正義を振りかざす「極端な人」の正体 (光文社新書 1088)

  • 光文社 (2020年9月17日発売)
3.70
  • (20)
  • (35)
  • (32)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 526
感想 : 44
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

本 ・本 (216ページ) / ISBN・EAN: 9784334044954

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ◯新たなマスメディアであるネットやSNSのもつ根源的な特徴を正確に捉え、旧来のマスメディアによって、ネット情報が拡散されることにより、ネットにおける局所的な炎上が社会問題のようになる構造を示している。
    ◯ネットという一方向からの議論ができるツールにおいてのみ生じてしまう。双方向でのやりとりの中では、変な人と思われたり、会話が成り立たないため周りからも相手にされない。また、そのような状況だからこそ自分も自重するということである。
    ◯極端な人は、己の正義に従って他者に攻撃を加える、不寛容な人であるという。上記のツールによって、その特徴が強まり、さらには拡散されてしまうのだ。
    ◯この著者はここで終わらず、さらにそのための方策を二方向から検討している点に好感が持てる。
    ◯一つは被害者側に対する対応であり、もう一つは極端な人にならないための方策が示されている。
    ◯このような議論の展開は、まさに最新の社会学であり、若い人たちによって開拓される分野であるなとも感じた。

  • ネット上にいる「極端な人」はどんな人たちなのか理解できた。この人たちがどのように形成されたのか(家庭環境など)もっと深掘りして知りたかった。

  • "炎上"や"クレーム"を起こす人々とそれを増幅させる社会的環境について、学問的考察を加え、その弊害(社会全体の萎縮効果)とそれに対する処方箋を示しているのが本書である。

    前半はネット炎上における実相を解き明かす。なかのひと的には「そうなんですよ、実は」という話が多かったが、それを多数の学者がきちんと定量的に分析していて、そのファクトをここで俯瞰で見れるのはとてもよい。
    つまりは炎上に参加する人たちはごく少数であり、そのごく少数がとんでもない量の情報を創り出しており、ネットの可視化効果(逆に言うとサイレントマジョリティが可視化されない効果)によってさもそれが世論であるかのような幻想を創り出しているメカニズムを解き明かされている。

    中盤は、その炎上がネットや匿名性だけによって作り出されているかというとそうでもない事実を解説している。特にテレビを中心とした"マスメディアとネットの共振関係"については、これもまたなかのひとの感覚からして的を得た指摘である。匿名性については、韓国が実際に行った"ネット掲示板顕名化法律"という壮大な社会実験によって実はその効果が極めて限定的であり、むしろ普通のあるいは良い意見等も委縮させてしまうという言論の自由の構造についての深い洞察がなされている。(ちなみにその法律は違憲判断がでて廃止)

    最後は炎上に加担したりクレーマーとなる人の心理構造(ある種の病理?)に迫り、そうならない為の処方箋を解く。つまりは炎上に加担する人たちはそれが自分なりの確固たる正義感に基づいたものであり、が故に匿名だろうが顕名だろうが正義の行使は行われ、その正義の感覚は実は個人的な別の理由(社会的不遇感とか私生活が上手く行っていないとか)に起因する事が多いとのことである(この"別の個人的理由起因説"だけ定量的なデータが示されていないのはちと残念だが)

    そしてそうならない為の処方箋として「情報の隔たりを知る」、「自分の『正義感』に敏感になる」、「自分を客観的に見る」等の"5箇条"を提示する。

    この五箇条は総じていえば""メディアリテラシーの涵養"ということだと思うし、自分なりのこの問題に対する対処策と合致していたのは自信を得たような気がする。無論、この本でも提案されているような国家ないし事業者による対策は不断の努力がなされるべきだと思う(特に全体の閲覧母数に対する極端意見の割合の可視化とかはやるべきだなと本書をみて思った)が、根本的な対処は人々がこういう極端な意見の人の発生のメカニズムをリテラシー教育を通じてよく理解して、気にしないとなることだし、それを起こしてしまう人もまた自己の心理的構造を客観的に理解して上記の五箇条などが心の中のビルドインされて起こさなくなることが、「いつの間にか炎上ってなくなっていたねー」という未来に繋がっていくように思う。

    いずれにしても高度情報化社会はまた緒についたばかりであり、サイバーセキュリティと並び最初に訪れたこの社会萎縮の増幅という試練を乗り越えてこそ、より有益なネット社会は訪れるであろうし、乗り越えるためにこのような本質的理解の一助となる読みやすい良書が出回ることは重要であるように思いました。

    追伸:本書において画竜点睛を欠いているのは、正義感を振りかざす個人の他に、炎上をビジネスにしてしまっている事業者とその手法の存在とがある点の言及なり考察なりだと思います(若干フェイクニュースの項で触れられてはいるが)。この弊害もかなりあると思うので、ぜひ重版の際には追加の考察をお願いします。

