- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334035495
作品紹介・あらすじ
地球上に110億!食の神話を支える「家畜の最高傑作」の実力と素顔を公開。
感想・レビュー・書評
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卵用のニワトリは生まれて160日で卵を生み始め、その後は1年に290個、ほぼ毎日のように卵を生む。生き物としては変。700日くらいになると効率が落ちてくるので殺される。肉用のブロイラー(品種名ではないそうだ)は生まれて50日で肉になる。シビアだよなあ。2010年の本書発売時点で、日本人の消費する肉の4割はニワトリで、3億5000羽が飼われているという。
「銀の匙」で経済動物という言葉を覚えた。経済、ビジネスというより社会基盤。生きるインフラだ。ニワトリに生まれなくてよかった。
経済動物としてのニワトリに始まって、生物としてのニワトリ、ニワトリの進化と祖先、品種、闘鶏やペットとしてのニワトリも含めたニワトリ文化論と、ニワトリづくし。胸焼けするくらいのフルコースだ。ニワトリマニア?にはこたえられないだろう。
妙に名文、美文。研究者が美文をものしていけない理由はないし、わかりにくいわけでもないのだが、時として本題よりそっちが気になる。
2017/03/25 -
獣医師で東大教授でもある著者の、ニワトリへの愛がほとばしった一冊。なにはともあれ、著者の熱さがヒシヒシと伝わってきて、ニワトリ?そんなに興味ないけど?という私はタジタジとなる。でも、こういう「好きなものについて(特に専門家が)一生懸命語る」本って好きなんだなあ。
これはニワトリ好きな夫が面白がって読んでいたので、貸してもらった。夫はずいぶん前からずっと常に何羽かの鶏を飼っている。チャボ・烏骨鶏・ボリスブラウン・白色レグホン・アローカナ…、まだあったように思うが忘れた。今は岡崎横斑というやつが四羽いる。世話はほとんど夫がしていて、私は卵をいただくだけだが、たまにじっと眺めたりすることもある。特に懐くわけでもなく(そこが気楽)、愛らしいとは言いがたいけど、生き物って見ていると飽きないものだ。
飼ったりしてない大多数の人にとっても、卵や鶏肉の形でいたって身近な存在であるニワトリ。本書には、専門家ならではの「へぇ~そうだったの!」という事がいろいろ書かれていて楽しい。新書にしてはボリュームがあるので、さほど鶏に興味のない私はちょっと飽きちゃったけど、日頃そんなに本を読まない夫が熱心に読破していたから、ニワトリ好きにはかなり面白いようだ。そういう人がどれくらいいるのか知らないが。
この東大のセンセイ、かなりユニークな方のようで、私はそこに興味津々。著者は、「ニワトリとニワトリを愛する人間」について「答えの出ない研究」を続けていると言い、続いてこう書いている。
「二十一世紀初めの日本社会を雇用不安や低賃金や年間三万人の自殺者で味付けした行革狂いの政治家にとって、答えを出さない学問や答えを出さない大学教員など、真っ先に淘汰すべき対象だろう。だが、残念だが、学者も学問も、資本主義を勝ち負けと拝金でしか受容できない為政者ごときに、滅ぼされはしない」
いい啖呵じゃないかと、溜飲が下がる思いであった。 -
ニワトリについて、ひたすら書かれた本。日本人は平均、年間300個の卵を消費し、2羽分の鶏肉を胃袋に収めている。全世界では、総人口の約2倍=110億羽のニワトリが存在していると言われており、文句なく世界で最も繁栄している鳥類である。
とはいえ、ニワトリの運命はあくまで家禽として人間による寵愛を受けることで成り立っている。セキショクヤケイ(赤色野鶏)という、東南アジアに住む野鳥を8000年前の祖先が飼おうと思わなければ、今我々が目にしているニワトリの姿はないのだ。
