宇宙に行くことは地球を知ること 「宇宙新時代」を生きる (光文社新書)

  • 光文社
4.00
  • (32)
  • (20)
  • (18)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 363
感想 : 39
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334044978

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 野口さんの3度目の宇宙飛行前の対談。
    表紙と題名からはちょっと想像できない内容だったが、野口さんの語られたこと全てがとても貴重で深いものだった。

  • NY在住のミュージシャン・矢野顕子さんが、宇宙飛行士・野口総一さんに宇宙のことをたずねる対談本です。矢野顕子さんは宇宙に行きたくて行きたくて、宇宙飛行士になるために必須の「水泳」を、それまでは金づちだったのにがんばられて習得されたそうです。宇宙に関する知識・情報集めや勉強も盛んで、だからこそ、野口総一さんに対する質問が初歩的だったり表面的だったりせず、そればかりか質問自体からも教えられるものがあるレベルにありながら、そんな低くないレベルの質問に答えてくれる野口さんの発言も真正面から真摯なものなので、お互いのやりとりに読ませるものがあるのでした(たぶんに、お二人から様々な方向へ飛び交う言葉を、うまくまとめられた林公代さんの腕あってのことでしょう)。

    本書による宇宙飛行の知識。たとえば、宇宙服は約120kg。同僚に手伝ってもらいながら、約三時間かけて着込むそう。行われる船外活動は約7時間が限度。酸素やバッテリーの限界があるからです。そして船外活動を行う、宇宙ステーションの外である宇宙空間は絶対的な「死の空間」を意識せざるを得ないのだと。そういったところから、あまり知らなかった宇宙飛行士の内面的なところなどをも知ることができます。
    __________

    宇宙空間に出た途端、「ここは生き物の存在を許さない世界である」「何かあったら死しかない」ことが、理屈抜きにわかります。(p76)
    __________

    物がぶつかっても音がなく、周りには生き物の気配はまるでなし。そして、一切の命を拒絶する、絶対的な闇がある。ゆえに、「死の空間」だと即座に感じられる。

    船外活動の訓練は地球でもプールの中でたくさんの時間を使って行われているそうです。それでも、実際に宇宙空間に出るとほんとうの無重力にとまどってしまうといいます。たとえば手や足を伸ばしているのか縮めているのかも、重力を感じていないためにわからなくなる、と野口さんはおっしゃっている。また、45分毎に昼と夜がやってきます。そのため、宇宙服の冷却装置のON,OFFや、ヘルメットのバイザーの上げ下げを繰り返さないといけない。これらは、船外活動ならではの体験でしょう。

    宇宙飛行士チームの話もおもしろかったです。「結果が出せない人は価値がないのか」という行き過ぎた能力主義の話から続いていく話だったのですが、弱さを見せ合えたチームのほうがうまくいくのだ、と。このあたりでは、東大先端研のアスリートや宇宙飛行士の当事者研究として「安心して絶望できる人生」というすごい言葉が出てきます。結果が出せなかった自分は価値がない、と絶望することがあると思いますが、そういうときの追いつめられた絶望はほんとうにつらいです。でも、「安心して絶望できる人生」というのは、絶望をチームにみせてよくて、チームもその絶望を包摂してくれる。こういうイメージというか、モデルというかは、復活するチャンスにあふれていて、生きやすいだろうな、と思えてきました。

    あと、おもしろかったのは、イーロン・マスク氏率いるスペースX社をひきあいに、日米のビジネスモデルや研究開発モデルを比較したところ。日本の現状としては、どうも石橋を叩いて橋を渡ってばかりいるきらいがある。それが進んでいくと次のようになるのでは、と野口さんは指摘するのです

    __________

    結局一番安全なのは、橋を渡らないことになってしまう。あらゆる挑戦は避ける判断をするほうが楽なんです。リスクがないから。(p197)
    __________

    これって、僕の生活範囲にもありふれていて、この文章を読んだことで「これって、日本的な問題だったんだ!」と目からウロコでした。こういうことを言ったりやったりするのって、個人単位の問題じゃなかったんですねえ。

    というように、抜き出し書きの感想を書くと、以上のようになります。いくつかの大きなテーマに沿って本書は進んでいきますが、その箇所その箇所での話のふくらみ方が豊かですし、なんというか知的好奇心を刺激してくる楽し気な対談になっていました。宇宙から、そして宇宙体験から、それまではまったく視界の外だったような知見が得られます。ほんとうは実際に宇宙旅行をみんなが経験できると、みんなの価値観がわーっと花開くのでしょうけれども、なかなかそうもいかないので、そういった新たな体験や価値観のちいさな欠片を本書から拾うことにしましょう。

