「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける (光文社新書 452)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334035563

作品紹介・あらすじ

書いたものに現れる個性は「文体」と呼ばれ、よく知られていますが、読むときにも「読体」というそれぞれの人の個性があります。「文体」と違って目に見える形にならないので気づかれにくいのですが、それぞれの人の性格や背景におうじた読みの偏りは確実に存在します。「読む」技術を向上させるには、無意識のうちに身についた自分自身の読み方の癖の姿を知らなければなりません。本書は、自分なりの読み方、「読体」を対象化し改善する目的を持っています。

感想・レビュー・書評

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  • 第二言語(いわゆる外国語)の習得は、母語である第一言語の習得のさいに構築した言語世界を転移させる形で起こります。
    ですから、第一言語でしっかりした土台をつくっておかないと、せっかく、第二言語を学んでも高度な運用能力は身につきません。
    その日本語の運用能力を高めること、本書で焦点を当てるのは、「読む」という行為です。言語の学習には、「読む」「書く」「聞く」「話す」という四つの技能があるといわれています。
    「読む」ということは、文章に多様な意味を見いだす行為であり、人間の創造力の基盤となる行為である。

    ■読むというプロセス
     ①画像取得活動 文字列を脳内に取り込む活動
     ②文字認識活動 画像として脳内に取り込まれた文字を、文字として認識する活動
     ③意味変換活動 文字列を意味に変換する活動
     ④内容構成活動 脳内の辞書と文法によって意味に変換した文字列を、すでに私たちの頭のなかにある知識やその場の状況と結びつけ、実感をともなうイメージに構成する活動

    ■5つの読む
     ①スキャニング(超速読)表現検索のための読み キーワードを探す
     ②スキミング(速読) 大意把握のための読み
     ③味読(平読)楽しみのための読み
     ④熟読(精読)概念取得のための読み
     ⑤記憶(超精読)内容再生のための読み

    ■速読

    話題ストラテジー:文章を貫く話題が何かを早い段階で見抜き、その話題にかんする知識を利用していこうの理解を迅速かつ適切にする
       内容スキーマー:話題によって活性化するスキーマー
       形式スキーマー:言語形式に関わるスキーマー
     ・あるスキーマ―を「わかった」ら、分かった瞬間から、別のスキーマーを呼び出すことができなくなるので、わからなくなるというジレンマに陥る
     ・速く読みたいから、タイトルや冒頭の文を目に留めて何の話題がどのように展開されるかを簡単にても想像してみる

    取捨選択ストラテジー:速くよむためには、手っ取り早い方法は、読む分量をへらすこと。重要そうなところだけを選んで読む
     ・漢字だけを拾っていけば、文章の内容がだいたいわかる
     ・段落の最初の文に言いたいことがかかれている。
     ・各文の冒頭にある、指示詞や接続詞を重視して、それを軸に文章を読んでいく
     ・文末の「~のだ」「~のである」に注目する

    ■味読

    視覚化ストラテジー:文章を視覚化する、視覚化できない文章もある
    視点のメカニズム
     視座
     注視点
     視野
     視点

    1人称と3人称

    予測ストラテジー:後続文脈の候補を縛ることで理解の侵攻を効率的かつ効果的にする
     関係の予測 深める予測と進める予測
     内容の予測  
    ・文章理解とは、文章を介した書き手と読み手の対話

    文脈ストラテジー:文脈とは文章を理解するさいに使われる書き手と読み手の共有知識
     現場文脈、記憶文脈、言語文脈
     結束性の把握、つながりを理解する
     一貫性の把握、推論や連想によってつながり、まとまりを理解する

    ■精読

    行間ストラテジー
    ・行間をよむとは、書かれていることをヒントにしてかかれてないことを読み手が推論すること
    ・文と文の間に意味のスキマがある場合、橋をかけるような推論を行うこと
    ・精緻化:書かれている情報だけでは十分な理解ができないとき、読み手の頭の中にもっている背景知識を用いて情報を加えることで足りない情報を補填したり、抽象的な内容を具体化したりする推論を行うこと
     理由を考える精緻化と、例を上げる精緻化がある

    解釈ストラテジー:読み手によって異なる内容に到達するのが解釈です。解釈は読み手一人一人の個性によって、文章に新しい価値を付与する創造的な行為です
     比喩、寓話を使う 直喩と隠喩
     自己の専門性、個人的経験、思想的背景を加えてみる
     暗黙の前提を疑う
     抽象的なことばが使われている場合、具体的な言葉を当てはめてみる

    記憶ストラテジー
     読みやすい文章はすっと頭から消えていきます。記憶するために、自動化された理解活動を、非自動化、複線化し、能動的なものにすること。
     理解の速度を落として、脳内に情報を留めやすくすること

