「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門 (光文社新書)
- 光文社 (2014年11月13日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334038281
感想・レビュー・書評
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●感染症の流行において、正確な状況把握は難しいものです。特にリスク発生直後は情報が錯綜し、いろいろな矛盾するデータが集まってくるからです。
●分数には分子と分母があります。分子やわかりやすく、それはインフルエンザによる死亡者です。でも文法は分かりづらいです。何を持って分母とするのか、をしっかりと確認しないと、死亡率は容易に上がったり下がったりするのです。
●日本人は生まれてこの方質問をすると言う訓練を受けてこなかったから、質問そのものを思いつかない。
●リスク・マネジメントとは、「自分の知らない領域の自覚」(無知の知)
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リスク・コミュニケーションの基本的な心得と技術を説く本。
著者の専門は感染症だが、医学分野に限らず、なんらかのリスクを他人に伝えるコミュニケーション全般に応用できる。
読みながら自分が連想したのは、情報セキュリティ関連の対応だった。内部コヒーレンスの重要性(p156)、クライシス・コミュニケーションとコンセンサス・コミュニケーションの使い分け(p40)等の話題に既視感がある。
共通するのは、専門的な内容を非専門家に伝える、実害が発生しうる、発信側にも全体像が分からず刻々変化する状況下のコミュニケーションという点だろうか。
リスク・コミュニケーションで達成すべきことを、著者は端的に2点にまとめる。「なにを伝えるか」「それが伝わって、相手が乗っているか」(p113)。
後者は単に情報が伝わることではなく、聴き手が自らの考え方や行動を変えることを目指している。このため、相手の感情や価値観への配慮(p132以降)が重要となる。またニュアンス(p186)やアナロジーの罠(p242)等、言葉の使い方にかなり神経を使う様子も感じられた。コミュニケーションの道具である言葉に鈍感では務まらないということだろう。
リスク・コミュニケーションという鉄火場の対応なので、記者会見での見た目や質問対応(p198)に関わる話題も出てくる。メディアを敵視してはいけないが、振り回されて現場を疲弊させないよう、記者会見のタイミングは発信側が主体的に決めるべきという主張(p162)には納得。タフな場だから、緊急事態であってもきちんと睡眠をとって臨むというのも重要な指摘だ。
一方通行でよい迅速な情報提供(ホームページ等)と、丁寧かつ冷静なフィードバックを要するメディア露出を使い分けることが重要なのだろう。
もっとも鉄火場では難易度が非常に高くなるというだけであって、説かれている中身を薄めれば、コミュニケーション一般の心得と技術でもある。
たとえば、相手が何を懸念し、どう理解しているか聞き出すメンタル・モデル・アプローチ(p100)等は、図書館のレファレンス・インタビューとも共通する。p208以降は一般的なプレゼンの、p233以降は医療情報リテラシーを高めるノウハウともいえる。 -
まあ、言いたいことはわかるし納得できるんだが。
微妙にイライラする感じはなんだろう。
著者の書き方が、おっしゃるほど、面白くない、コミュニケーション良好ではないということか。
時々実名出してくるわけだが、読んでる人がその全員を知ってる前提が間違ってるだろう。
私だけが正しい感もあって、全体に不愉快。 -
2020年2月、コロナ患者が発生して横浜へ寄港したダイヤモンド・プリンセスに乗り込み、感染症対策が不備だと批判して有名になった医師、神戸大学教授。 言うことが明快で権威を気にしないところが痛快。
この本は2014年に出されたリスク・コミュニケーションの本。
以下メモ …………………………………………………………………………
43ページ;リスクの見積もり方=リスクアセスメント
「リスクが起きる可能性」と「起きた時の影響の大きさ」に注目する。
52ページ:リスクマネージメント
一つの計画だけに固執することなく、いくつかの予測シナリオに基づいて、プラン B プラン C などの選択肢を持っておくことが大事。
60ページ:厚生省の官僚は現場を知らないで机上の空論でブランしてきた。官僚をサポートしている感染症の専門家はほとんど微生物の専門家であり、現場の臨床家ではない。
「あの」ウイルスという分かっていることについては誰よりも詳しいが、目の前で熱が出ている人という、不確定な状態に対応する能力も無ければ訓練も受けていない 。
76ページ:リスクコミュニケーション
専門家は客観的中立的である必要ない。また、そうあることはできない。 その主観を主観として聞き手に伝えることが大事。
