「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか? (光文社新書)
- 光文社 (2014年9月17日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334038168
作品紹介・あらすじ
昔に比べれば、産休・育休や育児支援の制度が整ったかに見える今、
それでも総合職に就職した女性の多くが、
出産もしくは育休後の復帰を経て、会社を辞めている。
男性と肩を並べて受験や就職活動にも勝ち抜き、
出産後の就業継続の意欲もあった女性たちでさえ、
そのような選択に至るのはなぜなのか。
また会社に残ったとしても、
意欲が低下したように捉えられてしまうのはなぜなのか。
この本では、実質的に制度が整った2000年代に総合職として入社し、
その後出産をした15人の女性(=「育休世代」と呼ぶ)に綿密なインタビューを実施。
それぞれの環境やライフヒストリーの分析と、選択結果との関連を見ていく中で、
予測外の展開にさまざまな思いを抱えて悩む女性たちの姿と、
そう至らしめた社会の構造を明らかにする。
感想・レビュー・書評
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ワーキングマザーが子育てをしながら、仕事にどう向き合っていくか、インタビューを基に分析。
「育休世代」という筆者の世代は、やりがい、自己実現重視。
なので、仕事をしっかりやりたいという気持ちで入りながら、大学までにはほぼ感じなかった、様々な”女性的な”扱いを経験する中で、人それぞれの対応をしていく。
仕事に意欲があった人ほど早く見切りをつけて辞める。
色々と条件面を考慮して残っていた方が良いと冷静に判断した人間が残るのと、いわゆる女を捨てて、男勝りに戦っていく人が残るというのは、確かにそうかもと思える部分があった。
1984年生まれの筆者自体が東大卒の総合職、早めの結婚出産ということで、インタビューも同様のサンプリングのバリキャリ、早く結婚、出産のいわゆる勝ち組を対象にしている。
なので、ある意味偏った母集団の話であるというところを意識して読む必要もある。
あとは、インタビュー対象が若い年であるというのも、偏りになっていると思う。年齢ごとに仕事に対する情熱やイメージは移ろっていくものなので、歳をとってくると、先を計算しだして、いつまでも純粋に「やりがい」と言っていない気もする。
世代の考え方なのか、歳なりの考え方なのかを歳を追って定点観測することで導き出して欲しいなと思った。
もともとが論文を新書向けに書き直しているので、少し硬く、読みにくいところもありますが、なるほど、そうだよねというフレーズも盛りだくさんで、働く女性も、むしろ、女性と働いている男性が読むべき本だと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者が1984年生まれで同い年、ワーキングマザーの書いた本ということで手に取ってみました。
勉強もできて、大企業の総合職に就いて、晩婚・少子化が進む現代においては比較的早く結婚して出産もした。
言ってしまえば「勝ち組」のバリキャリ女性たち。生め、育てろ、働け、の全てをこなす“スーパーウーマン”たちは、はたして偉い人たちの言うように輝いているのか?というと、既存の企業のシステムや世間が求める「母親像」などに苦しめられたりして、実はボロボロだったりする。
…とはいっても食うに困っているわけでなし。こんなことは贅沢な悩みだ、私たちの苦労なんて苦労じゃないよね。…と、ものわかりが良く声をあげない彼女たちに対し、著者は言います。
贅沢だとか、あんたたちはどうせ勝ち組だとか、人は言うかもしれないけれど。
同じ立場の男性たちは全く経験しない苦労を味わっていることを、隠してはいけないのでは?
最終的に「女だから」「男だから」という言葉しか残らない不平等がある。悔し涙があり、憤りや生きづらさを感じたということ。そういう気持ちに誰も寄り添ってくれない世の中ってのはおかしいのではないか。つらいって言ってもいいんだよ、私たちだって。
(これで終わりません。)
というかむしろさ、勝ち組なんだからさ、エリートなんだからさ、私たちが感じた理不尽を出発点に私たちが社会を変えて行くんだよ!涙拭いたらやることやるぞ、おまえら!
