正義を振りかざす「極端な人」の正体 (光文社新書)

著者 :
  • 光文社
3.69
  • (17)
  • (32)
  • (27)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 452
感想 : 36
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334044954

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ◯新たなマスメディアであるネットやSNSのもつ根源的な特徴を正確に捉え、旧来のマスメディアによって、ネット情報が拡散されることにより、ネットにおける局所的な炎上が社会問題のようになる構造を示している。
    ◯ネットという一方向からの議論ができるツールにおいてのみ生じてしまう。双方向でのやりとりの中では、変な人と思われたり、会話が成り立たないため周りからも相手にされない。また、そのような状況だからこそ自分も自重するということである。
    ◯極端な人は、己の正義に従って他者に攻撃を加える、不寛容な人であるという。上記のツールによって、その特徴が強まり、さらには拡散されてしまうのだ。
    ◯この著者はここで終わらず、さらにそのための方策を二方向から検討している点に好感が持てる。
    ◯一つは被害者側に対する対応であり、もう一つは極端な人にならないための方策が示されている。
    ◯このような議論の展開は、まさに最新の社会学であり、若い人たちによって開拓される分野であるなとも感じた。

  • "炎上"や"クレーム"を起こす人々とそれを増幅させる社会的環境について、学問的考察を加え、その弊害(社会全体の萎縮効果)とそれに対する処方箋を示しているのが本書である。

    前半はネット炎上における実相を解き明かす。なかのひと的には「そうなんですよ、実は」という話が多かったが、それを多数の学者がきちんと定量的に分析していて、そのファクトをここで俯瞰で見れるのはとてもよい。
    つまりは炎上に参加する人たちはごく少数であり、そのごく少数がとんでもない量の情報を創り出しており、ネットの可視化効果(逆に言うとサイレントマジョリティが可視化されない効果)によってさもそれが世論であるかのような幻想を創り出しているメカニズムを解き明かされている。

    中盤は、その炎上がネットや匿名性だけによって作り出されているかというとそうでもない事実を解説している。特にテレビを中心とした"マスメディアとネットの共振関係"については、これもまたなかのひとの感覚からして的を得た指摘である。匿名性については、韓国が実際に行った"ネット掲示板顕名化法律"という壮大な社会実験によって実はその効果が極めて限定的であり、むしろ普通のあるいは良い意見等も委縮させてしまうという言論の自由の構造についての深い洞察がなされている。(ちなみにその法律は違憲判断がでて廃止)

    最後は炎上に加担したりクレーマーとなる人の心理構造(ある種の病理?)に迫り、そうならない為の処方箋を解く。つまりは炎上に加担する人たちはそれが自分なりの確固たる正義感に基づいたものであり、が故に匿名だろうが顕名だろうが正義の行使は行われ、その正義の感覚は実は個人的な別の理由(社会的不遇感とか私生活が上手く行っていないとか)に起因する事が多いとのことである(この"別の個人的理由起因説"だけ定量的なデータが示されていないのはちと残念だが)

    そしてそうならない為の処方箋として「情報の隔たりを知る」、「自分の『正義感』に敏感になる」、「自分を客観的に見る」等の"5箇条"を提示する。

    この五箇条は総じていえば""メディアリテラシーの涵養"ということだと思うし、自分なりのこの問題に対する対処策と合致していたのは自信を得たような気がする。無論、この本でも提案されているような国家ないし事業者による対策は不断の努力がなされるべきだと思う(特に全体の閲覧母数に対する極端意見の割合の可視化とかはやるべきだなと本書をみて思った)が、根本的な対処は人々がこういう極端な意見の人の発生のメカニズムをリテラシー教育を通じてよく理解して、気にしないとなることだし、それを起こしてしまう人もまた自己の心理的構造を客観的に理解して上記の五箇条などが心の中のビルドインされて起こさなくなることが、「いつの間にか炎上ってなくなっていたねー」という未来に繋がっていくように思う。

    いずれにしても高度情報化社会はまた緒についたばかりであり、サイバーセキュリティと並び最初に訪れたこの社会萎縮の増幅という試練を乗り越えてこそ、より有益なネット社会は訪れるであろうし、乗り越えるためにこのような本質的理解の一助となる読みやすい良書が出回ることは重要であるように思いました。

    追伸:本書において画竜点睛を欠いているのは、正義感を振りかざす個人の他に、炎上をビジネスにしてしまっている事業者とその手法の存在とがある点の言及なり考察なりだと思います(若干フェイクニュースの項で触れられてはいるが)。この弊害もかなりあると思うので、ぜひ重版の際には追加の考察をお願いします。

