日本の難題をかたづけよう 経済、政治、教育、社会保障、エネルギー (光文社新書 590)

制作 : 荻上 チキ  SYNODOS 
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334036935

作品紹介・あらすじ

非難やあら探し、足の引っ張り合いはもういい。ポジティブで前向きな改善策を話し合おう-。経済、政治、教育、社会保障、エネルギー各分野の気鋭の研究者、当事者が、日本再生のための具体的な戦術、政策を提案する。

感想・レビュー・書評

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  • 学究の先端という事ではないが、アカデミックな講義を分かりやすく解説する内容。複数の講師の中では、最も安田洋祐氏のプレゼンが読みたくて手に取ったが、期待通りの内容。

    同氏のセミナーでは、マーケットデザインが解説される。マーケットデザインの実例としての「周波数帯オークション」「研修医マッチング」「腎臓交換メカニズム」「学校選択制」など、事例を示しながら、社会システムや市場を設計・修正する機能を持つマーケットデザインの可能性を素人にも分かるように解説する。

    読み続けると、時々グッと難しく感じる瞬間があるが、まるで「痛みを感じたら言ってね」と事前に声がけする歯医者のように、これから難しくなるからねと、行き届いた進行。で、ゲーム理論から一気にマスキンの定理に入る。マスキンの定理は、恐らく安田洋祐から聞かないと理解できなかっただろう。

    定式化されたゲームのナッシュ均衡が社会目標と一致する時に、「ナッシュ遂行される、ナッシュ遂行可能」と表現する。ナッシュ均衡の説明も、分かりやすい。そこから、ソロモン王の知恵についての例話により、本当の母親が見抜けられるか否かに挑戦する。結果、偽の母親の戦略的行動を取れば、真偽不明に陥るジレンマがあるため、不可能という結論。不可能である事の証明コストを減じたのが、ノーベル賞受賞者であるマスキン。

    正しい母親を見抜くためには「マスキン単調性」を満たす必要がある。これを満たさねば、社会目標は理論的に達成できない。「マスキン単調性」とは。流石に難易度が上がるが、理解できない程ではない。

    他にも選挙問題点をデータで可視化するセミナー、社会学における引き篭もり問題など、一つ一つが広がり過ぎず、浅くならない範囲。非常にためになる良書。

  • 自分が当事者として問題を解決に充てられない分野の問題に触れることができます。その分野における挑戦者の方々の問題への取り組みを垣間見ることができて勉強しなり、刺激になりました。様々な問題を解決していく立場に立ちうる塾生を輩出していきたいと思います。
    妙にいつも荻上チキさんの分析力と発言力には納得させられてしまいます。また視点の鋭さは、見習いたいし、うらやましくも思います。
    特に印象に残った3つ。一つは、「経路依存性」。なぜ、PCのキーボードの配列は、QWERTY型なのか。これは、ゲーム理論の経路依存性からくるという紹介。次に「メカニズムデザイン」をメッセージから結果への関数とキャッチーしている件は、惚れ惚れしました。3つめは、ひきこもりを社会学から評価していた点。そのほか、ナッシュ均衡やマスキン単調性、環境エネルギー、社会モデルなど一冊にして今日本が抱える代表的な問題をあらゆる視点から評価、検証の結果を学べる本です。

  •  日本の難題を片付けるための手法の入門編といった位置づけの本だろう。「SYNODOS」編集長の荻上チキさんが編者で若手の研究者らが、実践的な「片付ける」手がかりをかみ砕いて解説する。「こうすればいい」と声高に言わず「こういうやり方もある」と呼びかけるのは、荻上さんが常々訴える「こうしたほうが良いのでは」といったポジティブな提案を積み重ねる―「ポジ出し」の考えからかな。
     前半の3章はわりとアカデミック。(でも、わかりやすくかみ砕いているけど)。経済、政治、社会の各分野で、今、日本には足りていない、もしくは今後の社会で重要になる知見とかを提示している。
     エネルギーと福祉について語る残り2章はどちらかというと当事者よりの人のため、より実践的に「自然エネルギーによる持続可能な社会の実現」のロードマップの一例と、障碍者福祉における「社会モデル」の重要性を述べている。
     まあ、大切なことは、この本だけでは終わっちゃいけないこと。そういう意味では、参考文献とかも載せててほしかった。

  • 社会
    思索
    経済

  • 気鋭の学者が、各分野の新たな知見により社会現象を考察するヒントを示す、というオムニバス形式。

    1のマーケットデザインによる社会制度の設計
    2の政治分野への計量分析の応用

    が学問領域的に近く、興味深かった。

    1のマーケットデザインは概念的に初めて知り、その可能性に興味がわいた。例示されているゲーム理論に基づく真偽選択が、どうやって制度設計と結びつくのか、非常に興味がある。

    2については、憶測と印象でイメージされがちな政治の世界のメカニズムを経験則によらず、定量的なデータから裏づけし、読み取ってみようという試みがなされていた。政治に限らず、行政過程においても、企業の意思決定過程にも、同じアプローチは可能と思われる。非常に面白い可能性を感じた。

  • 本のタイトルから日本の抱える問題について解決策でもかいてあるものと思っていた。しかし、この予想は裏切られた。どちらかと言うと問題を分析する、又は議論する道具についての内容の説明のように感じた。
    何か問題を議論するには客観的に判断できるデータと中立的な分析手法が必要と言われている感じがした。同意できる部分は多かったので、読んでみて良かったなと思う。
    ただ、手法の部分に主眼が置かれていたので、この手法を使った問題解決の提言のようなものも読みたかった。

  • 以下引用
    ①人間関係はストレスフルですが、人間関係がない状態はもっとストレスフルです。ひきこもりには具体的な人間関係の悩みはありませんが、人間関係が結べない、社会参加できないという点で苦痛が伴う。
    ②何かを変えるということは、何かを捨てるということでもあります。何かを始めるということは、何かを用意するということでもあります。
    ③障害とは本人の周辺の環境との「かかわり」によって生じるもの

  • 20140727読了

  • 当事者性と客観性が問われている気がします。
    菅原さんの論文は、あくまでイメージに囚われずに客観的な分析をするとイメージとどう乖離するかがわかる。
    また、大野更紗さんの文章は当事者になってわかること、使い古された「バリアフリー」なんて言葉は、使い古してはいけないんだなと、感じる。

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著者プロフィール

安田 洋祐(ヤスダ ヨウスケ)
大阪大学大学院経済学研究科教授
1980年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。最優秀卒業論文に与えられる大内兵衛賞を受賞し経済学部卒業生総代となる。米国プリンストン大学へ留学して2007年にPh.D.(経済学)を取得。政策研究大学院大学助教授、大阪大学准教授、リスボン大学客員研究員などを経て、2022年7月より現職。専門はマーケットデザイン、ゲーム理論。American Economic Reviewをはじめ、国際的な経済学術誌に論文を多数発表。新聞・雑誌への寄稿やテレビ番組出演などを通じて情報発信にも取り組む。朝日新聞論壇委員会、政府系審議会の委員などを歴任。2020年6月にEconomics Design Inc.を共同で創業。

「2023年 『「2030年日本」のストーリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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