できそこないの男たち (光文社新書 371)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334034740

作品紹介・あらすじ

「生命の基本仕様」-それは女である。本来、すべての生物はまずメスとして発生する。メスは太くて強い縦糸であり、オスはそのメスの系譜を時々橋渡しし、細い横糸の役割を果たす"使い走り"に過ぎない-。分子生物学が明らかにした、男を男たらしめる「秘密の鍵」。SRY遺伝子の発見をめぐる、研究者たちの白熱したレースと駆け引きの息吹を伝えながら「女と男」の「本当の関係」に迫る、あざやかな考察。

感想・レビュー・書評

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  • 2023.8

  • 生物学的にみて男・オスっていうのは、女性・メスの後から派生した不格好なできそこないなのだと説いている本。それはそのとおりなのだろうけど、それなのに人間においては、男ってもう一方の性に対し幅を利かせているのはなぜだろう。
    著者は、人間に限らずと思っているのか「では今日、一見、オスこそがこの世界を支配しているように見えるのは一体何故なのだろうか。それはおそらくメスがよくばりすぎたせいである、というのが私のささやかな推察である。」(p.262)と。オスに遺伝子を運ぶ以外の用途を求めたメスがいろいろ任せるようになり、オスはメスを崇めて日々の糧を獲得しては捧げた。そのうちその余剰を貯めるようになったオスたちは、オスたちどうしで取引・交換するようになり、余剰を支配することで力をもつようになったとのこと。
    この著者の本って初めて読んだけど、科学の世界のことを文系でもなじみやすく書いてくれている感じ。人気なのがわかる。

  • 生物のデフォルトとしての女性を無理やりカスタマイズしたのが男性であり、そこにはカスタマイズにつきものの不整合や不具合がある。遺伝子の使い走りとしての用途。
    エピローグの加速覚についての考察はたいへん面白い。

  • 性別決定に関する本です。当然Y染色体なんかは、学校で習ったんですが、
    性を決定するSRY遺伝子、基本形のメスをカスタマイズしてオスができたってのは知らなかったです。
    この本は純粋な科学物って感じじゃなくて小説、歴史物っぽい感じで読み易くて、面白いのは良かった。
    その分、深みが無いのが少し残念だったかな。

  • 福岡さんがちょっとしたマイブームで、もっと著書を読みたい!と思って見つけた本。

    普段から自分が(生物学的・社会的に)女であることについて考えてはオーバーフロー、、みたいなことがあったのでとても面白かった。自分が生活している中で精神的な脆さ、肉体的な弱さをどうしても感じることがあって、それは友人にも話が通じることが多かったから生物学的に女は非力だと思っていた。個人的に女は脆くて複雑、男は丈夫でシンプルというのがなんとなくこれまで生きてきた中での印象だった(くどいようだが生物学的に、そしてごく抽象的に言うと)。だから、作中で女と比較して男が脆い存在として説明されていたのが新鮮だったし、新たな視点を得られた気がする〜

    コンパクトにまとめられていたけど、エピローグがとても面白かったな。女って生物学的にゆらぎが大きい気がしていて、それは即ち時間を感じやすいということなのかもなんて思った。自分ではコントロールできない範疇で身体や精神に変化が生じること、それを受け入れること。読みながらそんなことをぼんやり感じていた

    人間を他の動物から特別扱いするのってどうなんだ、と思っていたけど、余剰を作ろうと欲張った結果が今なんだとしたら、それは確かに人間は他の種に比べて賢かったとも言えるかも、なんてことも思った

    他の作品もだけど、比喩や表現が本当におもしろい、ドラマティック。もっと早くに読みたかった〜〜〜

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18351

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA8760581X

  • もともとX染色体だけの生命体が自己複製による増殖をしていたが、ある日突然Y染色体を持った生命体が誕生する。それが生命体最初の♂である。当初のオスは遺伝子を遠くにいるメスに運ぶだけの役割だった。要するにSEXするだけの存在だった。自己複製を繰り返すだけのメスからはクローンしか誕生しない。外部からの遺伝子による交雑をする事で進化のスピードを加速させる事が可能となった。環境の変化にいち早く対応できるようになり、繁殖能力を持たないオスに雑用をさせる事で、その生命体は環境との競争に勝ち繁栄してきた。それがオスとメスに別れる地球上のあらゆる生命の祖先である。
    という福岡の観察眼が書かれている。
    福岡は子供の頃から昆虫の研究に熱心で、大学でもそれを志そうとするが、うまく行かない現実を身を持って知る。その後、背水の陣で渡米する。そういった経緯があった事も見逃せないだろう。

