「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」 男45歳・不妊治療はじめました (光文社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334036904

作品紹介・あらすじ

2019年10月、松重豊さん、北川景子さんの共演で実写映画化決定!

「子どもを作るなんていう人生」(=安定!?)とは相反する「冒険的人生」を送ってきた鬼才・ヒキタクニオが、45歳を過ぎて思い立った子作り。しかしなかなか子はできず、やがてヒキタ自身の精子の運動率が20%だったと判明。そこから長い長い「懐妊トレーニング」の日々が始まった…。初めて知った男の不妊治療への素朴な疑問や違和感。同じように苦労する仲間の多さに気づいた著者は、その思いを周囲に公言し巻き込んでいくことで、周囲の人間の思いや行動も変えていく。さらに、女性の受ける身心の痛みにも気づき、夫婦間により強い絆が生まれていく…。5年弱の「懐トレ」の末、数々の困難を乗りこえて、ようやく我が子を腕に抱くまでを描きながら、男性不妊について学べる、ドキュメント。

感想・レビュー・書評

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  • ヒキタクニオというと、絵を描く人だと思っていたら、いつの間にか小説なども書いているそうだ(全然知らんかった)。この『「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」』は、『精子提供』や『生殖技術』とあわせて書評欄にとりあげられていたのを読んで、ちょっと読んでみたいなと思い、予約して待っていた。その書評では、妻の身体には何の支障もないのに不妊治療で負担がかかるのは妻ばかりだということがヒキタさんの本を引いて書かれていたと記憶する。

    不妊の話は、その原因が探られるにしろ、対処に取り組むにせよ、女のほうの苦労がずいぶん大きいせいか、出ている本も、女性の話が多い。だから、『ジャムの空壜』みたいな話は、私には珍しく思えたし、ヒキタさんがどんなことを書いているのかも読んでみたかった。

    ヒキタさん45歳、妻は10歳年下だという(40代になって初めての子ですという男性には、こういう妻がひとまわりくらい年下というパターンがけっこうある気がする)。

    ▼子どもがそんなに欲しければ、もらってくればいいじゃん、なんてことを簡単に言う人間もいる。私だって以前はそうだった。しかし、不妊治療を始めてみて、子どもが好き、子どもが欲しい、というのとは、ちょっとちがうのだ、と思った。
     自分には生殖機能があるのかどうか、そこを見極めたい、という欲求があるのでは、と感じた。
     私の場合にかぎっての話だが、子どものいる私の家庭など想像できない、それが幸せなのかどうかなどまったくわからない。それでもがんばるしかないというのは、人間が持っている生殖への本能があるからではないか、と思う。不妊治療をしている人間にとって、子どもを持つ幸せなどわかるはずもない目標なのである。(pp.132-133)

    「生殖機能があるのかどうか、そこを見極めたい」という欲求は、"妊娠の機能があるのだから使ってみたい"と思うとか、"妊娠可能な年齢のタイムリミットに焦る"とかいうのと、もしかしたら似ているのだろうか、と思った。が、単に、あれこれと考える時間が長くなった末に頭に浮かんでくることのような気もした。避妊に懸命に取り組んでいるときには、自分の生殖機能は当然の前提だろうから。

    タイミング法に取り組むも成果がなく、人工的な授精に取り組むヒキタさんと妻は、ついには顕微受精にふみきる。妻の身体には異常がないというのに、自分と妻との身体的負担の差が大きすぎるとヒキタさんは思う。

    ▼妻は不妊治療を始めるにあたっての妊娠できるかの検査で、異常なしという結果をもらっている。問題がないのである。
     すべての不妊の原因は、私の駄目金玉ということだ。しかし、妻は手術台に乗せられている。不妊治療とはいうが、妻に治療する場所などない。それが申し訳なくてたまらなかった。…
     身体的負担の割合はちがいすぎる。元来、妊娠出産というものは、女性側に大きな負担があるのだが、不妊治療の場合でも同じような割合になる。(p.173)

