書物の破壊の世界史――シュメールの粘土板からデジタル時代まで

  • 紀伊國屋書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (736ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784314011662

作品紹介・あらすじ

「もはやわれわれの記憶は存在しない。
文字や法律の揺りかご、文明発祥の地は焼失した。
残っているのは灰だけだ」
(2003年、バグダード大学教員のことば)


「55世紀もの昔から書物は破壊されつづけているが、その原因のほとんどは知られていない。
本や図書館に関する専門書は数あれど、それらの破壊の歴史を綴った書物は存在しない。何とも不可解な欠如ではないか?」 

シュメールの昔から、アレクサンドリア図書館の栄枯盛衰、ナチスによる“ビブリオコースト”、イラク戦争下の略奪行為、電子テロまで。
どの時代にも例外なく書物は破壊され、人類は貴重な遺産、継承されるべき叡智を失ってきた。
ことは戦争や迫害、検閲だけでなく、数多の天災・人災、書写材の劣化、害虫による被害、人間の無関心さにおよぶ。
幼少期に地元図書館を洪水によって失った著者が、やがて膨大量の文献や実地調査により、世界各地の書物の破壊の歴史をたどった一冊。

ウンベルト・エーコ、ノーム・チョムスキー絶賛!

感想・レビュー・書評

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  • 700ページ超もある本書を何とか読み切りたくて、膝上テーブルクッションを購入した。
    優秀な読書グッズで極厚ハードカバーCOME ON!だったが、本書の内容もかなりハード。
    著者はベネズエラ出身の図書館学者であり作家。
    ベネズエラ国立図書館長も務めた反検閲活動家でもある。
    世界各国の本と図書館破壊の歴史を、膨大な量の文献をもとに語っていく。

    数多ある焚書の歴史は大世界史にも通じており、驚きを通り越して圧倒される。
    「書物の破壊」と聞くと戦争などの人為的なものを連想するが、それだけではない。
    火災・自然災害などが古代のものほど多い。
    海賊による襲撃や海難事故、迫害、暴動、民族間の憎悪。
    王権の交替や征服・圧政、宗教上の排斥などは、プロローグにある「本を燃やす人間は、やがて人間も燃やすようになる」というハイネの言葉どおりだ。
    とりわけ、秦の始皇帝の焚書と中世以降の異端審問による文書破壊、チンギス・カンによるイスラム文化の破壊、ナチスのビブリオコースト(ここは33ページも割いている)、更には東ヨーロッパ諸国に対して行ったソ連による粛清と破壊と焚書は、人のもつ暴力性について考えずにはいられない。

    どの国も被害国でもあれば加害国にもなりうる。
    1942年4月にはじまった米軍爆撃機による日本の本土空襲は全国的なもので、東京だけでも106回も空爆を受けている。
    今日3月10日が「東京大空襲」とよばれるその日である。
    ひと晩で焦土と化し大惨事となった首都。
    当然ながら数多くの図書館も蔵書も失った。長崎には貴重なコレクションがあったという。
    そんな日本も、日中戦争下ではおびただしい数の図書館を破壊している。

    中国はと言えば1966年の文化大革命で、教育者・文化人・知識人が粛清の憂き目にあい、全土で書物の大量破壊が行われている。
    「破壊なくして構築なし」の前提条件。
    チベットの6000の僧院と僧侶10万人も襲撃を受けた。
    この国家レベルの犯罪が、中国内では「天安門事件を扱った本は一切読むことも出来ない」という言論封鎖空間となり、現在も維持されているというのが実に恐ろしい。

    ジョージ・オーウェルの「一九八四年」に言及し、随所に作家や詩人の言葉を引用する。
    まるでエンタメ本のようにも読めるのだが、それだけでは済まない。
    南米チリでは卒業時に学生が教科書を燃やすと知り、暗澹たる思いになった。
    紙の本のみでなく電子書籍にもふれ、データが破壊されたらそれまでという「焚書」「没収」の手間もかからない手軽さの危険性を示唆している。
    いずれにしろ破壊の歴史は変わらないのだろうか。

    しかし、イラクが空爆を受けた時、本を守ろうと尽力したひとたちの存在を思い出す。
    「シリアの秘密図書館」という本もあった。
    震災の被害を受けた図書館や書物を、懸命に復元しようとした人たちを忘れたくない。
    世の中の人間を「彼ら」と「私たち」に区別すると「私たち」以外は全員敵になる。
    他者否定に陥らないよう、心しなければならない。
    本を守るのは人の精神の自由を守るため。そう努力する側でありたいものだ。
    暴虐の歴史ばかりもつ人類だが、知の集積はそれを越える力があると信じたい。
    読み物として非常に興味深いが、「ぎっくり手首」にならないよう重さにだけは要注意ね。

