自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾

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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326301904

作品紹介・あらすじ

逆説明責任体制としての自民党。衆議院議員経験も持つ、気鋭の研究者による日本政治論。

感想・レビュー・書評

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  • 政治
    経済

  • 【目次】
    序 [i-ii]
    目次 [iii-vii]

    第1章 自民党長期政権の謎:政治不信にもかかわらず政権が続いたのはなぜか 001
    I. はじめに:民主主義と自民党 001
    II. 長期政権に関する従来の説明 003
     1. 日本の政治文化 
     2. 世論の支持 
     3. 日本型恩顧主義 
    III. 逆説明責任体制としての自民党 007
     1. 恩顧主義と説明責任 
     2. 戦後政治と日本国憲法 
    IV. 分析を進める上での仮定 010
     1. 再選誘因の死活的重要性 
     2. 企業としての自民党:集票組織の均質的集合体 
     3. 官僚機構に対する自民党の優位 
     4. 多元的政治体制における自民党への集中 
    V. 本書の概略:利益誘導政治の自己矛盾 016

    第2章 自民党型集票組織と投票行動 021
    I. はじめに:民主主義と競争 021
    II. 利益誘導:便益と票の交換ゲーム 023
     1. 利益誘導ゲーム 
     2. 無限繰り返し囚人のジレンマと利益誘導:票田のミクロ的基盤 
     3. 与党の監視能力と利益誘導の効果 
     4. 便益配分手段と報復措置の信憑性 
     5. まとめ:利益誘導と集票組織 
    III. 自民党型集票マシーンと利益誘導ゲーム 033
     1. 日本的住民共同体と長期的取引関係 
     2. 集票マシーンと監視能力 
     3. 公共財と私的財:便益供給の問題 
     4. 票の価値と買収費用 
    IV. 自民党以外の政党を支援した政治運動集団 047
    V. 結語 050

    第3章 人口動態と選挙戦略:長期的趨勢への政治的対応 053
    I. 戦後経済と人口動態 053
     1. 経済成長の趨勢 
     2. 人口の都市化 
     3. 産業構造の変化と政治的提携関係 
     4. 少子高齢化の進展 
    II. 選挙結果 063
    III. 人口統計による説明の限界 066
     1. 制度的保護装置 
     2. 選挙戦術上の対応 
     3. 政策的反応 
    IV. .結語 076

    第4章 支持率の変動と選挙循環 079
    I. はじめに:政治危機と公共政策 079
    II. 政治危機と補償 081
     1. 中位投票者と支持率変動 
     2. 便益配分による中位投票者の買収 
     3. 日本のマクロ経済循環と選挙 
    III. 政治危機と解散時期の選択 084
     1. 解散はどのようなタイミングで起こってきたか 
     2. 最適停止問題としての解散総選挙タイミング設定 
     3. グラフを用いた分析 
     4. 解散総選挙時期選択の生存時間解析 
    IV. 政治的予算循環 092
    V. 結語 100

    第5章 集票のための補助金 103
    I. はじめに:分割支配のための補助金 103
    II. 分配政治と地方自治制度 105
     1. 選挙制度と分配政治 
     2. 政権維持のための地方自治 
     3. 自民党の集票戦略 
    III. 選挙区間配分の計量分析 114
     1. 分析単位:選挙区 
     2. 従属変数:人口一人あたり補助金受取額 
     3. 説明変数 
     4. 制御変数 
     5. 分析結果 
    IV. 選挙区内配分 121
     1. 寡占競争モデルと自治体単位の分析 
     2. 変数の定義 
     3. 分析結果 
    V. 結語 124

    第6章 利益誘導と自民党弱体化:我田引鉄の神話 125
    I. はじめに:インフラと票田の荒廃 125
    II. インフラ整備と自民党得票:事例研究 127
     1. 新幹線と高速道路の戦後史 
     2. 新潟の逆説 
     3. 島根の自民党王国 
     4. 全国自治体での自民党勢力図 :記述的分析
    III. インフラ投資が票田を荒らす理由:理論的説明 137
     1. 選挙財としてのインフラと補助金 
     2. インフラ投資と後援会ゲーム 
    IV. インフラ完成までの生存時間解析 142
     1. 比例ハザードモデル 
     2. 共変量 
     3. 推計結果 
    V. インフラ投資の得票への影響 145
     1. 固定効果法による推計 
     2. 従属変数 
     3. 説明変数と制御変数 
     4. 推計結果 
    VI. 結語 148

