傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学 (光文社新書)
- 光文社 (2009年6月17日発売)


本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
本 ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784334035136
感想・レビュー・書評
-
正義感や使命感をもった素晴らしい医者であり、誠実さが本からも滲み出てくるようだ。著者が主張する、傷の湿潤療法は、傷口を消毒して乾燥させるのではなく、傷口を水道水で洗い流し、湿らせた状態のまま治すものとして、最近では最早市民権を得ている治療法だと思う。お値段高めのキズパワーパッドなども売られている。
本書では、そのメカニズムや実際の治療法や効果を説明するだけでなく、従来の方法からのパラダイムシフトに関しても多くのページを割く。痔や口内、内臓の傷では殺菌消毒ができない。でも、化膿することは稀である。
ー 浅い傷の場合には毛穴(および汗管)から皮膚が再生する。傷が深い場合にはまず肉芽が傷を覆い、その表面に周囲から皮膚が入り込んで再生する。実に単純なものである。そしてこの単純な現象が、なぜ傷を乾かしてはいけないかの理由を導き出す。
ー 消毒薬はどうやって細菌を殺しているのか。
消毒薬にはさまざまな種類があるが、どの消毒薬も破壊のターゲットは、タンパク質である。タンパク質といえば生命体の基本物質だから、それを壊してしまえば当然、その生命体は死ぬ。
消毒薬は人体にもタンパク変性作用し、傷口を傷つけるのだ。
更に、石鹸や消毒薬に含まれる界面活性剤が皮脂を洗い流してしまう。それでも毛穴から皮脂は常に分泌されるから問題はないが、皮脂の分泌を上回る頻度で洗っていれば、皮膚常在菌が生存できない皮膚になってしまう。皮膚には常在菌が必要で、常在菌が皮膚からの細菌侵入を防いでいる。その常在菌の生存に皮脂が必要だ。
また、著者は慎重に、湿潤治療には傷の程度により、向き不向きがあるとも述べる。目から鱗の話が盛りだくさん。まさに、パラダイムシフトを起こす本だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
医学は生物学の中でこそ生きてくる。傷ややけどが驚くほど簡単、きれいに治る方法は人間の体からのメッセージに素直だった著者だからこそ発見できたことなのでしょう。個人的に好きなのは化粧(やシャンプーなど)が皮膚に及ぼす影響のところ。美しくありたいというのはだれしも思うところだから。それからぜひ薄毛とか脱毛についても考察してほしいです。
-
著者は、ヤケドや擦り傷、切り傷の治療法として、従来の医学の常識に反する「消毒せず、乾燥させない」湿潤治療を提唱し、実践している医師。
市販の消毒薬や塗り薬は、傷を悪化させる「治療阻害薬・創傷破壊薬」というのに驚き。半透明の白色ワセリンは無害だが、白や黄色のクリームは傷に塗ってはいけないのだとか。そんなの知らなかった。今度傷ができたら湿潤治療だな!