  • 私自身にとっては、新鮮な情報というよりは、手持ちの情報の裏づけとなる情報が掲載されていた。
    中高生くらいが読めばちょうどいい感じかも。
    大学生の頃、革マルとか中核派とかの残党が学食の入り口でアジやってたけど、あれが徒党を組めなくなって、かつ、俗なネタにも反応するようになったのが「極端な人」のような気がする。だとすると、誰でもそうなる可能性はあると思う。私の友達だって、絶対そうならなさそうな人だったのに、寮に入って感化されてしまった。「寮」という閉鎖空間が、外部との関わりを薄くした結果だったんだな、と今なら思う。まして、スマホはもっと極端な「閉鎖空間」だ。家の中でもスマホをいじっているメンバーは家族から切り離されている。
    自分が今、どういうバイアスでものを見て、考えているのか。常にチェックし、相対化することが第一の解毒剤なんだと改めて思った。

  •  ここ数年の国内で"増えた?"と感じる人達の分析がされていてとても参考になりました。特にアンケートの手段で結果の出方に傾向が見られるのが、興味深かったです。
     日本人は曖昧さを是とする人種だと見られているが、見えない相手と見られない環境下では極端さを露呈できる性質があるかもしれません。その要因が分析できると誹謗中傷の根本的な要素が見えてくるでしょうか。

  • 読み進めるほどにその通りという同意感とネットの恐怖感がつのってきます。

    人と人とのコミュニケーションにおいて今まで起きなかったようなことがネットの世界では頻繁に起こる。

    その理由はネットは人の話を聞く場所ではなく自分の意見を発信する場所になっているから。

    つまりリアルな人間関係のコミュニケーションが会話のキャッチボールだとしたらネットの場合はドッチボール。

    ただひたすら自分のボールを相手に投げてぶつけているだけ。
    しかも有名になればなるほど1対多数のドッチボールになる。

    炎上なんかしたらこれはもうサンドバッグと変わらない。

    非常にわかりやすくまとめらているので自分は有名じゃないし炎上なんてしないからなんて言わずにネットをやっている人は誰もが読んでおいた方が良い必読書です。

    おすすめです。

  • 普段から感じていたことが考察されていて、自分の中で言語化できていなかった、ネットで正義を振りかざす極端な人の正体というものがよくわかった。
    例えば政治の話では、中庸な考えを持つ人が正規分布の真ん中に来るのだが、そもそも中庸なので自分から発信するという動機が薄いし、極端な主張をする攻撃的な人たちに攻撃されるぐらいなら主張を止めておこうという話になるので、左派、右派の主張が目立ってくるという話だったり、また、ネットに書き込んでいるのは若く低所得者層というステレオタイプな見方も、実態とは違うという考察もなるほどと思わせてくれた。

  •  ネット上に度が過ぎた誹謗中傷を書き込む人の正体については他でも読んでいたので知っていたが、そんな極端な人はごく少数とわかっていても目をつけられたらと思うと積極的にネットで発信しようと思えない。ネットの匿名性=悪の図式にされがちだが、メディアが炎上を作ったり助長させたりしている事実にびっくり。確かにワイドショー観てても、偏った報道だな、と感じることはあった。#関東脱出の件は驚き呆れる。自由の裏には責任があることを忘れない。法規制ではなく、被害者に寄り添う法律の検討が大事とのこと。極端な人にならないための5箇条は覚えておきたい。

  • リシンク re think 一呼吸置くこと。
    ネットで極端な行動・言動に出る人にならないためにはこれがいいと著者は説く。

    字義通りの確信犯はそれで思い込みから晴れて冷静になるかもしれないけれど、誤用されてる確信犯の人たちはデマだろうがなんだろうが自分の利になれば極端になるわけで、そこにはどうすればいいのだろう。

    署名に「正体」とあるように対処までは踏み込めてない。

  • ネットなどでの炎上をメディアなどで目にした事がある方は多いと思う。

    いわゆる、そうした炎上はなぜ起こるのかを解説した本書。

    何となくわかっていたつもりの事をこうして解説頂けると更に理解が深まって、読みがいがあった。

    炎上とまではいかないけれど、普段会話をしていても、自分の中の正義感の様なものから、批判的な事を思う事はある。

    炎上コメントをする様な人達も、正しい事をしている感覚があるからこそ、行う人が絶えない。

    そうなる仕組みを、理解するのとしていないのとでは大きな違いがあるから、本書を通じて多くの方に知って頂きたいと感じた。

全44件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

山口 真一(やまぐち しんいち) 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学。研究分野は,ネットメディア論,情報経済論,情報社会のビジネスなど。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめ,メディアにも多数出演・掲載。KDDI Foundation Award 貢献賞,組織学会高宮賞,情報通信学会論文賞(2 回),電気通信普及財団賞などを受賞。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社),『なぜ,それは儲かるのか』(草思社),『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版),『ネット炎上の研究』(勁草書房)などがある。他に,東京大学客員連携研究員,早稲田大学兼任講師,株式会社エコノミクスデザインシニアエコノミスト,日本リスクコミュニケーション協会理事,シエンプレ株式会社顧問,日本経済新聞Think! エキスパート,Yahoo! ニュースオーサー,総務省・厚生労働省の検討会委員などを務める。

「2022年 『ソーシャルメディア解体全書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山口真一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×