    第7章 利益誘導と政界再編 151
    I. はじめに:政界渡り鳥現象とインフラ 151
    II. 1990 年代の離党・復党行動 152
     1. 離党・復党による政界再編成 
     2. 自民党はなぜ分裂したのか? 従来の説明とその限界 
    III. インフラ整備による説明 156
     1. インフラと集票 
     2. 所属政党選択のゲーム理論モデル 
    IV. 高速交通インフラと選挙:比較事例研究 161
     1. 繁栄と停滞:小山と足利 
     2. 地方組織の反乱:八戸と弘前 
     3. 派閥領袖の選択:羽田孜〔はたつとむ〕と加藤紘一 
    V. 地図分析:議員の地盤と離党行動 170
    VI. 計量分析 172
     1. インフラ貧弱指標 
     2. 離党・復党者の特徴:記述統計と平均差の検定 
     3. プロビット回帰分析 
    VII. 結語 180

    第8章 選挙制度改革と政策変化:政権交代への道のり 181
    I. はじめに:細川政権が打ちこんだ楔 181
    II. 選挙制度改革と政権維持戦略 182
     1. 定数格差是正 
     2. 誘因の変化 
    III. 政権維持のための適応 190
     1. 選挙対策としての連立 
     2. 政策変化 
     3. 市町村合併 
    IV. 政権交代へ向けての変化 198
     1. 小泉政権と郵政選挙 
     2. 無期限囚人のジレンマに終わりが見えたとき 
     3. 衆院選挙2007 
     4. 総選挙2009 
    V. 結語 204

    第9章 同時代史としての自民党長期政権:逆説明責任体制の帰結 207
    I. 政治学と自民党 207
    II. 政権維持動機と政府支出 208
     1. 土木事業の分野別配分 
     2. 高齢者福祉支出 
    III. 自民党と地域経済 213
    IV. 結語 218

    コラム① 辻立ちの思い出 005
    コラム② 候補者から見た選挙カー 007
    コラム③ 投票用紙の不思議 033
    コラム④ 投票所の不思議 041
    コラム⑤ 農業予算の変遷 059
    コラム⑥ 自民党と減反 069
    コラム⑦ 所得補償政策と農協 077
    コラム⑧ 実績を宣伝しない自民党 085
    コラム⑨ 現代の参勤交代:東京での陳情合戦 109
    コラム⑩ 陳情団の一日 115
    コラム⑪ 陳情団の地元:期成同盟会 133
    コラム⑫ 高速道路無料化論の思い出 139
    コラム⑬ 高速道路無料化論への反発 149
    コラム⑭ 新幹線のエスノグラフィー 167
    コラム⑮ 整備新幹線構想の幻 173
    コラム⑯ 待てど暮らせど開通しない高速道路 189
    コラム⑰ 県庁幹部の嘆き 191
    コラム⑱ 汚職の計測手法 211
    コラム⑲ 公共事業とその成果:日本の場合 217

  • 自民党の利益誘導政治を政治経済学的手法(フォーマルモデル)で理論立てた作品。
    主な手法としてゲーム理論のグリムトリガー、繰り返しゲーム、さらに計量分析の手法を用いて説明している。

    膨大な計量分析を用いて
    「公共インフラが充実していない(インフラ未整備地域)が自民党の票田となっている」
    という明確な要旨を打ち出している。
    そしてインフラ整備が進めば進むほど自民党の票田は失われるという。
    これは自民党の長期政権期の「逆説明責任」
    →陳情・誘致をめぐり自民党が地方自治体同士を競わせるという性格の下だとされる。
    →各選挙区ごとに監視機能が充実している地域ほど自民党支持が強い。


    こうした明確な理論を打ち出す一方で、そもそもインフラ未整備地域=農村地域で結局のところ疑似相関ではないのか?という疑問もある。

  • 本書は、自民党長期政権がいかにその地位を維持し、日本の公共政策にどのような結果をもたらしたのかを分析。自民党長期政権を逆説明責任体制として捉え、利益誘導政策が地位を危うくする矛盾をあきらかにする。

  • 自民党がなぜ長期政権を維持できたのか、またなぜそれが崩壊したのかを学術的に考察した本。
    統計学の知識がないとなかなかむずかしいですが、すっとばして読んでも面白いです。