という感じの、優しうて後に強し、なアツい本です。
※勝ち組とかバリキャリとかって言葉はキャッチーだしイメージがわきやすいから本書でも使われていたように私もここで使っているけど、なにかと議論を呼ぶ言葉ですね。ま、それはここでは割愛。
アツいといっても想いだけが空回りということもなく、どういう構造がこういう現象を引き起こすのか?といったところの分析がとても丁寧です。それもそのはず本書は著者が育休中に大学院で書いた論文を出版用に書き直したものなのだそうで。新書とはいえ「流行の話題と上手いタイトルが目を引くが1章だけでほぼ言い終わっててあとは薄味」みたいなことになっておらず、頭からつまさき、指先まであんこみっちり。その点だけでも感服の力作です。
以下、備忘メモ。
■「育休世代」という定義
・均等法施行から何年とよく語られる、施行直後の世代とはまた違う苦労があるよねという差別化。
・各種制度も整ってきて、昔に比べたら恵まれている。だけど!同じ女としての苦悩があるよね。
※この、「私とあなたとで状況は違う、お互い羨んだり妬んだりという気持ちを持つことも正直あるかもしれない、だけど、実は共感し合えるところもある、そこを出発点に、建設的に物事を変えて行く話をしようよ」っていう主張は、本書全体を通して、ある。世代間、未婚・既婚、子供のいるいない、出産後仕事を辞めたか・続けているか、さらには復職者同士でさえ、あの人は親と同居だからとか、シッターまで雇ってるとか、旦那さんがどうだとか・・・そういう対立構造、意味ないよね、と。
■高学歴で大企業の総合職、バリキャリ女性15人だけにインタビュー対象を限定していることについて
・著者自身がそうだから、自分の友人やその友人などをインタビュイーにしたようである。彼女たちの発言の引用を見てもかなりくだけた口調なので、いろんな発言を引き出せたであろうことは伺える。
・それはそれで強みでもあるが、同じ手法で別のグループの人たちを対象にこの研究をするのは難しそうだなあと思った。たとえば「絶対に家事をしない夫たち」の気持ちとかすごく聞き出したいのだけど、この著者には語ってくれなさそう(笑)。
・また、そんなバリキャリ女性は世の中の少数派だという批判に対しては、「そういう対立構造(を煽る姿勢)から脱したい」という話と、「(エリート意識と言われるかもしれないけど)バリキャリが活躍してこそ女性全体、ひいては社会全体の利益にもつながる変革を起こせるのだという理念」で回答。
・傍目からは恵まれているように見えても、みんなそれぞれの事情を抱えて頑張ってる、こうやって生活してる、そういうことをつぶさに伝え合えたら知り合えたら、もっとわかりあえるんじゃないのか?ということでまずは入り口として、この人数のインタビューなのであろう。
・私自身本書の定義で言うと「バリキャリ」なので、同じ穴のムジナですが、はたしてどこまで多様な層に著者の思いは届くだろうか。
■「ケア責任を負う就労者」という概念
・そもそもこうした就労条件のばらつきやなんかの話って「女性」の問題にされがちだけど、実は女性に限らない。育児や介護などのことを「ケア責任」という言葉で表現するらしいのだが、これまで慣習としてケア責任を負うのは女性とされてきたというだけのことで、今後企業は「女性を」ではなく「ケア責任を負う就労者を」どう活用するかを考えなければいけないよという指摘。ちょっとずれるがLGBT的な意味でも。 -
2015.5.18読了。
読みはじめは、「バリキャリの話かあ…」と、自分とは遠い世界の物語のように感じたが、出てくるエピソードが「分かる、わかる!」というものばかりで、一気に読んでしまった。
私自身、育休を3年まで延長!とか、女性手帳を交付しましょう!とか、的外れな政策が出てくる度にちょっとカチンときたりしていたので、WMのおかれた現状をこれでもか‼と言わんばかりに書いてくれた著者に、心から感謝したい。
私自身は、著者の言うところの女性向きの職場に入り、ゆるゆると頑張っているが、それでもなぜこんなに「申し訳なく」産休を取り、「申し訳なく」子供がまだ乳離れもしないうちに仕事に復帰し、「申し訳なく」子供の突発的な病気で仕事を休み、「申し訳なく」旦那に休みを代わってもらい…と、身も心もすり減っていくんだろう?とずっと疑問に思っていたが、この本のおかげでずいぶん解決した。
