古市くん、社会学を学び直しなさい!! (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334039479

感想・レビュー・書評

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  • 【タイトルに偽りなし。古市君が社会学者たちに、文字通り“あなた、ちゃんと研究しなさい”と指導されます】

    お馴染みの“社会学者”古市氏が、12名の気鋭の社会学者たちに以下の質問を問い、教えを請うやりとりの対話集です。
    ・社会学とは何か
    ・社会学の目的とは何か
    ・社会学は何の役に立つのか

    社会学に明るくない人にもわかりやすい受け答えで語られており、また社会学の定義や目的も様々な研究者により多角的に説明されています。社会学の意義、全体像、社会学が取り扱う領域への理解は、この1冊でも大分深まります。何より、「社会学って何か面白そうだな」と思わせるあたり、そこらの基礎テキストより効果的な入門書かもしれません。出て来る12人の先生のキャラも立っていて、古市君がまさかの素直でおとなしい聞き手とは驚きました笑。社会学が、他と比べて人の個性に影響を受ける学問、という示唆も頷けます。

    「社会学とは何か?」との問いひとつに対しても、先生方の社会学の定義が様々であることから見て、社会学という学問が捉えづらいものであること、そして色々な意味で若く、他と境界線の引きにくい分野であることが窺えました。

    以前から、大きな事件が起こるとテレビに現れる社会学者のコメントは、なんとなく“敢えて斜め上を行く”ような“穿った”視点ばかりだな、と感じていましたが、上野千鶴子先生の「社会学は常識の関節外し、普通の人が当たり前のように信じていることを素直に信じない。常に疑ってかかるから、シニカルになる」という話に、そもそも学問が持つアプローチ特性によるものなのだ、と合点がいきました。また、慶応の小熊先生初め何人かの方が「社会学は政治学や経済学、法学の後の残余項目」と認識されていることも、結果として経済や政治の立場で語れない社会変化が起こると、メディアにとって社会学者は使い勝手が良い(=シャーマン)存在なのだ、と納得です。

    ですが、それより何より面白かったのは、この本の「裏のテーマ」です。
    読んでいて、あー・・と思いましたが、この企画の「社会学の基本を教えてもらう」というのは、表の目的です。
    何のことはない、裏テーマは、古市氏(君)の世間での発言やふるまいに、社会学者の先生方が真っ当な注文を浴びせかけるという、指導の実況中継。「博論なんて本当に書いたほうが良いんですかね・・」と煮え切らない同氏に対して、社会学者たちが「あんた、ちゃんと研究しなさいよ」と手厳しくツッコミを入れる、という構図の面白さです。

    特に佐藤先生、上野先生、仁平先生のツッコミが鋭い・・!皆さん、「真っ当な研究も重ねていないのに、メディアで予言者を気取るな」と言わんばかりのご指導です。まるで研究室を除いているかのような錯覚を覚えました。そして何より驚いたのが、古市氏自体もまえがき、あとがきでそれを認めてしまっています。
    「社会学が面白いことは知っているが、明確に社会学を規定し、流ちょうな説明が出来るわけではない。社会学者という肩書も、通りがいいから使っているに過ぎない。(p.7)」
    「・・・「若者」を肩書にするわけにもいかないので、いつのころからか肩書が社会学者になっていった。初めは抵抗があったものの、代替案が見つからないので今日まで使い続けている(p.308)」
    認めてしまうあたり素直な感じが若干拍子抜けですが、一方で古市氏のポテンシャルやメディアミックスの上手さ、若者の理解者というポジション取り、社会学の広報マンとしての動きなどは、先生方からも一定の評価を得ているようです。だからこそ、ちゃんと研究して真っ当に勝負しなさい、と殆どの教員から諭されており・・・そのやりとりがリアルで、大変面白く読ませていただきました。
    仁平先生に至っては、「社会学者たちを担ぎ出したのも古市氏自身のブランド戦略なのでは・・?」と、これまた鋭いツッコミ。勉強になります。

    本のタイトルは単なるキャッチコピー、くらいに思っていましたが。まさか出版物で本当に指導の一端を垣間見るなんて・・・
    なかなかないという意味でも、一粒で二度おいしい「入門書」です。

