アウシュヴィッツの歯科医

  • 紀伊國屋書店
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本棚登録 : 353
レビュー : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011549

作品紹介・あらすじ

命を救ってくれたのは、
別れぎわに母がわたしに持たせた
歯科治療用の小さな道具箱だった――

1941年、ポーランドの小さな村のユダヤ人家庭で暮らしていた21歳の青年が、ナチス・ドイツの強制収容所へ送られる。歯科医の勉強を始めて1年目の彼に、母は歯の治療用具箱を持っていくよう強く勧めた。その箱が、のちのち自分と家族の命を救うことになるとは、そのときは思いもしなかった――

飢餓とシラミの蔓延する収容所生活、仲間の裏切りと拷問、家族の殺害、非ユダヤ人女性との恋、ナチスSS隊員を治療し、死体から金歯を抜く……機転と知恵を働かせながら、信じがたいほどの試練をかいくぐって奇跡的に生きのびた青年が自ら綴ったノンフィクション。

「書名に「アウシュヴィッツ」と「歯科医」の二つの単語を含む本書が目に入り、取り寄せて読んでみたところ、たちまち引き込まれてあっという間に読み終えてしまった。類書とは異なった部分も多く、好著と直感した。語り口も魅力的で、「この先主人公はどうなるのだろう」とハラハラしながら先を読まずにはいられない。若い読者が、ホロコースト関連の著作の中で最初に接するのに適当なものではないだろうか。
過去を学ぶことは未来への羅針盤を持つことができるということであり、本書は、排外主義がはびこる現在の時代情況に警鐘を鳴らしてくれている。若い読者が主人公に共感をもって読み進めながら歴史の一時期を学び、本書がこの悲劇を繰り返さない一助となってほしい」(「監訳者あとがき」より)

感想・レビュー・書評

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  • 人間は、これほど残虐になれるのか。戦争が終わり、新しい時代に暮らす私たちは、彼等の経験から学ばないといけない。これほどまでに残虐な仕打ちが許されていい訳がない。本書に出る「捕虜を虐待する権利」など、あってはならないと思う。著者のベンジャミン氏(本名ベレク・ヤクボヴィッチ)とその兄が、ホロコーストを生き延びることができて本当によかった。過去の悪夢を思い出すという行為自体、非常に辛くて苦しいと思うが、それを乗り越え、文字に起こして後世に残した彼の勇気に拍手を送りたい。また、カバーの可愛らしさに惹かれて本書を手に取った人もいるようなので述べたい。ぜひカバーを外して表紙にも注目してほしい。そこには表紙から裏表紙にかけて書かれている番号(収容所でのベンジャミン氏のもの)や、扉には縞模様(囚人服)が印刷されており、カバー以外の箇所も凝ったデザインとなっている。このことから、本書は多くの人々に愛されて発行されたことが窺える。今後増刷されることはまず間違いないだろうが、このような良書の初版を手にすることができて、私は非常に幸運である。

  • ホロコーストを生き残る、ということは本当に奇跡のようなことだったんだなぁ、というのがよく分かった。収容所で死なずに終戦を迎えるということがどれほど幸運を必要とすることなのかを、本書を読むまで本当の意味では理解していなかったように思う。

    まだ歯学を学び始めて1年の著者に、母親はなぜ歯科道具を持って行くことを主張したのだろうか。役に立ちそうなものは他にも数限りなくあるというのに。
    そのことが、決定的に著者の運命を好転させたのは間違いがない。歯科道具が、著者だけでなく、兄の命も救ったと言っていいと思う。
    母の愛ってすごいなぁ、と思う。その強い愛が、神の意志や彼の使命みたいなものを無意識のうちに受信したのかなとすら思う。

    今までいくつかホロコーストからの生還者の本を読んできたけれど、この本で特に印象的だったのは、解放された後に出会ったナチ党員や、ドイツ市民たちの反応が詳しく記されていること。
    こぞって収容所とは無関係だったと主張するSSたちや、何が行われていたかは知らなかったという近所の人たち。
    中でも、腕に収容者とそっくりの番号を書いて(本物の刺青かどうかは不明)、まるで親友みたいな態度で元収容者たちをもてなすシュミット司令官の姿には、怒りというより、人間の本当の醜い部分を見せられたようで心底ぞっとした。
    何より怖いのは、もし自分がその司令官だったら?と考えてみること。
    人が極限の状態で、どんな風にふるまうかなんて絶対に誰にも分からないと思う。
    収容者たちが、別人のような司令官の態度にとまどいつつも思考停止して言いくるめられてしまったのはすごく理解できる。とにかく読んでいて恐ろしく、そして悲しかった。

    おそらく生涯を通じて著者が問い続けたであろう疑問、「責任はだれにあるのか。はたして、どれか一つでも防ぐことはできたのだろうか。もしできたとすれば、なぜそうしなかったのか」。(P375)
    これらは、ホロコーストにかかわった人たちだけじゃなくて、あの戦争の当事国だった日本人の私たちも考えていくべき問いだよなぁ、と思う。

  • 図書館でたまたま見かけて、タイトルがアウシュヴィッツなのにソフトなイラストの表紙というアンバランスさにひかれ手に取り、途中1ページくらいざっと読んだところで、即借りて帰ることを決めた。