  • 私自身にとっては、新鮮な情報というよりは、手持ちの情報の裏づけとなる情報が掲載されていた。
    中高生くらいが読めばちょうどいい感じかも。
    大学生の頃、革マルとか中核派とかの残党が学食の入り口でアジやってたけど、あれが徒党を組めなくなって、かつ、俗なネタにも反応するようになったのが「極端な人」のような気がする。だとすると、誰でもそうなる可能性はあると思う。私の友達だって、絶対そうならなさそうな人だったのに、寮に入って感化されてしまった。「寮」という閉鎖空間が、外部との関わりを薄くした結果だったんだな、と今なら思う。まして、スマホはもっと極端な「閉鎖空間」だ。家の中でもスマホをいじっているメンバーは家族から切り離されている。
    自分が今、どういうバイアスでものを見て、考えているのか。常にチェックし、相対化することが第一の解毒剤なんだと改めて思った。

  •  ここ数年の国内で"増えた?"と感じる人達の分析がされていてとても参考になりました。特にアンケートの手段で結果の出方に傾向が見られるのが、興味深かったです。
     日本人は曖昧さを是とする人種だと見られているが、見えない相手と見られない環境下では極端さを露呈できる性質があるかもしれません。その要因が分析できると誹謗中傷の根本的な要素が見えてくるでしょうか。

  • 読み進めるほどにその通りという同意感とネットの恐怖感がつのってきます。

    人と人とのコミュニケーションにおいて今まで起きなかったようなことがネットの世界では頻繁に起こる。

    その理由はネットは人の話を聞く場所ではなく自分の意見を発信する場所になっているから。

    つまりリアルな人間関係のコミュニケーションが会話のキャッチボールだとしたらネットの場合はドッチボール。

    ただひたすら自分のボールを相手に投げてぶつけているだけ。
    しかも有名になればなるほど1対多数のドッチボールになる。

    炎上なんかしたらこれはもうサンドバッグと変わらない。

    非常にわかりやすくまとめらているので自分は有名じゃないし炎上なんてしないからなんて言わずにネットをやっている人は誰もが読んでおいた方が良い必読書です。

    おすすめです。

  • リシンク re think 一呼吸置くこと。
    ネットで極端な行動・言動に出る人にならないためにはこれがいいと著者は説く。

    字義通りの確信犯はそれで思い込みから晴れて冷静になるかもしれないけれど、誤用されてる確信犯の人たちはデマだろうがなんだろうが自分の利になれば極端になるわけで、そこにはどうすればいいのだろう。

    署名に「正体」とあるように対処までは踏み込めてない。

  • ネットなどでの炎上をメディアなどで目にした事がある方は多いと思う。

    いわゆる、そうした炎上はなぜ起こるのかを解説した本書。

    何となくわかっていたつもりの事をこうして解説頂けると更に理解が深まって、読みがいがあった。

    炎上とまではいかないけれど、普段会話をしていても、自分の中の正義感の様なものから、批判的な事を思う事はある。

    炎上コメントをする様な人達も、正しい事をしている感覚があるからこそ、行う人が絶えない。

    そうなる仕組みを、理解するのとしていないのとでは大きな違いがあるから、本書を通じて多くの方に知って頂きたいと感じた。

  • なぜそれは儲かるのか?を読んで著者のことを知って読んだ本。
    ネットにおける炎上はなぜ起こるのか?またどのような人が炎上を喚起しているのかがのデータに基づく客観的なデータとして考察されており面白かった。

