愚か者、中国をゆく (光文社新書)

著者 :
  • 光文社
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本棚登録 : 205
レビュー : 41
  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334034535

感想・レビュー・書評

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  • 最近星野さんの本2冊(銭湯の女神、島へ免許を取りに行く)を読み、どちらもそれなりに面白かったのだけど、『転がる香港に苔は生えない』のワクワク・興奮と比較するとパンチ力がなく、やや物足りなさもあった。
    この本は、星野さんが香港に留学していた20代前半の頃、アメリカ人マイケルと中国を一ヶ月間鉄道旅行したときの記録。
    20年前のことを思い出しながら書いたとは思えないほどに、当時の中国の空気感が伝わってくる。星野さんは、中国や香港のことになると筆が途端に生き生きしだすよね。エッセイスト星野×中国・香港は相性がとてもいいのだろう。これこれ、これが読みたかった!とニンマリしてしまった。

    シルクロードの鉄道旅といえど、当時の中国の鉄道事情、それも切符を入手するための切符売り場(といっても体育館よりも広くギュウギュウの人、人、人…)での話が半分以上ではないかと思う。旅先での話は短く、最終目的地である烏魯木斉(ウルムチ)の記述に至っては全くないのだから。

    当時の(今も?)中国の鉄道は、軟臥、軟座、硬臥、硬座、無座に分かれる。1日以上乗るような長旅になるため、筆者らが求めるのは硬臥(二等寝台)の切符。
    行先により窓口が分かれ、しかも当日券、明日券、前売券でも窓口は異なる。それぞれに数時間待ちの行列ができており、当日券の列でようやく自分の番になって目的地と座席を告げると、「没有(ない)」とすげなくつげられて終わり。また長蛇の列に並び直し、自分の順番になって「没有」と告げられて終わり、を繰り返す。そうして乗った列車は普通に空いている、という事態もあるという(切符が駅ごとに振り分けられているため)。なんたる非合理。当たり前だと思っていたことがここでは特別なサービスだったというカルチャーショック。たった1日で特権を渇望したという筆者の気持ちがわかる。
    筆者もマイケルも、切符に翻弄され、硬臥切符を入手できなくて乗った硬座での過酷な長旅に心身共に疲弊し、会話はなくなり関係は冷えて険悪になっていく…。



    さて、ここからややネタバレ?ですが…。

    マイケルについて、アメリカ人の『友人』とあるけれど、これは中国語でいうところの『男朋友』、すなわち彼氏でしたよね。
    途中まで、これだけ溝が生じているのに何故別行動しないのかなと思っていたけれど…。単なる友人ではなかったと気付く決定的な場面は一箇所だけ(あとで読み直したら最初からそうとしか読めなくなってたけど)。あぁ、そうか…と色々な疑問が腑に落ちた。
    硬座の旅の過酷さはもとより、マイケルとの間でどんどん亀裂が生じていった辛い記憶から、この中国旅は長らく封印されていたのだろうな。
    マイケルが自分に背を向けて読み耽っていたドストエフスキーの"IDIOT"(白痴)。タイトルの"愚か者"にもあるように、この旅を象徴する言葉だ。当時の行動や思いを振り返りながら、時々悔いが滲み出ていた。
    "私たちの関係は、香港でしか成立しえない関係だったのかもしれない"ー
    星野さんは、20年を経て封印を解いて詳細に追憶することで、自分の中でも『ほろ苦い思い出』としてきちんと整理をつけたのかなと感じた。

    ★4.5

  • この本が欲しくて探し回ったものの、絶版には抗えず結局地元の図書館で借りた。

    大好きなブログで硬座という世界を知って、
    気になりすぎて色々調べてた時期もあったほど。
    ハマっている作家の読みたかった本に出てくるなんて、いつか乗れってことかもしれない。。

    とにかく、旅の終わりほど染みるものはない。
    たまたま出会ったバックパッカーとのお別れも、
    旅を共にした相方との思い出も、第三者なのに胸がいっぱいになる。
    20年前の話をこれほど鮮明に書ける著者の腕力はすごい。当時の雰囲気を少しでも感じられるなんて、あまりにも贅沢な幸せ。

    「転がる香港に苔は生えない」もこの本も、ほろ苦さがあって良い。この本は特にそれが強くて泣けた。

  • 星野博美さんの、香港留学、アメリカ人留学生マイケルとのシルクロードへの旅が描かれた一冊。年代から行くと、「愚か者、中国をゆく」→「謝謝、チャイニーズ」→「転がる香港に苔は生えない」となる。ただ、この本で描かれた、香港返還の日の夜に、この時の留学生たち、マイケルも含んで、集まったと描かれたシーンは、転がる香港に…では描かれていないように思うがなぜなのだろうか。そして、親しい友人と描かれていたので、そう思って読み進めていたけど、読み終えるころには彼氏彼女でしたよね、ふたりの関係は、と思った。だからこそ、苦味をともなって思い出されるのだろうけど。香港というさまざまな文化が混在する場所ではうまくいっていた関係が、中国を旅し、さまざまな場面で異文化と衝突していくことで、次第にふたりの関係もぎくしゃくしてしまい、マイケルは閉じ篭るようにして観光もせずにドフトエフスキー「白痴」を読みふけるように。この本のタイトルに取られている、愚か者、はこの書名から来たのだろうと。ここに描かれたのはおよそ30年ほどまえの中国。巻末に2006年時点での変貌に触れられていたが、今の中国を描く一冊を読みたいというのは無いものねだりだろうか。以下備忘録的に。/旅という非日常の中では、金がないことで冒険が買える/ここはあまりに平等すぎて、特権がなければ非常に不便さを感じる社会なのだ/懸命に現地の価値観に慣れることで日常と非日常の差異が縮まり、無邪気な感動を妨げてしまう。観光して感動するとは実は難しい。/

