近頃の若者はなぜダメなのか 携帯世代と「新村社会」 (光文社新書 441)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334035440

作品紹介・あらすじ

今の20代後半以下の世代は、中学生、高校生くらいからケータイを持ち始めた、日本で初めての世代です。イメージしてみてください。自分が中高生のときに、もしも携帯電話や電子メールが存在していたら…。生活は良くなっていたでしょうか?友達との関係はどう変わっていたでしょうか?著者は7年をかけて、10代半ば〜20代後半の若者、約1000人に実際に会って、じっくりと話を聞いてきました。その結果見えてきたのは、現在32歳の私ですら驚くほど劇的に変化した、彼らの生活と人間関係です。近頃の若者はいったいどういう環境にいて、いつも何を考えているのか?本書を読めば、彼らのリアルな姿を肌感覚で理解できるようになるでしょう。

感想・レビュー・書評

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  • かなり面白かったです。

    この本はタイトルのように「今の若者はダメだ」と一方的に否定する内容ではありません。
    携帯の普及による社会への影響の実情を、若者へのインタビュー中心に書かれています。
    世間では「今の若者はダメだ」などと特集などが組まれるほどですが、昔の若者にはできないようなことも今の若者にはできてしまう、なんてことも多くあります。
    ますます携帯社会が広がり続けるであろうこれからの時代を政府やマスメディアも含めた社会がどのような環境づくりをするかによって、自分は携帯社会の利点をどのように活用していけるのかを考えさせられる内容です。

  • タイトルと内容は風向きが異なる
    若い頃からケータイ電話でつながる生活をしている結果、若者の世界は村のようなつながりの多い生活になり、互いに気を使う生活に慣れてきている。
    その功罪として、広いネットワークを生かした活躍をするものもいれば、逆に、既視感のために、広い世界に出ず、地元の仲良し空間に引きこもるものも出てきている、という分析。

  • 社会
    ビジネス

  •  渋谷のセンター街、女子高生が何人か行動に座り込み、めいめいケータイ片手にマスカラ塗にいそしんでいる。あたりの迷惑も顧みず、大声で喋り続ける彼女ら。
     だが、メンバーのうちの一人がしゃべり始めると、ケータイやマスカラをいじる手はそのままに、ほかのメンバーたちは黙って聞いている、と仲間内で高度に「空気を読んだ」コミュニケーションをとっている。
     
     近ごろの若者(10代後半-20代前半)のコミュニケーションの形態は、30代と明らかに違っている。
     コミュニケーション能力が向上しお互いに高度に「空気を読」みあっている。

     彼らの特徴は「ケータイ」依存。PCではなく、ケータイであることがキモだ。
     これはは彼らが「情報取得<人間関係」となっている証左だ。
     そして彼らはケータイを駆使して「広い交友関係」を維持している。
     コミュニティも、SNS,HP,ブログ、(SNS付の)ゲームと、多種にわたり、「友達」の人数は数多く、その親密度にも濃淡がある。だが、この種のコミュニティーには継続性、義務制が生じている。
     さまざまなコミュニティでつながった「新村社会」。
     だが、その中ではいくつかのルールがある。
     いわく、「弱っている人を見てたら励ます」「正しさよりも空気」「愛想笑いを絶やさない」「コンプレックスを隠す」などなど。
     電子世界上に広がった、相互監視社会はあるいみ非常にムラ的な日本の社会ともいえる。
     キャラ立ちをして「プリズンブレイク」をはかるものもいるが、たいていはその不文律に縛られ、委縮するものも多い。

     「半径5キロ」以内で事足りる、あるいは事足らせる生活圏の狭い若者も多い。
     閉塞感を募らせる時代に生まれ落ちた彼らは、新しいことをする活力よりは、将来に対する漠然とした不安感から、保守と諦観に身を固めている。
     専業主婦を口にする女性も多いが多くは、「しんからなりたい」というよりも、上の世代の仕事と家庭の両立の苦汁を疑似体験した結果である。
     そんな彼らのアイドルは「益若つばさ」である。
     成功した芸能人にもかかわらず六本木といったステイタスのある地区ではなく、下町である足立区に住み続け、発言も「いつまで仕事があるかわからない」「金銭感覚を狂わせたくない」など将来に対する漠然とした不安に根差したものが多い。

     一方で、多様なネットワークを生かし、性別、学校、地域、家庭環境に違いを超えて、「つながる」人種も現れてきている。
     彼らは学校内では息苦しさを感じ、ネットワークを通じてしりあった友達とつるんで夜な夜な遊んだりし、オタクとギャルがつるむ例も珍しくなくなってきている。

