「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門 (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334038281

感想・レビュー・書評

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  • ●感染症の流行において、正確な状況把握は難しいものです。特にリスク発生直後は情報が錯綜し、いろいろな矛盾するデータが集まってくるからです。
    ●分数には分子と分母があります。分子やわかりやすく、それはインフルエンザによる死亡者です。でも文法は分かりづらいです。何を持って分母とするのか、をしっかりと確認しないと、死亡率は容易に上がったり下がったりするのです。
    ●日本人は生まれてこの方質問をすると言う訓練を受けてこなかったから、質問そのものを思いつかない。
    ●リスク・マネジメントとは、「自分の知らない領域の自覚」(無知の知)

  • リスク・コミュニケーションの基本的な心得と技術を説く本。

    著者の専門は感染症だが、医学分野に限らず、なんらかのリスクを他人に伝えるコミュニケーション全般に応用できる。
    読みながら自分が連想したのは、情報セキュリティ関連の対応だった。内部コヒーレンスの重要性(p156)、クライシス・コミュニケーションとコンセンサス・コミュニケーションの使い分け(p40)等の話題に既視感がある。
    共通するのは、専門的な内容を非専門家に伝える、実害が発生しうる、発信側にも全体像が分からず刻々変化する状況下のコミュニケーションという点だろうか。

    リスク・コミュニケーションで達成すべきことを、著者は端的に2点にまとめる。「なにを伝えるか」「それが伝わって、相手が乗っているか」(p113)。
    後者は単に情報が伝わることではなく、聴き手が自らの考え方や行動を変えることを目指している。このため、相手の感情や価値観への配慮(p132以降)が重要となる。またニュアンス(p186)やアナロジーの罠(p242)等、言葉の使い方にかなり神経を使う様子も感じられた。コミュニケーションの道具である言葉に鈍感では務まらないということだろう。

    リスク・コミュニケーションという鉄火場の対応なので、記者会見での見た目や質問対応(p198)に関わる話題も出てくる。メディアを敵視してはいけないが、振り回されて現場を疲弊させないよう、記者会見のタイミングは発信側が主体的に決めるべきという主張(p162)には納得。タフな場だから、緊急事態であってもきちんと睡眠をとって臨むというのも重要な指摘だ。
    一方通行でよい迅速な情報提供(ホームページ等)と、丁寧かつ冷静なフィードバックを要するメディア露出を使い分けることが重要なのだろう。

    もっとも鉄火場では難易度が非常に高くなるというだけであって、説かれている中身を薄めれば、コミュニケーション一般の心得と技術でもある。
    たとえば、相手が何を懸念し、どう理解しているか聞き出すメンタル・モデル・アプローチ(p100)等は、図書館のレファレンス・インタビューとも共通する。p208以降は一般的なプレゼンの、p233以降は医療情報リテラシーを高めるノウハウともいえる。