    • nejidonさん
      夜型さん♪
      いえいえ、とんでもない!そんなこと言わないでくださいね。
      厚さにビビったのが笑えるくらい、興味深い本でした。
      寝てしまうの...
      夜型さん♪
      いえいえ、とんでもない!そんなこと言わないでくださいね。
      厚さにビビったのが笑えるくらい、興味深い本でした。
      寝てしまうのが惜しくてね。早くおきて続きを読もうって(笑)
      それより、膝上テーブルクッションがすぐれものです。
      ソファに座って、それを設置して読んでいます。
      板は取り外せるので読書中は外し、文字を書くときやPC作業の時は付けています。
      いや、別に宣伝しているわけじゃなく・・
      2021/03/11
    • 夜型さん
      こういうものもありますよ…笑

      https://wired.jp/2015/11/03/forget-standing-desks/
      こういうものもありますよ…笑

      https://wired.jp/2015/11/03/forget-standing-desks/
      2021/03/11
    • nejidonさん
      夜型さん♪
      どうやって座るんだろう?って身体をひねってみました(笑)
      歯医者さんの椅子みたいですよね。
      あー!お値段が・・・驚愕の数字...
      夜型さん♪
      どうやって座るんだろう?って身体をひねってみました(笑)
      歯医者さんの椅子みたいですよね。
      あー!お値段が・・・驚愕の数字です。
      「フェノミナン」という映画だったかな。
      あれを観てから椅子に興味を持ちましたね。
      そういう映画じゃなかったんですが(*^^*)
      2021/03/12
  • 過去に行けるのなら、アレクサンドリアの大図書館に行ってみたい。およそ5,000年前の文字の発明により、人類は頭の中で考えていることを取り出して保存し、より多くの人に伝えることが可能になった。そして、それは書物の破壊の歴史の始まりでもあった。本書は書物破壊の愚行を延々と綴ったものだ。日本の応仁の乱の戦禍にまで触れる徹底振りに驚かされる。本書を読むと、今、ギリシャ時代の古典を読めていることの奇跡と、その一方で失われて読めなくなってしまった書物に思いが行く。
    折しも日本のニュースでは、政治家主導で公文書が"遅滞なく速やかに"破棄されているという。愚行は今も繰り返されている。

  • 古代シュメール文明から現代の中東の紛争まで、いかに書物は
    破壊され、失われてきたか。その原因と時代背景、歴史を辿る。
    第1部 旧世界
    第2部 東ローマ帝国の時代から一九世紀まで
    第3部 二〇世紀と二一世紀初頭
    各部に章有り。膨大な原注、参考文献、人名索引有り。
    全体で700ページを超える。
    圧倒される本の厚さに躊躇しましたが、読み始めたら面白い!
    歴史背景と共に図書館の盛衰、書物が滅びに至る過程が、
    分かり易く、読み易い。翻訳も上質だと思いました。
    歴史、地域の幅広い範囲を扱っているのも良い。
    書物の破壊の原因の内、60%が故意、残り40%は自然災害、事故、
    天敵(虫やネズミ等)、文化の変化、書写材の劣化だという。
    40%の原因についても丁寧に記述されているし、
    電子書籍登場による問題についても言及されています。
    そして、60%の故意による破壊は2006年まで・・・イラク戦争での
    破壊まで辿っています。その壮絶なこと!
    粘土板、パピルス、羊皮紙、紙・・・記録や創作、教示等のために
    生み出された素材は、便利であると同時に、脆いものでもある。
    だからこそ、ヒトによって火に、水に、放り込まれる故意の恐怖。
    征服や弾圧の過程、思想や民族(例えその根源が同じであろうとも)
    等が要因である、自然災害以上の破壊は、喪失という絶望を伴う。
    ヒトの叡知で生まれた書物は、ヒトの手で死に至らしめされる。
    そう、破壊も救済も、全ては扱うヒト次第ということ。
    ちなみに日本は、応仁の乱・関東大震災・第二次世界大戦での
    記述がありました。

  • 古今東西の人類史において、書物がいかに破壊されてきたかを概観する書。
    最初から最後まで、いつどのように書物が破壊されたかという事例の紹介が時系列に並んでいる。まとまったストーリーや理論展開がある訳ではない。章や部ごとにテーマはあるものの、章内ではそのテーマに沿った各地の事例がいくつも出てくる。だいぶ時間をかけて一応読破したけれど、通読というより「引く」べき種類の本だろう。
    次々に述べられる書物破壊の事例を見ていると、逆に現在残されている書物は、いかに稀な幸運や関係者の努力によって残されてきたことかと実感する。
    また災害等による破壊だけでなく、人が意図的に書物を破壊した例が実に多い。大なり小なり、書物に書かれている、あるいは象徴される思想の破壊を企図した行為と言える。逆に言えば書物が存在すること自体に、特定の思想を生き延びさせる効果がある。もしくは、あると信じられてきたということだろう。
    世界のあらゆる地域の事例を紹介しているが、日本人としては日本のことがどのくらい書かれているかも気になる。ざっと読んだ限りでは、日本での書物破壊の事例は応仁の乱だけで、あとは近現代の戦争において破壊者の側で登場するくらい。

