なめらかな社会とその敵

著者 :
  • 勁草書房
3.71
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本棚登録 : 898
レビュー : 67
  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326602476

作品紹介・あらすじ

「なめらかな社会」が近代をメジャーバージョンアップする。近代民主主義が前提としている個人(individual)という仮構が解き放たれ、いまや分人(dividual)の時代がはじまろうとしている。人間の矛盾を許容して、分人によって構成される新しい民主主義、分人民主主義(Divicracy=dividual democracy)を提唱する。

感想・レビュー・書評

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  • 本書のタイトル『なめらかな社会とその敵』は、カール・ポパーの『開かれた社会とその敵』を意識して付けられたことは明らかであろう。ポパーの同書は第二次世界大戦時に書かれ、「開かれた社会」= 自由主義に対して、全体主義・共産主義をその敵とみなして批判し、その全体主義のルーツを当時社会に影響力を持っていたプラトン、ヘーゲル、マルクスに見て批判をしたものである。著者は、ポパーによる著作が書かれた当時の開かれた社会への移行とその後の成功を、自身の提唱する「なめらかな社会」へのこれからの社会の移行に重ね合わせようとしているのだろうか。
    カール・ポパーは、ある理論が科学として成立する条件として反証可能性を掲げた反証主義でも有名である。著者は、本書で構築した自身の理論を反証可能性をもつものとみなしているのだろうか。ポパーの著作のタイトルをなぞったことからも、著者はそう考えているのだろうと想像する。それは、「数学的に形式的で、実行可能な方法として、人々にとって想像できるかたちとして提示した」ことを本書の特徴として挙げていることからもわかる。ただ、読了後にまったくそれとは正反対の感想を抱くことになった。

    タイトルにもある「なめらかな社会」とは、著者によると複雑なものを複雑なまま受容する社会である。人間の有限の認知能力の範囲でそれを可能とするため、その多くをシステムとして現実化する試みと捉えることができよう。著者は、「ここに近代のメジャーバージョンアップとして、なめらかな社会という概念を提案することにしたい」との意気込みを見せる。「この複雑な世界を複雑なまま生きることは、いかにして可能か。本書はこの問題を対象としている」のだ。一方で、「なめらかな社会の構想を批判することは容易だろう。なぜならば、これほどの大きなパラダイムの変化であるから、現実的な問題がいくらでも思いつくであろうからである。こうした問題のすべてに解決策を用意しうることは、著者の能力をはるかに超えている」ということで批判に対して予防線を張る。ただ、問題は構想実現への現実的な問題ではなく、そもそもの議論の入り口にあるような気がする。

    導入部にあたる第一章で、【膜】を"資源の囲い込み"、【核】を"中央集権的な組織"、のメタファーとして、生物と社会の相似をそこに見る語り口は、知的作業として面白い。また、生体と社会双方における反応ネットワークの役割を強調し、オートポイエーシス=自己組織化/自己維持性、を生命システムの説明原理にもってきて、社会システムに敷衍するのはひとつの見識であり、ある種の流行でもある。著者は、リベットの自由意志に関する実験、ラマチャンドランの自我に関する認知心理学、ミラーニューロンなど最新の脳神経生理学にもきちんと目配せをしているし、行動経済学の理論にも正当に言及していて、読んでいて知的好奇心を刺激する。

    一方で、本書の抱える最大の問題(と自分には思えるもの)は、数式上だけで何かを証明しているかのようなテクニックに走り、おそらくは著者の意図に反して、そのために現実感がなくなっているということである。さらに、「なめらか」を説明するための数学的な道具立てとして不必要にシグモイド関数を持ちだしてしまうところは、ますます著者が脆い論拠立てに走る傾向を示しているように思う(※)。全体として少なくとも技巧に走って魂とも言うべきものが抜け落ちている印象を与えている。
    ネットは革命的であろうし、そこではNothing is impossibleだと正しく言いつのることもできる。ただ論理的に正しいことが、その正しさを何ら保証もしないということは論理的にも当然である。数学的モデルの整合性に腐心し、導入に向けてのプランや必然性が見えない。著者が主張するシステムに移行するためのインセンティブが見いだせないがために、現実感が伴わないのだ。

    以上、その実現性に対してやや批判的な調子で取り上げたが、本書でその実現をうたわれている具体的な成果は、新しい流通貨幣としてのPICSYと新しい投票システム(評価システム)としての伝播委任投票システムであろう。以下、それぞれを見ていく。