本の最後で、著者が今後取り上げたい研究テーマに挙げていたものも、とても興味がある。続編も期待したい。 -
産んで育てて男性と同じ位働けっていうゲームには参加したくない。って社会人2年目位で思って、そこから抜け出していないし葛藤続きの私には、とりあえずやってみている人たちは、まずそのことがすごいなと思う。
選択の自由がある道にいて、こんな社会で大変だけど子どもを持つことが大切な人や産んでから気づいた人は調査対象のようになり、先に気づき矛盾に苦しみ戦うほど子どもを持つことの優先度が高くないと(他にも理由はあるが)私のようになる。
違う選択をしているけれど、私もこの人達と表裏一体。
もともと知ってはいたけど、自分の中の矛盾した希望や価値観のせめぎ合いが明示されていて分かるなぁと思うこと満載。
個々人の一度しかない人生は、社会の影響を多大に受けるんだよなぁと、しみじみ。
サンプル数が少ないということを著者が言及していましたが、私が13年働いている子育てをする女性が沢山いる会社で周りの先輩や同期の状況、葛藤、周囲の反応をみていて感じ考えていたこととの乖離感じなかった。
男並みに働いていた先輩は子どもの成績悪化であっさり退職、子育て中は葛藤しつつ全部60点で良しとするのと話してくれた先輩は働き続けている。
私にできることは‥、立場の違う女性同士の誤解に行きあったら表裏一体なだけだということ、共感の視点を伝えて女性間の分断の解消に微力だけど貢献できるかも。管理職や意思決定に関われる立場の女性と接点があり、私が子どものいない女性だから相手に聞いてもらいやすい気がする。(つい先週も女性マネージャーが、ぶら下がり女性社員と評する子どものいる社員への厳しい見方をしていた) あと、そういう人にはこの本勧めよう。
#Bookoff -
同年代のWM中野円佳さんが修士論文を元に新書に纏め直した一冊。
産休前からモヤモヤしていた不安が理論だてて分析され、代弁されるかのようなスッキリ感。
高学歴勝ち組のバリキャリ女性がなぜ出産を機に辞めるのか、育児支援制度が活かされないのか。
「働き甲斐への執着」は女性達を苦しめる。やりがいが無ければ子供を長時間預けてまで働く意味はないと感じ、しかしやりがいがあるような高付加価値の仕事を得るには時間的制約や犠牲にするものが大きすぎる。
私も専門性の高い職種につけなかったことに焦燥し危機感を持っていたのはこのことから。
自分は著書でいう産後一番退職しやすいマッチョ思考型だった。
「男性と同等以上に競争し、男並みに働くことを求める一方、仕事意識の高い男性を夫とし、結果として家事育児も自分で担うこととなる。」
「やりがいの無い仕事と育児の両立に葛藤したり、支援制度を利用することを躊躇いがち」
というわけで、考え方を軟化しないと。
休職期間や時短勤務に対して抱く申し訳ない感。でも「男が男使って仕事してるんだから、女が女使って仕事してもいいじゃん」という共働きの旦那さんの言葉は目から鱗。
男性が家事育児を妻に押し付ける男性的働き方をするのであれば、女性が社内制度を利用して割り切って仕事してもいいじゃないか。
働く女性の貧困問題とは違うし、仮に辞めても食えていけないことはないから「贅沢な悩み」「キャリアを固める前に産んだ自己責任」で口を閉ざしてしまう人が多いから問題が顕在されにくい。それを理論立てて分析し、本として社会に出した著者に感謝と敬意。 -
今の仕事状況なら、子供は産めないだろうな。と何度も思い、今も、そう思い続けてる「育休世代」の1人です。問題はそれだけじゃないけど。この問題、相当数の人が感じてると思う。本として世に出してくれた筆者に敬意を。。
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自分と同じ世代の女性・現役ワーキングマザーが書いたということで気になり、購入。少しずつ読んで、読了。
あーなるほどなあ。わかるわあ。という内容が多数。
