能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)
- 河出書房新社 (2016年10月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (848ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309728803
感想・レビュー・書評
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能も狂言も人形浄瑠璃も見たことないので、
実際にどのような”動き”をするのかは全く想像するしかないのですが。
後書きでは「舞台での人形は本当に死ぬ。首が飛ぶ、崖から落ちればそのまま動かなくなる」とありそれを想像しながら読むと心に迫ります。
【「能・狂言」新訳:岡田利規】
能「松風」
磯に立つ一本の松の木。
行平中納言の一時の寵愛を受けた二人の女の情念。
能「卒塔婆小町」
若き日は美しかった。
その昔戯れに扱った男の怨念が憑り付いて、
いまでは卑しく年を取った。
能「邯鄲」
”邯鄲の夢”の能舞台化。
狂言「金津(かなづ)」
「はい、こうして登場したのが誰かと言いますと、金津というところに住んでいる人です」
新築したお堂に置くための地蔵を求める金津の住人と、
詐欺師”すっぱ”の悪巧み。
”すっぱ”の子をお地蔵様として金津に送り込んだ!
狂言「木六駄(きろくだ)」
伯父へのお使い品を使い込んでしまった太郎。
さあどうやって誤魔化す?!
狂言「月見座頭」
座頭と男は気が合って楽しい時間を過ごすが、
男には相手が盲目と言うことで意地悪心が湧き上がり…。
【「説経節」新訳:伊藤比呂美】
語り物「かるかや」
刈萱(かるかや)の総領、加藤左衛門重氏は、花見の最中に浮世を離れることを決意し、妻と幼い子供たちを残して出家する。
父を恋う子供たちは、長じて父を探しに出る。
すれ違う親子。
しかし僧門に入った重氏は、現世への思いを断ち切る。
立ち去る父の哀れ、追えない子らの哀れ、待つ身の妻の哀れ。
【人形浄瑠璃 近松門左衛門「曽根崎心中」新訳:いとうせいこう】
天満屋の遊女お初と将来を誓い合った平野屋の手代徳兵衛は、
金銭詐欺にひっかかり身動きが取れなくなってしまう。
弁明は聞かれず、無実にして死罪は免れなかろう。
お初と徳兵衛はあの世への道行を進む…。
***
最後の道行の文章が美しく美しく。
これは近松門左衛門がすごいのか、
いとうせいこうがすごいのか。
舞台で見たらさぞかし胸に迫るだろう。
【人情浄瑠璃 近松門左衛門「女殺油地獄」新訳:いとうせいこう】
油や河内屋の次男与兵衛は、生来の遊興癖、怠け癖とズル賢い気質から借金を重ねる。
向いの小さな油問屋豊島屋(てしまや)の嫁のお吉は娘三人を育てる気風のいい女。
良からぬたくらみを持った与兵衛は、豊島屋へと忍び入る…
***
動きのある文章でテンポよく話も進み、
お吉の明るさで弾みもつき、
そんななかで何も考えないかのごとく
与兵衛の行動がひたすら深みに堕ちていく様相が
不穏さを見せ続ける。
激しくしかし密かな家族の愛、
クライマックス”油殺し”惨劇の迫力、
そして殺人が露見するミステリー要素…
これは確かに見事な脚本。
【「菅原伝授手習鑑」新訳:三浦しをん】
梅は飛び 桜は枯るる世の中に 何とて松のつれなかるらん
菅原道真の領地の四郎九郎の三つ子、梅王丸、松王丸、桜丸は、
それぞれ菅原道真、藤原時平、斎世の宮の牛車番。
斎世の宮は道真の娘刈屋姫と駆け落ちし、
時平は道真の筆法伝授を巡り道真を失脚させる。
主人たちの関係が変わった三つ子たちは、それぞれの主人に従うこと気持ちを示す。
