幻のサッカー王国―スタジアムから見た解体国家ユーゴスラヴィア

著者 :
  • 勁草書房
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本棚登録 : 66
感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326851515

作品紹介・あらすじ

「東欧のブラジル」ユーゴスラヴィアの真実。知的サッカーファン必見のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • バルカン半島に位置する旧ユーゴスラビアは、連邦国家であり、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアの6つの共和国から成っていた。また、5つの民族・4つの言語・3つの宗教を有する多様性の大きな国であったが、チトー大統領の時代には、冷戦時代の東側社会主義・共産主義の中では運営がうまくいっている国として評価されていた。
    しかし、それはチトー大統領がいたからであり、1980年の彼の死後、民族間の対立が表面化・深刻化していき、90年代以降の東側諸国の体制崩壊と軌を一にして、紛争・内戦に発展する。セルビア人勢力に包囲されたボスニアの首都サラエボで22日間演奏を続けた音楽家の物語「サラエボのチェリスト」等を読むと、この紛争がどれだけ悲惨なものであったかが分かる。
    そういった中、筆者は1997年の2月から3月にかけて、旧ユーゴスラビア諸国を旅する。セルビアがサラエボから完全撤退したのは、1996年3月のことなので、紛争がいったんの終結を迎えてから、まだ間もない時期であった。筆者の旅の意図は、「ステレオタイプな報道に終始した旧ユーゴ諸国の現状を"フットボール"という観点から光を当てたい」というものであった。筆者は現在では、サッカーの世界では有名なライターであるが、このユーゴへの旅の時には、まだ著作を1冊も書いておらず、全くの無名の若者であった。
    旧ユーゴ諸国には、有名なサッカー選手が多い。2018年のロシアワールドカップで準優勝したクロアチアのエース、モドリッチが今では最も有名であろう。また、不思議と日本とも縁が深い。Jリーグの草創期に活躍したストイコビッチはセルビア人。一時期、日本代表監督を務めたイビチャ・オシムはサラエボ出身のボスニア・ヘルツェゴビナ人だ。本書の発行直後に開催された、1998年フランスワールドカップに日本は初出場したが、同組にクロアチアがいた。アルゼンチンに敗れ背水の陣で迎えたクロアチア戦、中山の惜しいシュート等もあったが、結局はシュケルに決められ、0-1で日本が敗れたことをよく覚えている。クロアチアとは、ドイツ大会でも同組になっている。
    以上が本書に関する背景だ。

    筆者は、「旧ユーゴ諸国の現状を"フットボール"という観点から光を当てたい」という意図で本書を書いたと言っているが、私は本書をシンプルな旅行記として読んだ。サッカーの場面も出てくるが、必ずしもそれがメインではなく、筆者の旧ユーゴ滞在全般が書かれている。この時期の旧ユーゴ諸国を実際に訪問した旅行記は、おそらくまれであり、そういった点での価値も高いのではないかと思うし、必ずしも「フットボールという観点から」と断らずとも、十分に汎用性の高い内容の本だと思う。
    かの地で、出会いがあり、危ない目にあったり、喜んだり、悲しんだりしたことが、生き生きと描かれている。面白い旅行記であった。

  • おかげでいい旅になりました。

  • サッカーを扱ったノンフィクションとしても秀逸であるが、筆者の視点やフォトグラフィーもかなり興味深い。読者にはこうしたものが1998年という時代にあったことを感じ取って欲しい。

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著者プロフィール

写真家・ノンフィクションライター。1966年生まれ。東京都出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、テレビ制作会社勤務を経て、1997年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追いかける取材活動を展開。2010年『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』でミズノスポーツライター賞大賞、2016年『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞を授賞。現在、個人メディア『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信中。

「2022年 『前だけを見る力 失明危機に陥った僕が世界一に挑む理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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