- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334043186
感想・レビュー・書評
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ブレクジット前後の英国事情、現代の労働者階級の分析および現代にいたるまでの100年の経緯の概観を記した本。
相当資料を読み込んだと思われる豊富な知識を前提とし、ち密ながらも簡潔な文章で、内容はやや硬めながらも英国事情をお手軽に把握できるのはさすがの文章力としか言いようがない。
特に、日本で生まれ育ってそのまま日本に住んでいる私のような人間には、ブレクジット前後の事情が庶民の目線で記されている第一部が興味深かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
勉強になった。 まさに勉強になった、という本。 現在の英国を理解するには、すごく大切な本。
「僕はイエローで…」からひかれてすっかりはまってしまったみかこさんなのですが、なるほどなるほど、パンクな生きざまと明確な主張、そして社会起業家的に社会を変えようと行動していらっしゃる方、というそんな中で、さらに勉強家?というか研究者?というか、なるほどなるほど、やはり自分の考え方のベースで共感できる点が多く大好きな著者である。
これまでの英国保育士とか、自らの労働者環境(今回は「ワイルドサイド…」で出てきたメンバーへのEU離脱投票に対するヒアリングもあった)という「地べた」の感覚から反緊縮に対する明確な主張と、それに加えて100年の労働者階級の歴史を棚下すという手法を用いて検証していく方法、本当に勉強になりました。
今回の抜粋はまえがきから。
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P5
実際、家族も、知り合いもない異国の地に一人でやってきて、仕事を見つけたり、出産したり、育児したりしながら生活していくのだから、それは困ったことや途方にくれることの連続であり、そういうときに私を助けてくれたのは、近所の人々であり、配偶者の友人たちやそのパートナーたちのサポートの輪だった。彼ら無くして現在のわたしはいないと言ってもいい。わたしが生まれ育った国の人々と比べると、なんだかんだ言っても彼らはとても寛容で、多様性慣れした国民だと切実に感じていた。
ところが、である。
(中略)
「ダーリンは離脱派」、などとふざけたことを言っている場合かどうかは別にしても、そもそもわたしの配偶者自身が離脱に入れた労働者の一人だった。これまでは「労働党支持」という点で、大まかには同じ政治的考えを持っていたわたしたち夫婦が、真逆の投票を行ったのは、EU離脱投票が初めてのことだった。
(中略)
そんなわけで、よく理解できない事柄に出会ったときに人類がせねばならないことを、いまこそわたしもしなければならない、と思った。勉強である。
英国の労働者階級はなぜEU離脱票を投じたのか、そもそも彼らはどういう人々なのか、彼らはいま本当に政治の鍵を握るクラスタになっているのか、どのような歴史を辿って現在の労働者階級が形成されているのかー。学習することはたくさんあった。この本は、その学習の記録である。
(中略)
このように、本書は、英国在住のライターが、EU離脱票で起きたことを契機として、配偶者を含めた自分を取り巻く労働者階級の人々のことを理解するために、まじめに勉強したことの覚書といえる。
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当時は私も、深い見識もなく「英国がEU離脱!?本気なの!?」など驚いていましたが、英国の「地べたから」のリポーターであるブレイディみかこ氏の地域付き合いの範囲のインタビューを読むと、現政権に反旗を翻してEU離脱に票を投じたくなる気持ちもわかってしまった。この手の話はやっぱり、異国の人間が頭ごなしにまとめにかかる本より、実際にその地で暮らす人間の言葉を収録してくれる本の方がよく響く。
タイ人の女性と結婚生活をしている男性が、EUという線引きはおかしいと指摘するのはごもっともな気がする。
この本に出てくる人たちは、みな毎日まっとうに働いてそれに見合った報酬がほしいと望む誇り高い精神の持ち主だ。