本書、鼻息の荒い筆致で、中盤は保守的で間違いを正そうとしない医学界を批判、後半は皮膚と常在菌の共生関係、生物進化の過程から見た皮膚の機能解明へと飛躍していく。
手の洗いすぎにも注意したい! -
消毒で何をしているのか。
何が死んでるのか。
考えたこともなく、子供の頃はオキシドールぷらす赤チン。
途中から赤チンは良くないと母がいいだし、オキシドールに。
それが当たり前と思ってきた。
理由も考えずに…怖いなぁ。
いろんな意味で、なんで?って思い直すことの大切さに気付いた。
スキンケアで、肌が弱い私はいろいろ試して今洗いすぎない&塗りたくらないにたどり着いたのだけど、それでよいのだとこの本で確信。
皮膚のなんたるかをもっと知りたいと思う。
この著者の本、他も読む予定。 -
傷の治癒過程やなぜ湿潤治療がいいのかについて分かりやすいのはもちろん、化粧業界のマッチポンプ、医療や科学のパラダイムなど、ここまで書いていいのかなと思うような内容どした。
生物の進化の話で締めくくられているのもいい。お肌の常在菌大事にします。 -
・2009年発行。著者は医者。
・消毒せず乾かさないと傷が治る(外傷の湿潤治療)。キズパワーパッド。白色ワセリンを塗ってラップする。
・傷のじゅくじゅくは最強の治療薬。浸出液(=細胞成長因子)を外に逃さない。
・情報は共有されてこそ価値がある。
・消毒薬はどうやって細菌を殺しているか。破壊のターゲットはタンパク質。人間の細胞膜蛋白も破壊する。
・根拠はないのにその時代の誰もが信じていることをパラダイムという。
・臨床医学はパラダイムだらけ。なぜなら人間の体はブラックボックスだから。
・ひとつのパラダイムから次のパラダイムに置き換わる現象をパラダイムシフトといい、科学の歴史には何度もパラダイムシフトが起きている。
・人間は常在菌なしには生きていけない。人体の全細胞数より腸管の常在菌の数の方が多い。
・皮膚や頭皮から分泌されるもので温水で溶けないものはない。石鹸やシャンプーは不要。
・化粧品は肌を老化させる。ほとんど乳化剤(界面活性剤)が含まれているから。皮膚常在菌に必要な皮脂が分解され続け、その代わりに栄養にならないクリームが覆っている。
・マッチポンプ=マッチで火をつけ火事になってからポンプで消す=裏で問題のタネをまき、問題が大きくなってから収拾を持ちかけて何らかの利を得る。ユーザー側の無知を前提にしている。
・ほとんどの皮膚の痒みは白色ワセリンをすりこむことで軽快する。
・皮膚を乾燥させるもの=クリーム、乳液、石鹸、ハンドクリーム、尿素含有クリーム(=界面活性剤を含んでいるため) -
火傷をして悶絶しながら、なんとかこの痛みから脱したいと思い、この本を手に取った。そういえば、10年以上前に、赤十字の講習を受講した際に、湿潤療法のことを教わった。それがこの著者のサイトだったのだ。サイトは見たが著書は読んだことがなかった。いろいろ納得できたので、最新刊は購入することにした。
火傷の治療、今かかっている医師を否定するわけではないが、あまりに痛すぎるのである。そして患部に残った正常な部位がどんどん爛れてきているではないか。我慢、我慢、忍耐、忍耐、気合いで治すのが熱傷なのか?! -
この本で湿潤情報を知知った。
近年治らなくなっていたかさぶた問題がおかげで軽症化した(^ω^)♪ -
p.54 さまざまな面で発達を続ける現代医学の中で、傷の治療の分野だけが19世紀の治療のままであり、そのことに誰も気がついていなかったのである。
→ ソフトウェア開発でも同じこと言えるかな?
3層WebシステムとかメールとかDNSとかIPv4とかsyslogとか。。。
問題意識があって刷新しようという試みが繰り返されてるけど、破壊的イノベーションまでには至ってないのよね。 -
表題通り、この本を読むと以下に、傷に対して間違った対応をしていたのか分かる。この本に従えば、これまで痛かった傷もすぐに痛みがとれ、かなりひどい傷でも、綺麗に治る。
しかし、この本の価値はそれに留まらず、医学が科学になるヒントが含まれていると思った。生物学や化学の知識をベースに治療が検討されるようになったとき、医学はこれまでの常識を脱ぎ去り、金儲けの技術から、患者を助ける技術に昇華するであろう。
以下注目点
・消毒薬は傷を深くする。接触性皮膚炎や、アナフィラキシーショックの元になる。消毒すればするほど、傷は深くなり、化膿する可能性が高まる。
・傷をなめると痛くなくなるのは、濡らすから。乾かすと痛い。
著者プロフィール
夏井睦の作品





