労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱 (光文社新書)

  • 光文社
3.88
  • (30)
  • (46)
  • (27)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 570
感想 : 55
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334043186

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ブレクジット前後の英国事情、現代の労働者階級の分析および現代にいたるまでの100年の経緯の概観を記した本。

    相当資料を読み込んだと思われる豊富な知識を前提とし、ち密ながらも簡潔な文章で、内容はやや硬めながらも英国事情をお手軽に把握できるのはさすがの文章力としか言いようがない。

    特に、日本で生まれ育ってそのまま日本に住んでいる私のような人間には、ブレクジット前後の事情が庶民の目線で記されている第一部が興味深かった。

  • 勉強になった。 まさに勉強になった、という本。 現在の英国を理解するには、すごく大切な本。

    「僕はイエローで…」からひかれてすっかりはまってしまったみかこさんなのですが、なるほどなるほど、パンクな生きざまと明確な主張、そして社会起業家的に社会を変えようと行動していらっしゃる方、というそんな中で、さらに勉強家?というか研究者?というか、なるほどなるほど、やはり自分の考え方のベースで共感できる点が多く大好きな著者である。

    これまでの英国保育士とか、自らの労働者環境(今回は「ワイルドサイド…」で出てきたメンバーへのEU離脱投票に対するヒアリングもあった)という「地べた」の感覚から反緊縮に対する明確な主張と、それに加えて100年の労働者階級の歴史を棚下すという手法を用いて検証していく方法、本当に勉強になりました。

    今回の抜粋はまえがきから。

    =======
    P5
    実際、家族も、知り合いもない異国の地に一人でやってきて、仕事を見つけたり、出産したり、育児したりしながら生活していくのだから、それは困ったことや途方にくれることの連続であり、そういうときに私を助けてくれたのは、近所の人々であり、配偶者の友人たちやそのパートナーたちのサポートの輪だった。彼ら無くして現在のわたしはいないと言ってもいい。わたしが生まれ育った国の人々と比べると、なんだかんだ言っても彼らはとても寛容で、多様性慣れした国民だと切実に感じていた。
    ところが、である。

    (中略)

    「ダーリンは離脱派」、などとふざけたことを言っている場合かどうかは別にしても、そもそもわたしの配偶者自身が離脱に入れた労働者の一人だった。これまでは「労働党支持」という点で、大まかには同じ政治的考えを持っていたわたしたち夫婦が、真逆の投票を行ったのは、EU離脱投票が初めてのことだった。

    (中略)

    そんなわけで、よく理解できない事柄に出会ったときに人類がせねばならないことを、いまこそわたしもしなければならない、と思った。勉強である。
    英国の労働者階級はなぜEU離脱票を投じたのか、そもそも彼らはどういう人々なのか、彼らはいま本当に政治の鍵を握るクラスタになっているのか、どのような歴史を辿って現在の労働者階級が形成されているのかー。学習することはたくさんあった。この本は、その学習の記録である。

    (中略)

    このように、本書は、英国在住のライターが、EU離脱票で起きたことを契機として、配偶者を含めた自分を取り巻く労働者階級の人々のことを理解するために、まじめに勉強したことの覚書といえる。
    =======

  • 「ワイルドサイドを歩け」の愉快な「おっさんども」(おばさんも含まれる)が登場すると聞いて一も二もなく手に取ったが、いつもの著者のノリとはちょっと趣を違え、英国の政治史解説にかなりのページが割かれている。確かに必要な内容なのだが、ハマータウンのノリを丸々期待していたら少し違った。
    だがさすがは著者で、そんな内容にもかかわらず破格に読みやすい。そのことと、英国の市民の政治意識の高さが印象に残った。
    国政選挙の投票率が3割とか4割とか言っている時点で、我が国はお話にならないんだとつくづく痛感した。

    2021/8/18〜8/19読了

  • 著者はEU離脱をトランプ旋風や欧州ポピュリズムとは同一視せず、極右勢力とは違った構造によって起こった出来事と考察している。

    ただ色々調べてみるとブレグジットと労働者階級の反乱を関連づけるには根拠が薄いとの批判もまあまああるみたい。特に投票者の属性とか。このへんは他の新書を読み比べながらファクトチェックする必要がありそう。

    ルポとしては面白い。特に離脱派へのインタビューは労働者階級の率直な心境が出ているなあと感じた。

  • 1章読んで挫折。

  • 英国に住む英国人と結婚した著者から見たブレグジットの背景を記した一冊。著者の夫も含め、身近な英国人の友人たちなどは労働者階級に属しており、ほとんどはEU離脱に投票したとのこと。

    中でも良かったのは中盤にある6人ほどの友人たちへのインタビュー記録。どのような人たちがどのような思いを持って離脱に投票したのかが分かる。労働者階級にまつわる100年の歴史も簡単にまとめられていて勉強になった。

