民主主義対民主主義: 多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 2)

  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326301584

作品紹介・あらすじ

「ベストな」民主主義を探る比較政治学の現代の古典。狭い経験に依拠するだけの印象論を排し、データにもとづいて民主主義を語る。小選挙区制、二大政党制、議会に対する政府の優越などのイギリス型デモクラシーを理想視する通説に、経験的研究の立場から異議を唱えた古典的著作。36ヶ国の分析から多数決型民主主義だけが民主主義ではないと主張する。

感想・レビュー・書評

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  •  民主主義国家は独裁制と違って主権者が非常に多いため、主権者同士で利害や主張に対立が生じる。決着を付ける最も簡単な方法は多数決であり、すべての民主主義国家はなんらかの形で多数決を行うが、そこに至るまでにどの程度議論や交渉を尽くすかについては、国ごとに大きな差異がある。

     著者は「多数決型」と「コンセンサス型」という2タイプを示している。前者はたとえ51対49でも即決してしまうスタイルであるのに対し、後者はなるべく大勢が納得できる落とし所を探るスタイルという所だろう。

     著者は36の民主主義国家について1945年から1996年までについて分析している。政治や経済の10要素について多数決型の傾向とコンセンサス型の傾向に定量化し、結果としての政情や経済指標との相関を求める。結論はコンセンサス型の方がやや優れているというものだ。

     私は政治学者ではないので結論についてはなんとも言えないが、理系の目から見ると定量化の手法に少々違和感があった。

     経済指標のように元々数値で得られるデータは問題ないだろう。しかし、憲法の硬性度とか違憲審査制の強さなどは、定性的にパターン分けしてから5段階でポイントを付けるといった方法で数値化している。また、数値化の作業も純粋に機械的なものではなく、「この国は例外だから点数を減らす」など恣意的な調整が多数ある。そうやって得られた数値を統計処理することは妥当なのだろうか?

     それはともかく、日本人としてはどうしても日本の位置が気になってしまう。驚いたことが2点あった。ひとつは、日本の制度はほとんどの指標において中程度の位置にあり、非常にバランスが良いということ。もうひとつは、GDPに占める社会福祉支出の比率がOECD諸国中で最低だということ。

     また、日本では「議会の過半数勢力に頼って物議をかもしている法案を無理やり通過させるのではなく、超党派のコンセンサス形成を規範とする」傾向があり、これは特殊な例だとのこと。他の国々では「日本人がよくいう『多数派の暴挙』」は普通のことで、過半数議席を持つ政党が他党の協力を求める方が珍しいようだ。

     本書で分析されたのは20世紀後半の民主主義だが、時代は21世紀に入った。これからも新しい情勢が起こり、新しい制度が試みられていくだろう。グローバル化が進んで世界は均質化していくのだろうか? 最終的に「ベストな」民主主義にたどりつく日が来るのだろうか?

  • いろいろな視点から民主主義国家を分類、比較、検討している本。
    専門的な内容で読みこなすのは難しめ。

    普段の暮らしだと単純に「民主主義国家」としか認識しないと思うが、実はかなり違う。
    いろいろな視点や分類基準を設けて考察することで各制度の特徴が際立つ気がした。

    多数決型民主主義の特徴は内閣など一部への権限の集中、得票と獲得議席の格差が大きい、与野党間が競争的・敵対的、軟性憲法、中央銀行の独立性が低い、など

    コンセンサス型民主主義は連立内閣による権限の分散、執行府と議会の均衡、多党制、強い二院制、硬性憲法、違憲審査権、中央銀行の独立性が高い、など

    どちらにも考え方の違いやその制度の成り立ちなどがありどちらが正しいなんてものはないのだろうが、多数決型の代表ともいえるイギリスの政治制度を「選挙によって選ばれたものによる独裁」と指摘した元閣僚のハルシャム卿の言葉に表されているように少数意見の抹殺になりやすいせいどは全ての国民が国政に参加できる権利との整合性がなくなる可能性を示唆していると思う。

    いろいろな視点、分類基準でもって比較検討するのは単純比較が難しい政治制度を考えるうえでとても役立つと思う。
    帯にある「ベストな」民主主義を探る比較政治学の現代の古典はその通りだと思えた。
    現在の日本は多数決型民主主義に移行したい人が多く見られるようになってきていると思うが、その結果がどうなるかを良く考えたくなる本でした。

  • 国際比較政治より。
    興味範囲よりマクロすぎた。時間があったら読み直そう。

  • 民主的にとは何だという漠然とした疑問を少しずつ解いていくために。だからといって大統領制への批判につなげるわけではなく、実際著者がいうように文化的伝統的背景やらが出てくると大変だとは思うのだが。

  • 久しぶりに学問書で面白いと思った。

  • イェール政治学部のアレンド・レイプハルトの著作。
    彼は一般的な「民主主義体制」の中には実は二つのタイプが存在すると主張する。すなわち、「多数決型」と「コンセンサス型」であり、それを決定する基準は政府・政党次元であるという。一方で連邦制次元では二次元パターンに分類できるとする。

    政治経済・社会発展の様々な指標を用いて、多数決型とコンセンサス型の相関を分析する研究内容であり、結論としては、どの争点においてもコンセンサス型が多数決型に勝っているといったものである。

    最終章の結論の部分では、筆者は明らかにコンセンサス型のほうが全てにおいて有利である、という自分の考えを前面に押し出している。例えば、「コンセンサス型民主主義が新興民主主義国や最民主化した国で採用される可能性がないということを必ずしも意味しない」、といった部分からも読み取れるであろう。

    果たしてこれは事実であるか。結論部分でも筆者は述べているが、文化が原因で政治制度が成り立っている場合がほとんどであろう。すなわちこれは、無意識の最下層、エートスであると考えられる。英国型の多数決システムは完全にこれに当てはまる。果たして、全ての国にエートスを無視してコンセンサス型民主主義が受け入れられるのか、疑問である。「敵対型の文化をより合意志向の文化に変化させる」というが、多数決型政治システムを採用している国において、そのような変化が見られることはほとんどないだろう。

  • 比較政治学必読書

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著者プロフィール

アレンド・レイプハルト(カリフォルニア大学名誉教授)

「2014年 『民主主義対民主主義 [原著第2版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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