図説 ジプシー (ふくろうの本/世界の歴史)

著者 :
  • 河出書房新社
3.60
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (115ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309761909

作品紹介・あらすじ

ジプシーとは誰か、彼らはどこからやってきたのか。文字を持たない民族であるジプシーたちの歴史を辿り、その生活と習俗を探る。世界をめぐる彼らの漂泊の旅を追いながら、ジプシーの真実の姿に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • ジプシーと聞くとまず思い浮かぶのは、音楽。
    ギタリストのジャンゴ・ラインハルトにフラメンコ、ハンガリー音楽やバルカン半島のブラス音楽……

    フランスでマヌーシュと呼ばれる人たちを見かけてますます興味津々になり、以来ずっとジプシーと呼ばれるこの謎めいた人々に関心があった。

    大昔、インドにいたとある部族が移動生活を続けながらヨーロッパに至り、テントや荷車などで暮らし、音楽を愛し感情豊かで、熊を操り……といったイメージをずっと持ってきたが(そしてそれは必ずしも間違ってはいなかったが)、たぶんその多くが自分のエキゾチックな幻想にすぎないとはうすうす感じていて、いい加減実情を知らなければと手に取った。

    本書の良いところは写真や図版がかなり豊富に載っているところ。ほんとはもっと分厚い本を読もうか迷っていたのだけれど、まずは本書でよかった。コンパクトに情報がまとまっている。

    まずジプシーという呼び名は英語由来の他称であることも今さら知った。彼ら彼女らは自分たちのことを「ロマ」とか「ドム」と呼ぶ。
    7〜10世紀の間に北インドの砂漠から旅立った部族がロマの祖先だというのは確からしい。そしてヨーロッパへ辿りつく間もついてからも、定住者たち、国境という概念を持つ者たちにさんざん迫害されてきた(もちろんナチスにも)。

    主な職業は以下のとおり。金属細工など金属にまつわる仕事、馬の売買、木工細工師、音楽家、占い師、動物使い、などなど。
    (研究によると、こうした職業は、インドの下層あるいはアウト・カーストの職業と酷似しているらしい。)

    ワゴンなどで移動生活を続けながらも家族単位の結びつきはかなり強く、そこから追放されることは生活が困難になることを意味する(定住化がだいぶ進んでいるらしい)。

    他にもロマにとっての宗教や死の観念、食事などについていろいろ書いてあるが、知れば知るほどやはり謎めいてきて余計なレッテルを貼りそうになる。

    歴史的にも、自分が抱いてるみたいな、「謎や神秘の表象」としての”なんちゃってジプシー”は、いろんな文学作品に顔を出す。
    本書にあがっているだけでもシェイクスピア、セルバンテス、ブロンテ姉妹、シャーロック・ホームズ(「まだらの紐」)にヘミングウェイ(「誰がために鐘は鳴る」)、そしてガルシア=マルケスの「百年の孤独」にも(メルキアデス!)。ヨーロッパでは完全に、ジプシー=辻音楽師、占い師、みたいな紋切り型ができあがってるっぽい。

    映画界でも興味の対象になっていて、予想以上にロマ映画が撮られている。エミール・クストリッツァとトニー・ガトリフが有名どころ。
    このあたりはだいたい観たが、アメリカ人のジャスミン・デラル監督が撮った「ジプシー・キャラバン」というドキュメンタリーが面白そう。
    ロマに出自をもつ音楽家たちのコンサート・ツアーを追った作品らしく、同時に彼らのルーツを探る旅にもなっているようだ。ジョニー・デップが特別出演してるのが謎だけど。

  • よく、「ジプシーみたいに生きたいよ」という言葉を聞きます。
    学生時代にジプシーを研究していた知人がいて、みんなで「おもしろそうだね」と言っていました。
    でも、実際のジプシーは、そんなお気楽で人にうらやましがられる存在ではありませんでした。

    ジプシーには、私もどこかロマンあふれるイメージを持っています。
    これまでに認識したジプシーといえば、『カルメン』のヒロインである、セビリアの煙草工場で働くジプシーの女工と、『嵐が丘』のヒースクリフ、映画『僕のスウィング』、ジプシー・ヴァイオリンのロビー・ラカトシュにジプシー音楽の始祖であるジャンゴ・ラインハルト、そしてカルメンを意識したであろう、「ジタン」のたばこのパッケージなど、ほとんどアート的なものばかりですが。

    ただ、ヨーロッパ旅行に行くと、「ジプシーのスリに気をつけろ」と必ず忠告され、実際に彼らがスリを行った場面を目撃したこともあるため、ジプシーについてのアートと現実に、甚だしい落差を感じます。 
    結局、実際のジプシーの生活と彼らの歴史について、よくわかっていないためだと気付きました。

