今回の話を読んで頭に浮かんだのはクーンツの『ファントム』とB級ホラー映画『ブロブ』だ(あとは『千と千尋の神隠し』のカオナシか)。
最初は下半身が無くなる女性の事件から耳、腕、頭髪、頭と続く。この一連のエピソードが淡々とあくまで控えめな視点で語られる。今までの斎藤作品とは一線を画す素晴らしさで、非常に面白く読めた。
最初は小さなアメーバだったそれは人体の一部を搾取するだけだったが、次第に人体そのものを取り込んでいき、どんどんでかくなっていく。最終的には街を埋め尽くす光を放つ生命体にまで発達する。
さてこういう大風呂敷を広げる話は大好きだが、読中気になるのはその収束方法。特に今回は銃弾はおろか麻酔弾も効かない、爆弾を仕掛けると細かく分裂して被害が拡大する恐れがある、あまりに大きすぎるために焼き払うことも出来ないという無手策ぶり。これを倒せるのは何の変哲も無い学生、佐久諒矢のみ。
どうやって倒すのだろうと思っていたら、危惧したとおり呆気なかった。
あれだけ佐久と怪物戸田夏帆との再会をクライマックスに準備していたのに、結局何の会話も無いまま、人との触れ合いだけで消えていくという始末。
そして残された流体は何の攻撃を受けることなく、自ら川から海に流れていくという結末。ちょっと肩透かしを食らってしまった。
しかしこの生命体を軸に色んな立場、職業の人物を描いて群像劇を紡ぎだした手腕は買う。
一番心に残ったのは掃除おばさん谷岡福子夫妻の逃亡劇の話。いち早く他人よりも逃げる事が出来たにもかかわらず、夫が預金通帳を取りに帰るなどという詰まらぬ事にこだわったがために申し訳なく思っている表情とそれに対する福子の最後の台詞。このエピソードは怪物が出てこようが人間っていうのは意外にそんなものなんだと感じさせる。
そんな斎藤作品も今回で打ち止め。しかし最後の最後で彼のいい仕事に出逢えた。