- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334044954
感想・レビュー・書評
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"炎上"や"クレーム"を起こす人々とそれを増幅させる社会的環境について、学問的考察を加え、その弊害(社会全体の萎縮効果)とそれに対する処方箋を示しているのが本書である。
前半はネット炎上における実相を解き明かす。なかのひと的には「そうなんですよ、実は」という話が多かったが、それを多数の学者がきちんと定量的に分析していて、そのファクトをここで俯瞰で見れるのはとてもよい。
つまりは炎上に参加する人たちはごく少数であり、そのごく少数がとんでもない量の情報を創り出しており、ネットの可視化効果(逆に言うとサイレントマジョリティが可視化されない効果)によってさもそれが世論であるかのような幻想を創り出しているメカニズムを解き明かされている。
中盤は、その炎上がネットや匿名性だけによって作り出されているかというとそうでもない事実を解説している。特にテレビを中心とした"マスメディアとネットの共振関係"については、これもまたなかのひとの感覚からして的を得た指摘である。匿名性については、韓国が実際に行った"ネット掲示板顕名化法律"という壮大な社会実験によって実はその効果が極めて限定的であり、むしろ普通のあるいは良い意見等も委縮させてしまうという言論の自由の構造についての深い洞察がなされている。(ちなみにその法律は違憲判断がでて廃止)
最後は炎上に加担したりクレーマーとなる人の心理構造(ある種の病理?)に迫り、そうならない為の処方箋を解く。つまりは炎上に加担する人たちはそれが自分なりの確固たる正義感に基づいたものであり、が故に匿名だろうが顕名だろうが正義の行使は行われ、その正義の感覚は実は個人的な別の理由(社会的不遇感とか私生活が上手く行っていないとか)に起因する事が多いとのことである(この"別の個人的理由起因説"だけ定量的なデータが示されていないのはちと残念だが)
そしてそうならない為の処方箋として「情報の隔たりを知る」、「自分の『正義感』に敏感になる」、「自分を客観的に見る」等の"5箇条"を提示する。
この五箇条は総じていえば""メディアリテラシーの涵養"ということだと思うし、自分なりのこの問題に対する対処策と合致していたのは自信を得たような気がする。無論、この本でも提案されているような国家ないし事業者による対策は不断の努力がなされるべきだと思う(特に全体の閲覧母数に対する極端意見の割合の可視化とかはやるべきだなと本書をみて思った)が、根本的な対処は人々がこういう極端な意見の人の発生のメカニズムをリテラシー教育を通じてよく理解して、気にしないとなることだし、それを起こしてしまう人もまた自己の心理的構造を客観的に理解して上記の五箇条などが心の中のビルドインされて起こさなくなることが、「いつの間にか炎上ってなくなっていたねー」という未来に繋がっていくように思う。
いずれにしても高度情報化社会はまた緒についたばかりであり、サイバーセキュリティと並び最初に訪れたこの社会萎縮の増幅という試練を乗り越えてこそ、より有益なネット社会は訪れるであろうし、乗り越えるためにこのような本質的理解の一助となる読みやすい良書が出回ることは重要であるように思いました。
追伸:本書において画竜点睛を欠いているのは、正義感を振りかざす個人の他に、炎上をビジネスにしてしまっている事業者とその手法の存在とがある点の言及なり考察なりだと思います(若干フェイクニュースの項で触れられてはいるが)。この弊害もかなりあると思うので、ぜひ重版の際には追加の考察をお願いします。 -
私自身にとっては、新鮮な情報というよりは、手持ちの情報の裏づけとなる情報が掲載されていた。
中高生くらいが読めばちょうどいい感じかも。
大学生の頃、革マルとか中核派とかの残党が学食の入り口でアジやってたけど、あれが徒党を組めなくなって、かつ、俗なネタにも反応するようになったのが「極端な人」のような気がする。だとすると、誰でもそうなる可能性はあると思う。私の友達だって、絶対そうならなさそうな人だったのに、寮に入って感化されてしまった。「寮」という閉鎖空間が、外部との関わりを薄くした結果だったんだな、と今なら思う。まして、スマホはもっと極端な「閉鎖空間」だ。家の中でもスマホをいじっているメンバーは家族から切り離されている。
自分が今、どういうバイアスでものを見て、考えているのか。常にチェックし、相対化することが第一の解毒剤なんだと改めて思った。 -
ここ数年の国内で"増えた?"と感じる人達の分析がされていてとても参考になりました。特にアンケートの手段で結果の出方に傾向が見られるのが、興味深かったです。
