし21世紀の倫理観で読むと光君のは腹立たしいこと極まりない。浮気性なだけでなくて、決定的な部分で思いやりがない。権力があって顔がよくて人気があれば、こんなに他者に無頓着になれるんだな、という幻滅。そしてそういう人にかかわりあった場合に生じうる女の不幸カタログの壮観なこと! 恐怖に刺激されて(先がどうなるかわかっているのに)どんどん読んでしまう。『源氏物語』が千年間提示し続けるリアリティに、殴られっぱなしになった。

  • 源氏物語って読むの何回目だろう・・・。
    さんざん源氏物語はすごいといわれ(同時代人の日記とかにも出てくるし)、その刷り込みのまま、豪華絢爛な王朝絵巻を想像して、読むと、

    「源氏ってダメ男すぎる・・・」という一言に尽きる残念な感想になる。

    わかっている。現代人の物差しで測ってはダメなんだと。源氏物語の主題はおそらくそこにはないんだろうと。
    でも、思うわけですよ。
    女性がでてくるたびに、

    「で、ヤッ・・・・・いえいえ、いたしたの?」と。
    これは、「いたしたの?いたしてないの?」

    後朝の歌、出してるね。ってことはいたしたんですね。あら、無理やりとかやってんの?そんな手荒なことはしたくなかった?じゃあ、しなきゃいいじゃん。女がつれなさすぎてつい?・・・・おーまーえーはー!!!

    しかも、光源氏はこれでも、自分は遊んでないほう、なんていっている。じゃあ同時代人の男たちのいたしっぷりはどんな・・・・。

    思えば、ティーンエイジャーのころから、源氏を読むたびにそんなあいまいな境界線にイライラしてきた。
    いや、平凡なティーンエイジャーなので、とっかかりは、漫画ですが。「あさきゆめみし」とかは学校の図書室で読んだな・・・あれは置いておいてよかったのだろうか。

    「あさきゆめみし」おもしろかったけど、出てくるのは黒髪の女性ばかりでした。ものすごく不細工以外は、美人って描くバリエーションがあんまりないんだなと思ったな、そういえば。そういう意味では源氏物語は漫画には不向きなのかもしれません。女性の描き分け方って、原文では顔かたちよりは行動や物腰、雰囲気の世界だから。その描写を読むのも、おそらくは源氏物語の楽しみ方のひとつなんだろう。

    そうなんだろうけど、とてもそこまでの境地には至れないのでした・・・。

    ティーンエイジャーから成長してないわたし・・・。


    あ。これが源氏に初めて触れるという方。
    どうぞご心配なく。
    光源氏の報いはこれからですから。まだまだこれからですから(笑)

  • 光君に心奪われ、惑わされ、近づいたり、離れたり、そんな女性心理を角田光代風に鮮やかに読ませてくれるだろうと、首を長くして出版を待っていた本。

    とにかく読み易さを求めたと訳者は言っている。
    確かに他の訳本よりもストーリーテーリングな感じかして、ぐいぐいと引き込まれていく。
    しかしそれ以上に期待通り、女性達の微妙な心の動きがきちんと書かれているし、驚いたのは光君の心情までも丁寧に訳されていることだった。

    早く次作を読みたい!

  • 文章が現代の小説のようで読みやすい。
    状況がよくわかるから、始めは家系図にするとわかる血の濃さに驚いたし、一夫多妻制に慣れるまで光君の浮気性に苛々した。若紫では子供を相手にほぼ誘拐で気味悪いし、葵の上が陣痛で苦しんでいる時には「あなたはひどいよ。私をつらい目にあわせるんだね」と泣き出すし。産後の体調不良で横になっている時には「子どものように甘えているから、こんなにいつまでもよくならないのだよ」と言ったり。現代の感覚なら有り得ない!クソ野郎!!という印象だった。特に帚木で男友達と、最高なのはどんな女か、と女性批評しているのは眉を顰める。
    しかし慣れてくると、マザコン(藤壺)、ツン(葵の上)、人妻(空蝉)、ロリ(若紫)、不細工(末摘花)、不倫(明石の君)とバリエーション豊かで、まるで恋愛シミュレーションゲームのようだと思えた。
    自然の描写や和歌は凝っていてとても美しいし、絵合や六条のお庭造りも面白い。また光君も容姿や服のセンス、血筋や知能や財力もステータスカンストで申し分ない上に、大変な筆まめで相手の心をくすぐるようなものを作るから確かにすごい。よく泣くけど、乱暴なところがないのも好印象。ただ、さらっと昇進するけど仕事はしてる?とは思ってる。
    一冊が長いけれど楽しく読めた。
    最後の池澤夏樹さんの解説も興味深かった。

  • 読みやすく、普通に昔のことが書いてある小説のように読めるのがすごい!
    当時の生き様?や暮らしぶりがわかっておもしろい。
    原文も読みたくなって買ってしまった…

  • 訳者の力が凄い。
    これほどスラスラと読めるとは思っていなかった。

    内容については今更言及するまでもないので、ひとまず総て読み切ってから感想を書きたいと思う。

  • 作家、角田光代が現代語訳を手掛けた源氏物語だ。

    角田光代×源氏物語なんて、すごい組み合わせで面白そう、と期待して手に取り、読んでいて案外普通だな、と思ったけれど、「普通に読める」ことがすごいんだと後から知った。

    末尾に、もともとの文章と角田さんが訳した現代文が併記されている部分があるんだけれど、読んで驚く。原文、意味不明。なにこれ、こんななのか。

    微妙な違いの尊敬語を駆使することによって主語が誰なのかを表現している、というのが原文らしいんだけれど、なんでわざわざそんな難解なの!主語書いてよ紫式部!と驚いた。

    角田さん自身は「ばーっと読める」という勢いを重視して訳したらしく、まさに「ばーっと」読めた。

    源氏物語自体を別の訳者で何度か読んでいたことによって理解度が深まったのか・・・と勝手に思っていたけれど、そうではなくて、複雑な人間関係やら何やらがすっと頭に入って突っかかることなく理解できたのは訳文がわかりやすいからのようだ。

    誰にでもわかる平易な言葉で、面白い本を書く、というのが角田光代の素晴らしいところだといつも思うんだけれど、訳文にもそういう個性が出るんだなぁ。あまりにも平易なので個性と感じさせない個性、というか。

    どの訳文で読んでも毎度のことながら好き放題やっている源氏にはまったく共感できず、主人公である彼を好きになれないんだけれど、でも、そもそもこの源氏は「ありえない存在」として描かれているんだから、共感なんていらないのか、ただのアイコンなのか、と今回初めて割り切って思えた。

    続きも読みたい。

  • 源氏物語を、初めて通しで読んだ。

    読みやすい訳で、各話ごとに登場人物の相関図が書かれているので、私のような初心者にはぴったりだと思う。

    大体のあらすじは学生の時に授業で習っていて、プレイボーイの話だということは知っていたけど、これほどまでに節操ないとは…驚いた!
    でも、どの女の人も大事に想う気持ちに偽りはなく、こまめに手紙を送ったり、贈り物をしたりする心配りは、大したものだと感心する。

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著者プロフィール

1967年、神奈川県生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。著書に『対岸の彼女』(直木賞)、『八日目の蝉』(中央公論文芸賞)、『紙の月』(柴田錬三郎賞)など多数。

「2020年 『ちょこっと、つまみ おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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