    1つ疑問を投げかける。

    最初のSEXはどのようなものだったのか。

    メスにとって、できそこないのオスは道具に過ぎなかったというメタファーがシニカルに描かれているのが本書である。それは男性優位社会に対する福岡の皮肉か批判なのだろう。それとは真逆の多様な生物の生態を例に上げている。
    だが、最初のSEXでは、オスはメスの体内へ強引に生殖器のようなものを打ち込んでいた可能性もある。無理やり穴をこじ開けたのである。そのやり方を通してオスが支配的になったのかもしれない。
    オスかメスか。どっちが上で下か。男性優位のテーゼを覆すアンチテーゼ。そこに面白さがあるという事。これが逆なら、福岡は女性優位のアンチテーゼを書いていただろう。
    現実とは残酷な天使のテーゼであるから。

  • そもそも遺伝子的に「男は女のできそこないである」ということに驚いたし、また納得もしてしまった。

  • なるほど!と思う部分と、⁇理解できない部分があった作品。易しく書いてくれてるとは思うが、根っからの文系人間には難しかった。

  • めちゃ面白いです。
    お話としては、大きく分けて2つ書かれています。
    ひとつは、遺伝子学や分子生物学の中身の話。遺伝子がどのように振舞うのか、ミクロの世界で何が起きたらママのおなかの中で人の形ができあがるのか、何が決め手になって男か女かが決まるのか。という話。
    もうひとつは、それらの画期的な発見をめぐる、分子生物学者たちの命を懸けた壮絶な競争の話。最先端の研究機関に身を置いて彼らの姿を見てきた福岡さんだから書ける、生々しく壮絶な競争の現実。

    面白いのは、これら2つの話を交互に読んでいるうちに、両方がダブって見えてくること。例えば、分子生物学の画期的な発見は、1番最初であることに意味がある。科学雑誌に投稿して受理されるタイミングがほんの数日遅れただけで、2番目の人には全く価値がない。これって、卵子にたどり着いた精子みたいじゃないですか。
    …と、実はこの辺りの構成は(大変面白いのですが、)言ってしまえば、ベストセラー「生物と無生物のあいだ」と同じです。
    この本が「生物~」と違うのは何か。
    それはやはり、テーマでしょう。

    なぜ男は働くのか。
    なぜ男はデリケートなのか。
    …という書き方をするとケンカになりそうですけど、なぜ男は女より平均寿命が短いのか、という点も含めて、すべて遺伝子の仕業であって、分子生物学的に当たり前のことなんだ、という本です。
    男には出来損ないが多い、ということではなくて、「男とは、女の出来損ないのことである」ということです。分子生物学的に。

    村上龍的に「男は使い捨てだ」と言ってしまうと、それは男性的センチメンタリズムに映ってしまったり、自意識過剰でかっこつけてんなとか、酒と泪と男と女とか、そいういうことになってしまいがちなんだけど、分子生物学で遺伝子的にそうだと言われると、なるほど、そうだよね、と。

    福岡さんは本当に、教養のある人だと思います。知識だけだとこうは書けない。違う分野の知識と知識を結びつける力がすごい。比喩の使い方、言葉の選び方、専門知識のかみ砕き方、自分自身の感動を制御しつつ感動のまま伝える技術、どれもすごい。

    僕はこういう人に憧れます。
    こういう「男」になれるなら、出来損ないでも構わないな。

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著者プロフィール

福岡伸一 (ふくおか・しんいち)
生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授。2013年4月よりロックフェラー大学客員教授としてNYに赴任。サントリー学芸賞を受賞し、ベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)ほか、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著書多数。ほかに『できそこないの男たち』(光文社新書)、『生命と食』(岩波ブックレット)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文藝春秋)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『フェルメール 隠された次元』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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