日本人は曖昧さを是とする人種だと見られているが、見えない相手と見られない環境下では極端さを露呈できる性質があるかもしれません。その要因が分析できると誹謗中傷の根本的な要素が見えてくるでしょうか。 -
読み進めるほどにその通りという同意感とネットの恐怖感がつのってきます。
人と人とのコミュニケーションにおいて今まで起きなかったようなことがネットの世界では頻繁に起こる。
その理由はネットは人の話を聞く場所ではなく自分の意見を発信する場所になっているから。
つまりリアルな人間関係のコミュニケーションが会話のキャッチボールだとしたらネットの場合はドッチボール。
ただひたすら自分のボールを相手に投げてぶつけているだけ。
しかも有名になればなるほど1対多数のドッチボールになる。
炎上なんかしたらこれはもうサンドバッグと変わらない。
非常にわかりやすくまとめらているので自分は有名じゃないし炎上なんてしないからなんて言わずにネットをやっている人は誰もが読んでおいた方が良い必読書です。
おすすめです。 -
リシンク re think 一呼吸置くこと。
ネットで極端な行動・言動に出る人にならないためにはこれがいいと著者は説く。
字義通りの確信犯はそれで思い込みから晴れて冷静になるかもしれないけれど、誤用されてる確信犯の人たちはデマだろうがなんだろうが自分の利になれば極端になるわけで、そこにはどうすればいいのだろう。
署名に「正体」とあるように対処までは踏み込めてない。 -
ネットなどでの炎上をメディアなどで目にした事がある方は多いと思う。
いわゆる、そうした炎上はなぜ起こるのかを解説した本書。
何となくわかっていたつもりの事をこうして解説頂けると更に理解が深まって、読みがいがあった。
炎上とまではいかないけれど、普段会話をしていても、自分の中の正義感の様なものから、批判的な事を思う事はある。
炎上コメントをする様な人達も、正しい事をしている感覚があるからこそ、行う人が絶えない。
そうなる仕組みを、理解するのとしていないのとでは大きな違いがあるから、本書を通じて多くの方に知って頂きたいと感じた。 -
なぜそれは儲かるのか?を読んで著者のことを知って読んだ本。
ネットにおける炎上はなぜ起こるのか?またどのような人が炎上を喚起しているのかがのデータに基づく客観的なデータとして考察されており面白かった。 -
●東日本大震災の時に急増した「不謹慎」と言うキーワードの検索回数が、有事の際に必ず流行るようになった。
●炎上の見える化。メディアとSNSの共振現象。
●ネットやSNSが普及して誰もが自由に発信できるような、1億総メディア時代とも言える時代が来たにもかかわらず、「極端な人」の存在によって、表現も逆に抑えざるをえなくなってきているのである。
●ネットは「万人による能動的な発信だけで構成された言論空間」で、これは有史以来はじめてのことである。「極端な人」はとにかく発信する。
●注意すべき点は、ネットは最終的に極端な人の意見のみが残るようになってしまうので、SNSは世論を反映していないという事。
●一方で「ネットは世界を分断しない」と言う本を出版した慶応大学教授の田中氏らは、以下のことを明らかにした。ネットを使っている若い人より、中高年以上の方が政治的に極端。SNSの利用は極端化を進めるばかりか、むしろ若い人を穏健化する効果があった。自分とは異なる考えを持っている人物を4割の人がフォローしている。
●飲食店の店員等に対して非常に横柄な態度を取る人とは結婚しない方が良い。相手のランクによって態度を変える人は、ネットでの非対面コミュニケーションにおいて相手にとる態度と同じ。
●「怒り」が1番拡散されるので、フェイクニュースを流す人はその感情に訴えかけるような設計にして拡散を狙う。
●ただし、1番角探しているのはテレビ。また、「作り上げられた炎上」の例もたくさんある。
●人は歳を重ねるごとに、多様な視点を持ってより寛容になるのではなく、むしろどんどん考えが凝り固まって極端になっていく。加えてクレーマーには、高学歴・高所得で社会階層が高い人が多いこと、自尊感情が高く完全主義的な傾向が強いこと。
●「極端な人」と言うのは、イメージとして、年中ネットをしている低学歴の引きこもりのイメージがあるかもしれない。実際は高齢者がほとんどである。男性が七割。
●ただこの「極端な人」の人数は思ったよりも少ない。現場に参加する人は大体70,000人に1人。
●実は韓国でいちどインターネット実名制(制限的本人確認制度)が導入された実績がある。悪意ある書き込みの割合はほとんど減らなかった。また、2012年に違憲判決が出され廃止されている。結局実名制にしても減らない理由は、その動機が「正義感」だからである。
●罰則強化をすると、政権による悪用が起きる。都合が悪い物を全てフェイクニュースと批判するようになってしまう。
●少しハードルを上げるだけで思いとどまるかもしれないので、攻撃的なメッセージを送ろうとすると、自動で本当にそのメッセージを送るのかシステムでアラートを出すと言う仕組みはどうか?