希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 (光文社新書)
- 光文社 (2010年8月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334035785
作品紹介・あらすじ
最近、「コミュニティ」や「居場所」は、若者や生きづらさを抱えた人を救う万能薬のように語られることが多い。しかし、それは本当なのか。本書は、「世界平和」や「夢」をかかげたクルーズ船・ピースボートに乗り込んだ東大の院生による、社会学的調査・分析の報告である。なんらかの夢や希望をもって乗り込んだはずの船内で、繰り広げられる驚きの光景。それは、日本社会のある部分を誇張した縮図であった。希望がないようでいて、実は「夢をあきらめさせてくれない」社会で、最後には「若者に夢をあきらめさせろ!」とまで言うようになった著者は、何を見、何を感じたのか。若者の「貧しさ」と「寂しさ」への処方箋としてもちあげられる「承認の共同体」の可能性と限界を探っていく。
感想・レビュー・書評
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NEWSWEBやニッポンのジレンマでおなじみ古市憲寿さんのデビュー作。#life954 の影響を随所に感じる(鈴木謙介さんの『カーニヴァル化する社会』とか速水健朗さんの『自分探しが止まらない』とか)。
要旨は
ピースボートってよく名前聞くから実際に行ってみたよ
↓
意識高いことを簡単にやった気になれる仕組みが整ってるよ
↓
しかも友達作ってお手軽に承認欲求を満たせるよ
↓
無理に頑張るより、こういう風にまったりできるほうが若者にはいいんじゃない?
(しかも、「がんばるリーダーとまったり楽しめる一般メンバー」という風に分ければプロジェクトとか成功しやすいし)
といったとこか。
「現実的に社会を動かすことをしたい」と考えている俺にとって、ピースボート的な自己啓発によくある「社会的なこと言うけど実際は仲間内でまったりしてるだけ」という環境を知ることは参考になったと思う。
「こうならないように気をつけなきゃいけない」と思いつつ、262ページのファシリテーターのくだりにあるように、自己啓発とか承認欲求を満たせる仕組みといったものも使いようによっては社会を動かす原動力になりうる、とも感じた。
Charlie的に言うと「希望の話をしてる」し、そーいう希望を持って具体的に何かしていきたい、と思わせる一冊だった。 -
ピースボートにはもともと興味があって、古市憲寿の本も読んでみたかったので読んでみた。
ピースボートに関しては船での世界一周には憧れるが、若者が騒がしくしているのかと思うと二の足を踏まずにはいられない。
認知度も高くなってきているのだから、船内でのイベントをあまり開催しないタイプのツアーも企画すればそれなりの需要があると思う。
著者に希望難民と名付けられた日本の若者にはコミュニティが必要だ。
けれど、そのコミュニティに属しているからといって夢や目標をあきらめる必要はないはずだ。
船に乗りたければ乗ればいいし、一人で世界を見たいのなら一人で見て回ればいい。
現状を変えたければ変えればいいし、現状のまま暮らしたければ暮らせばいい。
少し硬い内容が多いが、ピースボート内の様子が分かり、著者の辛口な面白さもあって楽しめた。 -
「へー、ピースボートってそうだったんだー」と思うと同時に「自分に不都合な事実は隠ぺいする体質もあるんだなー」と思ったり。
で、この本の大事なキーワードとして、若者の夢や希望からの「あきらめ」としての「居場所」の存在が必要なのかな?と、思わされてしまう本書の展開に騙されたような気分の自分がいるわけで。
古市憲寿の文体が好きならば、十分楽しめる本だと思います。私は楽しませてもらいました。 -
面白かった 目的を達成するための共同体が、いつの間にか目的を冷却するものになっている。
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「ピースボート、世界一周の旅」どんな人でも
街中や居酒屋で一度はこの広告を目にし、
「一度くらい?ちょっと行ってみてもいいかも!?」と
思ったのではないでしょうか。
実はというか当たり前ですが、僕もその一人です。
著者は今テレビとかでも結構有名になった社会学者?的な人。
(すみません、ちゃんと理解してないので、
自分で調べて下さい。)
どうも著者は今の若者たちが
どんなことを感じて行動しているのかに
興味があるらしく、自らピースボートに乗り込み
取材を行います。元々は東大の修士論文であったのを、
万人が読めるようにフランクな文体にして書き直したものです。
もとが論文なだけあって、ピースボートに乗り込む人たちを
4象限に分けて考察してみたりと
なかなか面白い分析をされています。
さて、実際のピースボートの中身なのですが、
僕はこの本を読んでピースボートに乗り込む必要性が
全くないように感じてしまいました。
もちろん、著者だけの意見を鵜呑みにすることは、
危険なのですが、乗り込む大多数の若者たちの
生態を見ていると、どうも自分で決められない、
計画を立てられない、そんな若者が多いように感じられました。
だから、ピースボートの箱に真の中で、ルールに沿って
世界一周旅行を楽しむのでしょう。
そんなの世界一周じゃない…、という人は他にもいるはず。。
そういう人は、やはり自分でアレンジして、
悩んで妥協しながらも、何とか工夫して、
旅を計画したいものです。
一方、そういうことが全くできない人が
最初のファーストステップとして、
ピースボートを利用するのはそれはそれでアリかと思います。
何れにせよ、100日近くの時間を使うことになるので、
乗る前にちゃんとリサーチして(この本だけに限らず)、
ピースボートに乗るべきでしょう。
(まぁ、そういうことができる人は乗る必要ないのかも…。)
ややアンチ・ピースボート的な文章になってしまいましたが、
別にピースボートがダメな訳ではないので、
誤解のないようにお願いします。
(人それぞれということです。) -
ピースボートでの長期共同旅行を通じて、著者が乗船客を対象に行ったフィールドワークから、若者の共同性と目的性について論じた一冊。
前半はピースボートの説明に終始しているので、
何が言いたいんだこの本は?という感じになるのですが、
後半にかけてたたみかける若者観察の考察結果が鮮やか。
若者にとってコミュニティは目的性を必ずしも帯びていない、
むしろ過度な目的性に対する冷却装置であるという点は、
とっても分かる。その感覚。
その他、リアリティのあるフィールドワークの記録が、
貴重なデータとして使えます。
ただ、著者はやっぱりちょっと、なんというか、
ひねくれてますよね、文体とか読んでると笑
そこがまた、観察者としてはいいスタンスなのかもしれないけど。