炎上CMでよみとくジェンダー論 (光文社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334044695

感想・レビュー・書評

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  • 社会学者で東京大学教授の瀬地山角氏のジェンダー論で、
    いわゆる炎上CMを検証し、問題を炙り出そうという論考集。

    序章 なぜCMは炎上するのか
    第1章 子育てママの応援かワンオペ礼讃か
        (性役割×女性)
    第2章 ファッションや化粧品のCMは難しい?
        (容姿や性的メッセージ×女性)
    第3章 何が「性的」とみなされるのか?
        (性的なメッセージ×男性)
    第4章 「はたらけ!」といわれる男たち
        (性役割×男性)
    第5章 マイノリティと言葉の政治
    終章 履いている下駄の高さ

    炎上案件を《4象限》に分割して解説しているので
    「どこがまずかったのか」わかりやすい。
     ■第Ⅰ象限:
      女性を応援・女性に共感したつもりだったが、
      性役割分業の現状追認になってしまった。
      [例]ワンオペ育児に疑義を呈さない、
         料理を女性が担うものとしか描かない、等。
     ■第Ⅱ象限:
      女性を応援・女性に共感したつもりだったが、
      訴求層を分断する結果に。
      [例]年齢で女性をカテゴライズする手法、
         女子力とは何ぞや(余計なお世話!)
     ■第Ⅲ象限:
      全視聴者・閲覧者対象のつもりが、
      男性の欲望を表出させた内容でしかなかったという
      訴求層の読み間違い。
      [例]自治体の観光PRキャラクターに、
         不自然過ぎる独特の顔立ち・体型の
         キャラクターを採用。
     ■第Ⅳ象限:
      全視聴者・閲覧者対象のつもりが、
      性役割分業の現状追認になってしまった。
      [例]男性、特に“おじさん”をイジる、ディスる。

    世の中の誰一人として不快にさせない表現など
    あり得ないだろうから、
    100%完璧な広告を作るのは至難の業と言えるが、
    それでも、言葉のチョイスや問題提起などは
    日々アップデートされていかねばならない、
    いつまで昭和のノリを引き摺っているんだ!
    といったお話で、
    時折CMを見て感じていたモヤモヤが
    どんなところに起因していたのか、
    言語化してもらったようで、少しスッキリした。

    終章のタイトル「履いている下駄の高さ」とは、
    男子が男子として生まれたというだけで、
    様々な場面で女子より優遇される状況を指す。
    その「高さ」を等しい状態に近づけるために
    女性専用のサービスが考案されてきたのだと気づけ! と。
    女の子なんだから大学へは行かなくていいし、
    どうしても行きたいなら自宅から通える範囲で!
    学生の一人暮らし不可、ついでに浪人も認めない!
    ……等々、親に言われて
    志望校の選択範囲を狭める女子高生の辛さって、
    自分らの時代辺りで終わった話かと思っていたら、
    現在も大して変わらないことが書かれていて、悲しくなった。
    頑張ろう、みんな。

  •  ツイッター上でのATSUGIの炎上を機に、本書を手に取りました。ATSUGIの件は、ターゲット層を間違えたことが問題だと批判されていたので、CMやPR企画がジェンダー問題で炎上する構造を一度きちんと理解しておきたいと思いました。

     ATSUGIは、女性をターゲットとする商品でありながら、性的な表現が含まれるイラストを起用した点を問題視されていましたが、本書で紹介される事例は4つのパターン(性役割×女性、外見×女性、性的メッセージ×男性、性役割×男性)と、別枠で「言葉の政治(ポリコレ)」に分類されており、とくに「性役割×女性」の項目にウェイトが置かれていました。なので、性的な表現とジェンダー問題の関わりについて知りたい人には物足りないな、と思いました。「バナナ姫ルナ」というキャラクターが炎上せずに成功した例として挙げられていますが、もう少し、炎上したその他との女性表象の違いを考察してほしかったです。
     女性の性役割(家事育児の押し付け)に関しては、データを参照しながら、日本の現状を明らかにし、意識のアップデートの必要性を合理的に説明してくれているので、ジェンダー、とくに男女共同参画と「性別からの解放」を考えるための入門書としては最適だと思います。