  • ●東日本大震災の時に急増した「不謹慎」と言うキーワードの検索回数が、有事の際に必ず流行るようになった。
    ●炎上の見える化。メディアとSNSの共振現象。
    ●ネットやSNSが普及して誰もが自由に発信できるような、1億総メディア時代とも言える時代が来たにもかかわらず、「極端な人」の存在によって、表現も逆に抑えざるをえなくなってきているのである。
    ●ネットは「万人による能動的な発信だけで構成された言論空間」で、これは有史以来はじめてのことである。「極端な人」はとにかく発信する。
    ●注意すべき点は、ネットは最終的に極端な人の意見のみが残るようになってしまうので、SNSは世論を反映していないという事。
    ●一方で「ネットは世界を分断しない」と言う本を出版した慶応大学教授の田中氏らは、以下のことを明らかにした。ネットを使っている若い人より、中高年以上の方が政治的に極端。SNSの利用は極端化を進めるばかりか、むしろ若い人を穏健化する効果があった。自分とは異なる考えを持っている人物を4割の人がフォローしている。
    ●飲食店の店員等に対して非常に横柄な態度を取る人とは結婚しない方が良い。相手のランクによって態度を変える人は、ネットでの非対面コミュニケーションにおいて相手にとる態度と同じ。
    ●「怒り」が1番拡散されるので、フェイクニュースを流す人はその感情に訴えかけるような設計にして拡散を狙う。
    ●ただし、1番角探しているのはテレビ。また、「作り上げられた炎上」の例もたくさんある。
    ●人は歳を重ねるごとに、多様な視点を持ってより寛容になるのではなく、むしろどんどん考えが凝り固まって極端になっていく。加えてクレーマーには、高学歴・高所得で社会階層が高い人が多いこと、自尊感情が高く完全主義的な傾向が強いこと。
    ●「極端な人」と言うのは、イメージとして、年中ネットをしている低学歴の引きこもりのイメージがあるかもしれない。実際は高齢者がほとんどである。男性が七割。
    ●ただこの「極端な人」の人数は思ったよりも少ない。現場に参加する人は大体70,000人に1人。
    ●実は韓国でいちどインターネット実名制(制限的本人確認制度)が導入された実績がある。悪意ある書き込みの割合はほとんど減らなかった。また、2012年に違憲判決が出され廃止されている。結局実名制にしても減らない理由は、その動機が「正義感」だからである。
    ●罰則強化をすると、政権による悪用が起きる。都合が悪い物を全てフェイクニュースと批判するようになってしまう。
    ●少しハードルを上げるだけで思いとどまるかもしれないので、攻撃的なメッセージを送ろうとすると、自動で本当にそのメッセージを送るのかシステムでアラートを出すと言う仕組みはどうか?

  • とっても面白かった!
    ツイッターやSNSで誹謗中傷を書き込む人たちの「正体」が、ちゃと分析して書いてあります。ずいぶん前に「ウェブはバカと暇人のもの」という新書を読んで、これもかなり面白かったけど、本書の分析ではウェブで誹謗中傷を書き込んだりしている人は決して「バカで暇人」ではない。「今時の若者」が暇つぶしでやっているわけでもない。意外にも、社会的地位があり、経済的にも余裕があって、決して暇じゃないはずの管理職のおじさんだったりする。
    また、「炎上」とは、個人や企業に対して多くの人から批判が集まって収集がつかなくなる、というイメージがあるが、ちゃんと分析してみると「炎上」のきっかけになる書き込みをしている人たちというのはほんの数名、多くてもせいぜい十数名とかで、その批判をテレビなどのマスメディアが面白おかしく取り上げることによって本当の「炎上」が起こっているのだ。
    だから、誹謗中傷が飛び交い、人を傷つける(時には死に追い込む)ことがあるのをネット(ウェブ)のせいにし、ネットの匿名性を嘆いたりする意見をテレビで見るが、実はテレビが一番悪い(ネットに責任転嫁している)、みたいな。
    第3章までは、インターネットが普及して誰でも情報を発信できる現代社会で、どうしても「極端な人」が力を持ってしまい、本当はそうではないのにその極端な意見があたかも「みんながそう思ってる」みたいに誤解されてしまうシステムがよく分かる。
    第4章では、では「極端な人」に対して社会がどう対処すべきか、具体的かつ建設的に提言してあり希望が持てた。いろいろな具体的な方法があげられており、著者ご自身が「日本リスクコミュニケーション協会理事」というような肩書きをお持ちなので、本書に記された具体策は本当に実践される可能性も高いのではないだろうか。
    私自身もメディアリテラシーの教育に携わる立場なので、とても参考になった。
    あと、統計分析って面白いなーと思った!

全36件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

山口 真一(やまぐち しんいち) 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。2020年より現職。専門は計量経済学。研究分野は,ネットメディア論,情報経済論,情報社会のビジネスなど。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめ,メディアにも多数出演・掲載。KDDI Foundation Award 貢献賞,組織学会高宮賞,情報通信学会論文賞(2 回),電気通信普及財団賞などを受賞。主な著作に『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社),『なぜ,それは儲かるのか』(草思社),『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版),『ネット炎上の研究』(勁草書房)などがある。他に,東京大学客員連携研究員,早稲田大学兼任講師,株式会社エコノミクスデザインシニアエコノミスト,日本リスクコミュニケーション協会理事,シエンプレ株式会社顧問,日本経済新聞Think! エキスパート,Yahoo! ニュースオーサー,総務省・厚生労働省の検討会委員などを務める。

「2022年 『ソーシャルメディア解体全書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山口真一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×