  • とても面白く充実した対談集だった。熱意あふれる野口聡一さんの語り口、純粋で聡明な矢野顕子さん…お2人の対話に引き込まれ、宇宙の「いま」に触れることができた。対談をコーディネートした林さんという方の編集もまた素晴らしいんだと思う。

  • 最近のニュースで、日本人初の宇宙飛行士秋山さんが〈宇宙よりも土いじり〉みたいなことを言われていたのが印象に残っていて、ふと、人間は「土から離れて生きられないのよ」という『天空の城ラピュタ』の有名なセリフを思い出しました。(あ、いえ本書はとても面白かったので決して誤解されませんように)
    感想
    1.宇宙飛行士のリアルがよくわかった
    2.人間の〈業〉も改めてわかった
    3.地球で生きる意味も考えた
    ◯ ◯ ◯
    「闇が襲ってくる」とは宇宙飛行士ならではの表現じゃないでしょうか。自分は高所恐怖症なのでそこまで宇宙に行きたいとは思わないのですが、野口さんは、そこは未知の世界だからと言い、矢野さんは、国境がない宇宙でピアノを弾きたいと言います。(矢野さんは宇宙に行くため苦手な水泳を克服さえします。このように夢を持ちながら、より良い生き方をしていくことはとても意味があると思いました)

    しかし、国境はなくても「宇宙開発」という新しい〈争い〉が中国やロシア、アメリカなどの間で(ここでも)始まっていることにも触れられています。人間は未知の世界を開拓してここまできたので開発は止められないでしょう。
    願わくは、夜空の星たちが戦場となりませんように、子どもたちにまだ夢を与える場所でありますようにと流れ星を探して空を見上げましたが曇りでした…。

    願い事。 平和叶えて! 流れ星
    (lem心の俳句)

  • 【NEWS】「宇宙に行くことは地球を知ること」本日発売![矢野顕子] | ニュース | Sony Music Artists
    https://www.sma.co.jp/s/sma/news/detail/90713?ima=0000#/

    【ビデオ・メッセージ】矢野顕子さんが新刊に込めた熱い想いを語ってくださいました。|光文社新書
    https://shinsho.kobunsha.com/n/na52d4b7c9b5e

    宇宙に行くことは地球を知ること 野口聡一、矢野顕子、林公代/取材・文 | 光文社新書 | 光文社
    https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334044978

  • 55歳で、宇宙飛行士として現役であられる野口さん。
    そのモチベーションに触れることができました。

    生きざまが格好いい。

  • 死を意識しながら仕事をする、
    「指先が死の世界に触れている感覚」…
    宇宙飛行士しか味わえない「絶対的な孤独」。
    酸欠になる時にどんな症状が自分に起こるか把握する訓練をするから、本番は怖さを感じないなんて、本当に過酷な訓練の繰り返しであることに想像を絶しますし、気力体力知的力社会力判断力力力力…
    超人でしかない。そんな尊い仕事をしている方々ですら、大統領と通信する際は無重力空間でも自然と整列するそうで、国の長とはなんぞやと考えてしまいました。
    好きであること、探求心、それが宇宙飛行士の原動力だが、結果や成果をすぐに求める今の子どもには分かりづらい世界かもしれないと野口さんは危惧されていました。(これは花まる学習会の高濱先生も仰ってました。幼児教育なんて儲からないよと周りに言われたけど、子どもと関わり、成長を見ることが好きで、面白いんだ!と熱い気持ちがあったわけで、高濱先生はとても幸せなんだと。
    ライスワークとライフワークのバランスが大切。「好き!」を大切にしてほしい。一人一人の探求心が地球を救うと思います。そう思って子育てしてます。)
    「地球上では生命があることが基本で、死は特別なこと、しかし死の世界である宇宙では命の方が特別である」というのが印象的な一文です。
    「一切の生を拒絶する絶対的な闇」宇宙空間を知り、想像することが人々にとってとても大切な学びになるに違いないのに…!
    半年ぶりに地球に戻り、宇宙では常に見下ろしていた雲が空に浮かんでいることに驚き、
    「大気の海の底にいる」と感じたとこのと。
    そういう視点で考えてみるととても不思議で今日は自転車をこぎながら空を見上げた。自分が金魚鉢の中に飼われている魚の気分で、あの木もあの家もあの人も小さな世界の一部にしか過ぎないんだなと。それだけで想像が豊かに広がり、心も広がる気がした。
    そんな実体験がありつつも、徳のステージが急に上がるわけではないと言う野口さんがいかに誠実で冷静であるかがうかがわれた。
    アメリカ民間のロケット、老舗ボーイング社と新進気鋭スペースXの軍配はスペースXにあがった点非常に興味深かった。誰もが老舗に軍配が上がると予想していたが、組織が古く、大きいということが足を引っ張る結果に。従来型にとらわれたり、風通しが悪かったりということがあるんだな、実績ある老舗でもイノベーションを起こさないと寿命を迎えてしまう。
    自分の立場上、身近なところではPTA組織(学校)も同じことと思ってしまった。「誰誰さんに確認しないと。これは誰誰さんを通さないと。今までこうしてきたから…。この間の役員会ではこう決まったから」云々。進みが悪い悪い、小さすぎる世界の無駄に大きな組織の話でした。
    スターマン人工惑星を初めて知ったけど、すごい!と思う反面、次は宇宙汚染かと気になった。野口さんはスターマンはスペースデブリにならないと仰っていますが、忖度されてますか??
    宇宙は誰のものでもない、ましてや地球も。矢野さんの考え方に私は賛同します。が、わざわざ地球に「ありがとう」を言うためにISSのあたりに別荘が欲しいというのも強欲に思えました。が、最後まで読んで分かった、矢野さんは表現者であるから、直に感じたいし、みんなに届けたい強い気持ちがあるからなんですね。私たちの心が豊かになるように。