「社会主義とか平等主義とか唱えるのは、だいたい腹を空かしたことのない階級の奴らよ」 -
英国の底辺、労働者階級から見たブレグジットと労働者階級の歴史について書かれている。移民問題に置き換えられているが、最近の日本で言う「子持ち様」論争のように、攻撃対象を間違えた故での分断が進んでいる印象。漠然と欧州の政治は日本よりマシと勝手に想像していたが、低層階級の人々は根深い階級意識に苦しめられてきたのか。ブレグジットについても肌感覚での実態が知れて興味深かった。
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「ワイルドサイドを歩け」の愉快な「おっさんども」(おばさんも含まれる)が登場すると聞いて一も二もなく手に取ったが、いつもの著者のノリとはちょっと趣を違え、英国の政治史解説にかなりのページが割かれている。確かに必要な内容なのだが、ハマータウンのノリを丸々期待していたら少し違った。
だがさすがは著者で、そんな内容にもかかわらず破格に読みやすい。そのことと、英国の市民の政治意識の高さが印象に残った。
国政選挙の投票率が3割とか4割とか言っている時点で、我が国はお話にならないんだとつくづく痛感した。
2021/8/18〜8/19読了 -
著者はEU離脱をトランプ旋風や欧州ポピュリズムとは同一視せず、極右勢力とは違った構造によって起こった出来事と考察している。
ただ色々調べてみるとブレグジットと労働者階級の反乱を関連づけるには根拠が薄いとの批判もまあまああるみたい。特に投票者の属性とか。このへんは他の新書を読み比べながらファクトチェックする必要がありそう。
ルポとしては面白い。特に離脱派へのインタビューは労働者階級の率直な心境が出ているなあと感じた。 -
1章読んで挫折。
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英国に住む英国人と結婚した著者から見たブレグジットの背景を記した一冊。著者の夫も含め、身近な英国人の友人たちなどは労働者階級に属しており、ほとんどはEU離脱に投票したとのこと。
中でも良かったのは中盤にある6人ほどの友人たちへのインタビュー記録。どのような人たちがどのような思いを持って離脱に投票したのかが分かる。労働者階級にまつわる100年の歴史も簡単にまとめられていて勉強になった。
本にも書かれているように日本からニュースを見ていた時には排外主義的な思想が背景にあるのかと思っていた。そういう面もないわけではないとは思うが、これまで蔑ろにされてきた(特に白人の)労働者階級が起こした反乱だと捉えると何が起きていたのかがよく理解できた。 -
ブレグジットに賛成票を投じた労働者階級は、本当に排外主義的な右派なのか。労働者階級100年の歴史を振り返ると、経済的に冷遇されて来たことが原因だとわかってくる。勉強の軌跡。
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今年読んだ本で一番良かった。英国に住んでいる日本人には是非読んでいただきたい。
英国南部の公営住宅に住む保育士が書いた本。彼女の夫は労働者階級出身であり、夫婦で野党の労働党を支持している。著者は労働者階級の多くの人が国民投票でEU離脱を選んだことに驚き、その理由を探る。
著者の別の本にもあったが、日本の被支援者などは目立たないようにひっそりと暮らすが、英国の労働者は、不満な現状に黙っておらず、政治に訴えて社会を変えようとする。
英国外に住んでいる人には体感しづらいだろうが、英国はいまだに階級社会が根強く残り、ミドルクラス(日本人のイメージする中堅家庭よりもずっと裕福)と労働者階級は、趣味も学校もライフスタイルが全く違い、交友関係も当然普通は交わらない。本書にもあるように、階級間の異動は不可能ではないものの容易ではない。労働党のブレア元首相などは、生まれながらに決まってしまう階級を取り払おうと努力してきた。
本書を読むと、長年のミドルクラスと労働者階級の間の深い溝の構造と歴史的背景がよくわかる。自分自身は移民というまた違う立場であるが、底辺と見なされがちな人たちのしたたかさを心強く感じる。本書はまた、現在の政治の力関係を知るのにも有益な本である。著者は労働党支持なので、労働党寄りに書かれてはいるが。
文章も構成も素晴らしい。ワーキングクラスの人たちが考えていることが少し理解できた気がする。