意識の進化的起源 カンブリア爆発で心は生まれた

  • 勁草書房 (2017年8月12日発売)
3.88
  • (4)
  • (6)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 163
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 本 ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326102631

作品紹介・あらすじ

意識はいつ、どのように生まれたのか。鍵は、動物が一気に多様化したカンブリア爆発と、世界をイメージとして捉える視覚の進化にあった。意識研究者と生物学者がタッグを組み、原初の意識と意識のハード・プロブレム自体の起源を探る。昆虫やイカ・タコ類とも比べながら、多角的なアプローチが収斂していく道筋に知的興奮を覚える1冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【概要】
    人間は意識を持つ、そして、人間は生物の進化の中で生まれてきたのであるから、過去の生物進化のどこかの時点でこの意識が生まれたことは間違いない。いつそれが生じたのか、というのがこの本で問うていることである。意識の獲得は、進化における適応的な現象であり、意識をもつ生物にその保有コストを上回るだけの価値が与えられたがゆえに、自然選択の過程で選択されてきたものであるはずである。また、それは神経生物学の範囲で説明可能なものでもあるはずだ。著者らはこの立場を、意識の神経生物学的自然主義としている。意識の理解のためには神経生物学的、進化生物学的、哲学的の観点から総合的にアプローチする必要があるという。この本はそういった方向での意識の理解を目的としてまとめられたものである。

    いつ意識が生まれたのかを問うためには、「意識」とは何かを問わなくてはいけない。著者によるとそれは生物学的な基礎をもとに判断されるべきだという。具体的には、意識の四つの側面として、統一性、参照性、心的因果、クオリアを挙げる。著者らはこの特徴を神経存在論的な主観的特性 (NSFC: Neutoontologically Subjective Feature of Consciousness)と呼び、これらが生物の進化の適応の中で生じたものであることを示す。現実世界において複数の感覚器からの入力や情感を総合して統一的に認識することは、それらを有効に活用するためには必要なことである。意識が脳の感覚というよりも外界に投影した形で認識されるのは、外界を予測するという目的から必然的である。そのためには視覚情報が脳の中で地形的イメージと対応する形で処理されることが必要であり、そのように進化してきたのである。また、心的因果も外界との相互作用を含めて予測をするために必要なものである。そして、クオリアは神経の刺激をそれぞれ別のものとして認知するために必要なものだと著者は説明する。

    では、意識が生まれたのはいつなのか、という問いに対して、五億六千年前から五億二千年前のカンブリア大爆発と呼ばれる動物が激しく多様化した時代であるというのが著者らが示した解答となる。この時代において、先の意識の定義に基づく原初のものが誕生した、と著者らは主張する。捕食動物の誕生とそれに対する回避行動、視覚の向上が生存競争上有利となる原意識の生成に資したと考えている。なお、視覚の向上については、アンドリュー・パーカー『眼の誕生』でもカンブリア紀に生物種が多様に進化した原因として論じられており、生物進化史上非常に重要なできごとであったと言える。
    著者らは、その考察から収斂進化として、脊椎動物だけではなく昆虫に代表される節足動物やタコやイカなどの頭足類にも意識(外受容意識と情感意識)があると判断した。その理由として、視覚による外界に対する同型的地図形成ができていることと、十分に複雑な多層神経構造を有していることを挙げる。著者は、生物進化の過程で、頭足類、拙速動物、脊椎動物で計三回、意識が発生したのではないかと推定している。この観点で、著者は、意識の発生には大脳皮質を必要としないと主張する。

    もちろん哺乳類はその後、心象を学習、記憶することでより多くの情報量を処理することができるようになり、より複雑な行動をすることができるようになった。これにより高次の意識を獲得した。ダマシオの規定に従えば、「原自己」、原自己の二次的気づきを意味する「中核自己」、記憶や未来予測を伴う「自伝的自己」というように段階を踏んで次第に高度化していった。そして、その進化適応の結果として、自意識や言語、他の個体にも意識があるという認識が発達したのが現在のわれわれホモ・サピエンスなのである。

