著者は政府の経済政策でのブレーンであることから「御用学者」と揶揄されることが多いが、「御用学者」ということの凄さを知らしめるのが本書である。
現在の世界経済・日本経済を最先端の知識で、かつ分かりやすい言葉で、バランス感のある説得性を持って読ませてくれる。
世の中には、難しいことをより難しく、時には易しいことも難しく言う人が大手を振って歩いているが、本当に頭の良い人は、難しいことを、いとも簡単に易しく説明できる人だと思う。
本書でそれを実践しており、かつ現在の我々に繋がる事柄を興味深く説明してくれる。
興味が湧いたアイテムは、
「アベノミクスの衝撃」
「ピケティをどう読むか」
「実質実効為替レート」
「グラビティモデル」
「日本、アメリカのバブル崩壊と中国との比較」
「ミドルインカムトラップ(中所得国の罠)」
「アメリカ経済の特徴」
等々で、最後に今後の日本経済の課題と処方箋を著している。
中でも、「実質実効為替レート」では、現在の円の実質実効為替レートはプラザ合意以前の為替レート(240円/ドル)と同じで、実質的には相当な円安である。
(最近外国人観光客がやたら多いのはその為であろうか?)
理由は過去日本では長期のデフレで物価が下がり続けたが、アメリカは緩やかなインフレであり、そういう実質的な内容を調整して出来上がったのが、実質実効為替レートである。
為替のマーケットは「名目」で動く、あるいは場合によっては議論の正しさなど問題ではなく、みんながそう思えばそっちに動くというのが、為替のファッションである。しかしマーケットがいくら名目錯覚に陥ったとしても、いずれは必ず実質実効為替レートに近づく(つまり円高へ)と、経済学者としての信念を見せる。
また物理学の「グラビティモデル(=万有引力の法則)」を経済に応用した人がいたのには驚いた。(この理論を発表したオランダの経済学者は第1回のノーベル経済学賞を受賞)
これモデルから日中の今後の貿易高は益々増えると予測する。
「アメリカ経済の特徴」では、アメリカが他の先進国と比べて大きく異なるのは人口構造だという。アメリカは今も毎年300万人のペースで人が増えている。そこには他の先進国と同じ少子高齢化の「白いアメリカ」と、人口増を含めダイナミックな成長をしている「白くないアメリカ」があるという。
このような知的好奇心を刺激してくれる箇所が随所に見られる。
是非お勧めしたい1冊である。