     反復読み 構造を組み替えながら試行錯誤しながら読む
     音読 音が理解を深める効果がある、音読すれば、わからないところが、どこだかがわかる
     換言と要約 わからないと、言い換えができない。わからないと要約ができない アウトラインを覚えていれば、その内容を再現できる
     
    目次

    序章 なぜ「読む」技術を鍛えるのか
    第1部 読みの理論
     第1章 「読む」ということ
     第2章 「読む」技術の多様性
    第2部 速読―速く効率的に読む技術
     第3章 話題ストラテジー 知識で理解を加速する力
     第4章 取捨選択ストラテジー 要点を的確に見ぬく力
    第3部 味読―文章世界に自然に入りこむ技術
     第5章 視覚化ストラテジー 映像を鮮明に思い描く力
     第6章 予測ストラテジー 次の展開にドキドキする力
     第7章 文脈ストラテジー 表現を滑らかに紡いで読む力
    第4部 精読―深く多面的に読む技術
     第8章 行間ストラテジー 隠れた意味を読み解く力
     第9章 解釈ストラテジー 文に新たな価値を付与する力
     第10章 記憶ストラテジー 情報を脳内に定着させる力
    主要参考文献
    おわりに

    ISBN:9784334035563
    出版社:光文社
    判型:新書
    ページ数:264ページ
    定価:780円(本体)
    発売日:2010年03月20日第1刷

  • 『「読む」技術』という本を読んでその書評を書くというのは少し身構えるところが出てきてしまう。

    世の中に色々と読書術に関する本はあるが、この本の特徴としては、まず非常に真面目に手を抜かず「読む」技術について語っているところだろう。最初に読むプロセスを分解して「画像取得活動」→「文字認識活動」→「意味変換活動」→「内容構成活動」に分解して説明をしていくところから入るのだが、そこからして他の読書術に関する本とは趣を異にしている。
    けだし、一口に「読む」と言ってもその目的も、そこにかけることができるリソースも様々であり、だからこそまずレベルにわけて「ストラテジー」を考えるべきであるというのが著者の主張である。普通に本を読むときには、そういったことを自覚的に意識をしていないが、うまく読みこなせている場合には適切なストラテジーが適用されているのである。

    著者は「速読」「味読」「精読」に分類し、それぞれを効果的に行うために「読解ストラテジー」が説明される。
    「速読」- 話題ストラテジー、取捨選択ストラテジー
    「味読」- 視覚化ストラテジー、予測ストラテジー、文脈ストラテジー
    「精読」- 行間ストラテジー、解釈ストラテジー、記憶ストラテジー

    こういった読書技法の分類学に関する著者の視点も面白いが、何よりその説明をするために著者が選ぶ文章とその解説がさすがに上手いとうならせる。小林秀雄、夏目漱石、志賀直哉といった重鎮の文章も取り上げられているが、その中での目の付け所はさすがに鋭い。また、朝日新聞の天声人語が何度か例文に挙げられているが、短く限られた文字数の中で非常に練られた文章であることがわかる。シャボン玉についての文章などは、いくつもの趣向が凝らされていて、解説付きで読むととても素敵だ。

    小さいときには、哲学や文学などいわゆる「難しい本」には理解するには越えがたき壁があると感じていた。そこに書かれた文字を読むことはできるのだが、理解するためには何か自分が変わらないといけないのではないかと勝手に思っていたようだ。そういった本にチャレンジしてもいいかなと思えたのは大学生のころだったかと思う。何かが変わったかなと思えるようになったのは、気に入ったフレーズを読みながらノートに書き留めるようになったことからだ。そのときから年々読書の楽しみ方も変わってきたように思う。自分なりに多くの本を手に取って、こうやって読書感想文のようなものを書く準備をしながら読むことによって、著者が言う独自の「読体」(書くときの「文体」に対して)が身についてきているのだと思う。

    日本語を第一言語として使うものとして、面白いのは「実質語は漢字、機能語はひらがな」といった書記方式が成立している特殊な言語であるということである。このために日本語の学習には時間がかかるが、その方式を採用して書かれた文字を読むときには非常に効率的に読むことができているのではないだろうか。本書ではさらりと触れられるだけで、深堀りはされていないが、このことが何か日本人の性質や性能に影響を与えていることはないのだろうかと興味がわく。

    「読む」ことが好きなのでこの本を手に取ったが、まずは楽しめた。
    気が付くと読書術に関する本もたくさん読んでいることに気づいた。
    中身を覚えているかというとちっとも覚えていないのだけれど、本書の著者もそういうものだという言っているので、安心して、次の本を手に取りたい。

