名探偵 木更津悠也 (カッパ・ノベルス)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 76
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334075644

感想・レビュー・書評

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  • 麻耶さんテイストは、やはり好みです。

    麻耶雄嵩さんの作品は、基本的にミステリのもしもシリーズだと思ってる。
    木更津シリーズのテーマは「もしもワトソンの洞察力が探偵より鋭かったら」。
    『翼ある闇…』では密かに香月君だけが真相に辿り着いたことで見事に名探偵を傀儡にしたけど、『木製の王子』はそのあたりの構造は薄らいでいた。
    短編集の本作品は、事件が軽い分、よりそのテーマに迫ってみた感じになってる。

    短編が4編。時間軸順に並んでいるし、白幽霊というモティーフが各話にまたがってるので、連作短編集と言える。
    各話で香月君は木更津よりも先に真相を察知し、さりげなく解決のヒントをちらつかせることで気づかれることなく木更津の名探偵ぶりを維持するために暗躍する。
    面白いのは、香月君は決して陰で木更津の無能っぷりを嘲笑うのではなく、木更津に備わる名探偵としての素質(意識の高さと強靭な意思)を認め、名探偵木更津悠也が好きで、木更津に名探偵であり続けてほしいと願っているところ。
    で、木更津本人も決して無能ではない。単に比較の問題で、洞察力においては香月君の方が上を行ってるだけなのだ(多分木更津は気づいていないけど)。
    まぁ、でも読んでると木更津の知らぬが仏っぷりにちょっと笑っちゃうけど。

    今回はいつもより木更津が上から目線で香月君に物申してる印象だけど、嫌味もそんなにイヤな響きに感じず、やっぱり根本で香月君に敬意を払ってる気がする。だから他のホームズ−ワトソン関係よりも、友達感が強い。
    メルと美袋との関係とは大違い(笑)。
    木更津ってホームズポジションには珍しくイイ人なのかも。

    「白幽霊」…金持ちのお家騒動のさなかに当主が殺害される。容疑者にされた長男(故人)嫁から依頼を受けた木更津は現場に乗り込み、関係者に事情聴取する。
    犯人は当主(被害者)の甥(養子縁組予定だった)の彼女。巷の白幽霊の噂が関係者にどう伝わったか、というところから矛盾点があぶり出され犯人が露呈する。
    注意深く読んでいる読者なら気づいたかも。

    「禁区」…高校生グループが、半年前に行方不明になった同級生の化けて出たのが噂の白幽霊ではないかと推測し、興味本位で見に行くと、本当に幽霊を目撃してしまう。以来、幽霊はいないなどと言えない心理状態が続き、そのうち一人の女子が殺害され、部室で石灰を大量にかけられた状態で発見される。
    犯人に至る経過がちょっと強引だと思ったけど、部室の騒動で知耶子ポジションから見れば知耶子の方を唯一振り向かない人間がいる光景は、確かに異様かも。

    「交換殺人」…酔った勢いで交換殺人の約束をしたという男が、殺してほしいと言われた人間が死んでることを知って、自分が殺してほしい人として挙げてしまった妻に危害が及ぶ前に事件を解決して欲しいと依頼。
    何となく交換殺人自体が狂言なのは分かるけど、ホントの狙いは分からなかったので、解決編は結構驚いた。

    「時間外返却」…1年前に失踪した女子大生の遺体が山中で発見される。父親に事件解決を依頼された木更津は捜査に乗り出すが、ある日その父親が白幽霊が出る辻で殺害される。
    事件解決後の木更津は、父親がなぜ白幽霊の出る辻に行ったのか、という問いに至り、香月君のイタズラ心からの軽率な行動を暴く。もっと早く気づいていれば父親は死なずに済んだと悔やむ木更津だが、香月の方には全くダメージを受けた感じがなく、そこはかとなく怖い(サイコパス的な意味で)。
    冒頭の探偵論が最後の伏線になっていて、すごく伏線の張り方が美しかった。なぜ洞察力の優れた香月君が名探偵になれないかを納得させられたし、最後に木更津の名探偵としての実力を見せつけられて、下がりかけた木更津の名誉を回復させて終わったのが、イイ。
    木更津が自らの力だけで真相に辿り着いたのは、香月君にとっても本望だろう。
    (でも、いかに木更津が名探偵に相応しいか力説する香月君を読みつつ「でもこの人山に籠もってたよなー」と考えちゃったのはナイショ)