    まず翻訳がよい。とても読みやすい。翻訳ものが苦手な私にとってこれは非常に大きなポイントだった。
    時間の流れが分かりにくかったり、極端に詳細な記述もあれば、かなり重大な中身であるはずのことがさらっと一文で済まされていたり、またそもそも何が言いたいのか理解しにくい文章になっていたりと、著述家でないがための稚拙な部分がないわけではないが、読ませる。
    タイトルのアウシュヴィッツでの体験は実はわずかで、その点では少し騙された感がなくもない。だがユダヤ人である著者が、第二次大戦中の強制収容所で過ごしたこの世の地獄のような4年の月日は、平和ボケした我々には想像すら叶わない過酷を極めるものであったことは確かだ。正直、よくぞ生還できたものだと感嘆せずにいられないようなエピソードも多い。ドイツが負けて解放される直前に起きたというカップ・アルソナ号の撃沈事件(今まで全く聞いたことがなく、日本ではあまり知られていないのではないだろうか)では、生き残ったのが1割未満だったという悲惨な中、生と死のギリギリのラインをどうにかかいくぐっている。運の良さもあるだろうが、場面場面で、著者を手助けする人物が敵にも味方にも幾度も現れていることから、おそらく著者自身が、機転の利く、支配する側の者さえ惹きつけてしまうような魅力的な人物だったのではないだろうか。

    私の今までの経験では、強制収容所がテーマのものは、たいてい他の収容者も、ましてやナチス側の人物も、自分ではない誰かであったり、単に組織としての人物であるように描かれるだけで、そこにその人のパーソナリティを感じることはあまりなかった。しかし本作では、仲間はもちろん、支配者側の人物さえ、それぞれ個性を持った一人の人として描かれていて、まるで小説を読んでいるかのような錯覚に陥った。生身の人としてのやり取りが描かれていたからこそ、悲惨で過酷なだけでない、人が生きている場所としての強制収容所を感じたことが、いわゆるノンフィクションとは違った印象を持った理由だったかもしれない。

    ホロコーストについて、知らなければと思うけれども何から読んでいいかわからない、あまりに残酷なものは読みたくない、というような人に良いかも。

  • 歯科医だとアウシュビッツでも便宜をはかってもらえたのかしら、という疑問と可愛らしいタッチの表紙のイラストに興味を惹かれて読んでみた。

    歯科医と言っても主人公は見習いみたいなもので、治療器機も満足に持参してはいない。
    他にも勿論歯科医の収容者も居て、その中で主人公が一貫して歯科医として引き立てられたのは、働かなければならない死ぬ ということを分かっていたから。
    率先して任を請負い、父の為に比較的軽い労働を取り計らい、都度自分よりも更に厳しい過酷な環境に置かれる人たちに罪悪感を覚え…
    技能や心がけではどうにも出来ない、気まぐれに与えられる死をどうにか避けて、そして目にしたのは一夜にして逆転するドイツだった。

  • 分厚いけれど、濃い。

    ポーランド人に迫害され、ドイツ人に痛め付けられ、イギリス人に殺されそうになり。自分の人生をどうしたら歩めるのか探し続けた著者の話。

  • 毎日のように送られてくる紀伊国屋書店からのメールでふと目に止まった一冊。ポーランド系ユダヤ人の著者が戦時中にアウシュビッツを含む強制労働施設を移送されながら生き延びていくバイオグラフィ。歯科医学生だったことから歯科治療をすることでアドバンテージを得たのと、本人の幸運というかチャームが命運を分けたのだろう。出来事やその時に感じた事や考えたことが淡々と描かれていて鬼気迫る。ポーランドのユダヤ人のことや戦争になる前からのユダヤ人の位置や他地域のユダヤ人や各地の強制労働施設の事などを一人の当事者からの視点で静かに語られるが、この文章から受ける印象でも当時ブロネク・ヤクヴォビッチの頭の良さや人柄の良さがうかがえ重い内容ながら読了感がすばらしい。資料としても良著。
    The Dentist of Auschwitz: A Memoir

  • 生き残るって凄い事なんだ、、、

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    1941年、ポーランドの小さな村のユダヤ人家庭で暮らしていた21歳の青年がナチス・ドイツの強制収容所へ送られる。歯科医の勉強を始めて1年目の彼に、母は歯の治療用具箱を持っていくよう強く勧めた。その箱が、のちのち自分と家族の命を救うことになるとは、そのときは思いもしなかった。
    https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314011549

  • 彼の過酷な運命と幸運に一喜一憂するとともに、彼のように自分の人生を語る自由も踏みにじられて殺されていった何百万の人の命を思い、平和の尊さを強く感じました。

  • 重い歴史

  • 強制収容所に送られたユダヤ人歯学生が、過酷な状況に翻弄されながら生還するまでの実話が描かれている。まるで記録映画であるかのように淡々と描くことによって、彼らがおかれた過酷さや悲惨さが痛いほどに伝わってくる。ドイツ人、ユダヤ人、イギリス人、ポーランド人、それらをひと括りに出来ないところも、リアリティに溢れている所以だろう。収容者の実生活を知るにつれ、ナチスだけではなく人間の残虐さが私自身に突き刺さる。何かのきっかけであちら側に行ってしまう怖さを感じ、自らを戒める作品ではないか。

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著者プロフィール

【著者】ベンジャミン・ジェイコブス (Benjamin Jacobs)
1919年ポーランド西部の小さな町ドブラのユダヤ人家庭で生まれる。1941年、歯科医の勉強を始めて一年目の21歳のときに、ナチス・ドイツによって父とともに強制収容所に送られ、アウシュヴィッツ強制収容所を含む数か所の収容所の医務室や診療所で「歯科医」として働いた。戦後はアメリカに移住し、ボストンで起業する。2004年没。

「2018年 『アウシュヴィッツの歯科医』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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