  • 日本を代表する12名の社会学者との対談。

    社会学って何ですか?の問いにそれぞれ答えて自らの視点、他の社会学者との違いや古市氏の立ち位置なども織り交ぜた多様な内容。
    社会学にも理論社会学、宗教社会学、計量社会学、教育社会学などがあるらしい。
    気になる方の著書を少しずつ読んでいきたい。

    覚書
    ここにはない可能性に対して「ムラムラ」してしまうことと、日常生活の小さな人間関係の「ムラムラ(村々)」のなかで安心していたいという、その両義性に引き裂かれている

    自分の居心地のいい共同体と文体が手を結びすぎているためにそれとは異なる方向で常識外しをしようとすると文体が過剰に鋭くなってしまう

    嫌がらせは大事 注目を浴びるだけでなく反発を引き出せばそこから自分の意見を展開できる

    社会学は生きている人間が必ず持つ関心に応じている 学界の中で素晴らしい評価を得ることとそれが広い社会的なコンテキストの中でそれなりの意味のあるものとして発信されることが車の両輪のようになってなくちゃいけない

    社会学は生きるのが不器用な人のための学問
    考え続けることによって自由になる 乗り越えていく

    戦後日本型循環モデル 仕事⇒家族⇒教育⇒仕事・・・

    社会という茫漠としたものを少しずつわかりやすく編集して、見取り図を作りたい。その過程での発見はいつもワクワクします。

  • 社会学に興味があり、入門書的に手に取った。
    (これから社会学やジェンダー関連の読書が続きそう)

    本書は、(通称)社会学者である古市典寿氏が12人の日本を代表する社会学者に、曖昧な学問とされがちな社会学に対して改めて存在意義を問いかける。
    自分の知識が少なすぎて難解な部分が多くあったので、もう少し勉強してから再読したい。

    自分用メモ⇓

    佐藤俊樹氏
    「つまり、自分は外にポンと立てていると思った瞬間に、"イタい"社会学者になるんです。(中略)外部に立てているかのように語らずいかに頑張れるかが、社会学者として仕事をしていくうえでは重要になってきます」

    「まず『こういう前提の下では、こういうことが言えます』という形で、前提を明らかにして話すことが大切です。もちろん、そうやって限定をつけて話すわけだから、大したことは言えません。でも、社会学者としての仕事は、むしろそのあとのやりとりにあるんです。インタビュアーが最初にする質問には、まだぼんやりとしているものがけっこうあるんです。それに対して、僕は受け答えをするなかで、『じつは、こういうことが気になっているんじゃないですか』というふうに返していきます」
    「優秀なセラピストは、ある部分以外は絶対に揺れてはいけない。それに対して社会学者は、相手と共鳴しながらゆるやかに答えを生み出していきますから、セラピストにはもっとも向かない職業です。どちらかというとコンサルタントに近いけど、一般的なコンサルタントは『こうすれば赤字は二年で解消できる』というふうに、預言者になることを求められますよね。その点は社会学者と違います」


    上野千鶴子氏
    「私がゼミで一貫していってきたのは、社会学を含む社会科学は経験科学だから、答えの出ないといは立てないということです」
    「(中略)手におえないといは立てないことです。簡単にいえば、風呂敷を畳めということです。手に負える問いでも、一年で出せる答えと、三年で出せる答え、五年で出せる答え、一生をかけないと出せない答えがある。そういう問いのスケール感を間違えてはいけません。」


    仁平典宏氏
    「それぞれの方法論には、社会とは何か、どう捉えるべきかに関する前提が組み込まれていて、いい研究と言われるものは、その部分への自覚や理解が深いように思います。比較的共通するエッセンスとして、少なくとも次の四つがあるかな。
    1つは、『男は戦う生き物』みたいな本質主義はとらず、物事は言語的。意味的に構成されているという見方。第二に、物事の意味は関係性の網の目のなかで決まり、その布置は時代や集団によって変わるという見方。三つめは、個人の行為は社会的な要因によって影響を受けると同時に、その行為によって社会は差異を孕みながら再生産されていくという見方。そして最後に、研究者も社会の外部に立てず、研究や発言はその再帰的なプロセスに組み込まれていることへの自覚」

    「大学に所属して一生を終えるルートというのは、それこそ専業主婦や正社員と同じように、特殊な時代だからありえたものだと思うんです。社会学を勉強した人間からすると、そこに乗っかればいいとは素直に信じられません」