    ジプシーと聞くだけで、どこか郷愁に満ちた雰囲気を感じますが、もともとエジプトからの渡来人とされたからジプシーと呼ばれるのだそう。
    エジプト由来とは、意外でした。

    実際には、インド起源説が有力だとのこと。 
    今では、ヨーロッパを中心に、77もの国々に分布しているんだとか。
    日本にはいない上に、彼らは文字を使わないため、生息が把握しきれず、そのためにミステリアスな存在とされているようです。
    文字を持たないということに驚きました。

    ロマ(ジプシー)の放浪は約1000年前に始まり、500年間も周囲からの誤解や偏見、差別を受け続けてきたとのこと。
    しきたりや感覚が異なるため、その土地に根を下ろした人々との共存は難しいのでしょう。

    国に属さないため、税金を払っておらず、電気、ガスは部屋に通っていないという現実に初めて気がつきました。
    確かにこれは、各国にとっても把握しきれず、戸籍統括もできない、扱いの難しい人々です。
    近世において、長年追放の対象となり、駆逐され続けてきたという歴史も、納得せざるをえません。

    職に就くという感覚も恐らく異なるため、世界中の大部分のジプシーは飢えているのだとか。
    あるジプシーの団体のリーダーから「日本で放射能汚染された食品でもいいから私の国に送ってほしい」と言われて愕然としたという著者の話が載っていました。
    国際問題では、もっと切実な飢餓問題が取り沙汰されていますが、ジプシーもまた救済すべき人々なのではないかと思います。

    彼らは汚れた格好をしていますが、室内は清潔に整然としている風習があるのだとか。
    著者は、実際に彼らの家を訪れて確認したそうです。

    南仏のサント・マリー・ド・ラ・メールはカトリックの巡礼地で、マリアの侍女の「黒いサラ」信仰がありますが、ここはジプシーの信仰の地でもあると知りました。
    サラはエジプト出身とされ、そのために黒い肌をしていたそうですが、エジプト出身とされるロマとの精神的つながりもそこにあるようです。

    生活が窮乏し、食べる者に困っていても、彼らにホームレスやストリート・ピープルのような悲惨さが見られないのは、いかなる場合でも彼らが「家族単位」で暮らしているからだと著者は指摘しています。
    確かに、ジプシーは常に家族単位。そこにギリギリの強みがあるのかもしれません。

    アート面では、ジプシー音楽としてスウィングやジプシー・キングス、非ジプシーによる映画作品など、彼らに注目した作品が増えてきてはいますが、社会的には簡単に解決には至らない根深い問題として、これからも存在し続けそうです。

    巻末には、ジプシー史略年表が掲載されており、これを見ると、長年にわたって彼らが迫害を受け続けてきたことが一覧できます。
    禁止され、追放され、処刑され続けた人々。
    ナチスによって、何千人ものジプシーがアウシュビッツに送られていることを、これまで知りませんでした。

    彼らによる初めてのまとまった会が開催されたのは、1971年のロンドンにおける第一回世界ロマ会議。
    ロマ人権センターが設立されたのは1996年と、ごく最近になってからです。
    ようやく少しずつ、彼らの人権が尊重され始めてきたといったところ。
    文字を持たない彼らは、それだけに世界に主張する機会を持てずにきたのかもしれません。
    遊牧民以上に土地とのかかわりを持たない彼らが、今後難民化しないよう、現在は、追放する時代から保護していく時代へと差し掛かった変換期ではないかと感じました。

    • リカさん
      nyancomaruさん、コメントありがとうございます。
      ロマものにお詳しいですね!私はせいぜい「ラッチョ・ドローム」くらいです。
      まだ...
      nyancomaruさん、コメントありがとうございます。
      ロマものにお詳しいですね!私はせいぜい「ラッチョ・ドローム」くらいです。
      まだまだ知らないことばかり。ロマについてのわかりやすい紹介本がもっといろいろあったらいいな~と思います。
      2014/02/05
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      んーー先ずは「知の再発見」双書の『ジプシーの謎』と、ふくろうの本『図説 ジプシー』は如何でしょうか?図版が多くて眺めているだけでも楽しいです...
      んーー先ずは「知の再発見」双書の『ジプシーの謎』と、ふくろうの本『図説 ジプシー』は如何でしょうか?図版が多くて眺めているだけでも楽しいです。
      2014/02/06
    • リカさん
      ありがとうございます。
      さすが本マスター、お詳しいですね!
      『図説 ジプシー』がとっつきやすそうなので、今度呼んでみようと思いまーす(〃...
      ありがとうございます。
      さすが本マスター、お詳しいですね!
      『図説 ジプシー』がとっつきやすそうなので、今度呼んでみようと思いまーす(〃^o ^〃)
      2014/02/20
  •  フラメンコやってると、ヒターノ(ジプシー)の迫害の歴史とかってワードが出てくるんですよ。差別されてるんだろうなぁってのは判ってたんですが、迫害の歴史とまで言われるとイメージ湧かないので本書を手に取りました。
     インドから始まり、ペルシャ、トルコ、バルカン、ロシア、フランス、スペイン、イギリス、アメリカと世界中に広がっていった流浪の軌跡、各地のジプシーたちの暮らしや習俗、文学や映画に見るジプシー等110ページ強の冊子に盛りだくさんの内容が詰め込まれてます。
     ジプシー達の宗教観や家族観、浄・不浄など「穢れ」の概念が興味深かったです。旧約聖書へのこじ付けやアウシュビッツでの虐殺などは勉強になりました。セルバンテスの考察も面白かったです。ジプシー学入門書としてお薦めの一冊です。
     