  • 20年前の中国鉄道旅行を回想しながら、話題は中国の鉄道事情から東洋と西洋、中国国内での文明の衝突など、幅広く展開される。

    文章の表現力が豊かで、どんどん引きこまれていく。この本は旅行記の枠を越え、中国社会の実像をとらえることに挑戦しているかのよう。
    著者は、政治の変化は抑えられたまま、経済だけが市場主義に突っ走る中国の勢いを目の当たりにし、警鐘を鳴らす。先に富んでいく者と取り残されていく者との間で、いつか文明の衝突が起こるのではないかと。

    中国を旅したことがある人は、きっと懐かしい気持ちになる一冊。
    2008.08読了

  • 香港を抜けて広州、鄭州、西安、敦煌、ウルムチの旅程を、著者が21歳の時にアメリカ人の相棒と共に汽車で巡った回想日記。

    時代は80年代。当時の中国では切符販売がオンライン化していないので各駅が適当にばら売りしているという状況で、待てど並べど硬臥の切符が手に入らないが、その駅の窓口に切符が無くても満席とは限らない。そこで硬座の切符を買って乗車してから空いている硬臥を押さえるという裏技に成功したり、失敗したり。
    中国人の多さ。駅ではこれが圧倒的に感じられると書かれている。それは今も昔も変わらないんだなあとしみじみする。
    敦煌に至って期待したほど感動出来ない戸惑いが、そこが非日常に長く身を置いた旅の終盤にあることが原因じゃないかというところに共感を覚えた。
    蛇足の章でも常々自分が考えていたことを指摘していて楽しく読めた。

    平素な目線で愛情むき出しの中国のルポを書く作家はこの人以外にいないのではないか。もっと書いて欲しい。

  • この人の書いたものは、そこに出てくる人々の言葉が活字ではなく生の言葉として感じることが出来る。
    いきなりだけど、著者はマイケルのことが好きだったのね。

    今では所謂ホテルや高速鉄道が中国でも当たり前で、当時のような外国人ならではの旅行スタイルもなくなり、一つの歴史を読むような感じ。他の著者でも読んだことあるが、硬座での旅はハンパなくキツイらしい。更に、無座というのもあったらしい。
     

  • 1980年代、21歳でホンコンからウルムチまで列車旅行をした記録。切符を手に入れるために必死になったり、パートナーと険悪になったり、席に座るために心を鬼にしたり。なんでこんなに大変なの!?という疑問をほっとかず、その時々で発見を続ける筆者。大変そうと思いながらも、旅に出たくなりました。

  • 香港に留学中の日本人が中国を旅行した時の話
    天安門事件の前なので、今と時代は違うが、変わりゆく中国、巨大な中国、中国における外国人などが当時の目線でリアルに表現されている

  • 10年くらい前の本ですけれども、割と楽しめましたね…著者の文章がイイからか、中国の情景まで浮かんでくるよう…けれども、今の中国はもっと都会化しているでしょうねぇ…10年前に出版された本の上、1980年代に旅行したことをここには書いているんですから…社畜死ね!!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    中国人…主張の激しい人たち、というイメージですけれども、現代だとそれほど? 熱い人達ではなくなっているんでしょうか…なんか著者が中国の、現代の若者についてそのような感想を漏らしていたので…。

    今の日本はスマホ中毒の、それこそゾンビみたいに無反応な人間が増えているきらいがありますが(!)、中国はまだ人が会話を交わし、よくわからぬ熱気とやらに包まれているようで、できれば一度くらい訪れたいものですね!

    さようなら…。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  • 中国放浪記の傑作、昔の中国の様子が臨場感満載でビシビシ伝わってくる。若さゆえの苦しみだとか、やるせなさ、そんなものを色々抱えながらシルクロードを目指す旅の記録。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家、写真家。1966年、東京生まれ。2001年、香港返還前後の2年間を追った『転がる香港に苔は生えない』(大宅壮一ノンフィクション賞)で注目を浴び、自身のルーツである外房の漁師の足跡を追った『コンニャク屋漂流記』で読売文学賞。他の著作は『みんな彗星を見ていた──私的キリシタン探訪記』『謝々! チャイニーズ』『銭湯の女神』『島へ免許を取りに行く』『今日はヒョウ柄を着る日』他、写真集は『華南体感』『ホンコンフラワー』など。

「2020年 『旅ごころはリュートに乗って』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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