  • まあ、言いたいことはわかるし納得できるんだが。

    微妙にイライラする感じはなんだろう。

    著者の書き方が、おっしゃるほど、面白くない、コミュニケーション良好ではないということか。

    時々実名出してくるわけだが、読んでる人がその全員を知ってる前提が間違ってるだろう。

    私だけが正しい感もあって、全体に不愉快。

  •  2020年2月、コロナ患者が発生して横浜へ寄港したダイヤモンド・プリンセスに乗り込み、感染症対策が不備だと批判して有名になった医師、神戸大学教授。 言うことが明快で権威を気にしないところが痛快。
     この本は2014年に出されたリスク・コミュニケーションの本。
    以下メモ …………………………………………………………………………
    43ページ;リスクの見積もり方=リスクアセスメント
     「リスクが起きる可能性」と「起きた時の影響の大きさ」に注目する。
    52ページ:リスクマネージメント
     一つの計画だけに固執することなく、いくつかの予測シナリオに基づいて、プラン B プラン C などの選択肢を持っておくことが大事。
    60ページ:厚生省の官僚は現場を知らないで机上の空論でブランしてきた。官僚をサポートしている感染症の専門家はほとんど微生物の専門家であり、現場の臨床家ではない。
     「あの」ウイルスという分かっていることについては誰よりも詳しいが、目の前で熱が出ている人という、不確定な状態に対応する能力も無ければ訓練も受けていない 。
    76ページ:リスクコミュニケーション
     専門家は客観的中立的である必要ない。また、そうあることはできない。 その主観を主観として聞き手に伝えることが大事。
    77ページ:医薬品による病気のリスクの減少は、相対リスク減少ではなく、絶対リスク減少で表現した方がリスク・コミュニケーションはうまくいく。
     相対リスク減少とは割り算でリスクの減少を計算する方法
     A という薬を使った時の死亡率が3%、使わなかった時が6%とすると
     3÷6=50%。死亡率が半分になったとする。
     絶対リスク減少は引き算で計算する。
      先の例で6ー3=3%。3%の死亡率の減少。
    119ページ:上手に質問できない日本人医師、官僚。
      質問をしていると言っても「これってこういうことじゃないんですか」と言うレトリカルな質問であることが多い。これは一見質問のように見えるが質問ではない。自分の意見の表明である。 レトリカルクエスチョンである。
    132ページ:社会構成主義モデルによるリスクコミュニケーション。
     一般にリスクコミュニケーションでは専門家が情報を提供し、聞き手が自分たちの価値観や信念や感情を交えてフィードバックします。しかし、社会構成主義モデルでは、両者が情報と自らの価値観を出しあいます。
    135ページ:社会的文脈や文化がリスクへの信条に影響を与える。
     日本の多くの親は熱が出たらすぐに医者にかかる文化と信条を持っている。子供の発熱時には即座に病院に連れて行き、それを可能にする医療のアクセスの良さも制度的に担保されている。
     一方アメリカにはそのような文化がなくて、まだそれを可能にする医療保険システムを持っていない。
    日本には医療の過剰な内容と医療者の疲弊、最近の言葉で言えば医療崩壊の遠因にもなっている。 アメリカの医療は選択的にアクセスが制限されているため、外来では長い時間をかけて患者の話を聞いてくれたり、最先端の質の高い医療を提供してもらえる利点もある。。
    137ページ:コミュニケーションは相手の言い分を聞いて初めて成立する
     リスクを排除するという安易な形でリスクマネージメントするのは良くない
    182ページ:対策を行ったふりをしただけではいけない。
     不祥事が 起きた時、例外は例外として対象するのが基本。一人の不祥事のために書類仕事が何倍も増加するのは効率の悪い対処方法である。
     「可能性は否定できない」は思考停止とほぼ同義。 可能性はある、でもまれという量的な思考をすること。
    225ページ:フロイトの言葉
     成熟とは、曖昧さと一緒に生きる能力のことだ。
    233ページ:副作用と有害事象の違い。
     副作用は医薬品が人間に望まない有害な作用を起こすこと。
     有害事象は医薬品を用いた後に患者に何らかの有害な事象が起きること。
     前者は因果関係を扱い、後者は単なる前後関係を扱う。
     後者においては薬を飲んだ後に車に轢かれたり、0酒に酔って転んだりすることも全て有害事象としてカウントする。 A のあとで b が起きたということである
    247ページ :専門家がいうトンデモ説もすごい。
     ワクチンは人にとって毒なのだ。
     ワクチンが100%安全とは言えない。
     私には効かなかった。
      ワクチンはナチュラルではない。
     病気にかかって免疫をつけよう。
      ガリレオだって異端とされていたじゃないか。
     ある学説によると
     ウェイクフィールドはいい人だ。
     ワクチン業界の陰謀だ。
     私は自分の子供の専門家なのです
    283ページ: 細菌というのは、わかりやすく言うと抗生物質が効く微生物だと思えばいい。

  • 感染症のことからリスクコミュニケーションまでとても勉強になりました。
    事実(データ)と向き合う、状況の変化に対応する、下手に隠さない、いろいろ自分の普段の生活にも活かしたい。

  • 感染症対策というよりは、リスク・コミュニケーションの方に重点が置かれている。素人目には、日本における今回の新型コロナウイルスの情報発信の仕方は、適切に行われているのではないかと思う。

  • 感染症の対応以上に、リスクコミュニケーションのほうが大事。今の政府では無理。

  • 他人に話しかけるときには、丁寧な言葉遣いをしましょう、という点が一番大事。本当に大事。

  • リスクコミュニケーションというけれど、言われている内容はふだんの仕事においても求められることではないか、と思った。会議においては、必ず異論を言うチャンスを十全に提供する、とかね。俺自身の仕事関係でも、ときどき感じることだけど一枚板というのは実は怖いものであって、みんな黙って従っているようにみえて、異論があった場合、いざ行動に出る場面で動きが鈍くなる。会議とかで異論続出した場面を経て、お互いが納得する形をつくってはじめて、行動する場面において協力して行動することができる。その過程を経ないから、上意下達とか、先輩後輩とかいって、黙って命令にしたがえ、とか、一方で言われたことしかできない的な不満が出るのだろう。

    示唆に富んだ本だった。ときどき読み返したいな。特に今のような、昨日と同じパターンが通用しない状況においてはね。

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著者プロフィール

1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業。神戸大学都市安全研究センター感染症リスクコミュニケーション分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。著書に『コロナと生きる』(朝日新書、内田樹との共著)、『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書)、『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』(集英社インターナショナル新書)ほか多数。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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