歴史から理論を創造する方法: 社会科学と歴史学を統合する

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326302406

作品紹介・あらすじ

本書は方法論の基礎をかみくだいて説明する入門書でありながら、社会科学と歴史学のギャップを埋める最新の研究書。自分の理論に都合のいい資料しか使わない社会科学者と、狭い研究対象に埋没してしまう歴史家。両者の溝を払拭する研究法を指し示しながら、初学者向けにも基本を解説する。専門用語を易しく説明する「ショート解説」つき。

感想・レビュー・書評

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  • 方法的に対立すると捉えられがちな、社会科学と歴史学を統合し、まさに「歴史から理論を創造する」方法論について考察する一書。ただし「理論」といっても、マルクス主義歴史学における唯物史観のようなものではなく、アブダクションに依拠する「中範囲の理論」とよばれる理論の創造が目指される。単なる事例紹介ではなく、適度な一般化とでもよぶべき、ものが「中範囲の理論」である。かつて中村政則が主張した「中間理論」を思い出させるが、本書のすごいところは、それを論理的に、そして著者の事例研究をもとに具体的にも打ち出したところである。言い換えれば、言っていることはそれほど斬新なわけではないのだけど、多くの人が曖昧に考えていたことを、種々の理論を用いて説得的に提示しようとした点が、本書のすごいところである。

    さて、この「中範囲の理論」は果たしてどこまで抽象化が可能なのだろうか。論理的には、「事例全枚挙」ができれば、100年だろうが1000年だろうが分析できる、ということにはなる。もちろん近現代では難しいだろうが、史料の少ない古代や中世ならばできるかもしれない。そのへんの「中範囲の理論」の時間的範囲はどこまでなのか、というのは気になる点であった。でもとても面白く読めた。自分も歴史研究者が陥りがちな単一事例の強引な一般化については、抑制的であらねばならない、と思う。

  • 歴史学よりからの視点で面白かった。
    社会科学と歴史学は相容れるのか、または可能かが主題。
    どちらからも距離がある印象です。詳細な資料解読と因果関係と仲が悪いのです。

  • 歴史を通じて社会現象の理論家を試みる社会学者が、事実そのもには無頓着、悪ければ歪曲しているという理由で歴史学者の反感を買ったり、冷ややかに見られたりするのも、きわめてありそうなことである。つまるところ、歴史学の研究と社会科学のそれとには、ある種の非対称的な関係が存在しているようである。すなわち歴史学者の研究を社会学者が利用することはあっても、逆に歴史学者が社会学者の理論的成果を明示的に参照することはあまりない、という非対称性。研究手法と研究姿勢に対する根本的な批判は存在するが、歴史学者と社会科学者がお互いを論的とみなして正面から取り上げ、同じ土俵の上で真剣に反照しあうことは稀である。つまり歴史研究と社会科学の理論研究との間には、一種の棲み分けが確立している。

  • 本書はリサーチ・デザインについて解説した方法論に関する本である。また論文の型どおりに本文全体が構成されており、特に(昨今別な意味で話題になっている)文系学部の諸学生にとっては、論文を書く際に、多くの点で参考となる。核心となるアブダクションについては、第3章に詳述されており、第5章を再読することで全体を手短に振り返ることができる。

    アブダクションとは、説明仮説を形成するものであり、次の手順で進められる。
    (1)われわれの信念や習慣から逸れるような、変則的な事実が観察される。
    (2)しかし仮にある「仮説」が正しければ、その事実が生じるのは当然のことだろう。
    (3)したがって、その「仮説」が真であると考えるでき理由がある。
    上の観察データの説明のために、推論しながら因果関係や理論を発見する点が特徴的である。(pp.88-89)

    個人的には、上のような考え方は、手続きの考え方がサンプル数が極端に少ない因子分析のようだと感じた。他方、歴史的事例から理論を導くという点については、マトリックスで構造化した後、異同について言及するということだったので、方法論としてはやや新鮮さに欠けていたが、重要な点を再確認できた。

  • 歴史学や社会学の人向けの科学哲学の入門の入門的な役割も果たしてる気がする
    『質的研究アプローチの再検討』と去年の社会学評論にあった「Howの問いからWhyの問いへ」あたりも併せて読んでみてもいいと思う

  • 歴史学を科学的にするための理解がすすみました。

  • 301.6||Ho

  • 最近,研究の方法論に興味が出てきているので,読んでみたい。

  • これは良い科学哲学(とくに社会科学の哲学)の本。
    アメリカの社会科学界隈では既に、KKV(キングとコヘインとヴァーバの共著)の次の段階に進んだと冒頭にある。私はツンドクしているので、読み方が変わりそう。


    【書誌情報】
    著者:保城広至
    価格:2,000円+税
    出版年月日:2015/03/20
    ISBN:9784326302406
    A5 196ページ

    本書は方法論の基礎をかみくだいて説明する入門書でありながら、社会科学と歴史学のギャップを埋める最新の研究書。自分の理論に都合のいい資料しか使わない社会科学者と、狭い研究対象に埋没してしまう歴史家。両者の溝を払拭する研究法を指し示しながら、初学者向けにも基本を解説する。専門用語を易しく説明する「ショート解説」つき。
    http://www.keisoshobo.co.jp/smp/book/b193732.html

    【目次】
    はじめに [i-iv]
    目次 [v-viii]
    タイトル [001]
    献辞 [002]