私は転職してるのもあって比べにくいけど、完全にやりがい重視で就活した。女性の働きやすさがないとわかっていながら。のちのち転職するし、それまでがんばろう!くらいにしか思ってなかった。そしてやっぱり訪れた、「ああはなれない」「なりたくない」思ってしまうような、子育てと仕事の両立なんて非現実的だというロールモデル。
やっぱり早く辞めようと思うのに決定的だった気がする。
本書でも何回か出てくるように、「そこまでして働く価値はあるか」ってかなり思った。結婚相手もいない時やったけど、この会社でずっと働いていく自分は全く想像できなくて辞めた。
「まだその問題に直面してないのに逃げてるんじゃない?」って上司から言われたことが忘れられん。その人は女性総合職に理解があって色々がんばってくれてたけど、直面してなくてもわかるだろうよ。誰がどう見たってムリやん?って思ってしまった。
私もアマちゃんやったかもしれん。
・・・と、この本読みながらそんなことを思い出した。
これからほんまに妊娠・出産したら、たとえ公務員で恵まれてるっていっても色々あるやろうと思う。でも世の中のワーキングマザーはみんな似たような思いを抱えてると思うとがんばれるのかも。
すごくたくさん資料やデータが載せられてて根拠が明確だったけど、インタビューする人に偏りがあるなあと思った。旦那の年収1000万オーバーなんて人そうそういないと思うので、もう少し低所得で「共働きじゃないとやっていけない」という女性の声も載せてほしい。 -
なんでバリキャリ女性ほど出産を機に辞めてしまうのか、その辺の理由、背景が分かりやすい。
確かに、男性にも読んでほしい本。
自分が出産を控える立場になって感じることだが、復帰してバリキャリを続けるか、それなりに妥協して働くか、会社を変革してさせるようなパイオニア的なスーパーな女性を目指すか、戻る場所があることに感謝して淡々と与えられた業務をこなす日々を送るか、など、どんな立ち位置とかスタンスで行くべきか、将来の自分を想像しながらもまだまだ他人事として考えてしまう。
実際に、育休から復帰して、両立してみてはじめて見えてくるものもあるんでしょうね。
色々考えさせられた。 -
女性には少なくとも2つの層があると思う。
第一に、周囲の期待に応えよう、あるいは既存の性役割を乗り越えようと、「女だてらに」と言われながら幼少時より男性なみに勉強し、男性なみに働いてきた/働こうとしている女性。
第二に、既存の性役割を受容し、あるいは積極的に活用し、女性という枠組みの中でみずからの主観的幸福感を最大化してきた/しようとしている女性。
第一の女性は一見すると、性役割を軽やかに乗り越えたかのようにみえる。けれども結婚・出産という、既存の性役割が顕在化されるステージを迎えたとき、本書に描かれたような葛藤に必ず直面する。
本書は、そこで結婚・出産を選択し、キャリアから「降りる」ことを余儀なくされた女性、いわば第一の層から第二の層に移ることを余儀なくされた女性の悔し涙に主眼を置いている。
けれども、葛藤ということでいえば、キャリアから「降りない」女性にだってある。名誉男性への道を進もうと、結婚や出産をあきらめ、第一の層にとどまり続ける女性にだって、同じように流す悔し涙がある。
出産・子育てを敢行しながら、歯を食いしばって第一の層にふみとどまる女性だっている。
このように考えた時、結局、終始一貫して第二の層にいる女性、はじめから性役割をうけいれ、周囲の期待に応えようとか、ロール・モデルを目指そう、などと思いもしない女性たちがもっとも葛藤から縁薄く、ストレスフリーなのだと痛感する。社会が変わらないのならば、女性もまた変わらない方が「利口」なのだ。
筆者のいうとおり、女性の性役割はまだしばらく揺らぎ続けるのだろう。 -
育休世代とは、両立のための制度が整った後に育休取得する世代、生まれでいえば、1978年以降の人々をさすという。
この世代は、1. 自己実現プレッシャー、2. 産め働け育てろプレッシャーの板挟みにあうという。
著者プロフィール
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