- Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309909707
感想・レビュー・書評
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「パンクの女王」パティ・スミスは、若き日にロバート・メイプルソープの恋人であった。
本書は、2人が1967年のニューヨークで出会い、同棲し、別れ、メイプルソープの死によって永遠の別れを迎えるまでの20年余を、パティ自身の筆で綴ったものだ。
みずみずしい青春物語であり、哀切なラブストーリーであり、2人のアーティストが自らの世界を築き上げるまでの過程をつぶさにたどった書でもある。
パティとメイプルソープのどちらか、あるいは両方のファンなら必読。ファンでなくても、ロックや文学、およびアート全般に関心がある人なら面白く読めるはずだ。
優れた詩人でもあるパティの文章は、詩的で美しい。メモしておきたいような一節が随所にある。たとえば――。
《時代を映し出すアーティストより、時代を変えていくアーティストを私は好んでいた。》
《彼はいつものように私の一歩先を歩んでいた。私がジュネを読んでいたとき、すでにロバートはジュネになってしまっていたのだ。》
《「パティ、僕らみたいに世界を見る奴なんて、誰もいないんだよ」》
60年代末から70年代前半のニューヨークがおもな舞台となり、綺羅星のごとき各界のアーティストが次々と登場する。
たとえば、デビュー前のパティは、最晩年のジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスと出会い、サム・シェパードと一時期つきあい、アレン・ギンズバーグに男の子と間違えられてナンパされそうになり(ギンズバーグはゲイだった)、ジム・キャロルやトッド・ラングレンとも交流を結ぶ。なんともゴージャスな青春である。
アーティストたちとの交友エピソードがちりばめられ、それらを読むだけでも「おなかいっぱい」になる本だ。
しかし、何より胸を打つのは、まだ何者でもなかったパティとメイプルソープが、触発し合い、切磋琢磨して、アーティストとして成長していく姿である。
2人は互いにとっての「ミューズ」でもあった。彼らが出会わなければ、ロック・アーティストとしてのパティ・スミスも、写真家としてのメイプルソープも、おそらく誕生しなかっただろう。メイプルソープの死に際してパティが綴った追悼文に、「私の作品はすべて、あなたと過ごした素晴らしいひとときの賜なのです」という一節があるように……。
同棲していた20代前半のころ、彼らはとても貧しかった。しかし、貧しい暮らしの中でも芸術についてだけは貪欲に学んでいく。その姿はすがすがしく、幸福感に満ちている。
《入館料を払う余裕は私たちにはなかった。美術館を訪れるときに払えるのは、一人分のチケットだけだった。それで、どちらかが入って展覧会を鑑賞し、戻って報告をすることにしていた。
(中略)
私を待ってくれていたロバートと地下鉄に向かう途中、「いつかは一緒に入ろう。そして、そのとき展示されているのは僕たちの作品なんだ」と彼は言った。》
《寒空の下、手のひらの中の少ないお金をどうやって使うかを話し合った。チーズサンドイッチを買うか、それとも美術用品を買うか。コインを投げて裏表で決めたりした。》
くーっ! しびれるねえ。若く貧しい、芸術にすべてを賭けた恋人たち。大貫妙子の「若き日の望楼」みたいだ。
しかし、2人の進む方向は少しずつずれていく。
メイプルソープは芸術を追求するうちにゲイとしてのセクシュアリティに目覚め、やがて男の恋人もでき、2人の肉体的な結びつきは薄れていく。いっぽう、詩人を目指していたパティは、いくつかの運命的な出会いを経て、ロック・アーティストとして開眼していく。
アートという共通項によって恋人となった2人は、皮肉にも、アーティストとして成長するにつれ、違う軌道を進むようになるのだ。
それでも、2人を結ぶ心の絆の強さは最後まで変わらない。
本書の終盤で、パティ・スミスはロックスターとなり、メイプルソープは写真家として最大級の成功を収める。
ロック史上最も有名なジャケ写の一つであるパティのファーストアルバム『ホーセス』のカバーは、メイプルソープが撮ったものだ。その撮影の舞台裏も、本書には描かれている。
《ロバートが《ホーセス》のジャケットの写真を撮るのは、当然のことだった。音楽という私の剣は、ロバートの写真という鞘に収められるのがふさわしい。どんな写真になるかはわからなかったが、本当の私の姿をとらえた写真になるのは間違いなかった。》
エイズで死の淵にあったメイプルソープとの最後の日々が綴られた終章は、涙なしに読めない。そこにはこんな印象的な一節がある。
《「僕らには子供ができなかった」彼は寂しそうに言った。
「作品が私たちの子供だったのよ」》詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
パティスミスもしかして過剰評価されてる?この本読むと運が良かっただけに見える
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元パンクの女王、20年近く前にフジロックに来た人、いろんな賞貰ってるファンキーおばあちゃんという浅薄な知識しかなかったパティスミスの青春回顧録のような本。若くてエネルギー溢れるニューヨークにドキドキする。この時代を見てみたかったな
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ふむ
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パンク魂
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ようやく読み終えました。パティの幼少期に始まり、アーティストになるためNYへ出て、やがてロバート・メイプルソープと出会って恋に落ち、別れた後もアーティストとして交流を深め、彼がエイズで亡くなるまでを描いています。
まさにロバートと一緒に過ごしたからこそ、書ける内容。パティ本人もアーティストとしての葛藤も綴られており、ますます好感を持ちました。
さらに、当時のNYの音楽や美術、ファッション、映画などのカルチャーシーン満載で、資料としての役割も果たしており、奥深い評伝となってます。
ロック好きな私としては、ドアーズやジャニス・ジョプリンのライブを見たなんてうらやましい限りでした。
ちなみに読了後、「Horses」と「Dream Of Life」をパティとロバートに敬意を表して聴きました(汗) -
1970年代のニューヨークの音楽背景に関する知識なしで,中盤を読み進むのはかなりつらい.もしそういう背景知識があると,逆にとても興味をもって読めるのだろうけど.時系列で書かれているが,年月日をほぼ書いていないのも,読みづらい.終盤は感傷的で美化されていると感じる.若いからこその純粋さが胸をうつ.のだとは思う.