    【PICSY】
    価値が伝播するという興味深い性質を持った貨幣システムとして、伝播投資貨幣PICSYが提案される。貨幣を経済システムにおける血液、資本をその流れのよどみとして資本を棄却する試みであるように見える。
    行列をこんな風に使うのかとある意味で感心する。確かにマルコフ過程として理論上は成立するのかもしれないが、各イベント結果の波及到達に時間差があり、相互依存もある中で現実的に成立しないのではないかと思う。このミクロの解析から、マクロが成立すると信じることができないのである。

    なお著者は、地域通貨のロジックとして、2000年刊行の『NAM生成』にも寄稿している。"NAM"はNew Associationist Movementの略で、柄谷行人が2000年初頭に主宰した「運動」である。理論を実践に移す場であろうとしたが、現実社会において大きな流れになることなく、数年で解散している。
    NAMの運動では、LETS(地域通過)による価値交換が模索されていた。その関連で『NAM生成』には著者による「ネットコミュニティ通貨の玉手箱」というタイトルの42ページほどの作品が収められている。今再読すると、本書に収められているネット通貨論の多くがすでにほとんどそのままの形で提案されている。著者にとって地域通貨の問題はずっと温め続けていた案なのだ。

    一方、実際の世界における中央銀行を持たないネット通貨として新しい技術であるブロックチェーンによる仮想通貨bitcoinがすでに一定量流通している。現実の通貨との為替レートも変動相場制となっており、すでに投機目的の売買もある。
    https://www.weusecoins.com/ja/
    ネットの世界では理論よりも実践が好まれる例だろう。

    【分人民主主義】
    新しい考案である伝播委任投票システム (Propagational Proxy Voting System)を提示し、「ネットは民主主義を再発明できるか」を世に問う。
    分人民主主義(divicracy)や伝播社会契約についての議論に対しては、近代民主主義システムを疑い、現在の仕組みが技術的制約からの帰結でもありネットワークを活用することで変革をするべきであるところは同意できる。ただ、またそこから数式をあえて使ってややこしい理論構築に走っているのはいただけない。

    伝播委任投票システムについては、投票権を他人に分割して委託することに関する、不正防止についての仕組み(インセンティブ)が必要であろう。
    これらの論点については、東浩紀の『一般意志2.0』とともに読まれるべきだと考える。

    先に述べたNAMが、最後はくじ引きでリーダーを決めるなど、投票システムにおいても共同体構築の実験の場であったことが思い起こされる。ここまで見ても柄谷が起こした運動と、具体的解決策は違えども問題空間を共有していることがわかる。

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    その理論の目指す射程は広いが、実際にその弾の届くであろう範囲はごくせまいと言わざるをえない。このままだと頭がいい人が何か言っている、ということに留まりかねない。何がよくなるのかが説明されないと何人も説得され得ない。

    著者からするとそんなことはわかっているし君が読みこめていない分も含めて考慮済みだと言われそうだが、本書に書かれた内容の社会的受容という面に関しては大きく間違っていないようにも思う。残念ながら「閉ざされた社会」での議論に留まり、そこからの発展的な現実性が見えてこない。

    もちろん、ネットによって経済と政治が変わるのは確実ではある。本書がターゲットとする時期がいつを想定しているのか不明であり、それによって本書の評価は違ってくるべきかもしれない。



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    (※) シグモイド関数は、この後大きな流行を見せるディープラーニングの活性化関数としてよく使われるようになる。このときにAIについてどの程度意識をしていたのかわからないが、意識をしていたとすれば、非常に高い見識をやはり持っていると思う。著者自身がプログラムもできると思われることから、AIを意識していた可能性は高い。

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    (補足)
    著者の鈴木健はその後、Smart Newsの共同創業者兼会長としてビジネスで成功している。