    宇宙に行くと新しい力か何かを得られるんじゃないかと考えがちだけど、「宇宙体験は『引き算の世界』」大気も重力も何もない宇宙では一番大切なものが見えてくる。
    コロナ禍において、「昔はよかったと思わないようにしたい、この状況でできることをやるしかない。新しいやり方の中でベストを尽くせばいいと思いたい。」という矢野さんの言葉にハッとした。「ニューノーマルの中で、新しい自分たちの在り方や楽しみ方を模索し、見出だしていく時期なんでしょうね。」という野田さんの返事に、いかに自分は過去に囚われているんだろうかと思って、目が覚める思いだった。「何より大事なのは、遠くを見過ぎずに一日一日を積み重ねること、不安を考え出すとその不安に気持ちを持っていかれてしまう、まずは、今日一日を乗り切ればいいと割り切る。小さなサクセスを積み重ねる。」一つ一つ…。

    面白かった。宇宙のことだけでなく、開発、人間のこと世界の国々のこと企業など組織のこと未来のことなど幕の内弁当のような本だった!!ますます、宇宙、野口さん、林公代さんに興味が湧きました、そして矢野顕子さんのことも。ここには書ききれないこともノートに書き出した。写真も楽しかった!

  • 宇宙飛行士の野口聡一さんとミュージシャンの矢野顕子さんの対談。

    宇宙ビジネスの進化がここまで来てるとは!と驚きでした。
    (お願いだから中国は余計なことしないで…と思ってしまった)

    カーリングの吉田知那美選手の『私はオリンピックから帰還したけど、生還はしていない』という言葉の重みが印象に残りました。

  • "生き物の存在を許さない世界"が印象的。コロナ禍の現状も含め、宇宙にまつわるバックヤードが分かり面白かった。野口さん3度目の任務成功を祈りながら。

  • 「自分に過度の期待をしすぎない。ちゃんと食事をして休憩をとり、身体と心の健康を保つ。
    何より大事なのは、遠くを見過ぎずに1日1日を積み重ねること。それが新しい道、大きな目標につながる」

    野口さんの最後のメッセージはとてもシンプルだけど、激動の今の時代にとても大切なことのように思う。

    矢野さんの宇宙愛がすごい。ぜひ宇宙でピアノを弾いてほしい。宇宙が人の情緒にどのような影響を及ぼすのか、これからの時代、文化人たちもどんどん宇宙に行ってほしい。

    宇宙勉強3

全39件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1965年、神奈川県横浜市生まれ。1991年、東京大学大学院修士課程修了。1991年石川島播磨重工業(株)に入社。航空宇宙事業本部に所属し、ジェットエンジンの設計及び性能試験業務を担当。1996年5月にNASDA(現JAXA)が募集していた宇宙飛行士候補者に選定される。同年6月、NASDA入社。同年8月からNASAが実施する第16期宇宙飛行士養成コースに参加した。1998年4月、NASAよりミッションスペシャリスト(MS:搭乗運用技術者)として認定された。同年7月から8月、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(GCTC)における基礎訓練コースに参加した。その後NASAにおいてMSの技量維持向上訓練を継続すると同時に、宇宙飛行士の立場から「きぼう」日本実験棟の開発支援業務に従事した。2001年4月、ISS組み立てミッションであるスペースシャトル(STS‐114)の搭乗員に任命される。野口宇宙飛行士ら7名を乗せたディスカバリー号は2005年7月26日打ち上げ、8月9日帰還。

「2006年 『スィート・スィート・ホーム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

野口聡一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×