卵もロクに生まず、肉も大して多くないセキショクヤケイをどうして私たちの祖先は保護し、改良を加えていったのだろうか。そこには時間通りに鳴くといった性質だったり、自分の縄張りに入ってくる動く者をすべて攻撃する闘争心だったり、突然変異で秀麗な姿形を見せる愛玩性といった要素が複雑に絡み合い、人間にとって他の鳥類とは一線を画す魅力を発揮してきた歴史が存在する。
これらニワトリの進化論を単なる遺伝子の変化だけで追いかけるのは、無味乾燥かつナンセンスな話である。むしろ文化人類学や民俗学、そして自然環境学や生物学といった学際的な研究を進めながらニワトリの魅力を紐解いていった方が、焼き鳥を食べるにも味わい深くなると思うのだ。 -
ためになる。
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割と硬派な内容。ニワトリの起原から目的別の畜産の歴史など、そこそこ厚みの本でありながらさらに内容が凝縮している。
人が家畜を作り出す動機に掲げた「心のエネルギー」論が興味深い。最初から卵や肉のみを求めて家畜化したわけではなく、多種多様なニーズによってアジアの小さな飛ばない鳥が世界中に広まりニワトリになる過程の説明が面白い。 -
新書にしては厚い300ページ近くでニワトリの魅力を語りつくす。現代の卵用鶏・肉用鶏のスペックから,原種であるセキショクヤケイ(赤色野鶏)の話,愛に満ちた品種改良の話まで。
現在の鶏卵や鶏肉生産に使われるニワトリはものすごいハイスペック。卵用の白色レグホンは,生後180日から卵を産み始め,年間280個の卵を産み続ける。そして700日で廃鶏になる運命だ。普通には寿命が15年ほどあるにも関わらず,生後二年に満たずに処分されてしまう。
かなりひどい話ではある。もちろん生産の都合,経済の観点からこのような処遇がされている。産卵の合間に換羽の期間があるのだが,これも照明や給餌のコントロールで,生産者に都合のいい時期にされてしまう。人間の都合でこんなにも改良されてしまうなんて…。
肉用のブロイラーはもっと凄い。何と生後わずか50日で殺されて肉になる。その増体速度は恐るべきものだ。ひよこだったのが2ヶ月足らずで2.5kgの体重まで成長。病気で死ぬ率も小さい。人の手によってここまで早熟で健康なニワトリに品種改良されてきた。その事実には驚嘆せざるを得ない。
そんなニワトリの原種のセキショクヤケイは,インドシナに分布する。人間はこの小さな飼いにくい野鶏から,卵用・肉用・闘鶏用・時告用・愛玩用など様々なニワトリを編み出してきた。その家畜化(家禽化)は先史時代ゆえ,はっきりした事情は不明だが,分子生物学の助けを借りて解明が進んでいる。
しかし,と著者は言う。遺伝子研究一辺倒には不満もあるようだ。ニワトリそのものをつぶさに見る解剖学的手法が,ニワトリ理解には欠かせない。
セキショクヤケイは小さく,卵も年に十個程度しか産まない。こんな鳥を食用にしようと飼育しはじめたのではないだろう。おそらく人間は食用ではなく,闘鶏や鳴き声,すなわちエンターテイナーとして,セキショクヤケイを家畜化してきたのだろう。鶏と人の心が通い合う「心のエネルギー」のなせる業。時代が下って,江戸時代に実に様々な種類の(食用でない)ニワトリが育種されてきたことも傍証になるのかも知れない。
一冊まるごと一貫して筆には熱がこもっていて,著者のニワトリ愛がよくわかる。 鳥インフルエンザにも言及。それは将来確実に犠牲者を出すであろうが,ニワトリと人間の関係はそんなことで断ち切れるものではないとまで言っていた。 -
すごく色々な鶏について面白く書いてあって、良かった
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新書とは思えぬ感動大作。
中途半端な鳥肉・鶏卵好きが興味本位で挑むと小一時間どころか、小一週間はニワトリネタで問い詰められる感じ。
たまたま読了日に焼き鳥食いにいったんだけど涙でた。煙たくて。