教養としての聖書 (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334038465

感想・レビュー・書評

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  • 旧約聖書から、創世記、出エジプト記、申命記、
    新訳聖書から、マルコ福音書、ローマ人への手紙、ヨハネ黙示録、の6つに絞った聖書講義録。

    申命記の講義中のユダヤの律法に関する説明が滅法面白い。

    • 隣人の畑《あなたが隣人の葡萄畑に入るとき、あなたは思う存分葡萄を飽きるまで食べてもよい。しかし、あなたの器のなかに取り入れてはならない。隣人の麦畑に入るとき、あなたはあなたの手で麦の穂を摘んで食べてもよい。しかし鎌を入れてはならない。》

    • 挽臼質入れの禁止《挽臼、あるいは上石を質にとることがあってはならない。それは生命を質にとることになるからである。》

    前者は、生存権の原型であり、後者は、年金債権を差し押さえてはならない、という現代ルールの原型と思われ、ユダヤ教のコンセプトはキリスト教を経由して、近代西洋ルールとして受け継がれているんだなあ、と感心した。

  • 本書は、著者の『聖書』に関する連続講義を本にまとめたものである。比較的生徒とからの質問を講義途中で受ける形になっていてインタラクティブな感じで進められる。多くの書物からなる聖書の構成から出来上がった経緯、それぞれの内容と相互関係などをやさしく説明した本である。

    【概要】
    取上げられるのは、旧約聖書から『創世記』、『出エジプト記』、『申命記』新約聖書から『マルコ福音書』、『ローマ人への手紙』、『ヨハネ黙示録』 の六つの書物。これらの内容を生ととのやりとりの形で説明することで、聖書全体の構成や位置づけなどを解説していく。

    まず、『創世記』は、「光あれ」から始まる世界創生の物語。原罪の概念のもとになったエデンの園追放の物語やカインとアベルの話、ノアの箱舟の話、アブラハムとその息子イサクの話、イスラエルの民とヤコブ・ヨセフの話もここに含まれる。
    『出エジプト記』は、エジプトから出立してイスラエルに入植する物語。紅海が割れて道ができる話もここに書かれている。著者はこれらの話をフィクションとし、モーセも実在の人物ではなかったのではないかという。それはそうだろう。モーセがシナイ山で聞く十戒もここに記されている。これらの戒律が西洋社会に受け継がれてきたことは、現代社会の成り立ちを語る上では結果として重要であった。
    『申命記』は、多くの従うべき律法について記載したもので、偶像崇拝禁止、食生活、婚姻、民法、刑法、戦争など細かい規定が明文化されている。これもまた多くの影響を後世に与えた。
    新約聖書の『マルコ福音書』は複数ある福音書のひとつで、イエスの物語である。有名な最後の晩餐、ペテロの躓き、十字架と復活、など有名な話がここに含まれている。
    『ローマ人への手紙』は、パウロの書いた書簡のひとつ。パウロは実在の人物で、ユダヤ教からキリスト教に回心し、この『ローマ人への手紙』を含めて『コリント人への手紙』など多くの書簡を実際に書いたと言われる。パウロにより、ユダヤ教の律法よりも隣人愛などのイエスの教えを上に置かれた。彼により人類の罪を背負ってイエスが十字架にかかって贖ったという贖罪論など普遍宗教としてのキリスト教の理論が確立されたとも言える。
    『ヨハネ黙示録』は、最後の審判について書かれたもの。キリスト教の終末観を形作ったと言える。

    【所感】
    隣人愛、原罪、復活、最後の審判などキリスト教の教義や物語については常識の範囲では知っていたが、聖書の構造やそこでのキリスト教の教義の取り扱いに関してはほとんど知識がなかったので、勉強にはなった。

    現代において非キリスト教徒として一般人が聖書について考えるとき、いくつかの観点があると思う。

    ① 現代のキリスト教徒にとって聖書の記載
    もはや聖書の内容を真正であり、いつ何時でも従うべきものとして信じることは、キリスト教信者にとっても誠実に考えれば考えるほど難しくなると思われる。もちろん、進化論を教えることを禁止しようとするアメリカの少し信じるのが難しい主張を起こす人がいることなどは知っているが、進化論の話はそのことを端的に表しているに過ぎない。そのことは改めて本書を読んでも感じることである。著者もモーセは実在の人物ではなく『出エジプト記』はフィクションであると語っている。
    すでに欧州ではキリスト教を信じる人は世代を経るに従い少なくなり、日曜にミサに出かける人は少なくなっているという。そういった世界において西洋社会での行動原理を類推するにあたって聖書に何がどのように書かれているのかを知っておくことは有益だと考える。

    ② 西洋社会への聖書の歴史的影響を知る
    西洋社会を今あるものに形作ることとなったベースにキリスト教の影響は大きい。その西洋社会キリスト教徒のテキストとしての聖書を理解するために聖書を理解することは重要だと思う。
    ユダヤ教は、著者が書くように一神教の起源である。またその神を信仰することでイスラエルの民に加わることができるという普遍宗教の素地が聖書の中に含まれている。旧約聖書の律法やそれをベースとしながらも愛や信仰に重きを置くことで普遍宗教化したキリスト教の作りを理解することは、宗教としてのキリスト教の影響力が小さくなった後も、近代人の行動や思考の基盤としてのキリスト教の影響を理解することはまた有益だと考える。

