風評被害 そのメカニズムを考える (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334036249

作品紹介・あらすじ

ウルリヒ・ベックというドイツの社会学者は『危険社会』という本で、富の分配が重要な課題であった産業社会の段階を超えて、科学技術によって作られる「危険」の分配が重要な課題となったと論じた。生命の危険を誰が負担するかという話である。それは必ずしも、物理的な危険性の話ではなく、経済的な危険も含んでいる。日本はそのリスクの負担を究極までに避けてきた。絶対の「安全」を追求していけば、少しでも危険といわれたものは避けようとする。根拠がなく、ある食品や商品、地域や日本ブランドそのものが「安全でない」と見なされて、経済的被害を引き起こす。それが「風評被害」である。

感想・レビュー・書評

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  • 軽い本かと思ったが専門の研究者によるまとめ。総論的であまり新しい知識はなかったが、「むつ」の事件は勉強になった。よい本だと思います。

  • 「風評被害」の定義、さらにその嚆矢といえる事例の紹介から、これが起きるメカニズムの分析までが本書のフォーカス。情報過多社会において、マスメディアの報道や政府・学識者の発信がどのようにして人々に影響をもたらしてきたのか、簡潔に示されている。「風評被害」をめぐる論点についてざっと理解をすることができた(とりわけ流通に関心を持った)。

  • 東日本大震災の記憶も生々しい2011年5月に書かれた本。過去の風評被害や、その言葉が使われ始めた事例などを紹介。「人間が不安を感じる生き物である以上、風評被害は無くならない」という前提の下、冷静に過去の事例を分析している。

    メディアや通信が発達しても風評が広がる手段とスピードが変化するだけで、人々の不安(分からないこと、に対する)からそのパターンは昔も今も変わらないことがよく分かる。観光地や食べ物に対する根拠のない不安も、結局「代替えがある」ために他へ移ってしまう。そして「事実かどうかより、人々が不安を感じればそうした行動に走るのは自然なこと」という言葉が何回も出てくる。

    世間の誤った風評を広げないために政治やマスメディアが果たす責任は大きいとしながらも、一般市民は冷静に、時には自分の目で事実を確認することで自分なりの判断をすることが肝要であると説いている。

    やはり、物事は多面的に、一歩引いたところで見る習慣を身に付けておきたい。

    金融機関の取り付け騒ぎに繋がった風評の発生源を突き止めた過去の事例が紹介されている。ひとつは1973年の、女子高生によるふとした会話が発端。もうひとつは2003年にとある女性が知人に流したメールがチェーンメール化したもの。現在の情報量では、情報源の特定は不可能に近いのでは、と思えた。情報量の飛躍も、考えものだ。

  • 東日本大震災が起きた直後の5月に出版されているが、震災の話はむしろ少なく、日本における「風評被害」の歴史を丁寧に綴っていて、読みやすい。
    風評被害とは「ある社会問題が報道されることによって、本来「安全」とされるものを人々が危険視し、消費、観光、取引をやめることなどによって引き起こされる経済的被害のこと」。
    いくつか論点があって、情報過多社会における「報道」による影響や、うわさとは違うという話があるが、興味深いのは「本来「安全」とされるもの」の部分が、主体によって曖昧になるということ。これは私も前から思っていて、本当にリスクがあるから経済活動を忌避する場合それは「風評被害」ではないのではないかと感じていたので、ある程度当たっていたのかなと思う。同じ事象でも、ある主体から見れば「リスクがある」と感じ、他の主体から見れば「リスクはなく風評」ということになる。放射線関係でよく「風評」と言われるのは、科学的にけっこう確からしい「安全」が確保されるから、ということも納得。公害だとリスクがはっきりしないので、風評と断定しづらいらしい。なるほど。

  • 105円購入2013-11-22

  • 【メモ】
    テレビには抽象的な内容でも映像で伝えるためのパッケージがあり、これを集めるために取材(タイプキャスティング)
    ・殺人事件の記号:
      事件が起きたこと:イエローテープ、ブルーシート、捜査シーン、警察官、逮捕シーン等
      犯人探し:記者会見、事件の再現、字嫌悪再現、時系列表、犯人や被害者の生い立ち
      悲惨さを伝える:被害者の写真、葬式、遺影、顕花
      犯人や被害者のことを伝える:近隣の人、卒業文集等
      事件の分析:専門家のコメント
    ・地震の記号:
      地震がおきたこと:揺れるオフィス、監視カメラ等
      被害の実態:壊れた家等、瓦礫、被災者(困っている老人や子供、行政の担当者に詰め寄る被災者)、避難所前からの中継、災害多作本部前からの中継
      救助の様子:自衛隊、救助の様子、ヘリコプターの映像、

    タイプキャスティングを用いた情報操作:あるある大辞典

    ***
    視聴者の情報ニーズとマスコミの報道パッケージにミスマッチが生じている?
    ・大丈夫だった情報
    ・取材先ピンポイントではない、統計的情報、広域情報、情報のありか情報

  • 定義すら難しい風評被害について、まとめられている。風評被害という言葉はよく聞くけど、それが何なのかは、なかなか掘り下げられていない中、分かりやすく説明されている。

  • ○過去の風評被害の事例を紹介しながら、そのメカニズムや解決策などについて解説した作品。
    ○過去の事例の整理としては面白いが、あまり独自性を感じない印象。

  • 風評被害は疑心暗鬼の連鎖。

    言いえて妙だと思う。

    東日本大震災後2か月後のわりには、風評被害について軽くふれて出版ということは評価できるが、続編というか、現在の状況について筆者がどうとらえているかを知りたい。


    今から40年前の豊川信用金庫の取り付け騒ぎの写真が掲載されていたのだが、このときの状況の写真を初めて見たのは印象に残った。

  • よく、耳にする「風評被害」この言葉の定義を知っていますか?
    風評被害という語句は、国語辞典などにはなく、現代用語の基礎知識、イミダス、知恵蔵などに代表される現代用語辞典の中にとりあげられており、学術的用語でも公的に定義された用語でもない。つまりマスコミ用語である。よって、この言葉がコンセンサスのないまま社会に定着している(本著より引用)
    では、その風評被害はどのようにして起こるのか?第五福龍丸事件から福島第一原発事故までの間に起きた様々な事件を通して。風評被害がどのように起きてきたかを書いている。そこには、我々の絶対神話とゼロリスクを他者に求める心理・行動と、マスコミによるキャスティングされたストーリーとサブリミナル効果により、情報は増長され風評が作られていくのである。では、各個人が科学リテラシーをもてばいいかと言えば、必ずそうとも限らず、食品などの場合は、流通過程やそこに介在する組織などの要素により発生する可能性があるからである。
    絶対安全はない、何ごとも社会全体のリスクとベネフィットで判断されている。よって我々もその判断された結果をどこまでなら許容できるのか考えなければならない。。さらに「うわさは智者でとまる」という言葉のとおり、うわさと風評とは違うが、ひとりがひとりが智者となり、上記に書いたように、安全やリスク回避を他者に依存することなく、自分自身で判断しなければならない。それこそが、少し前から言われているレッセフェール・自己責任であり、それのないところに、真のグローバル化はない。

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著者プロフィール

東京大学准教授

「2022年 『広報・PR論〔改訂版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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