目の見えない人は世界をどう見ているのか

  • 光文社 (2015年4月16日発売)
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  • 本 ・本
  • / ISBN・EAN: 9784334038540

感想・レビュー・書評

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  • 伊藤亜沙さん著「目の見えない人は世界をどう見ているのか」
    久し振りに実用書的な本に手を出した。
    なおすさんのレビューを観て自分も読んでみる事に。かなり評価が高い本なので年末に購入し内容に期待していた。

    自分の経営する居酒屋に今は亡くなってしまったが先天的に全盲の方が頻繁にいらしていた。その方はただ目が不自由というだけで普通に飲食していたし、ベロベロに酔っぱらって帰る事も多かった。
    「右から皮、ネギマ、つくねですよ」とか言ってあげれば手探りで串を触りながら焼鳥を楽しみ、毎日替わる「本日のおすすめ品」や「本日の日替わりメニュー」等の黒板等に書き込んでいるメニューも口頭でお勧めすれば他の健常者の方々よりも楽しんで飲食している様に感じていた。
    お会計もお札に印字されている点字を触りながらお札の種類を間違える事などなかった。

    その方とよくいろんな話をしたのだが凄く記憶にあるのがその方のお母さんの教育方針。
    子供が全盲として生まれ、視力抜きで一人前の大人にするために考えて全寮制の盲学校に幼い時から入寮させたという。親として過保護にしてしまいがちだがあえて子供の未来の為にそうしたというのだ。
    そのため彼の一般教養は素晴らしく高く、普通の人が視覚から得る情報はすべて聞いたり触ったりして知識として記憶していると言っていた。
    その彼の人生は母親の素晴らしい決断があったからであるだろうし、その決断がなければ彼はもっと不自由した人生だっただろうなと思ったのを思い出す。

    そしてその彼は盲目のギターリストで1000曲以上の曲を記憶していると言っていた。楽譜を読む事は当然しないので曲を聞いて記憶してしまうらしい。この本にもあったが視覚を使わない分、確かに脳の他の部分が研ぎ澄まされているのだと思う。自分もギターをかじったが曲のコードなんてコード譜が無ければせいぜい10曲覚えているかどうか…
    その100倍以上を記憶している彼の脳の力に驚いたものだ。

    今もパラリンピック競技のゴールボールの強化選手がよくきてくれている。彼らもまた視覚に障害を持つ方々である。
    しかも彼らは前回のパリオリンピックの金メダルを持参してくれて、金メダルを惜しげもなく触らしてくれたりオリンピックのエピソード等々、他のお客さんも交えて凄く楽しい貴重な交流をしてくれる。
    彼らだからでしかできない事を目の当たりにして、自分はいつも尊敬と感心と敬意を抱かされる。共通してなによりメンタルと気持ちが本当に素晴らしい。

    この本がもっと世に溢れ、「障害」に対しての固定観念と先入観による偏見が良い意味でもっとフランクになればと思う。
    ある意味で彼らにしかできない事に触れ、見えるという自分の愚かさを知る事もしばしば。
    できるだけ多くの人に感じて貰いたい。

  • ずいぶん前から気になっていた本書、久しぶりに訪れたある本屋の店頭にあったのを、ご縁だと思い手に入れました。いろいろと考えさせられる内容で、ロングセラーになるわけだ、と納得。いろいろな個性のある人たちが、もっと自由にいきいきと過ごせる世界になればいいな。

  • 読み終えたあと、なぜか感想を上げるのを忘れていた本のメモから(2022年10月29日読了)


    目の見えない人は、見えないのではなく、晴眼者と違う見え方がしているのだ。
    この本を読んで、そのことに気づいた。

    朝、洗濯物を干しながらオーディブルでこの本を聴いていたら、起きてきたばかりの娘から「聴いてるだけで、内容はちゃんと頭に入ってくるの?」と聞かれた。
    字で読まないと本のスジが追えないのでは?と気になったのだろう。

    まさしく、それ。
    晴眼者が、目で見ることに頼りすぎていることをよく示した実例だなあ、と。

    人に読ませたくなって、あとから紙の本買っちゃいましたけど。

    結構読んで驚きがあります。

  • 目の見えない人に、何を聞いてみたいだろうか。
    そこは暗闇の世界なのか。
    聾唖の人をどのように区別し、愛するのか。
    寡黙な優しさを感じられるのか。
    盲目の世界において、美しさとは。
    価値観はどのように変わるのか。