    個人的には、キリスト教に限らずもはや宗教的なものを信じることができないと考えている。それは選択の問題ではなく、能力や可能性の問題である。そうであったとしても、もしくはそうであるからこそ、宗教とは何かを理解することは重要だろう。タイトルの『教養としての聖書』というのはそういうことだと思う。本書は少し踏み込んで旧約聖書と新約聖書の内容を理解するのに役立つ、ちょうどいい本だったかもしれない。

  • 著者が2014年に慶応丸の内シティキャンパスでおこなった6回の講義をもとにしている本です。『旧約聖書』の「創世記」「出エジプト記」「申命記」、『新訳聖書』の「マルコ福音書」「ローマ人への手紙」「ヨハネ黙示録」の六編をとりあげ、それぞれの内容をわかりやすいことばで解説しています。

    著者は独創的な社会学者として知られており、他の著書でも、宗教が現代の国際政治を動かす大きな要因となっていることを論じています。本書においても、そうした観点からの言及がときおり見られ、たとえば『旧約聖書』でモーセがヤハウェに抗議をおこなっているところに注目して、「相手が神でも議論するんですから、相手が人間なら、大統領だろうと、社長だろうと、そんなの目じゃない。……これが聖書を読んだ、一神教徒のやり方です」という見かたを示しています。

    ただし本書は、そうした関心にもとづく説明が中心となっているのではありません。「教養としての聖書」というタイトルが示すように、聖書にあまりなじみのない現代の日本人にとって興味をもつことのできるような議論をさしはさみながら聖書の内容が紹介されていて、幅広い読者に向けて書かれた入門書だと感じました。

  • 聖書に関する教養
    ユダヤ教やイスラム教、イスラエルの話など色々載ってて勉強にはなった

  • 旧約聖書から
    『創世記』『出エジプト記』『申命記』
    新約聖書から
    『マルコ福音書』『ローマ人への手紙』『ヨハネ黙示録』
    をざっくり、講義形式でまとめた物。しっかり聖書を読む上での導入に良い。特に最後の黙示録は、ハリウッド映画や小説のモチーフになっている事が良く分かる。

  • 旧約から創世記、出エジプト記、申命記
    新約からマルコ福音書、ローマ人への手紙、ヨハネ黙示録
    に絞って解説されているが、
    新約は旧約を解釈しなおす試みであることがよくわかる
    引用がわからないと意味が違ったものとなることもよくわかる
    聖書全部の解説ではないが、読み方の急所がわかる解説だと思う

  • 「聖書」とは具体的に何のことを指すのか、という点から説明してくれます。
    漠然とした~教解説ではなく、あれこれ考えるよりまずテキストを読みましょう、というスタンスに好感が持てました。聖書を読むことを通して、一新教についての理解を深めることができます。

    個人的には、「ユダヤ教からキリスト教が成立する過程」についての解説が特に面白かったです。また日常生活でたまに耳にする「福音」と「福音書」の意味を知ることができたのも良かったです。
    創世記ぐらいは読んでみようかなと思いました。

  • 題目通り、教養としては聖書の概要を理解出来た気がします。違う文化で育った人の事を理解するためにはまずその宗教を知る事が大事なんだなと感じました☆
    ----------------
    p37
    日本の学校では、自殺がいけないのは、命を粗末にするから、と教えます。一神教は、そういう考え方ではなく、命より大事なものがあると考えます。命は神に、与えられたもの。命か神か、どちらかを選ぶしか無いなら、神を選ぶのが正しい。そうして殺されてしまえば、殉教です。殉教は、価値がある事とされています。

    p75
    モーセは神に反論してます。抗議しています。神はえらいですけど、理屈があれば、何を言っても良い。「神さま、なんでこうなんですか?」みたいな。これが一神教の考え方です。

    p150
    いろいろな社会的弱者が居て、その人々の生存を保障するためです。それも、生活保護みたいなやり方では無く、畑や葡萄畑を持っている裕福な人々が、責任を果たしなさい。という考え方なんですね。弱者救済の考え方。古代法で、こういう法律が整っているのは珍しいです。

  • 旧約、新約の中から3つずつ選んで内容をざっくり説明してくれる本。
    潔いまでのざっくり感がよい。
    「聖書読んだよ!」ッて偉そうに言っちゃうけど、実は『創世記』、『出エジプト記』、『ヨブ記』と『福音書』しか読んでないので(てへぺろ☆)、手紙とヨハネの黙示録のとこは助かりました。
    ただ、「教養のための」というからには、その内容をどう捉えたらいいのか、クリスチャンはどう理解しているのか、をもう少し解説してくれるといいのにな、と思いました。

  •  旧約から三つ、新約から三つ、詳しく解説されている。
     後者、「ローマ人への手紙」に難儀する。これを送り付けられたローマの初期教会の会衆も解釈に窮したことだろう。

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著者プロフィール

橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう):1948年生まれ。社会学者。大学院大学至善館教授。東京大学大学院社会学部究科博士課程単位取得退学。1989-2013年、東京工業大学で勤務。著書に『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『教養としての聖書』(光文社新書)、『死の講義』(ダイヤモンド社)、『中国 vs アメリカ』(河出新書)、『人間にとって教養とはなにか』(SB新書)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)など、共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』『おどろきのウクライナ』(以上、講談社現代新書)、『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)などがある。

「2023年 『核戦争、どうする日本?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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