源氏物語 中 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集05)

著者 :
  • 河出書房新社
3.73
  • (2)
  • (8)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 172
レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309728759

作品紹介・あらすじ

栄華を極める光源氏への女三の宮の降嫁から、
運命が急変する――
恋と苦悩、密通の因果応報を描く、最高傑作の巻!

この中巻の「若菜(上・下)」のために源氏物語があると言っていい。
――池澤夏樹

感情の描きかたの複雑さとリアリティ、その比喩の巧みさに私は何度も息をのんだ。
そして気づいたのである。この作者は、負の感情、弱さや迷いや悲しみを書くときに、
筆がずば抜けて生き生きしている。 ――角田光代

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 訳者で小説家の角田光代さんは、「この中巻(玉鬘)のあたりから、紫式部は「人」を描きはじめた、という印象を強く持つ。位相が変わった、と思う理由のひとつである。感情の描きかたの複雑さとリアリティ、その比喩の巧みさに私は何度も息をのんだ」とあとがきで述べています。

    押しも押されぬ有名作家として数々の作品を産み出し続けている角田さんがなんども驚愕せずにいられなかったほど、この一千年も前に書かれた物語は、壮大で、奥が深く、そして、驚異的な緻密さを誇っているんだなあ、と感嘆せずにはいられませんでした。

    角田訳における中巻は、光君が35歳で栄華を極めて以後の第22帖「玉鬘」から、50歳余りで彼が亡くなる第41帖「雲隠」までが収められています。

    上巻のあとがきでは、訳すにあたってなによりも「読みやすさ」を優先したとおっしゃっていた角田さん。歴史に名を残す文豪たちによる訳が既に数多くにあるのに「なぜ今私に話が来たのか?を考えた」結果として。

    その初志を貫いた角田さんの丁寧な仕事により、上巻に引き続きこの中巻も「異世界を舞台にした現代小説」であるかのようにとてもフラットに読むことができます。

    そのため、上巻において、数ヶ月どころか10年、20年、はたまた50年も先の展開に向けて無数に張り巡らされていた巧妙な伏線が、ゆっくりと、しかし、確実かつ完璧に回収され、単に収束するというレベルにとどまらずに、むしろ、人生における無常と悲哀、そして終焉という一つの大きな流れとなっていく見事な構造を、言葉への無理解や複雑さに阻害されることなく、じっくりと味わうことができます。

    それから、源氏物語が持つ「群像劇としての側面」を、明快にとらえ、しっかりした形にして示したのも、角田さんの努力のもう一つの結実だと思いました。

    源氏物語は決して主人公の「光君」だけの物語ではありません。
    原文からして、俯瞰の視点で、彼以外の多くの登場人物たちの心のうちの哀しみや悩みも大なり小なり丁寧に描写されています。
    作中の彼らは他者の心は知らなくても、作者と読み手だけが知りえるそれらの事実によって、より一層の奥行きと感傷が加わった、アイロニックなドラマ性を持つ物語なのです。

    この群像劇的な側面と厚みは、過去に源氏物語を訳した文豪でも、捉え方と表現に失敗している方もいる、とても難しいところ。
    ここをきっちり抑えた角田さんの途中の苦しみや迷い、努力、使ったエネルギーはたいへんなものだっただろうと思わずにはいられませんでした。
    彼女が訳しながら「紫式部自身が、悩み苦しんでいる人間の姿こそ人間の本質と(書きながら)思ったのではないか。」と思いを馳せたことが、まさに活きたのかと思います。

    次回の下巻は光君亡き後の、宇治十帖がメインになった世界。
    「さて、光君もついにいなくなってしまった。その後の世界を、紫式部はどんな風に描くのだろう。またあらたな位相へと向かうのか。もうしばらく、おつきあい願えたらうれしいです。」
    そうあとがきを締めくくった角田さん。

    勝手な妄想ながら、訳の仕事の話を受ける前は何の思い入れもなかったと大胆告白していた源氏物語にすっかり惹きつけられているのかと思われます。
    そんな彼女が次はどんな訳をしてくれるのか、宇治十帖が少し苦手な私でも、今からとても楽しみです。

  • 角田光代による現代訳・源氏物語。
    亡き夕顔の忘れ形見であった姫君を縁あって源氏が引き取り手元で育てようとする「玉鬘」から、光源氏が亡くなったと考えられる本文のない帖「雲隠」までが収録されている。

    今回、角田訳で読んで驚いたのが、玉鬘への印象が全然違って見えたこと。
    前に荻原規子の訳で読んだ時は、この玉鬘が自分も持たずに光源氏に言い寄られては嫌がって見せるけどハッキリしない、という人物像に思えていたのに、今回、角田光代の訳で読んでみると、運命のいたずらで好色なおっさんに引き取られちゃって大変な目にあっているけど他の場所で生活していく糧も術もないのでなんとかうまいことやり過ごしている知性もあってしっかりした少女、という像を結んだ。
    むしろ、いいじゃないか玉鬘。あーあ、黒髭なんかと結ばれちゃって惜しいことしたなぁ、などと思う。

