アメリカ下層教育現場 (光文社新書)

著者 :
  • 光文社
3.58
  • (12)
  • (31)
  • (35)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 221
感想 : 37
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334034337

作品紹介・あらすじ

アメリカ在住ノンフィクションライターである著者は、恩師に頼み込まれ、高校の教壇に立つことになった。担当科目は「JAPANESE CULTURE(日本文化)」。前任者は、生徒たちのあまりのレベルの低さに愕然とし、1カ月も経たないうちに逃げ出していた。そこは、市内で最も学力の低い子供たちが集まる学校だった。赴任第1日目、著者が目にした光景は、予想を遙かに超えていた。貧困、崩壊家庭と、絶望的環境のなかで希望を見出せない子供たちに、著者は全力で向かい合っていくが…。子を持つ全ての親、教育関係者必読のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • アメリカ在住のノンフィクションライターであった著者が期せずしてチャーター・スクールの教壇に立つことになった。前任者が1ヵ月で匙を投げるほどの市内一学力が低く“荒れた”子供たちを相手にした教育現場の生の姿を綴ったルポルタージュ。

    授業が始まったにも関わらず、音楽を聞く、ゲームではしゃぐ、眠りから覚めない等、学ぶ姿勢を取らないあまりのレベルの低さに、教師生活初日から洗礼を受けます。苦悩しながらも少しづつ生徒たちと向き合い、奮闘する著者。同時に生徒を知れば知るほど、その背景には家庭崩壊や貧困など、彼らだけの力ではどうすることもできない現実が浮き彫りになってきます。劣悪な環境から脱するためには、学ぶこと、夢を持つこと、強く生きることを著者は自身の経験から、そして教師として、彼らに強く、繰り返し訴えていきます。
    この体験記を通して、読み手にはアメリカ下層教育の現状がストレートに伝わってきます。現実は明るいものばかりではありませんが、もがき続ける生徒たちにとって自身と真摯に向き合ってくれた大人の存在は、今後の人生の糧と成りうるように思います。

  • 社会学関連の学術書だと思い込んでたら、熱血教師の体験記ふうで、ちょっと期待はずれ。この手のノンフィクションなら、アメリカの著者がすでに多く書いているので。教育現場の崩壊とか、政策の不備とか、もっと深いところに突っ込んでくれているとよかった。
    とはいえ、日本人でこのような経験をされる方はそういないし、それを日本人向けに日本語で伝えてくれる書物も皆無なので、そういう意味では非常に興味深い。自身や生徒たちをかなり美化しているのでは?と思われる部分もないことはないが、私自分もホームレスの人たちと接するボランティアをやっていたので、まったく異質の自分に彼らが心を開いてくれる瞬間のあの感激、というのは、共感できる。
    普通、日本人には二つのタイプがある。1つは上流クラスに根付いた移民の子孫や企業から派遣された人、留学生など。彼らは「優秀な国民」という日本人のイメージにうまく乗っかり、仕事や学業に精出し、アメリカの抱える社会問題には無頓着である場合が多い。もう1つのタイプはわざわざ自分を「マイノリティーJap」と位置づけて、被差別者グループとアイデンティティを分かち合おうとする。著者は後者の傾向が強いかな。
    ただ、どちらにしても、日本人というのは特殊な位置にいて、完全にグループに混ざることはできない。上流階級の日本人も、白人に混じるとコンプレックスを感じるし、マイノリティと混ざろうとする日本人も、ぎりぎりのところで相手がまったく違う世界に住んでいることを思い知らされ、壁の存在を認識する。
    著者が、生徒たちを少しでも変えてやりたい、と思うのはすばらしいことだし、思うような結果が得られず逆恨みするのも理解できる。ただ、やはりどこかで線を引いて、相手のテリトリーを尊重しないと、お互いに傷つくことになるのでは?という疑問も残った。

  • 図書館で何気なく手に取った本。

    お盆休みに一気に読み進めた。
    アメリカのチャータースクールでの日本人非常勤講師の奮闘記とその後の「Big Brother & Big Sister」の体験記。

    授業を工夫したり、ひとりひとりの生徒に声をかけても、思い通りにはいかない、きれいごとではない世界が描かれている。まさにアメリカの下層、暗部を最下層のチャータースクールでの授業現場から生き生きと伝えている。

    フリーライターである非常勤講師は情熱と信念を持って教壇に立ち、やや独りよがりで偏りがちな題材の選択や経験談ではあるものの、集中力が30分と持たない生徒たちに対して筆者だからこそできる授業を試みていることが臨場感を持って伝わってくる。