77ページ:医薬品による病気のリスクの減少は、相対リスク減少ではなく、絶対リスク減少で表現した方がリスク・コミュニケーションはうまくいく。
相対リスク減少とは割り算でリスクの減少を計算する方法
A という薬を使った時の死亡率が3%、使わなかった時が6%とすると
3÷6=50%。死亡率が半分になったとする。
絶対リスク減少は引き算で計算する。
先の例で6ー3=3%。3%の死亡率の減少。
119ページ:上手に質問できない日本人医師、官僚。
質問をしていると言っても「これってこういうことじゃないんですか」と言うレトリカルな質問であることが多い。これは一見質問のように見えるが質問ではない。自分の意見の表明である。 レトリカルクエスチョンである。
132ページ:社会構成主義モデルによるリスクコミュニケーション。
一般にリスクコミュニケーションでは専門家が情報を提供し、聞き手が自分たちの価値観や信念や感情を交えてフィードバックします。しかし、社会構成主義モデルでは、両者が情報と自らの価値観を出しあいます。
135ページ:社会的文脈や文化がリスクへの信条に影響を与える。
日本の多くの親は熱が出たらすぐに医者にかかる文化と信条を持っている。子供の発熱時には即座に病院に連れて行き、それを可能にする医療のアクセスの良さも制度的に担保されている。
一方アメリカにはそのような文化がなくて、まだそれを可能にする医療保険システムを持っていない。
日本には医療の過剰な内容と医療者の疲弊、最近の言葉で言えば医療崩壊の遠因にもなっている。 アメリカの医療は選択的にアクセスが制限されているため、外来では長い時間をかけて患者の話を聞いてくれたり、最先端の質の高い医療を提供してもらえる利点もある。。
137ページ:コミュニケーションは相手の言い分を聞いて初めて成立する
リスクを排除するという安易な形でリスクマネージメントするのは良くない
182ページ:対策を行ったふりをしただけではいけない。
不祥事が 起きた時、例外は例外として対象するのが基本。一人の不祥事のために書類仕事が何倍も増加するのは効率の悪い対処方法である。
「可能性は否定できない」は思考停止とほぼ同義。 可能性はある、でもまれという量的な思考をすること。
225ページ:フロイトの言葉
成熟とは、曖昧さと一緒に生きる能力のことだ。
233ページ:副作用と有害事象の違い。
副作用は医薬品が人間に望まない有害な作用を起こすこと。
有害事象は医薬品を用いた後に患者に何らかの有害な事象が起きること。
前者は因果関係を扱い、後者は単なる前後関係を扱う。
後者においては薬を飲んだ後に車に轢かれたり、0酒に酔って転んだりすることも全て有害事象としてカウントする。 A のあとで b が起きたということである
247ページ :専門家がいうトンデモ説もすごい。
ワクチンは人にとって毒なのだ。
ワクチンが100%安全とは言えない。
私には効かなかった。
ワクチンはナチュラルではない。
病気にかかって免疫をつけよう。
ガリレオだって異端とされていたじゃないか。
ある学説によると
ウェイクフィールドはいい人だ。
ワクチン業界の陰謀だ。
私は自分の子供の専門家なのです
283ページ: 細菌というのは、わかりやすく言うと抗生物質が効く微生物だと思えばいい。 -
感染症のことからリスクコミュニケーションまでとても勉強になりました。
事実(データ)と向き合う、状況の変化に対応する、下手に隠さない、いろいろ自分の普段の生活にも活かしたい。 -
感染症対策というよりは、リスク・コミュニケーションの方に重点が置かれている。素人目には、日本における今回の新型コロナウイルスの情報発信の仕方は、適切に行われているのではないかと思う。
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感染症の対応以上に、リスクコミュニケーションのほうが大事。今の政府では無理。
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他人に話しかけるときには、丁寧な言葉遣いをしましょう、という点が一番大事。本当に大事。
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リスクコミュニケーションというけれど、言われている内容はふだんの仕事においても求められることではないか、と思った。会議においては、必ず異論を言うチャンスを十全に提供する、とかね。俺自身の仕事関係でも、ときどき感じることだけど一枚板というのは実は怖いものであって、みんな黙って従っているようにみえて、異論があった場合、いざ行動に出る場面で動きが鈍くなる。会議とかで異論続出した場面を経て、お互いが納得する形をつくってはじめて、行動する場面において協力して行動することができる。その過程を経ないから、上意下達とか、先輩後輩とかいって、黙って命令にしたがえ、とか、一方で言われたことしかできない的な不満が出るのだろう。