    大澤真幸氏
    「人間は全員、生ける社会学者みたいなところがあるんです。たとえば物理学の素粒子論は、専門家にならなければ興味を持ちません。ところが社会学は、他者と一緒に生きていくという現実そのものに対する反省ですから、誰だって多かれ少なかれ、日常的にやっていることです。つまり、全員がフォーク・ソシオロジストだという側面があって、その中から、洗練された、狭い意味での社会学者が出てくるという風に考えた方がいいんです。」

    「まず自分が楽しいかどうかが決定的に重要なんですよ。つまり自分がワクワクするようなことでなければ、他人がワクワクすることは絶対ありませんから。自分が面白いと思ったけど、他人が面白く思ってくれないことはたくさんあります。でも、自分はつまらないけど、他人が見たら面白いということは、まずないんです。だから、自分もそれを知ったことによって、本当に驚いたり、納得したりとか、そういく気持ちで研究しているかどうか。そういう気持ちがなければ、人を深く納得させる発信なんてできないんです。」

    「人間っていろいろな生き方が当然あるわけだから、好きなようにすればいいわけですけど、僕自身は、自分が生きていくうえでぶつかっている問題を、社会学でやることである程度乗り越えていくというか、対応できている感じがするんです。その意味では、僕のような不器用な人にとっては、とてもいい学問なんです」
    「役立つというか、それを考えることによって解放される感覚です。『この理論は人生のこういう場面で使える』といより、考え続けることで自由になっていく。この社会でなぜこういうことが起きているのかということを、いちばん底の底まで考えていったときに、精神の自由というものがあるんですね。」

    「社会学という学問は、どうしてもアイデンティティが拡散しやすい学問です。でも、そこが社会学のいいところでもある。だから、『それは社会学じゃない』とかいろいろ言われますが、そんなことは気にする必要はありません。説得力があればいいだけですからね」


    山田昌弘氏
    「一見、個人的に見える問題でも、その裏には社会的な構造や、その変化がある。そこをつないで分析するのが社会学なんだ、と」

    「私は学生たちに、ユングの言葉をもじって『社会学というのは、社会をあり得ない幸せな状態にするのが目的ではなくて、辛さに耐える力をつけることが目的です』と話すんです。どんな社会になっても、辛いものがなくなるわけじゃないと思うんですよ。社会学的な認識というのは、そういう辛い状態に耐える力になり得ると思うし、人々が辛い状態に耐え得る制度をつくる必要はあるように感じます。少しでも人々が生きやすい社会、生きにくくなったとしても、そこから立ち直りやすい社会にはしたいと思います」


    鈴木謙介氏
    「たとえば、経済学の処方箋の出し方って、『デフレから脱却したいならリフレです』みたいに、『もし~したいならば、~せよ』という条件付きの処方箋だよね。でも、その手前にある、人々がどうしたいのかという話は、解釈学的に踏み込まないと見えてこない。だから、社会学にしか手当てできたない不安とか、あるいは社会問題があって、その知識をもっと市井の人々に受け渡していく仕事をする人が必要だろうというのは、切実に感じることですね」


    橋爪大三郎氏
    「(社会学以外の勉強をするときに、どういう基準で本を選べばいいか)天才だと思う人の本を読む。」
    「レヴィ=ストロースの戦いを見て、彼がやり残した課題を受け取るということ。レヴィ=ストロースが勝った部分はもちろんすばらしい。だけど、負けているところがあったら、それを課題として受け取ることが大事なんです」


    吉田徹氏
    「僕は司馬遼太郎がけっこう好きなんです。司馬が書くような史実に基づいて歴史小説と、戦国時代を舞台に人間模様を面白く描くような時代小説とは違う。さらに、単に史実を調べるのが好きなだけなら、たしかな史実の専門書を読めばいい。僕にとっては、たしかな史実に則して歴史小説を書くスタンスが面白く感じられて、社会学でもそういうことができないだろうかという思いはあります。つまり、あえて無機質なデータとして拾った人々の意識を、アウトプットして出すときには、社会的なリアリティの形に戻して出したいという感じです」