    P.28でオートポイエーシスが興味深い4つの理由がある、としながら3つしか書かれていなかったりする...あらさがしですが。

  •  勁草書房では浅田彰「構造と力」以来の売れ行きだそうで。有名ブロガーも取り上げていて、けっこう話題になっている。
     ちょうど今年は浅田彰の「構造と力」が出版されてから30年、それを受けた東浩紀の「存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて」から15年目という節目で、本作はまさに浅田彰的な80年代ニューアカ思想と東浩紀的なゼロ年代情報社会論の両方を架橋する内容になっている。
     まず、前半部において、鈴木の提唱す”なめらかな社会”の基礎理念の・理論が提唱されるが、これは極めてニューアカ的。”なめらかな社会”を「いたるところ微分可能」と表現しているが、この微分という思想はまんまドゥルーズだし、マトゥラーナ=バレーラの提唱した生命システム論であるオートポイエーシスをその議論の基礎づけに用いているのもいかにもそれっぽい(彼らの著作「知恵の樹」は浅田彰が解説書いていた)。鈴木自身も柄谷行人の「NAM生成」にも参加しており、そこでの議論が本作のベースになっているそう。このあたりの位置づけを考えるなら80年代ニューアカの正統な後継といっていい。
     その一方で、中盤以降にかけては、なめらかな社会を実現するためのシステム実装に話題が及ぶが、ここではニューアカから一線を画した具体性を帯びてくる。鈴木が実装の中心に据えるのは、伝播投資貨幣PICSY、文人民主主義、構成的社会契約論(具体的なモジュールとしてはPICSY、伝播委任投票、伝播社会契約、伝播軍事同盟)であるが、これはいずれも情報技術によって環境そのものを設計し制御しようというシステム。こちらは、GLOCOMのisedや東京財団のVCASIあたりの制度設計に関する学際研究と繋がる。こういう実装にかかる思想は、ゼロ年代の思想シーンの成果と言える。
     理念としてのニューアカと実装としての情報社会論という組み合わせで、極めて射程の広い、遠大な論考が展開される。数式は出てくるわ、大量の参照はあるわで、読みきるのにはなかなかな骨が折れるが、そのぶん頭をフル回転させて読むととてもエキサイティングな内容。まあ、とりあえず、評価経済がどうの言ってる人らはこれくらい考えてからものを言ってくださいと。
     しかし、理念も実装もその可能性を感じることができるのだが、それにもかかわらず”なめらかな社会”が実現したとして、どういう世界になるのかがいまひとつイメージできない。”なめらか”という言葉は美しいけれど、どうにも全体主義的な印象を拭い切れない。マトリックスな世界でもビッグ・ブラザーな世界でもうまいこと制御してそれで平穏で快適でなめらかならいいじゃんとさえ言っているように思える。もっと泥臭く地を這うようにして実現される自由があるんじゃないかと思うのだが。

  • 「複雑な世界を複雑なまま受け入れることは、あまりにも難しい」
    コンサルワークで因果関係を明らかにする際には、ある程度の単純化を伴う。どこまでの単純化すなわち

  • 2019.06.13 EGMフォーラムで紹介を受ける。

  • 大上段に構えた書きぶりではあるが、そんなに新しいことを言っているわけではない。ただ、様々な知見を畳み掛けるように示しつつ、才気走った筆で自論をわかりやすく展開するその手際はすごい。著者に続く世代に本書が与える影響は大きいのではなかろうか。限られたコミュニティでの社会実験や実例を踏まえているとはいうものの、それを人間社会全体に適用しようとすれば、それはユートピア的な思考実験にならざるを得ない。しかし、その実現可能性を云々するよりは、現代社会のシステムをよりラディカルに相対化して考えていくためのヒントを得るものと考えれば、十分に有用な書物であろう。情報技術に対する無邪気さが気になるところではあるが、それを言ってしまってはこの論考の前提を否定することになるだろう。ただやはり、情報技術の管理が恣意的に行われないようにすることは、本当に「技術的に」可能なのか。気になる。

  • アプリ「スマートニュース」の創業者の著書。ゼロとイチ、ウチとソト、敵と味方をはっきりと区別しない、複雑さを複雑なままに扱う、なめらかな流通ネットワークの構想について。「敵」はカール・シュミットから。

  • 思考実験の域を出ていない。主題となっている「なめらかな社会」を是としているが、人間の認知力が追いつかないだろう。そもそも、「なめらか」であることが良いことなのか不明。結局、個人主義の延長では。システム以前に、人間という生き物に対する洞察が不足していると感じる。

  • 複雑な社会を複雑なま生きる

    分人民主主義

    自分を分割してコントロールしていく

  • ☆「開かれた社会とその敵」のもじりなのだが、数学的というか、モデルによる考察だな。

  • 非常に難しい本だったが、面白い!

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