示唆に富んだ本だった。ときどき読み返したいな。特に今のような、昨日と同じパターンが通用しない状況においてはね。 -
今のコロナ騒ぎをみてから書いたかのような一貫した主張、ロジカルな説明。
感染症・医療の世界に限らず、リスクコミュニケーションという概念はあらゆるビジネスシーンで使える内容であり、どの世界においてもメディアとのコミュニケーションは難しいものだと思います。
P227 とはいえ、メディアの役割は情報発信だけでなく、エンターテイメントにあります。~煽る・煽らない の2つの選択肢があれば、必ず煽るのがマスメディア。 -
エボラ出血熱、デング熱、新型インフル、バイオテロ…。「恐さ」をどう捉え、いかに効果的に伝えるか。いくつもの感染症のアウトブレイクに居合わせた医師が、リスク・コミュニケーションのあり方を教える。
シンプルな説明。どうして日本の政府はこれが出来ないんだろう。 -
リスクコミュニケーションは、もともと修論のテーマに選ぶぐらい興味のある分野。
さらに新型肺炎が話題の時期なので、読んでみた。
普通に読み物として、面白かった。
まだ咀嚼出来てない部分もあるので、もうちょっと考えてみたい。 -
今(2020年2月)話題の岩田健太郎医師の感染症についてのコミュニケーション学。
世間では空気や言い方ではなくきっちり言うべきことを言った岩田さんを評価という感じだったが、実は岩田健太郎医師は感染症の時にいかにうまく伝えるかという本を書いていたのであった。この事実は大変興味深い。 -
感染症のことを知るために読みましたが、リスク・コミュニケーションのことを説明した専門的・学術的な感じがしました。私が理解した点は次の4つです。①感染症は、微生物が原因になる病気で、動物、人、飲食物などで伝染する。目に見えない。時に短期的局地的に集団発生、場合によっては世界中に流行(パンデミック)②患者数云々の状況把握より、なぜ流行、なぜ制圧されてないか、どうせれば食い止めるか、が重要 ③起きる可能性、起きた時の影響の両方を個別に考える ④外出制限vs経済・社会活動:その程度問題か。
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医学
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岩田健太​郎さんのリスク・​コミュニケーションに関する​新刊(光​文社​新書)で興味深か​ったのは「日本​人は質​問が下手」という​指摘。なぜそれが​リスクコミュニケ―​ションに関係する...
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特有の文体なので好みが分かれるかもしれないですが、内容は普通と思います。
脱線気味になったり、3つだけ重要というのがたくさんでてくるので要点を掴みにくいな〜と感じたので減点でした。 -
配置場所:摂枚普通図書
請求記号:498.6||I
資料ID:95150378 -
はじめ3分の1くらいは役に立つ気がしたが、それ以降は「私はこうしている」という内容ばかりでなんだか疲れる
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良書。
英文を直訳した教材は、いけてない。自分の言葉にしなければ、人の心に届かない。コミュニケーションは、人の心に届くことが重要。
日本では、やりましたで満足する傾向がある。チームを作って会議をするだけ。結果を得ることが目的だ。 -
冷静で現実的な示唆に富む良書。感染症、医学を取り上げての対処策を示しているが一般化することでビジネスや日常生活にも活かせる。
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感染症によって起こるパニックと対峙するためのリスク・コミュニケーション入門。
感染症のリスクをどう捉え、伝えるべきかを考える。
医療を題材の中心に据えているけれど、パニックを誘発する災害も視野に入っているので、医学に関わらない自分でも学ぶところが多かった。
以下、気になったところのまとめ。
1 聞き手の存在を意識したコミュニケーション
コミュニケーションは手段であり目的。
六何八何の原則のような一方方向の情報伝達の原則やテクニックにばかりこだわるよりも、聞き手は何者でどこまで知っていてどのような情報を必要としているかといったような相手の存在を意識することが重要だ。
⑴ 効果的なコミュニケーションを行うための3つのポイント
(ア) 聞き手の対象分野への理解・知識、問題意識の把握。
(イ) 本質を捉え、妥当性の高い状況把握
東京駅の描写
「レンガがある。隣にもレンガがある。その隣にも」
よりも、
「目の前に大きなレンガ造りの駅がある」
(ウ) 目的を意識する
アウトカム(結果)の設定。
(2) メンタル・モデル・アプローチ
聞き手の明確化。
聞き手がどのようにリスクを捉えたかを明らかにし、そのメンタル・モデルと専門家のモデルを比較することでリスクに対する意識のギャップを埋める。
