コトバの〈意味づけ論〉: 日常言語の生の営み

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314007290

作品紹介・あらすじ

「認知意味論」からの越境。日本語使用の具体例を取り上げながら、意味を生み出す内面の営みとその社会的相互作用を、はじめて明示する挑戦作。言語学、認知科学、社会学などの諸分野に革新を迫る理論モデルの登場。

感想・レビュー・書評

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  • 言語学者の田中茂範と経済学者の深谷昌弘の共著で、「意味づけ」というキーワードにもとづいて、日常言語における意味がどのようなしかたで理解されるにいたるのかという問題について独自の議論を展開しています。

    著者たちは、ことばによってわれわれの記憶のなかから関連のあるものが励起され、それらがたがいに「引き込み合い」を起こすことによって、一定の理解が生まれ、外的な行動が導出されると考えます。この一連の内的プロセスが「意味づけ」であり、とりわけコミュニケーションの現場において、この「意味づけ」による理解が形成されると著者たちは主張します。

    本書の前半では、会話の「情況」のなかで「意味づけ」がおこなわれているという著者たちの基本的な発想の説明がおこなわれています。後半では、「意味づけ」論の立場からプロトタイプ理論や隠喩、換喩、発話行為といった言語学上の諸問題に切り込んでおり、著者たちの独自の考えが示されています。

    本書のなかで、著者たちはしばしばウィトゲンシュタインの後期思想に言及しており、意味の使用説の発想を理論化することが「意味づけ」論の目標であると述べられています。ウィトゲンシュタイン自身は、ことばの使用を「生活形式」のうちへと解消させることで哲学上の諸問題からの解放をめざしていたのであり、著者たちの立場とはへだたりがあるようにも思われますが、コミュニケーションの場に定位した理論化の試みとして受け取るべきでしょう。「意味づけ」という視点から、言語についてどこまで精緻な理論を引き出すことができるのかという点ではやや疑問があるものの、従来の言語学における問題点を指摘しているという点では、興味深い議論が多く含まれているように感じました。

  • この本は、内容的には、「『認知意味論』からの越境」という言葉がすべてを物語っているように思います。
    我々は、コミュニケーション手段として一般に「言葉」を用いていますが、
    純粋に客観的に見ると、空気を震わせてできるいろんな音を発しているにすぎません。
    つまり、「言葉」とは、実際には「意味などもたない」いわば「コトバ」にすぎないのです。
    それが、なぜコミュニケーション手段となり、意味を理解することができるのか。
    「ネ」という音と「コ」という音が連続で聞こえたときに、我々が「猫」を想像するのはなぜか。
    人間がただの音や文字に「意味」を与えるその過程を、本書は明らかにしようとします。
    そして、経験など(著者は「情況」という語を用いる。「経験」=「情況」ではありません。ぜひ本書のご一読を。)がその「意味づけ」の過程に影響を与えると主張します(したがって、経験の少ない幼児に「猫」と言っても理解できないことがあります)。
    個々に与えられた情況が異なるからこそ、「猫」と聞いたときに一人ひとりが想像するものも異なってきます。つまり、三毛猫を想像する人もいれば、黒猫を想像する人もいるわけです。
    そのような中で、あるコトバが指す「概念」とは、どのように決定されていくのか。
    そんな部分まで試論を展開します。
    分かりやすい事例と、丁寧な説明。
    思考方法が自分にはすっと入ってきた、という部分を別にしても、
    非常に好感の持てる一冊です。
    同じ著者による「〈意味づけ論〉の展開」にも期待してしまいます。
    近く、読んでみたいですね。

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