    本にも書かれているように日本からニュースを見ていた時には排外主義的な思想が背景にあるのかと思っていた。そういう面もないわけではないとは思うが、これまで蔑ろにされてきた(特に白人の)労働者階級が起こした反乱だと捉えると何が起きていたのかがよく理解できた。

  • ブレグジットに賛成票を投じた労働者階級は、本当に排外主義的な右派なのか。労働者階級100年の歴史を振り返ると、経済的に冷遇されて来たことが原因だとわかってくる。勉強の軌跡。

  • 今年読んだ本で一番良かった。英国に住んでいる日本人には是非読んでいただきたい。
    英国南部の公営住宅に住む保育士が書いた本。彼女の夫は労働者階級出身であり、夫婦で野党の労働党を支持している。著者は労働者階級の多くの人が国民投票でEU離脱を選んだことに驚き、その理由を探る。
    著者の別の本にもあったが、日本の被支援者などは目立たないようにひっそりと暮らすが、英国の労働者は、不満な現状に黙っておらず、政治に訴えて社会を変えようとする。
    英国外に住んでいる人には体感しづらいだろうが、英国はいまだに階級社会が根強く残り、ミドルクラス(日本人のイメージする中堅家庭よりもずっと裕福)と労働者階級は、趣味も学校もライフスタイルが全く違い、交友関係も当然普通は交わらない。本書にもあるように、階級間の異動は不可能ではないものの容易ではない。労働党のブレア元首相などは、生まれながらに決まってしまう階級を取り払おうと努力してきた。
    本書を読むと、長年のミドルクラスと労働者階級の間の深い溝の構造と歴史的背景がよくわかる。自分自身は移民というまた違う立場であるが、底辺と見なされがちな人たちのしたたかさを心強く感じる。本書はまた、現在の政治の力関係を知るのにも有益な本である。著者は労働党支持なので、労働党寄りに書かれてはいるが。
    文章も構成も素晴らしい。ワーキングクラスの人たちが考えていることが少し理解できた気がする。

  • Brexitのニュースも見なくなって久しいが、まだ古新聞とも言えないだろうと思い勉強のために読んでみた。
    まず、読みやすいしわかりやすい。さすがに”地べた”から書かれてるだけあって、平易で読み下しやすい文体、説明も卑近な例えが多く交えてあったりとありがたい。

    単なるポピュリズムという文脈で片付けられるような印象が強かったが、本書で見る目が変わった。
    ファクトチェックの必要はあるだろうが、著者自らのインタビューで”おっさん”達に生の声を聞くと、より切迫した経済事情が見えてきたようで、なるほどと思えた。
    ドキュメンタリー仕立ての番組でお母さん入れ替える番組構成、どこの国でもマスメディアの印象操作はロクなもんじゃない、と思った。
    (日本とは市民の政治関心の高さが違って、こういうテーマをテレビで扱うことが普通な時点で、メディア普段から頑張ってるともいえるか)

    ”見捨てられたおっさん”層の困窮も社会の閉塞感も日本と通ずると思うが、EU離脱を問うような国民の意思表示の場面がないためか、そもそもの闘志・危機意識の欠乏か、我々の困窮状況がそこまで深刻になりきっていないのか、日本では一向に大きな政治のうねりに至らない。いつまでクソ自民党に好き放題させてるのか、まともな対抗馬となる野党もいないが。

    本書の“おっさん達”は経済的に困窮した中で、わかりやすいマイノリティとしてのアピールもできない立場。こういう立場の人が周りにたくさんいるってこと、自分も一歩違えばおんなじ立場っていうこと、常日頃から自分ごととして考えておかないと、平気で「貧しさは自己責任」などとのたまうことができてしまう。
    そういった分断の積み重ねで格差が助長されていく歴史が生々しくて、これはほんとに他山の石として変えていかないと、日本も暴動起きてからでは遅い。

    単一民族国家としてあまりにも長くあり続けたこと、また地理的に移民が来ないことからか、”共通の敵”としてレイシズムに訴えるような勢力が弱いというのも、日本と英国の違いかな。

    英国の政治史をもっと学びたい。入門のきっかけとしてベストでした。

  • 白人労働者階級の日常生活を描いた「ぼくはホワイトでイエローでちょっとブルー」が読みやすいのに奥が深い傑作だったので同じ著者の新書を読んでみました。
    周りの白人労働者階級の人々を温かい目で見守りながら彼らがBrexitに賛成票を投じた理由に迫ります。
    政治史のまとめを読んでようやく流れが理解出来ました。最高です!

全55件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ブレイディ みかこ:ライター、コラムニスト。1965年福岡市生まれ。音楽好きが高じて渡英、96年からブライトン在住。著書に『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』『ジンセイハ、オンガクデアル──LIFE IS MUSIC』『オンガクハ、セイジデアル──MUSIC IS POLITICS』(ちくま文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫)、『他者の靴を履く』(文藝春秋)、『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』(岩波現代文庫)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)など多数。

「2023年 『ワイルドサイドをほっつき歩け』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ブレイディみかこの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×