    以下、本書の内容から感心した内容・
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    ・有権者が自民党と他党を選択するのではなく、自民党にいかにして媚を売り、予算を付けてもらうかといった、逆説的な状況(逆説責任)が蔓延していたこと
    ・少ない投資(=少ない予算)で高いリターン(=高得票)を得るという図式は自民党にもあてはまり、中選挙区制度下の一票の格差問題から農村部での集票を重視
    ・高速道路や新幹線といった経済効率の高いインフラを整備する前までは有権者は選挙を熱心に応援するが、完成がわかってしまうとそうではなくなる。つまり、予算付けをするまでは他地域との競争があるが、付いてしまって完成してしまえばだれでも利用できるため、票を入れそうな人だけに便益を与えることが難しくなる
    ・よってインフラ整備が整った地域では自民党の地盤が浸食される(例:新潟県)
    ・同様のことは、小山市VS足利市、八戸市VS弘前市、上田市VS鶴岡市と言ったところで見られ、前者は新幹線が来たところで自民党を離党した議員、後者はそうでない地域である
    ・93年の非自民政権成立前後で自民党を離党した議員のうち、交通網整備の遅れた地域の議員は自民党が復調するとともに自民党に入党した。交通網の発達した地域はそうではない(前項の各市選出の議員達がまさしくその事例)
    ・加藤の乱も、加藤が鶴岡選出だったため、離党できなかったという見立て
    ・一方で土地改良事業、ダム建設などは継続的かつ私的な供与の意味がいが強いため、整備したとしても自民党への集票が減るわけではない
    ・交通インフラの拡充、市町村合併による地方議員(=選挙の人手)の減少及び投票行動監視が困難になったこと、小選挙区制導入により自民党の基盤は浸食した

    そして恐ろしいことに、公共事業に金を費やしたものの、便益の低い事業にまわり(ダム建設、土地改良工事など)、経済成長には寄与しなかった事実・・・。

    第6章以下だけ読んでも十分面白いです。

  •  本書は斎藤淳氏の出身の山形のインフラ整備の状況をもとに作られた論文。私も山形と似た群馬という地方の出身なので、そこのインフラ整備の状況をイメージしながら読み進むことができた。
     自民党の長期政権の理由としては利益誘導と逆説明責任体制の維持が大きく関わっている。また、民主主義が良好に機能するためには政権党に説明責任を負わせるための制度的設計と有権者の周回行為ジレンマの2つの問題がある。これを解決した先に新しい政治が待っている。

  • 本書は、自民党長期政権が1955年(昭和30年)~2009年(平成21年)まで続いた理由を、その公共政策と利益誘導政策という観点から分析した書であるが、読みにくく、わかりにくく、その内容も素直に納得できないと感じた。
    本書は、利益誘導政治を公共工事と受益者と言う観点から取り上げて、政党支持との関係を考察しているが、現実の政治において国民は、自らの利益のみにおいて政治家支持を決定するものではないのではないだろうか。そのピジョンや理念、人柄に共感して支持を決める人々も多いと考えなければ、あまりにも国民を愚弄するものとも考えられると思った。
    その考え方にゲーム理論を適用していることは、おもしろいとも思ったが、あまりにも文体が生硬だとも感じた。まるで学術書のような文章は読みこなしにくい。
      著者は、議員経験(2002年~2003年、民主党衆議院議員)もあり、エール大学大学院への留学経験もあり、本書も英語の博士論文を翻訳したものが原文ということだが、本書は、なるほどいかにも翻訳調の文体で文章としても読みにくく、あまり評価はできないと感じた。

  • 知的に非常に面白い好著。ゲーム理論による分析、計量分析、事例研究などいろんな手法が駆使された、社会科学の研究書の手本みたいな本。我田引鉄の神話の分析は目から鱗だった。ただ、しっかり理解しながら読もうとするとかなり疲れる。

  • 第54回 日経・経済図書文化賞受賞した。
    著者は民主党衆議院議員山形4区の補欠選挙で当選した経験がある。
    自由民主党の利益誘導型政治を間接的だと見抜いた功績は大きい。民主党の直接的な利益誘導策は財源不足で先行きは不透明だ。

  • 第54回日経経済図書文化賞

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著者プロフィール

1969年山形県生まれ。J PREP斉藤塾代表。上智大学外国語学部英語学科卒業、同大学国際関係論専攻博士課程前期課程修了後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院を経てイェール大学大学院政治学専攻にて博士号(政治学)を取得。フランクリン・マーシャル大学助教授等を経て2008年イェール大学政治学科助教授に。2012年に帰国し、東京都と山形県で英語と教養を教える私塾を創業。2002‐03年衆議院議員(山形4区)。主な著書に、10万部を超えるベストセラーとなった『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)ほか、『10歳から身につく 問い、考え、表現する力』(NHK出版新書)、また、研究者としては、第54回日経・経済図書文化賞ほかを受賞した『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房)がある。

「2023年 『アメリカの大学生が学んでいる本物の教養』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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