    「大学に行け」「正社員になれ」「ドラッグに溺れるな」「人をよく観察してダマされるな」「殺人者になるな」という生徒へのメッセージは直球。家庭の事情のせいにしがちなところを、踏み止まって生徒の心に届けようとして、また生徒からの信頼と慕情を勝ち取るまでの過程は胸を打つものがある。

  • ライターである著者がアメリカの、落ちこぼれ向けの高校で”日本文化”のクラスで教鞭をとった際の記録。

    実録なので具体的でわかりやすい。アメリカの下層教育について知れる機会だ。

  • 読書の醍醐味の一つである、全く想像のつかない世界を仮想体験させてもらえる良書。著者の半生、アメリカでの体験と本書での体験、訴えたい事がきれいに一本の線となっていることで読みやすくかつ説得力のある文章に仕上がっている。日本もすでに同様の状況に陥っているわけだが、果たして日本人はアメリカ人のように草の根運動を100年以上続けて社会を良くしていくという希望を持つことができるだろうか。

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA84475332

  • ぇー、なんかめっちゃ読みやすかった。
    新書って、難しくて読むのに時間がかかるイメージがあったんですが(笑)、これはさくっと読めたなー。

    ていうか、すごい生の体験記だったので面白かった。
    exciting storyっていう感じ。
    アメリカの差別感、そして何より不平等の現れ方がこれまでとは。と思わされる本。日本は、なんて平和なんだ。どんなに学校が荒れようと、ここまでいかないっしょ。どっちかって言うと、日本の荒れ方は、ただの甘え。そんな感じすらする。(もちろん、個々で見ればいろいろなケースがあるのは理解していますが、全体として見て、の話です。)
    正直、こんなアメリカの学校で教壇に立てる気がしないような。怖いような。自分なんかの人生経験では、良い先生になれないんだろうな。筆者だからこそできたのであろう。そんなことを思ってしまった。

  •  アメリカ在住の日本人ノンフィクションライターである著者は、恩師に頼み込まれ、ハイスクールで教鞭をとることになった。担当科目は「日本文化」。ところが、学級は始める前から「崩壊」していた……。
     黒人ボクサーの光と影を描き、同時にアメリカ社会におけるマイノリティの生き様を浮き彫りにした秀逸なノンフィクション『マイノリティーの拳』。その著者・林壮一がネヴァダ州・リノの底辺校で教鞭をとった4か月(+その後)を描いたのが、本書。
     荒廃する公立校への対策として、1クラス20人程度の少人数にして、より深い絆をつくろうとはじまった「チャータースクール」。しかし、〈10年以上が経過した今、チャータースクールは一般の公立校より水準が低く、劣等生の集団に過ぎないのが現状だ〉。日本のアニメやゲームがアメリカの若者に絶大な人気を誇るようになった今日、生徒が関心のある科目で学習意欲を高めようということで、免状もない著者におはちが回ってきたというわけだ。
     初日の授業から、授業中にUNOをやる女子、ハッキー・サック(小さな布の玉を地面に落とさないようにけり合う遊び)に夢中の男子5名、MP3プレイヤーを取り出すやら、クラスメイトの髪をとかすやら、黙って教室を出て行くやら……というカオスに愕然とする著者。プロボクサーライセンスを取得した過去がある著者、まさに体当たりで、なんとかひとりひとりを授業にひきつけていく悪戦苦闘ぶりが描かれる。
     生徒たちがもちろん好きでこんな底辺校に流れ着いているわけではない。移民で英語が不自由だったり、親が片方しかいないうえに放任だったり……つまりは格差社会の行き着く先として、この学校があるのだ。これがアメリカの現実であり、そしてこの先、日本が直面する現実であるかもしれない。
     目の前にあるのは厳しい現実だが、ある種の希望を持ってこの本は描かれている。アメリカにも能力と熱意のある教師はいるし、ボランティアとして若者を助ける大人たちもいる。アメリカの懐の深さを感じるところでもある。
    『マイノリティーの拳』はもちろんだが、『プリズン・ボーイズ―奇跡の作文教室』(マーク・サルツマン/築地書館)と合わせて読むと、なおさら味わいが深くなるかも。

  • 格差、貧困、崩壊家庭 これは日本の将来の姿か? ― http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334034337

  • タイトル通りアメリカの下層教育現場の一例、著者の経験した現場の話なので非常にわかりやすい。

全37件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

福岡大学准教授

「2023年 『よくわかる力学の基礎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

林壮一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×