    原典は同じなのにこの印象の違いはなんだろう。もちろん受け取り手である自分の年齢や環境が違うというのもあるけれど、それだけでは説明できないような手ざわりの差で、どちらがいいとか悪いではなく、現代訳の影響力の強さを思い知る。

    夕霧の情けなくもみっともない恋の顛末は呆れた気持ちで読み(未亡人の隙につけ込んでコナをかけているわけで、もうそのすじだけを追うとかなり下衆な話だ)落葉の宮のかたくなさもいっそいいぞいいぞとことん拒否してやれと応援したくなり、読んでいて、ああ本当にこの物語は女性の物語なのだな、と思う。

    角田光代の平易な言葉で語られると、余計な装飾や千年前の物語であるという古色がそぎ落とされて、はっとするほど身近な平安王朝の女性たちがそこにいることに気づく。

    他の訳者の源氏物語で読んだ浮舟は自分は大嫌いなのだけれど、案外角田訳で読んだら好きになったりするだろうか。下巻も楽しみだ。

  • 第22帖 玉鬘(源氏35歳)から第41 帖 雲隠(源氏52歳)まで。
    全く光君になびかない玉鬘の話から、上巻とはガラッと雰囲気が変わる。光君の登りつめていく地位に反比例し、悲哀の色が強い第二幕が始まる。
    山登りに例えるなら若菜から下り坂に入っていく。
    届かぬ想い、近しい人達の出家などがあり、思い悩む光君にとても人間味を感じる。
    上巻にも増して光君、紫上、夕霧、柏木、玉鬘、女三の宮など登場人物の心情やその移ろいが丁寧に描かれていて、まさに「生きている」。
    早くも下巻を首を長くして待つ。

  • 岡野幸夫先生 おすすめ
    79【教養】918-I

    ★ブックリストのコメント
    実力派作家による最新の現代語訳。原文に忠実ながらも読みやすく、小説としての面白さが堪能できる角田訳。(下巻は未刊)

  • 上巻はすました感じがしたが、中巻は感情が渦巻いていて読んでいてどんどん進めていけた。

  • あとがきで角田さんが書かれていたように、上巻では、光君がいかに色気のある男だったか、をひたすらに書き連ねていて、その人となりを掴みかねていたが、この中巻では、光君が悩み迷っている姿が描かれていて、少し親近感を持って読めるようになっている。
    何より角田さんの訳が素晴らしく読みやすいというのも大きいと思うが、この分厚さながら、スラスラと淀みなく読めた。
    親しい人たちが次々になくなっていく中、最後には光君も…
    下巻は光君没後のお話になるようで、どんな展開が待っているのか、今から心待ちにしている。

  • 【源氏物語 中】
    上巻では、途中に須磨退去なんかありつつも、生まれてこのかた上り調子だった源氏の君。中巻でも勢いそのままに、位人身を極めて絶好調。
    その一方で、忍び寄る老化の影。過去のように自由に遊び回ることもできないし、なんだか昔の思い出は駆け巡るし、女性との関係も上手に育てられなくなる。
    次世代が成長する中で、周囲の人も少しずつ亡くなっていって、遂には長く寄り添った紫の上も..そして..。

    源氏物語を全く知らないところから入って、ここまでで41/54帖。1000年前の物語を現代でも読めることにも、物語の分量にもその精巧な構成にも、何より楽しく読める(この点は角田光代の貢献が大きいのかもしれないけど)ことにも驚いてる。

    源氏ほどの栄枯盛衰は当然ないけど、自分にもそれなりには人としての興隆と没落があるはずで。勝手に重ねてみることで、生きることの喜びだけではなく、悲しみやら悩みをしみじみ味わうのも良いなと思ったり。満員電車で風情感じてるのもそれはそれで素敵な読書時間だななんかと考えてる。

  • <図書館の所在、貸出状況はこちらから確認できます>
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=328652

  • 2019/02/15

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00260241

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

角田光代(かくた みつよ)
1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
1990年、「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。受賞歴として、1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞を皮切りに、2005年『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞、2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』で第22回伊藤整文学賞、2012年『紙の月』で第25回柴田錬三郎賞、同年『かなたの子』で第40回泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』で第2回河合隼雄物語賞をそれぞれ受賞している。
現在、小説現代長編新人賞、すばる文学賞、山本周五郎賞、川端康成文学賞、松本清張賞の選考委員を務める。
代表作に『キッドナップ・ツアー』、『対岸の彼女』、『八日目の蝉』、『紙の月』がある。メディア化作も数多い。西原理恵子の自宅で生まれた猫、「トト」との日記ブログ、「トトほほ日記」が人気。

角田光代の作品

源氏物語 中 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集05)を本棚に登録しているひと

ツイートする