  • ハウス食品、シャンメン、1975
    三楽、ローリングK、1989
    日産、スカイライン、1996 男だったら乗ってみな。
    富士フイルム、うつるんです。1997、長男じゃないわよね?
    トヨタ、ガイア、2001、パパはいらない。
    コカコーラ、からだ巡茶、2007、ブラジャーが透けるほど汗。
    おやつカンパニー、うす焼えびせん、2008、不倫
    アサヒビール、プレミアムリッチ、2013、ねぇ、リッチしよう。
    ホクト、菌活、2013、立派なキノコ
    サイボウズ、大丈夫、2014
    花王、アタックNeo広がってます2014
    人工知能2014.1.1号
    明星、一平ちゃん2015、全部でた?
    ロコンド、2015 パパは返品。
    ルミネ、働く女性たちを応援する、2015
    資生堂、イングレート、2016
    ユニ・チャーム、はじめて子育てするママに贈る歌2017
    トヨタ2019、ツイッター、女性ドライバー、やっぱりクルマの運転苦手ですか?
    グリコ、子育てアプリ、2019

    国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会、が抗議。

    あおしまメグ、2014
    少女U、2016
    メトロ、えきのみちか、2016
    りょう ぐうじょうの夏、2017
    ファブリーズ、2017、男性は臭い
    キズナアイの萌え絵vs女性弁護士、2018
    うさきちゃんは遊びたい、2019

    男性がリードしなさい。
    食事代は男性がおごるのが当然。
    男のくせに車の運転が下手。
    アリナミン、24時間戦えますか。
    チオビタ、はたらけ。男性自殺率。

  • CMからジェンダー論、
    セクシャルマイノリティー、SDGS議論になる
    興味深い内容だった。

    自分の記憶にないCMばかりとりあげられていたので、少しでも見たことがあるCMが題材に挙がっていたらより関心が持てたと思う。

  • 論理的でわかりやすい。類型化で具体が抽象化されていてとらえやすい。

    ジェンダー観、ジェンダーロールの考え方は人それぞれ、自由だけれども、
    それを追認、肯定することはおかしいでしょ。
    この考え方は、いままでのもやもやが言語化されたようでスッキリした。

    読むだけで、懐かしいCMが思い出されてノスタルジックな気持ちになったのと、
    当時はそれほど気にならなかった観点が、今ではより際立っているような感覚がある。
    時代がハイスピードで移ろっていることを痛感した。

    一冊通して、マスへのアプローチ方法について勉強になった。良書。

  • 「男女の平等」と同様に「性別からの自由」も考えなければならないという筆者の考えはとても良く理解出来たし、共感できた。
    ただ、男をからかうネタは自虐ネタになるため、広く受け入れられるという主張は、最後までこの本を読んでもどうしても理解できなかった。

  • 図書館のジェンダー系コーナーで見つけて。
    なにかが炎上した時に、あれやこれや意見を見てら考えてでも結局人の考えによるよな…に落ち着けてしまう部分があって、なんとも答えが出ない。意見を読むたびそれもそう、確かに言い過ぎでは…とぐらぐらして、そんな自分にもやもやしてたけど、そういう部分は大いにあるしなくせないものという風に思えるようになった。
    引っかかる人が出たのはこれが要因、というふうには捉えられるようになったと思う。
    現状を踏まえてその半歩先を描くというのは納得。
    男性の自虐についてはそこまで肯定しきれるものでもない気がした。そもそも容姿云々の話が出ると私は心がざらつく気がする。
    読みやすくて良かったけど、若干炎上してしまった企業や担当者を嘲笑するような雰囲気が出ている部分はう〜ん…と思ってしまった。「爆笑が起きる講演」では良いのかもしれないけど、文字にするとキツく見えるのかも。

  • 炎上してしまうCMというのは数多く存在
    します。

    古くは「ぼく食べる人、私つくる人」で、
    家事を押し付けている、などと批判を受け
    たCMや、最近でも「女性差別」と受け取
    られて炎上してしまうCMは枚挙に暇ない
    です。