    メルのインパクトに比べて木更津は地味かもしれないけど、木更津✕香月コンビは好き。
    全話に登場する白幽霊が何なのか結局解明されないまま終わったのは斬新だった。

  • 麻耶先生にしては毒ないね?アンチミステリしてないね?と思ってたら、なんのなんの。
    やっぱり麻耶雄嵩は麻耶雄嵩でした(ほめてる)。

    4篇全てに白幽霊というキーワードが出ているにも関わらず、その謎を説明するでもなく打っちゃって終わるとことか、ワトソン役がちゃんとワトソンしてない()とことか、大変に麻耶カラー満載でした。ごちそうさまです。

    ミステリーとしてはダントツで2編目の【禁区】が好き。こういう「関係者達の視線の動き」に解決の糸口を見出すっていうテーマが堪りません。
    しかも、本作はそのテーマが犯行の動機も形成してるっていうね。最高!



    ◎白幽霊…殺人犯は何故被害者の部屋のカーテンを切り取ったのか?

    ◎禁区…死体の上に石灰を振りかけた犯人の意図とは?

    ◎交換殺人…酔った勢いで交換殺人の約束をしてしまった依頼人だったが、自分が殺すはずだった男が何者かに殺害されたのを知り…。

    ◎時間外返却…一年前に失踪した娘の死体が発見され、事件を調べて欲しいと依頼に来た父親が殺害された。犯人は、現場近くで目撃情報が相次いでいる「白幽霊」なのか?

  • 「翼ある闇」の後日という設定ですね。未読の方には、先に読まれることをお勧めします。
    木更津さんを名探偵とリスペクトするあまりの、香月さんのちょい押しが微笑ましくて好きです。

  • 全ての作品に「幽霊」が出てくる以外はオーソドックスなミステリ小説。麻耶雄嵩の割には綺麗なミステリなので普通にオススメ。ただし、翼ある闇を読んでからでないと多分後悔する。

  •  こういうタイトルの本だけれど、別にこの本が木更津悠也さんの初出というわけでなく。
     この時点で木更津さんはもうとんでもなく名探偵という事実が知れ渡ってます。

     1話目と3話目は、手がかり的なことには気付いた。
     で、結局、白幽霊て何なのよ。

  • 作者の作品の中では癖が少なめな連作短編集。

    もちろんミステリとしてもすごく面白かったし、キャラは事件より癖がかなりあってなんだか惹かれる。

    名探偵が大好きすぎて、木更津にどうにか理想の名探偵でいてほしい香月の必死さが怖い…。
    探偵の能力としては香月の方が圧倒的に上なのに…。

    そして木更津はそれに気付かず踊らされてるのかと思いきやの最後…ちゃんと気づいてるんですね…。
    木更津の内心が気になります。

    このコンビの今後の活躍が楽しみです。

  • 短編集だが手抜きなし。

  • ホームズより優秀なワトソンが居たら。そしてそれをホームズは分かってしまったら。相変わらずのジレンマ。麻耶さんですね。

  • メルカトルシリーズと一緒に土曜11時枠とかでドラマ化して欲しい。

    木更津かっこいい!!

  • メルカトル鮎シリーズの木更津&香月サイドの物語。
    白幽霊で微妙につながる春夏秋冬の短編集です。
    探偵小説にお決まりのホームズ&ワトソンの関係とは大きく異なるこのコンビ。ワトソン役である香月君はホームズ役の木更津より頭が冴えるのにうっかり者のワトソンを演じ、さりげなく木更津にヒントを与えて事件を解決させてはそんな「名探偵木更津悠也」に心酔しているという変わった人物。
    香月君の腹黒さはさすがあの人と兄弟だ…と思わざるを得ません。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。京都大学工学部卒業。大学では推理小説研究会に所属。在学中の91年に『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』でデビューを果たす。2011年『隻眼の少女』で第64回日本推理作家協会賞と第11回本格ミステリ大賞をダブル受賞。15年『さよなら神様』で第15回本格ミステリ大賞を受賞。

「2023年 『化石少女と七つの冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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