    残念ながら、本著はそういう観点では、インタビューをしない。また、登場する「目の見えない人たち」は、生まれつきではないから、イメージの記憶を持つ。映像記憶の無い人に関心があったので、先の質問リストも合わせて、少し残念だった。

    ジュヌセクワ。
    フランス語で「いわく言いがたいもの」、言語化の対義語。暗黙知みたいな事だが、それだと、視覚障害者には伝わらない。視界から消える事で不自由に感じるもの(大多数)、逆に消える事で却って集中力を増す、または、囚われなくなるもの。

    脳内で映像化し、その映像化のために言語があるとしたら、映像を持たぬ視覚障害者にとって言語とはどのような役割なのだろう。色々、消化不良な感じが拭えない。

  • タイトル通り、見えない人の世界について触れられる本。
    見えない人には、表と裏、外と内、のようなある種の評価みたいなものが存在しないという話があり、言われてみればそりゃそうだとなるけど、こんな基礎的な語彙の違いにも自分では気付けないのが、嫌ですね。
    見えない人って世界がどう見えてるんだろう??という興味本位で読むのにとてもおすすめの本です。
    さらっと読めます。

    • NSFMさん
      なおすさん、はじめまして。

      自分の経営する居酒屋のお客さんで先天盲の方が以前よくいらしていました。その方から色んな話を聞きました。

      例え...
      なおすさん、はじめまして。

      自分の経営する居酒屋のお客さんで先天盲の方が以前よくいらしていました。その方から色んな話を聞きました。

      例えば「赤」という色は見たことがないのだが知識として認識している事。色は全て知識として相違性でインプットしていると言うのです。
      血液、リンゴ、トマト、日の丸等々。視覚で捉えられる自分達健常者の「赤」と彼の「赤」は異なる「赤」であり、情報としてある自分達の色は彼にとっては知識として処理するしかないのです。根本的に違う感じがしてとても驚いた事を思い出しました。
      彼にとって色とは共通会話の中で必要だから知識として叩き込んでいると仰っていました。
      また彼の家には電球等は必要ないから全て取り外しているとも仰っていました。来客様に蝋燭等を買って用意してあるとも言っていましたね。

      興味深い本ですね、自分も今後読んでみたいと思います。
      2024/12/22
    • なおすさん
      NSFMさん

      コメントありがとうございます。
      色の話、とても興味深いです。以前他の本で似たような内容を読んだことを思い出しました。色も絶対...
      NSFMさん

      コメントありがとうございます。
      色の話、とても興味深いです。以前他の本で似たような内容を読んだことを思い出しました。色も絶対的すぎてギャップに気づきにくいですね。
      また、個人的には、目の見えない人と色についての会話ができていることにリスペクトを感じました。
      この本にもありましたが、目が見えないことを優劣ではなく差異として捉えることが大切なのだと思います。
      無意識にでも、優劣で捉えていたとしたら、何に対してもすごい!!のような感想で終わってしまいます。自分と色の捉え方が違うことに興味をもって面白がれることも当たり前ではないと思いました。
      もちろん、全てその人とのコミュニケーションがある上で、ですが。
      2024/12/27
  • タイトルのとおり、目の見えない人から見た世界がどのようなものか、空間、感覚、運動、言葉、ユーモアの観点から紹介した本。

    見えない人の不自由さばかりを想像し、気の毒だと思いがちだが、それは見える人からの感じ方に過ぎず、見えない人の方がむしろ自由な楽しみ方をしている面もあること、視覚がないから死角がないこと、つまり、見えている人より、むしろフラットに、自由にモノを見たり感じたりできることなど、いろいろ参考になった。全盲の人も美術鑑賞を楽しめる、ソーシャルビューという方法も面白そう。

  • 目の見える人が外界から得る情報の8~9割は視覚に由来するという。
    本書は、自分と異なる体を持った存在に興味を持ち、生物学者を目指したこともある著者が、『身体論』のアプローチから、目の見えない人がどのように世界を認識しているのかを分析する。

    少し前に視覚障害者のドラマを観て、目の見える自分には気づかないいろいろな不便があるんだろうな、なんて気持ちで手に取った本だが、その考え方がずいぶん傲慢であったことを冒頭でいきなり思い知らされた。
    確かに、目の見える人が視覚によって得ている情報を、目の見えない人が同じ形で受けとることはできない。しかし、目の見えない人は、目だけでなく、他の器官を使って情報を得ているのだ。
    わかりやすいな、と思ったのが、四本脚の椅子と三本脚の椅子の例え。脚が一本少なくても、バランスを変えることによって、椅子としての機能は四本脚と変わらない。目の見えない人もこれと同じで、他の感覚を使うバランスがそもそも違うのだ。