    2度目の顕微授精で、妻の妊娠がわかる。そこからの話は、出生前診断をどうするかと迷うところがあって、「そんなものは受けなくていい」と中畝常雄さんは言ったんよなあと思いながら読んだ。

    4ヶ月の妊婦健診に出かけたヒキタさんの妻が、胎児の頭に空洞があると言われたと帰ってきた。それは、染色体異常の徴候かもしれない、という推測を前に、妻からの伝え聞きでははっきりしないところを医者に確かめようと1週間後の診察予約をとるが、そのあいだヒキタさんは悶々とする。羊水検査を受けるのかどうかを考えたことも書いてある。

    「羊水や羊水中の胎児の細胞を使って、染色体や遺伝子に異常がないかを調べる。羊水検査は、染色体異常の子どもが産まれる危険を回避できる。」(p.203)という言葉を読むと、産まれる危険て何??という思いになる。

    そして、ヒキタさんの妻の、このころの日記。両親の異様な心配もあって夫と再度説明を聞き、夫のヒキタさんは安心し、しかし知人H氏からの心配のメールがまたやってくる。
    ▼【…いまさら羊水検査を受けるのか? 先生と夫は受けなくていいんじゃないかという意見。私はまたぐるぐると不安や様々な考えで頭がいっぱい。しかし二つ返事で羊水検査を受けたいと思えない。なぜか? もうギリギリな時期だしもう産もうと思っているからかなあ。よくわからない。考えたくない。育てるのは夫と私だから夫を信じることが一番シンプルなのかも?…】(pp.211-212)

    「二つ返事で羊水検査を受けたいと思えない」という妻のこころ。検査という技術があることで、やっぱり「調べて、どうするん?」という状況に置かれるんかなあと思う。

    「不妊治療」というのは、不妊が病気扱いになって、それを治すという発想の言葉なんやなーと、あらためて思った。そして、どこまでやるのか、いつまでやるのか、どこかで引くのか、突っ込んでいくのか、そこの踏ん切りが大変やなあと思った。言葉と発想は病気扱いのくせに、健康保険がきかないところもあって、治療にはけっこうなお金がかかる。心身のきつさだけでなく、お金の面で区切りをつける人も少なくないらしい。

    読んでいる途中で、たぶん心身の負担の大きさもあるのだろうが、ヒキタさんはこのままやるぞー!と意欲的な一方で、妻がそれにひきずられているような印象を受けるところがあった。なんで子どもがほしいのか、「できちゃった」というのとは違って、そういうとこらへんを考える時間があるだけに、「つくろう」という場面で夫と妻のあいだのキモチのすりあわせができへんかったら、あとあと響くやろうなーと思った。

    笑ったのは、区のパパママ学級なるものにヒキタさんと妻が参加してみたときの話。参加者の中で、ヒキタさんは「ぶっちぎりの年寄り」だった。ほかのお父さんは20~30代、総じて優しそうでおとなしそうだった、そうだ。

    講習のほとんどは、妊娠している妻を夫はどのように優しく扱わなければならないか、という保健師の話で、なにかというと「離婚危険値が高くなります!」とフリップを掲げるようなものだったらしい。夫が食事の後片付けをしないと「離婚危険値が高くなります!」、夫が掃除をやらないと「離婚危険値が高くなります!」、妊娠中に夫の実家へ帰ることを強制すると「離婚危険値が高くなります!」…という具合に。

    ヒキタさんは、なんでこんなに夫を責めたてるのだろうと感じた。講義のあとに一人ずつ感想を述べる段になって、「いろいろ聞いていて、妊婦さんと一緒にいる旦那ってのは、責められ続けるんだなあ、と感じました」と発言したヒキタさんに、保健師さんは「せめているわけではないんですよ」と言った。ヒキタさんは、えええ? 責めまくりじゃん! と思った、と。