    それらを分析するだけでなく、この本は
    炎上広告を4つのパターンに分類し、それ
    がどういう観点でバッシングを受けたかの
    原因を考察します。

    さらに同じパターンに分類されているにも
    かかわらず成功して評判になったCMも挙
    げている点が新しいです。

    批判を受けた側の企業の言い訳として、
    「女性の意見も吸い上げたのですが・・」
    というのがあります。

    しかし吸い上げただけで「採用」はされな
    かったが故に女性の観点がスッポリ抜け落
    ちたわけですね。

    この要因は意思決定方法にも問題があるの
    では?と著者は指摘します。

    要は上層部はオジさんばかりで、女性の観
    点で物申す人もいなくて、最終的に古い価
    値観のオジサン目線のCMが世に送られて
    しまうのです。

    もはや問題は組織論にも及ぶのです。

    そのくらい「またか」と呆れるくらい同じ
    問題で炎上が発生しています。

    「ウチの会社は大丈夫」と思わずに、しっ
    かりとジェンダー論を学ぶ事ができる内容
    なので、オジサンこそ手に取るべき一冊で
    す。

  • 炎上の構造を四象限に分類するなど、入門編として読みやすい。ただし、アンテナを高くして広告に関わってきた人間であれば既知のことも多い一方で、全く知識がアップデートされていない、あるい反発を覚えている層が読むとしたら、著者の主観も多く含む解説で納得してもらえるのかに疑問が残り★3にした。広告の実務に関わるビジネスパーソンには本書でも勧められているが治部れんげ氏の「炎上しない企業情報発信」を勧める。大学生や、特にこれから広告業界で働きたいと考えている人が読むのには★5をつけたい。
    なお巻末の炎上したCMのリストに、ジェンダーの観点だけでなく、部落差別として当事者から抗議のあったCMを「これはおもしろいCMで、私は評価します」と明言されている点が非常に気になった。著者はジェンダー論の専門家であり部落差別については専門外だと思われるし、だからこそその点に気付いていないために評価していると思われるが、差別を扱った本だからこそ、異なる観点の差別についても敏感でいて欲しいと思う。

  • ジェンダーに関してすごくわかりやすく解説してくれる一冊。さらっと読める。
    女性視点から、炎上してしまったCMについて読むと当たり前のようになぜそのCMが炎上してしまうのかわかる。
    けれども、残念ながらこのごく当たり前なことすらわからない人がまだまだたくさんいること、また結果的に炎上CMが世に出回ってしまうということは、まだまだCMを作る側、CMにOkを出した会社のどちらも女性視点が欠けていて、女性が少ない男社会だということだ。
    つまり、CMを通して、ジェンダーの問題を見るだけでなく、その裏にある今の社会の問題点も見えてくるようになる一冊だった。

    またこの本で一点気になったのが、男性の自虐で笑いをとっているという保険のCM。そのCMのことをきいて確かに面白いと思った。でも、男性も自虐として捉えないでも、怒っていいんだよと思った。女性が男性を選べる立場にあるというのもおかしいし、男性もそれを真に受ける必要はない。この自虐はバラエティーの構図からきていると書いてあったと思う。バラエティーの構図は、男を自虐的にいじったり、女の容姿いじりをして笑いをとるというのが伝統的になっているからだ。けれども、そんなのバラエティーのせいで私達男女はどっちも傷ついてるはずだ。みんながもっと傷付け合わず、普通に怒ればいいと思うし、その構図を外した新しいバラエティーの構図ができればいいな。今どんどんと盛り上がっているバラエティーにはそれができると思うし、とても期待している。

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著者プロフィール

1963年 奈良県生まれ.
[現職]東京大学大学院総合文化研究科助教授.[専門]社会学,ジンダー論,東アジア研究.
『東アジアの家父長制』勁草書房,1996.『フェミニズム・コレクション』Ⅰ~Ⅲ巻(共編著)勁草書房,1993.「よりよい性の商品化へ向けて」『フェミニズムの主張』江原由美子編,勁草書房,1995.「ジェンダー研究の現状と課題」『現代社会学11・ジェンダーの社会学』岩波書店,1995.

「1997年 『原理論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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