    本書では、空間のとらえ方、感覚の使い方、運動、言葉を使ったコミュニケーション、というカテゴリで、目の見えない人の認識のしかたを紹介してくれるが、これがとてつもなく面白い。
    著者が東京の『大岡山』駅から、丘の上にある東京工業大学まで目の見えない人と歩いた時のこと。
    目の見える人にとってはただの坂道だが、目の見えない人は、『大岡山』の地名の意味を足元の感覚で理解したのだという。
    また、視覚を遮断した状態でプレイするブラインドサッカーについては、やったことも観たこともなかったが、単に通常のゲームにペナルティを付加している、というのでなく、独自のプレイのしかたやおもしろさがある、というのが興味深かった。この本を読んだ後だったら、パラリンピックにもっと興味を持っていたかもしれない。

    目の見えない人と目の見える人が組んで美術鑑賞を行う「ソーシャル・ビュー」は、目の見える人が言葉で目の見えない人に色や大きさ、形などの情報や自分の感じたことを伝え、それに対して目の見えない人が質問したり皆で話し合ったりして、鑑賞を深めていくものである。
    目の見えない人に情報を与える、という一方通行のコミュニケーションではなく、双方に新しい気づきが見られるという点で、ウィンウィンの鑑賞法だといえる。

    目の見える人は、思った以上に視覚からの情報に引っ張られがちだ。その点、目の見えない人は余分な情報が少ない分すっきりと整理して考えることができる。
    それぞれの感覚の使い方、感じ方を知ることで、思いがけない発見やおもしろさが生まれてくるのだ。

  • 数年前にNHKスペシャルか何かで生命をテーマにした番組に出ていた著者がずっと気になっていて、何か一冊読んでみたいなと思って読んだ本です。
    期待を裏切らず、面白く興味深く読みました。
    著者は「視覚障害者」と言わず「見えない人」と言っている意味が、とても分かりやすく述べられています。
    見えないことが全て悪いことではない、捉え方が違うだけで、むしろ晴眼者(見える人)よりも多角的に事物をとらえ理解していることは尊敬に値すると思います。
    見える人向けに作られた社会なので不便なことがあるだけで、見える人より劣っているわけではない。私たちは見えているけれど、それは一部分でしかないということを感じ、世界が少し拡がりました。未知ではありますが。
    本に出てきた、ダイアログ・インザダークという体験施設に行って未知の世界を体験してみたいと思いました。

  • 目が見えないということがどういうことか少し理解したように思う。

    聞かされて「そうだったのか」と思うこともあれば「やっぱりそうなんだな」と思うこともあった。

    例えば触覚に関して、点字を読むのは触覚ではないと言われていて、それは想像するとすぐに納得できた。
    ただ、目が見えない方の点字の識字率が13%程度と少ないことは知らなかった。大人になってからでは覚えるのがなかなか大変だそう。もっとたくさんの方が読めるものと思ってたので気を付けたい。

    他に聴覚に関しては以前読んだ「目の見えない白鳥さんとアートを見に行く」の白鳥さんも出てきて、思いだしながら読み進められて理解が深まった。

    触覚や聴覚以外にも章ごとに人間の五感について書かれていてその各感覚の使い方の違いが面白くかった。
    意識して視覚意外も使って生活すると新しい見方や発見がありそうに思えた。

    障がいに限らず、自分と違う感覚を持った方の生活や仕事、話を聞いたりするのは面白い。

    いい読書体験になりました。

  • 読もう読もうと思って積読していたらあるとき小谷野敦さんのレビューを見つけてがっかり。
    ユクスキュルの「生物から見た世界」とは別物というのだ。
    ぱらっと読むと確かに個々の事例は詳しいけどメカニズムに迫ってはいない。
    ユクスキュルの著作では動物の視点が詳しく研究されていたが、こちらの本は身体論に留まっている。
    たいへん残念な本。

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著者プロフィール

東京工業大学科学技術創成研究院未来の人類研究センター長、リベラルアーツ研究教育院教授。マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。専門は美学、現代アート。東京大学大学院人文社会系研究科美学芸術学専門分野博士課程修了(文学博士)。主な著作に『ヴァレリー 芸術と身体の哲学』『目の見えない人は世界をどう見ているのか』『どもる体』『記憶する体』『手の倫理』など多数。

「2022年 『ぼけと利他』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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