    (3/16了)

  • 男性の不妊治療の話。

    最初と最後が語り口調なのに対して、中盤の辛い、追い込まれてる時期はかたい感じ。

    「困ってるひと」の次に読んだからか、お医者さんの失言ってデカいなーと思う。成功しないものに金使わせてるのかと思っても仕方ない気がする。

    しかし前にコミックエッセイの「びっくり妊娠、なんとか出産」を読んでいたので、パパママ学級のヒキタさんの意見には同意しかねる…
    パパママ学級にくる時点でいくぶん協力的なのかも? とは思うけど、世間のいろんなパパを見ているだけに言っておかねば! と思う助産師さんの気持ちもわかる。外で見るのと家庭内でも違いがあるかもしれないし。

    あと帝王切開について拒否反応? があるのも。母体の状況によるって言ってたけど、「びっくり〜」の場合は逆子、帝王切開で開けてみたらへその緒が結び目になってて下から産んだら危なかったという例もあるし、ほんとに母体のこと考えてたのかちょっと不思議な感じ…(それとも、予定日が遅れてるだけで全然母子ともに健康な状況だったのか)

    ともかく、空ちゃんが生まれて、幸せを分けてもらったような気分になった。

  • 自分に不妊の原因がある夫が記した不妊治療記。
    タイミング療法から人工授精、顕微授精とフルコースの治療から、出産に至るまで。
    治療に至るまでのあれこれから、傷ついたことやくよくよしたことなど、ざっくばらんに書かれている。
    結果としては喜ばしいものの、治療は5年に及び一度流産も経験している。
    妊娠中にも色々な問題が。

    男性側から書かれているからか本人のキャラクタなのか、情緒的な部分はなく、駆け足で進んでいく感じ。
    子供が出来ないなあ、と悩んでいる人が読むのにちょうどいい気がする。

    ただ少し上から目線な印象を受け、みんなあなたみたいに強くないんじゃないって言いたくなった。
    奥さんの日記がたまに抜粋されて掲載されるけど、そちらのほうがしんみりくる。
    夫にやる気がないのは論外だけどガツガツ来られても辛いんじゃなかろうかと想像し、できれば奥さん側から捉えた治療記も読んでみたいなと思った。

    不妊治療について最近耳にする機会が増えた気がする。
    正直、年取ったらそりゃ子供出来にくいだろうと感覚として思っていたので、30後半になって焦る人は思慮が足りないのではないかと感じるけれど、まあこればかりはタイミングだから仕方ないのか。
    本当に、子供が欲しいという本能はすさまじいと感じる。
    私は子供が欲しいと思ったことがないのでその執念を見るたびにちょっとびっくりしてしまい、そして高度生殖治療について色々と倫理的な問題は感じるものの、
    結局、そうまでして欲しいなら全力を尽くしてがんばって欲しいなあと思っている。

    デリケートな問題だからどんな書き方をしても傷つく人や怒る人はいるだろう。
    この本はヒキタさんらしいなあ、という印象の一冊だった。

  • 219/04/15

  • 男性目線からの不妊治療奮闘記。
    さすが男性、理路整然と淡々と書いてある。
    不妊治療の結果が不成功でも、授かった子供が健常でなくても、後味悪いだろうな…と思うと、踏み切れない自分がいる。自己愛が強いのかな?
    自分が生殖する能力があるか試したいという感じはなんとなく分かる。でも、期間限定じゃないんだよね。子供の一生をずっと背負わなきゃいけないの。ギャンブルみたいだ。

  • 2019.10.25


    男性不妊、そしてタイミング法と人工授精
    顕微鏡受精に挑んだ夫婦の話。
    失敗続きで不安ばかり、溶けていく200万円
    それでも諦めずに頑張った。
    いま、このリアルな記録は大変力になるもので。
    読めてよかった、映画も見なくては
    そして、男性こそ読んでみてほしい。

  • 星野源さん→仲良しな松重豊さん→そういえば最近映画主演されてたな、原作あるんだよな→図書館で検索→いきつけ図書館にあったー!