  • 失われたら、戻ってこない。。。

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    戦争や迫害、検閲、数多の天災・人災、人間の無関心さ…人類がいかに継承すべき叡智を失ってきたかを辿る。エーコ、チョムスキー絶賛「もはやわれわれの記憶は存在しない。
    文字や法律の揺りかご、文明発祥の地は焼失した。
    残っているのは灰だけだ」
    (2003年、バグダード大学教員のことば)

    「55世紀もの昔から書物は破壊されつづけているが、その原因のほとんどは知られていない。
    本や図書館に関する専門書は数あれど、それらの破壊の歴史を綴った書物は存在しない。何とも不可解な欠如ではないか?」 

    シュメールの昔から、アレクサンドリア図書館の栄枯盛衰、ナチスによる“ビブリオコースト”、イラク戦争下の略奪行為、電子テロまで。
    どの時代にも例外なく書物は破壊され、人類は貴重な遺産、継承されるべき叡智を失ってきた。
    ことは戦争や迫害、検閲だけでなく、数多の天災・人災、書写材の劣化、害虫による被害、人間の無関心さにおよぶ。
    幼少期に地元図書館を洪水によって失った著者が、やがて膨大量の文献や実地調査により、世界各地の書物の破壊の歴史をたどった一冊。

    ウンベルト・エーコ、ノーム・チョムスキー絶賛!
    https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314011662

  • 途中まで。
    すごい労作なんだろうけど、調べた結果をただ羅列している印象。それでも価値はあるのだろうが、読んで面白いものではない。第2部半ばまで頑張り、少しずつ面白くなってきてる…? 感はあったがそこで挫折。
    おそらくと言わずとも現代に近づくほど面白くなるのだろうと思われ、いっそ第3部だけ拾い読みしようかとも思ったが、そこまで根性が続かなかった。

    2020/1/11~

  • 【書物の破壊の世界史】
    まとまらなかった〜。
    当事者に興味がない書物が風化して消えていく一方で、議論を巻き起こしてしまうような書物も、積極的な破壊の対象に。いずれにせよ当事者からすれば価値がないものだけど、価値って時代とともに変わる訳で。
    多種多様な史実の裏にある書物の破壊について、その背景と結果がつぶさに語られてる。いろんな歴史があって面白い。
    #読書 #歴史 #本 #紀伊國屋書店

  • 破壊と紛失を免れない性質上、書物の破壊の歴史はそのまま書の歴史でもある。
    力を持ち焼きたがるバカの数は、力無く聡明な者より数も力も圧倒的である。書は焼かれるものとして冗長性を高く保つことが肝要なのだろう。

  • 「「55世紀もの昔から書物は破壊されつづけているが、その原因のほとんどは知られていない。
    本や図書館に関する専門書は数あれど、それらの破壊の歴史を綴った書物は存在しない。何とも不可解な欠如ではないか?」 

    シュメールの昔から、アレクサンドリア図書館の栄枯盛衰、ナチスによる“ビブリオコースト”、イラク戦争下の略奪行為、電子テロまで。
    どの時代にも例外なく書物は破壊され、人類は貴重な遺産、継承されるべき叡智を失ってきた。
    ことは戦争や迫害、検閲だけでなく、数多の天災・人災、書写材の劣化、害虫による被害、人間の無関心さにおよぶ。幼少期に地元図書館を洪水によって失った著者が、やがて膨大量の文献や実地調査により、世界各地の書物の破壊の歴史をたどった一冊。」

    ・「レイ・ブラッドベリ著『華氏451度』は、本禁制品になり焼き付くされる未来のアメリカを描いたSF小説。ブラッドベリは古代エジプトのアレクサンドリア図書館が77万巻のパピルス文書とともに焼失したという話を9歳の頃に聞かされ涙を流したという(『華氏451度』ハヤカワ文庫2014年解説より)。このアレクサンドリア図書館の破壊を含め、古代オリエントで年度に記された文章から、現代の戦争や電子書籍まで、五千年以上にわたって膨大な書物が破壊されてきた歴史をたどったのが、この『書物の破壊の世界史』だ。
    ー不可能なのを承知で、古代から現代までに戦争で失われた書物が合計できたら、何億冊、何兆冊になるだろう。そして、それら失われた本のリストが存在するとしたら、一体どれぐらいの長さになるのだろう。」
    (『本のリストの本』南陀橉綾繁 他著 創元社 p072 「失われた本のリスト」より紹介)

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00289466

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著者プロフィール

【著者】フェルナンド・バエス (Fernando Báez)
ベネズエラ出身の図書館学者・作家・反検閲活動家。図書館の歴史に関する世界的権威として知られ、複数の団体で顧問をつとめるほか、2003年にはユネスコの使節団の一員としてイラクにおける図書館や博物館・美術館の被害状況を調査した。2004年に本作『書物の破壊の世界史』(2013年に増補改訂)でヴィンティラ・ホリア国際エッセイ賞を受賞、17か国で翻訳された。

「2019年 『書物の破壊の世界史――シュメールの粘土板からデジタル時代まで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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