     ある有名私立高校に通う男子生徒は、地元は偏差値が高くない地域である。だが、彼は上流(学校の友達)との交流で、勉強やバラエティに富んだネットワークに刺激を受けつつも、視野も行動範囲も狭いがピュアで勉強でなくファッションに時間をかける垢抜けた地元(下流)の友達との付き合いもバランスよくこなしている。

     この本も「超ネットワーカー」のひとりである男子大学生の協力も大きかった。彼は企業のオーダーに応じた学生を紹介し、学生も何かあると彼を頼るといった、世代、地域、国を超えてネットワークを使いこなしている。

     以上から見えてくるのは、現代の若者は「ネットワーク格差」にさらされている。
     そこで臆してしまうと狭いネットワークの中に閉じこもることになり、逆に活用できると世代、地域、国を超えて活躍することになる。
     それを可能にしているのは、ケータイを主役とする情報インフラの発達であり、それらはまた「高度に空気を読む」能力を若者に要求する。

  •  博報堂で若者へのインタビュー調査を専門に行なっている著者が、「約7年をかけて47都道府県の若者1000人以上に会って話を聞いた」経験をふまえて綴る若者論である。

     挑発的なタイトルは「釣り」であって、中身を読んでみればむしろ「近頃の若者」への擁護の色のほうが濃い。なのになぜこんな書名にしたのかと、首をかしげる。営業上の理由で編集サイドから押しつけられたのかもしれない。
     好意的な見方をするなら、「近頃の若者はダメだ」と思っているようなオジサンに読ませたいからこそ、あえてこのタイトルを選んだのかもしれない。最初から若者擁護色満々だったら、そういう人は手に取らないだろうし……。
     そもそも、著者は現在32歳だそうだから、私のようなオッサンから見たらまだ若者側に属しているのである。

     新書にはさまざまなスタンスの「若者論」があふれているが、管見の範囲では本書がいちばん面白く、しかも好感のもてる内容だ。
     周囲にいる若者を観察しただけで、葭の随から天井覗くように「いまどきの若者」を論じている類書が多いが、本書は若者のサンプル数が多いだけに、信憑性と説得力がある。

     それに、著者の語り口が好ましい。わかりやすくて面白く、「上から目線」にならず、やわらかいタッチなのに論の運びはきびきびとしている。著者の講演を楽しく聞いているような感じで、あっという間に読み終わる。きっと、著者はすごく話がうまい人だと思う。

     内容は、最近マスコミでよく言われる若者の車離れ・海外旅行離れ・消費離れ、安定志向の高まりなどについて、その背景事情を鮮やかに解き明かしてくれるもの。

     著者は、いまどきの若者たちは前近代の村社会が現代に蘇ったような「新しい村社会」を形成していると指摘する。そして、その「新村社会」の土台となったものこそ、ほぼ全員(高校生では96・5%)がもち、依存しているケータイなのだという。
     いまの20代後半以下の世代は、中学生、もしくは高校生のころからケータイをもち始めた初めての世代であり、その点でコミュニケーションのありようそのものが、それ以前の世代とは決定的に違うのだ、と……。

     「たかがケータイのあるなしで、人間関係のありようがそんなに変わるもんか」と反発を覚える向きもあろう。が、本書に登場する若者たちの姿を見ると、「たしかに、私たちの若いころとは全然違う」と納得せざるを得ないのである。たとえば――。

    《彼らの間では「即レス」はマナーになっていますから、即レスしないのは宣戦布告を意味します。
    (中略)
     特に、メールの送り主が恋人の場合などは、忙しかったり気乗りがしなくても、無視するわけにはいかないようです。
     返信しなかったり、返信が遅れたり、それなのにSNSにログインした形跡があって恋人の日記にコメントしなかったり……こうした理由で喧嘩が勃発することが、彼らの間ではよくあるといいます。》

    《先日取材した女子高生は「介護キャラ」と名乗っていました。学校帰りに毎日おばあちゃんの家に行き、介護を手伝う優しい子なのですが、こう自称されるとなんだか抵抗感を覚えてしまいます。しかし、まわりから「介護キャラ」だと認知されれば、学校帰りにみんなの集いに行かずとも許されるわけです。
    (中略)
     彼らがこれほどまでにキャラを獲得したいと思うのは、それが新村社会で居心地よく生きるためのプリズンブレイクになるからです。
    (中略)
     今の若者は、自分のキャラにキャッチコピーを付けて宣伝する「ひとり広告会社」になることで、このしがらみの多い新村社会というプリズンから脱走しようとしているのです。》