梅王丸は道真の流罪先を訪ね、桜丸は自害する。
道真への忠誠を指した梅と桜に対し、あくまでも彼らを追及する松。
しかし松王丸は、誰よりも苛烈な方法で道真への忠誠を示していた。
これらの話がのちの世まで知られているのは、天神さまとなられた菅丞相の御恵みであろう。
…という、シリアスな話を「少年少女名作文学集」かなんかで読んだのですが、いざ全体版を読んでみたら、以外に軽妙だったりユーモラスだったり色艶っぽかったりという場面も多かった。
悪役時平公が、牛車で大立ち回りを演じる場面などさぞかし迫力であろう。きっと人形の首がクルッとかわって怒髪天を抜くかのような顔面に変わり…などなど頭に浮かんできます。緊迫場面、ゆったりした場面、人間心理の妙、じつにバランスが取れています。
【人形浄瑠璃 ・歌舞伎 「義経千本桜」新訳:いしいしんじ】
壇ノ浦にて平家を滅ぼした義経だが、兄の頼朝に追われることになる。
義経の正室卿の君の犠牲、暴れる武蔵弁慶、義経を慕う静御前、そして忠臣の佐藤忠信。
捕る者逃げる者らの思惑を経て、義経一行は北上する。
海の上で義経以降は、壇ノ浦に沈んだはずの平知盛の襲撃に逢う。
知盛は壇ノ浦を逃げ延び、安徳天皇を擁し再起を図っていた。
宿敵との戦いは、共通の目的を持ち…
清盛の直径でありながら、平一門からはぐれた平維盛は、 正室若葉の内侍はわが子六代との再会を目指し、身を潜めていた。
そしてやはり壇ノ浦から逃れた平教経との邂逅…
後白河法皇から賜った鼓に情を寄せる狐の思慕、
男女、親子、そして主従の情景が絡み合い…
…ということで、「●●は生きていた!」「▲▲は実は※※だった!」などなど、想像を広げまくって自由闊達に書かれた脚本でした。
【人形浄瑠璃・歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」新訳:松井今朝子】
「江戸時代の赤穂事件を足利尊氏の執権高師直に置き換えて上演」ということは聞いていましたが、高師直相手に仇討なんてしたらさすがに歴史を変えすぎないか…?と思っていたのですが…いやあ、筆は強かった、史実なんてかっ飛ばして仇討しちゃいましたよ(笑)
高師直は、塩谷判官の妻”顔世”に恋慕するが、袖にされた恨みを判官にぶつける。
塩谷判官は高師直に切り付け、切腹と家の取り潰しを申し付けられる。
塩谷判官の家老大星由良助は、遊びに興じる振りをして仇討の機会を探る。
由良助の嫡子力弥は、判官の同僚桃井若狭守の加古川本蔵の娘小浪と婚約していたが…
…えーっと、高師直を討ち取ってしまいましたが、今後の歴史をどうするつもりなんだ(笑)。人がエンターテイメントを求める気持ちは史実を超越する(笑)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
純粋に面白く読めました。
説教節、曽根崎心中、女殺油地獄、菅原伝授手習鑑、
義経千本桜、仮名手本忠臣蔵
それぞれ有名な作品ですが、しっかり読んだことが
今までなかったのですが
現代語訳で非常に読みやすく一気に面白く読めました。 -
どれも訳が素晴らしく、非常に楽しめた。特に能・狂言では現代的な表現がちりばめられていて、思わず笑わずにはいられなかった。
作品の中では説教節の「かるかや」。説教節といえば「小栗判官」や「山椒大夫」を想起するけれど、かるかやもこれらにおとらず壮絶かつ深い内容であった。 -
分厚いけど、それを感じさせない豪華さ。
堪能しました。
やっぱり三浦しをんさんが好きだなー。
現代語訳となると、やはりカタカナ語は極力使わないでやろうというのが暗黙の了解かと思うけど、そんな既成概念はとっぱらって自由に、かつ、古典のエッセンスを感じさせる訳でした。
まさか笑わせられるとは思わなかったわ・・・。