    ということで、文庫ではなく新書の方を読みました。
    序章は文章語尾に「~ねえ。」とつくものがちょこちょこあり、そこが引っかかって読みにくさを感じました。
    「語尾って、実はかなり重要だったのね…」
    としみじみ実感させていただきました。

    しかし本編は一転。
    「~ねえ。」なる語尾はなりを潜め、読み進めることができました。

    著者ご夫婦は5年におよぶ不妊治療を経て、こどもを授かります。
    5年の夫婦模様、オトコとして夫としての気持ち、不妊治療への考え…本編を読み始めたら止まらなくなりました。

    特に印象に残ったことは2つあります。
    まず1つ目。

    「自分には生殖機能があるかどうか、そこを見極めたい、という欲求があるのでは、と感じた」(132ページより引用)

    人間も、いってみれば“動物”であります。
    赤ちゃんがほしい、という思いは本当でも、その裏に、自分自身ですら自覚のできないレベルで“次の世代の命を残せる力が自分にあるかどうか、知りたい”という本能が隠されているのては?という指摘に、なんだか頷いてしまうのです。
    こういう本能があるから、だからまわりの人も悪気なく「赤ちゃんまだなの?」と聞いてしまうのかもしれない…
    つまり、質問した人も本当に自覚がなく、でも奥底にある本能が命を残す力はあるの?と聞け!と言っているから「赤ちゃんは?」とおもわず聞いてしまうのかもしれない…
    なぜあんなにも「赤ちゃんは?」と聞かれるのかの謎が、著者の考えを読むことで腑に落ちました。

    印象に残ったこと2つ目。
    「とにかく、驚くほど不妊治療をやっている夫婦が身近にいることを知る。」(133ページより引用)

    これに似た感覚を、交通事故でむちうちになったときと、うつ病になったときに、感じました。
    むちうちのときは首にカラーをまいているので、仕事をしていると特にびっくりするほど話しかけられました。
    しかも話しかけてきた人はだいたいか自分も交通事故で怪我した人か、家族に同じような方がいる人でした。
    うつになったことは、ごく一部の人にしか話していませんが、それでも「実は自分の家族もうつでね…」ということがあり、びっくりしたのを覚えています。
    私以外はみんなうまくいっているように見えていましたが、実はそれは“私”がそう思っていてだけなんだな、と思いました。

  • 3.5 生命誕生の不思議を語る話。悲壮感のないのがいいね。子どもがいない人生もありだと思うけど。映画化されたね。

  • 女性よりもっと 治療について
    男性同士で語り合うことが少ないと思うので
    例え本のなかの体験でも
    ヒキタさんの味わった戸惑い 辛さ 困惑を
    共有できれば 心が軽くなる男性も
    多いと思います
    自分だけじゃなかった って大事ですよね

  • 実写映画公開決定!10月、松重豊さん北川景子さんが共演
    松重豊さんと北川景子さんが夫婦に!妊活を始めた作家ヒキタクニオさんの
    エッセイが映画化!

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著者プロフィール

ヒキタ クニオ
1961年、福岡県福岡市生まれのイラストレーター、クリエーター、作家。1986年、九州産業大学芸術学部デザイン科卒業。大学在学中に日本グラフィック展で奨励賞受賞。1988年、JACA日本イラストレーション展銀賞。1998年にCD-ROMで、ブラウン管で読む小説「ブラノベ」『ブラノベ人生画報』を発表以降、作家業を営む。作家代表作に、2006年に第8回大藪春彦賞を受賞した『遠くて浅い海』。ほかの作品に映画化された『凶気の桜』『鳶がクルリと』、『触法少女』など。2019年10月に、『「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」―男45歳・不妊治療はじめました』 が実写映画化される。

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