    「昔と比べて違うのは、みんなが社会的なアイデンティティに敏感になっているということです。七〇年代、八〇年代の日本人は、『俺たちはイケてる国の国民』とい思っていた。要するに、『イケてる国の真ん中らへんで、その真ん中らへんは世界で上のほう』という共通の意識があったんですよ。これはどういうことかというと、戦後の日本社会はずっと坂を上ってきたので、社会の形についても、自分の位置づけについても、大雑把な捉え方しかできない状況だったんですね。でも、バブルが弾けて社会が停滞期に入ると、安定した仕事についているかどうかとか、学歴が大卒か非大卒かとか、いろいろな指標で自分を位置づけられるようになってきました。そういう意味では、私が使っている言葉でいうろ、日本人の格差、階級、回想についてのリテラシーが高まってきている。つまり、アイデンティティを考えるときに、一つだけの基準で決めているんじゃなくて、『こういう観点で見たとき、俺、他のやつと比べてイケてるかな』みたいなことを、複眼的に見るリテラシーが身についてきたわけです。だから、社会意識と社会の仕組みのつながり方は上質化したと思っています。別の言い方をすれば、自分の位置づけをリアルに知って対峙しなければいけないから、辛いわけだけど、リテラシーが高まると辛くなるのは当たり前なんです。」

  • 西洋の社会学の大家ではなく、現代日本の社会学の第一人者と言える研究者を一手に取り扱った入門書という点ではなかなか珍しく、日本の社会学事情を概観するには良書。タイトルほど大御所の社会学者が寄ってたかって古市さんを説教するという訳ではなく(言いそうな人は言ってるけど)、逆に同業者(?)の彼に語る中で、各自の「熱い」問題意識が引き出されている感があり、意外と読み応えがあった。

  • 読み応えあり。対談相手の先生方の著書も読みたくなります。
    古市さんはインタビュアーとしてかなり上手です。
    耳の痛いことを言われてもちゃんと載せてるところも偉いと思いました。

  • 貧困だとか、犯罪だとかは、
    個人に由来するのではなく
    社会が生み出した現象で、
    社会の一部だと考える論を
    私は強く推しているんだけど、
    それを肯定してくれるように感じた。

    まさに社会学とは、
    みんながなんとなくわかっていたことを
    実証する学問と説明する学者がいたが、
    それを実行してくれたと思う!

    家族社会学 山田先生がいう
    前時代的家族が
    機能する人と機能しない人の格差が生まれる。
    社会では、機能しない家族に生まれた私が悪い自己責任と斬られるけど、
    機能しない人をベースとした社会制度ができればいいなぁと思う。

    社会学者は分析に徹するべきか、
    提言まで行うべきか論について
    様々な意見が出ていたけど、
    提言まで行って欲しい!
     

  • 社会学とは?に対する複数の社会学者の認識を知ることができた
    この本をきっかけに、登場した社会学者の書籍を読んでいきたい

  • 12人の社会学者に「社会学」とは何かを問う。

    社会とは非常にあいまいな概念だが、政治学や経済学ではカバーしきれない部分を社会学が担い、「社会」という抽象的な研究対象を普段とは違った視線で説明することと多くの学者は説明している。

  • 社会学について読んだ初めての本。
    入門書としてどうかは置いといて、社会学の幅広さと曖昧さを知った。

  • 「社会学者」の肩書きで活躍するが批判も多い古市憲寿氏が、「社会学って何ですか?」と日本を代表する様々な社会学者に聞きに行くという趣旨の本。
    話を聞きに行く社会学者は、小熊英二氏、上野千鶴子氏、宮台真司氏、大澤真幸氏、橋爪大三郎氏など錚々たる面々で、まさに日本を代表する社会学者たちである。それぞれに話は非常に面白く、本書の意図どおり社会学の魅力を感じることができた。
    また、題名のとおりに、各社会学者から古市氏に対して辛辣な「指導」があるのも見どころであり、面白く読めた。一方で、古市氏には、聞き手としての才能があるな、とは感じた。

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著者プロフィール

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。2011年に若者の生態を的確に描いた『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。18年に小説『平成くん、さようなら』で芥川賞候補となる。19年『百の夜は跳ねて』で再び芥川賞候補に。著書に『奈落』『アスク・ミー・ホワイ』『ヒノマル』など。

「2023年 『僕たちの月曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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