2 三位一体
(1) リスク・アセスメント
リスクの見積もり。
「リスクが起きる可能性」と「起きたときの影響の大きさ」
(2) リスク・コミュニケーション
(3) リスク・マネージメント
具体的対応。
を三位一体で行う。
予測が外れる可能性を考え、アセスメントは幅を、マネージメントは複数の選択肢を用意すること。 -
本書はパニック時にいかに効果的に情報を伝えるかということを考えた「リスク・コミュニケーション」の入門書。感染症を題材としているが、リスク・コミュニケーションが応用できる範囲は医療分野に限らず、企業広報やパニック時の友人とのコミュニケーションなど多岐にわたる。また逆に、パニック時に聞き手としてどのような情報に着目すればいいかということを本書は教えてくれる。広報担当者のみならずすべての人にお勧めしたい本。
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新書なのに,想定読者が医療者…?不思議なコンセプトではあるけど,リスコミ全般についてまとまってるので一応一般にも有益。正しい情報を伝え,パニックを回避し,リスクそのものを減らしていくコミュニケーションの方法論。
日頃のコンセンサス・コミュニケーションと緊急時のクライシス・コミュニケーションを区別すること。科学的に正しいことを言うだけではなく信頼を勝ち取ること。感情的になる聞き手を否定しないこと。マスコミと良い関係を築き,うまく利用すること。リスクへの対処という目的を見失わないよう常に心掛けること。
どれもごもっともな指摘。ただいちいちちょっとウエメセなのが気になる人もいるかも。あと,度々出てくるSTAP批判批判は要らないんじゃないかなぁ,とか。
第一章のリスコミ総論がほとんどの分量を占めていて,第二章の各論が実践編。ここ20年話題になった六個の感染症についてケーススタディするという寸法。扱うのは,エボラ出血熱,西ナイル脳炎,炭疽菌,SARS,新型インフルエンザ,デング熱。 -
プレゼンのノウハウといった戦術面もかなり丁寧だが、それよりも、戦略、すなわちコミュニケーションの確立といった目的を重視した書籍であり、医療関係者のみならず、組織において対外的な役割を担っている人には読む価値が大いにある。
些末情報に翻弄されて本質がおろそかになる例:
「レンガがある。その横にレンガがある。その隣にも、その上にも、そのまた上にもレンガがある」→東京駅
恒常的な問題に無関心である喩え:
人が犬を噛んだ場合の対策マニュアル、講演、チームの立ち上げがされ、その間、犬は人を噛み続ける
P246-247.トンデモ主張における一定の戦略
「ワクチンは100%安全とは言えない」(ゼロリスク追求)
「私には効かなかった」(アネクドータル(逸話的))
「ワクチンはナチュラルではない」(天然、自然志向)
「病気にかかって免疫をつける」(複数リスクの相対的評価が出来ない)
「ガリレオだって異端」(ガリレオ作戦)
「ある学説によると」(情報の出所の不確かさ)
「彼はいい人だ」(情に訴える)
「業界の陰謀だ」(陰謀論)
日本人だけ特別ダメ、という論調はたいてい間違ってる。日本人だけ特別優秀、という論調がたいてい間違ってるのと同じくらいに。 -
リスク・コミュニケーションで必要な考え方、スキルなど幅広く網羅。普段から使用可能なスキルもあり、医療に関わる人だけでなく、多くの人に読んで欲しい一冊
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根幹の部分は全くブレがなくて、でも読む毎に勉強になる内容を、分かりやすく平易な文章で表現されていて、今回も一気に読んじゃいました。プレゼンの方法とか目的とかについては、分かっちゃいるけど実践できてないことばかりで…かといって一朝一夕に出来るもんじゃないから、ひたすら鍛錬あるのみ、ですね。対象の大小を問わなければ、生きている以上、何らかのリスコミが必要になる場面は数多ある訳で、そういうときに、ここで読んだ内容が少しでも活かされるよう、心に留めて生きたいと思います。
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感染症をテーマにして、リスクコミュニケーションを実践的に解説しています。
著者さんはリスクコミュニケーションの専門家ということで、「自分は優秀ですごいことを言っているんだぞ」ということを全面的に押し出しながら、効果的なリスクコミュニケーションの方法を解説しています。
具体的なアドバイスが多数散りばめられていて、かなり実践的です。
リスコミに限らず、記者会見とか不特定多数の方に話をする機会がある人には、なかなかに役立つ内容です。 -
14/11/22。
11/27読了。あとがきで、岩田先生が書きやすかったと述べていましたが、読む方もたいへん、読みやすかったです。医療におけるリスクコミュニケーションのまさに入門書。