  • ジプシーは7-10世紀頃、北部インド、パンジャブの砂漠地域から移動した民族という。

  • テーマ史

  • 穢れについてのジプシーの考え方がおもしろかった。
    「中が浄、外が不浄」なのであれば、ガジョ(ジプシー以外の人)はジプシー側から見ても、不浄で差別の対象になるのではないかと思った(ジプシーの決め事の外側の人だから)。

    そして、長年差別を受ける側だったジプシーの中でも女性差別が伝統的にあるんだなとも。
    生理が不浄って、どうしようもないよね。逆にどうにかしてくれよと思う。

    あとは、現在では定住型が一般的なこととか、
    女性は三つ編みにするのが身だしなみだとか、
    処女信仰の強さ、インドに起源がある等々が印象に残りました。
    差別の歴史についてはもうすこし詳しく書いてある本を読みたい。

  • ジプシーの種類や分布が分かっておもしろかった。
    写真も多かったけど文章も結構多くて、思ったより読み物的な感じでした。

  • ジプシーはエジプト人に由来する。中世終わりに色黒のジプシーが来たらびっくりするだろうな。
    興味深い写真、絵がたくさんあって面白い

  • ジプシーについて全く知識がないので手に取りました。

  • 【新刊情報】図説ジプシー 389/セ http://tinyurl.com/74r2tl4 ジプシーとは誰か、彼らはどこからやってきたのか?文字を持たない民族であるジプシーたちの歴史、生活、習俗を探る。世界をめぐる彼らの漂泊の旅を追いながら、ジプシーの真実の姿に迫る。 #安城

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著者プロフィール

せきぐち・よしと Yoshito Sekiguchi
1950年、東京生まれ。3歳より両親とともにプロテスタント教会に通う。19~23歳までアメリカで音楽留学をしつつ、アメリカのキリスト教徒の実態を体験。1979~97年までヨーロッパ(東欧)でキリスト教正教会、カトリック、ユダヤ教などを体験。99年以降、バルカン、中東、アフリカ、アジアへの取材の中、イスラーム、ヒンドゥ、その他アニミズムや民族宗教を体験。日本の宗教事情の特異性を痛感したことが今回の著作につながる。
著書等に、
『ロマ・素描  ジプシー・ミュージックの現場から』(関口義人 著、東京書籍、2003年)、『バルカン音楽ガイド』(関口義人 著、青弓社、2003年)、『ブラスの快楽  世界の管楽器CDガイド600』(関口義人 著、音楽之友社、2005年)、『ジプシー・ミュージックの真実 ロマ・フィールド・レポート』(関口義人 著、青土社、2005年)、『アラブ・ミュージック  その深遠なる魅力に迫る』(関口義人 編、東京堂出版、2008年)、『オリエンタル・ジプシー』(関口義人 著、青土社、2008年)、『ジプシーを訪ねて  岩波新書』(関口義人 著、岩波書店、2011年)、『ベリーダンスの官能  ダンサー33人の軌跡と証言』(関口義人 著、青土社、2012年)、『図説 ジプシー  ふくろうの本』(関口義人 著、河出書房新社、2012年)、『ヒップホップ!  黒い断層と21世紀』(関口義人 著、青弓社、2013年)、『ベリーダンス  伝統と革新のあいだで』(関口義人 著、彩流社、2015年)、『ユダヤ・リテラシーの視界  アブラハムはディズニーランドの夢を見たか』(関口義人 著、現代書館、2015年)、『トルコ音楽の700年 オスマン帝国からイスタンブールの21世紀へ』(関口義人 著、DU BOOKS、2016年)、『越境する音楽家たちの対話  ワールドミュージックとは何だったのか?』(関口義人 著、彩流社、2019年)等がある。

「2022年 『イスラーム化する世界と孤立する日本の宗教』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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