    序章 歴史と理論――古くて新しい緊張関係 003
    はじめに 004
    1 歴史学者による社会科学者批判 004
      歴史社会学の名著
      歴史学者による社会科学者批判①
      近代日本政治の理論と歴史
      歴史学者による社会科学者批判②
      両研究に内在する問題点
    2 社会科学者の見解 013
      狭い歴史学者の視野?
    3 歴史と理論の断絶にはらむ問題 018
      本書の目的
      本書の構成

    第1章 中範囲の理論――イシュー・時間・空間の限定 025
    はじめに 026
    1 パターンと個性 026
      理論とは何か? 
      法則性と一過性?
    2 「自然主義」と社会科学 028
    3 社会科学理論の社会への影響 030
      予言の自己否定性
      予言の自己実現性
      理論の現象消失性
    4 中範囲の理論 035
      イシューの限定
      時間の限定
      空間の限定
      中範囲の理論へのひとつのアプローチ
    おわりに 044

    第2章 「説明」とは何か? 047
    はじめに 048
    1 「説明」に関する三つの見解 048
    2 因果関係の解明としての「説明」 049
      社会科学者の因果説
      歴史家による因果説
    3 統合としての「説明」 053
    4 記述としての「説明」 054
      歴史研究者の記述説
      歴史学の叙述傾向
      社会科学者の記述説
    5 解釈・理解としての「説明」? 059
      文化人類学者の解釈学
      ポスト実証主義と解釈学
      社会構成主義者の理解説
    6 二つの「説明」概念を同時に満足させる 062
      因果説と記述説の統合
    おわりに 066

    第3章 帰納/演繹、アブダクション 067
    はじめに 068
    1 帰納法とその問題点 069
      J. S. ミルの五つのカノン 
      実験の不可能性  自然実験という試み
      帰納的飛躍――「すべてのスワンは白い」?
      理論負荷性――ウサギにもアヒルにも
      理論負荷性を問い直す
    2 社会科学における演繹法の陥穽 084
      前提の不確実性と結論の不確実性
    3 アブダクション 087
      アブダクションと仮説演繹法
      アブダクションとさまざまなディシプリン
    おわりに 096

    第4章 構造的問いと事例全枚挙 099
    はじめに 100
    1 単一事例の問題点 100
      単一事例の擁護
      単一事例への批判
    2 構造化、焦点化された比較の方法 111
      ヘンペルのカラスと比較の単位
    3 事例全枚挙 113
      分析対象範囲の問題
      事例を全枚挙する利点
      従属変数からの選択という問題
    おわりに 121

    第5章 過程構築から理論化へ 123
    はじめに 124
    1 過程追跡という手法 124
      ベイズの定理と過程追跡
      理論志向 「過程追跡」の問題点
      プロスペクト理論とキューバ危機
    2 歴史過程の構築 133
      現象の発端と事例の定義
      プレイヤーの特定
      プロセスに沿った分析
    3 抽象化、比較分析から理論化へ 138
      分割表による体系的比較
      戦後日本の地域主義外交の例
    おわりに 148

    終章 さらなる議論を! 151
      本書が論じてきたこと
      本書の意義と限界

    謝辞(2015年1月3日 京都・北白川にて 保城広至) [159-160]
    引用文献 [161-175]
    事項索引 [177-180]
    人名索引 [181-182]

      ショート解説一覧
    ショート解説00-1  定性的研究と定量的研究 
    ショート解説0-1   一次資料と二次文献 
    ショート解説0-2  「プロクルーステースの寝台」問題 
    ショート解説0-3  中心極限定理 
    ショート解説0-4  経済学「方法論争」 
    ショート解説0-5  パラダイム・シフト 
    ショート解説1-1  前向きの解 
    ショート解説1-2  最小二乗法 
    ショート解説2-1  D-N説明とI-S説明 
    ショート解説2-2  社会構成主義 
    ショート解説3-1  実験群と統制群 
    ショート解説3-2  比較優位説 
    ショート解説3-3  「ハード・ケース」と「イージー・ケース」 
    ショート解説3-4  反証可能性 
    ショート解説4-1  「最もありえそうな事例」 と 「最もありえそうにない事例」 
    ショート解説4-2  決定的実験の不可能性 「デュエム=クワイン・テーゼ」 
    ショート解説4-3  ヘンペルのカラス 
    ショート解説5-1  ベイズの定理と3囚人問題 
    ショート解説5-2  プロスペクト理論 
    ショート解説5-3  ブール代数とファジー集合 

  • 社会科学の定性的研究と歴史研究の長所を統合する事を試みた、研究の方法論を見つめ直す上で大変参考になる一冊。両分野の関係性や研究における陥穽、最新動向などを知ることができ、研究を始める前や研究の過程で、是非読むことを勧めたい(社会科学や歴史学を専門とする学生などに限らず、広く歴史や社会現象を対象とする研究者の参考になるだろう)。(都市工学専攻)

    配架場所:工14号館図書室
    請求記号:30:H

    ◆東京大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2003260445&opkey=B147745111223355&start=1&totalnum=1&listnum=0&place=&list_disp=20&list_sort=6&cmode=0&chk_st=0&check=0

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著者プロフィール

東京大学社会科学研究所教授

「2020年 『国境を越える危機・外交と制度による対応』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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