     ほかの著者が書いた「若者論」の一つに『友だち地獄』というのがあったが、友だちの多いいまどきの若者も、それはそれでなかなか大変そうである。 

     ただ、著者のスタンスは、「新村社会」に生きるいまどきの若者を蔑むものでも哀れむものでもない。
     著者は一章を割いて、「新村社会」の現出がもたらしたポジティヴな変化について論じている(地域共同体が崩壊の危機にある現代に、若者たちはケータイを媒介に新たな共同体を築きつつある、と著者は言う)し、また次のようにも述べている。

    《最近、メディアでも学者(特に「ロストジェネレーション」を自称する人たち)でも、今の若年層の時代的な不遇さについて熱弁を振るう人が多くいます。
    (中略)
     どの国であれ、高度成長ステージにおいては、人々の心理がイケイケドンドンになるのは歴史の常です。高度成長期という過去の特殊な日本の状況と、成熟期にある今の日本の状況を比べ、過去を羨み若者に同情することになんの意味があるのでしょう。
    (中略)
     私が若者にインタビューしている実感で言えば、彼らは1990年代以降の日本しか記憶にないので、若者の気持ちを代弁するお節介な大人が思うほど、今の日本を悲観してはいません。》

     著者のこうしたニュートラルな視点に、私は共感を覚える。

     そして、本書の大きな美点は、若者たちがふとつぶやいた一言によって、いまの“時代の気分”が鮮やかな一閃で切り取られていることだ。たとえば――。

    《「相手からメールの返信がこないだけで、嫌われたんじゃないかとか、メアド変更の知らせがきたから、まだ友達と思われているんだとか。ケータイを持つことは、常時ポケットにむき出しの刃物を入れている気分です」》

  • 若者論といえば、的存在になりつつある原田氏の著作。情報病という本で原田氏の存在を知り、チェックしていたので著者名一本買う。

    この本を読んで
    「近頃の若い者はダメだ」
    とは言えないあたりに、著者の皮肉が効いている。

    携帯世代(ケータイネイティブ)と新村社会の関係性。新村社会の性質とそこに中に存在することの意味。
    これらがメインのテーマである。

    実際の若者の言葉から、その関係性が部外者にもおぼろげにつかめるあたりは、力作と言えるのではないか。

    構成としては、まずネガティブな性質を洗い出しつつも、後半はポジティブな可能性と、そこに潜む問題を明らかにしていく。

    はっきりと言えるのは、人間関係の質的な転換がもうすでに起きているということだ。それは若者でなくてもTwitterをやっている人間ならば実感できるだろう。もちろん携帯でつながっている世代とTwitterをやっている世代は重ならない部分が多いかも知れない。しかし、今までの日本社会の人間関係が崩れる変わりに、新しい人間関係が生まれていることは確かだ。

    そこに潜む問題とは、それを有効に活用して個人の力を伸ばしていくような人間と、自分の好みの情報だけ寄り集め、タコツボ化していく人間との格差の問題であろう。

    ネットワークの格差は、旧来の環境による格差とは質的に異なるものだ。お金持ちであるからどう、といった事はあまり関係が無くなってきている。コミュニケーション能力と前向きな意志、そしてネットワークを維持拡大していくための労力を払える人間は、今までの「若者」が手にすることができなかった力を持つことができる。

    そういった世代に向けて私たちがどのようなメッセージを投げかけていくことができるのか。
    「近頃の大人ななぜダメなのか」といった電子書籍が発売されないように、そのメッセージについて真剣に考えてみるべきかも知れない。

  • 若者がダメだとは言っていない。ダメな状況を作り出しているこの社会への一つの警告かもしれないと思う。心ある若者はいつだって苦しい。携帯のない世界があたりまえだった世代から、生まれたときにはすでに携帯があった世代への移行は試行錯誤だ。1000人の若者の話を聞いていることがこの本の強みである。

  • 47都道府県1000人調査から見えてきたのは、つながりすぎた若者のネットワーク社会だった! 劇的に変化した彼らの生活と人間関係を明らかにする。

  •  携帯世代の私も携帯がもたらす村社会感を聞き知っていて、それが面倒臭すぎて当時流行ったHPもMixiもSNSも、リアルな友達に向けては一つもできなかった。
     携帯世代でもそうなのだから、今のスマホ世代はいったいどうなっているのだろう…と思うと、しんどいな。ただ、本書は悪い面ばかりではなく、良い面も書かれているところがいい。当然若者も捨てたものじゃないのだ。

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著者プロフィール

マーケティングアナリスト

「2022年 『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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