    【まとめ】
    本書では意識について非常に原始的なものの起源を生物進化と神経生物学の観点から論じたものである。したがって、いわゆる自伝的自己などを含む人間がもつ高次の意識についてはほとんど論じられていない。そして多くの「意識」に興味を持つ読者は、高次の意識の方に興味をもっているものだと思う。そして、自分もそうである。
    それでも、そういった意識が、意識を持たない生物から進化のある段階で連続的に生まれてきたことは論理的に正しく、それがどういったものであったのかを解説した本書は、高次の意識を理解する上でのとてもよいベースになるものだと思われる。
    つまり、高次の意識を考える上での条件というものが、原意識が論理的にどのようなものであるのかの理解を必要としているのだと教えてくれた。この後に例えばアントニオ・ダマシオの本などを読み返すと新しい気づきが得られるのではないだろうか。

    訳者あとがきでもいくつか指摘されている通り、著者らの論の進め方にはある種の独断や飛躍があるようにも思われる。それは一般向けの書籍としての限界なのかもしれないが、まだまだ議論の余地がある点なのかもしれない。同著者の次の著作も出ているので、そこで埋められているものもあると思われるので、読んでみたい。

    ----
    『意識と自己』(アントニオ・ダマシオ)のレビュー
    https://booklog.jp/item/1/4065120721?carousel=4478112665

  • 難しい専門書で所々しか理解できないが、単純に意識はいつ、どの様にして生まれたのか知りたくて読んだ^_^

  • 神経生物学・神経進化・哲学の三方向からの考察から、意識
    の謎を解こうという著作。面白くないわけではないのだが、
    専門的な内容・用語が多い上に、哲学的な論考が少なめな
    印象で、今一つ理解が追いついていないのだが、専門外の
    人間の読んだ正直な感想は「状況証拠だけを積まれたな」と
    いう感じだった。

    まぁもともと私はいわゆるハード・プロブレム自体について
    ピンと来ない人間だというのはあるのだろうが。

  • 北海道大学の方へ【電子ブックへのアクセス: 学内から】https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000046014【電子ブックへのアクセス: 学外から】https://www.lib.hokudai.ac.jp/remote-access/?url=https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000046014【紙の本の情報】https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2001773492【請求記号】612.82/FEI

  • ■はじめに

    さまざまな動物の神経系や行動、そして進化や地球上の太古の生命について、最近わかってきたさまざまな知見を使って、感覚意識と動物の感性が最初に現れて「ハード・プロブレム」が生じた年代を特定しようと目論む

    ○5億2000万年前 カンブリア爆発
    この爆発で初めて複雑な神経系や脳、複雑な動物の行動が生じた

    こうした神経構造の発達にともない、単純で反射的な反応から「クオリア」や主観的感情と呼ばれるきわめて神秘的な特性に満ちた統一的な「内なる世界」の経験が進化したとき、初めて意識があらわれたのである。

  • ふむ

  • もう少しだけ、一般読者に歩みよった、分かりやすい書き方をして欲しい。

  • 読み進めるのに時間がかかったことと、集中して読まなかったこともあって、最終章の結論も理解できたのはおそらくは半分程度という悲しい結果に。

    その程度の読解力ではあるものの、たんなる反射をもとにして、いつどのように意識が生まれたのか、という点はきちんと説明してあって理解できたし、感覚の「統一」という視点での説明も説得力があった。が、どうも理解しきれない。

    「(まだ)わからないことが多い」ことを、仮設に沿ってなんとか説明しようと試みているからなのか、そもそも「わからない」ことを「わかろうとしています」ということなのか、と考えると、両方なのかとも思う。

    あと全体としても結論としても、ヒュームの「知覚の束」とどこが違うのか、どのように違うのかがよくわからない。なんだかヒュームを科学的に証明しているようにも見えなくもない。

  • 請求記号 141.2/F 17

全12件中 1 - 10件を表示

トッド・E.ファインバーグの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×