エコロジカルな心の哲学: ギブソンの実在論から (双書エニグマ 1)

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326199044

作品紹介・あらすじ

ギブソンの認識論、存在論、行為論などを明らかにし、生態学的立場の哲学として体系化する。哲学者の吟味を経て蘇るギブソン心理学の真実。

感想・レビュー・書評

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  • 脳科学者がテレビや本で「我々の現実は、じつは脳が生み出しているのです」と主張ているのを最近よく目にすることがあると思います。
    「じゃあ、暑くて寝ぐるしい夜も、大好きな恋人も、自分の脳の産物なの?」
    と疑問に感じることがあるのでしょうか?
    そこから、「勉強や就職ができないのは努力が足りないからだ」と、社会や環境の問題をまったく無視して、個人の責任のみを追及する風潮までは一足飛びです(これを心理主義というそうです)。
    また成功や名声のみに価値をおいた自己啓発ブーム、社会に適応できないと(社会の問題かもしれないのにもかかわらず)心理的な病理のせいにする傾向もこの心理主義に根をおろしているように思えます。

    本書で紹介されているギブソンの生態心理学は、心の座を個人や脳に求めるのではなく、環境との関係性で捉えなおしています。テーマは多岐にわたり、知覚や感覚だけでなく、言語や記憶について環境との関連で論考されていて興味深いです。

    「実在は本質に先立つ」と言ったのは、フランスの哲学者サルトルですが、
    生態心理学的にいうと、「実在と本質は分かちがたい」というカンジでしょうか。というのも、本質は我々が認識するかどうかにかかわらず、実在そのものに備わっているからです。

    なにより生態心理学に惹かれるのは、『現実は主観次第で変わる夢や幻みたいなものなんだ』ではなく、『我々の知覚するモノはしっかりと世界に実在しているんだ』と、日常的な感覚を論理的、科学的な根拠をもって肯定してくれるところです。
    本書は哲学的な考察に重点を置いているので、実験心理学者としてのギブソンを知るには不十分かもしれませんが、ギブソンの思想とその現代性を知るには格好の著作だと思います。

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著者プロフィール

立教大学文学部教授。NPO法人 アーダコーダ副理事。
専門は、心の哲学・現象学・倫理学・応用倫理学。社会が内包する問題に哲学的見地から切り込む。
著書に『メルロ=ポンティの意味論』(2000年)、『道徳を問いなおす』(2011年)、『境界の現象学』(2014年)こども哲学についての著者に、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』河出書房新社、『じぶんで考えじぶんで話せるこどもを育てる哲学レッスン』 河出書房新社、『問う方法・考える方法 「探究型の学習」のために』ちくまプリマー新書、『対話ではじめるこどもの哲学 道徳ってなに?』全4巻 童心社、共著『子どもの哲学 考えることをはじめた君へ』 毎日新聞出版など多数。

「2023年 『こどもたちが考え、話し合うための絵本ガイドブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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