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    『本を読む本』(M.J.アドラー)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4061592998
    『読書の技法』(佐藤優)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492044698
    『レバレッジ・リーディング』(本田直之)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492042695
    『フォーカス・リーディング 「1冊10分」のスピードで、10倍の効果を出す いいとこどり読書術』
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4569701620
    『本の読み方 スロー・リーディングの実践』(平野啓一郎)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4569654304
    『難解な本を読む技術』(高田明典)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4334035086
    『実践! 多読術 本は「組み合わせ」で読みこなせ』(成毛眞)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4047102393

  • 「読む」技術についての本はほとんど読んだ事がないので,善し悪しの判断は難しい。

    読書スピードが遅く,読解力も乏しいのが,最近のもっぱらの悩み。それを解決すべく本書を読んだわけだが,特に真新しい事もなければ,裏技もない。どちらかというと,当たり前のことばかり。ただ,どれも普段は意識しないことであるが,確かに本を読むときはそんな感じの脳みそになっている気がするというようなことだ。それを陽に当たる場所にもってこれただけで,本書を読んだ価値はあったと思う。

    本来は,こういうことは学校教育で身に付けるべきことのはず。文章の書き方もそうだけど,日本の国語教育はあまりに才能に頼りすぎている。自由に書けと言われてちゃんとした作文が書ける人ってどれくらいいるのだろう。私は無理だったなあ。

  • 読むことにスキルが必要と思ったことはなかったが、どんな文章も一緒くたに読んでしまってる現状に気づいて、読み方を変えるという方法があるということが自分にはない考え方だった。

  • 読了日 2020/08/29

    kindleの光文社新書のセールの時に買った。
    言語能力の中のうち読む力を、3種にわけて、それぞれの特徴、方法を具体例とともに考えていくもの。
    あとでちゃんと目次とか拾うこと。

  • 文章の読み方について論じた本。

    文章の読み方を、「速読」「精読」「味読」に分け、それぞれに適した読み方を提示している。
    個人的には、「なるほどそうすれば良いのか」という腹落ち感には乏しかったが、読書が能動的な営みであることを教えてくれた点では、学びの多い本だった。
    本書自体が、主体的な読みを要求する印象で、一筋縄では行かなかったけど、きちんと咀嚼できれば役立つ本だと思う。

  • 書かれてある内容は至って当たり前のことばかりなのだが、本書を読んで何故外国語の文章を読むのが母国語に比べて遅いのかがよくわかった。
    1)脳内辞書が貧弱で、情報が歯抜けになって理解が妨げられる。また記憶から呼び出すのに時間がかかるため、読みが遅くなる。
    2)文化的スキーマが乏しいため書き手の意図を理解できない。
    3)文法知識やコロケーションなどの言語スキーマが乏しいため、文法によるチェックが働かず後続の予測ができない。

    そうなると外国語を母国語のように読むには、膨大な量の表現を脳内にインプットして辞書とスキーマを充実させるしかなさそうだ。まあ当たり前か。

  • 読む技術を、本を読んで身に付ける。なんて面白そうな本なんだろう、と言うの購入のきっかけ。サブタイトルの速読の力をつけると言うのも魅力だった。しかし、本書を読了し思うことは、味読・精読の醍醐味だった。読む速度が遅いことを気にしていた自分だったが、決して卑下する必要はなく、方向性は間違っていなかったと感じられた。

  • 普段何気なく読んでいる際に無意識に頭の中で考えていることを上手く言語化して説明していた。当たり前の事から、盲点であったことまである。この本で言うところの速読で読み進めれば良いと思う。

  • 文章の読みかたを、目的におうじて「速読」「精読」「味読」の三つに分類し、それぞれの読みかたを実践するさいのスキルについて解説している本です。

    文章の内容を推測しながら読み進めていくときの「スキーマ」の役割や、とくに小説における視点と文脈の重要性、さらに文章からあらたな意義を読者自身が創発するさいにおこなわれる解釈のありかたなどがとりあげられています。

    日ごろから読書に親しんでいる読者にとっては、本書で紹介されている「技術」の多くは、ふだんから無意識のうちに実践しているものが多いのではないかと思いますが、本書を読むことでそれらの「技術」を読者の一人ひとりが明確に自覚し、読書の目的におうじて実行することで、読書の実を上げることができるのではないかと期待されます。

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著者プロフィール

横浜市出身。1993年一橋大学社会学部卒業。1999年早稲田大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。国立国語研究所教授。一橋大学大学院言語社会研究科連携教授。著書に、『「接続詞」の技術』(実務教育出版)、『段落論』(光文社新書)、『よくわかる文章表現の技術』Ⅰ~Ⅴ(明治書院)など多数。明治書院教科書編集委員。

「2021年 『よくわかる文章表現の技術 Ⅳ 発想編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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