吸血鬼と精神分析 (カッパ・ノベルス)

著者 : 笠井潔
  • 光文社 (2013年7月18日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (663ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334077167

吸血鬼と精神分析 (カッパ・ノベルス)の感想・レビュー・書評

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  • セックスアピールを、偽装された神性ととらえるなら
    神を熱心に信ずる者は、「おしゃれ」を忌避すべきであろうか?
    いや、化粧は神の祝福を受け入れる者のしるしでもありうるだろう
    ゆえに、信仰とおしゃれは両立しうるものと言える
    要は解釈の問題だ
    解釈によって、人間の行動はいくらでも合理化できてしまう

    ミノタウロス島における連続殺人事件の発端がなんであったか
    それを知る者にとっては
    ナディア・モガールが鏡恐怖症におちいった理由も容易に想像できるだろう
    「美」を欲望することは、罪悪そのものであると
    少なくとも彼女には、そのように信じられるのだ
    しかしこれにしたって、いくらでも解釈を変更することは可能である
    鏡を見るという行為はむしろ、醜くも美しくも解釈可能な
    人間の「あるがまま」を確認するものにすぎないだろう

    ところで、吸血鬼は鏡にうつらない存在であるとされる
    鏡像段階を通過しない彼は、まさしく
    生と死のグレーゾーン…享楽の世界を生きているのだ
    みずからのことを「他者A」とも「対象a」とも解釈しうる彼は
    絶対的な享楽のなかにあり
    まるで、乳幼児が乳を吸うように、他人の血液を吸う
    象徴界の人々には、変態ナルシストの迷惑な殺人者だ
    しかし安心してほしい
    吸血鬼なんてものは、あくまで架空の怪物にすぎない
    物語の存在にすぎない
    問題があるとすれば、ときに吸血鬼の名は
    スケープゴートに貼り付けられるレッテルとなりうることだが
    それを回避するために
    吸血鬼ならぬ人間には、「場の空気を読む」能力が備えられているんだ
    椅子取りゲームにあぶれることもあるが
    それは気合でなんとかしよう
    とにかく吸血鬼は、架空の存在なんだ
    吸血鬼は物語の向こう側にいて
    読者・視聴者・プレイヤーの「時間」であったり
    場合によっては、それ以外のエネルギーを吸い取っていたりする

    「吸血鬼と精神分析」は、非常に複雑な構造を持つ群像ミステリーだ
    その全容を把握するために、読者は再読を要求されるだろう
    そうして物語のループを余儀なくされるうち
    メタ空間の中で、きっと吸血鬼の存在も見えてくるに違いない
    そいつを殺すか殺さないかは
    あなたの解釈しだいといったところか

  • どうも今までのシリーズとは印象が違うなあと思ったら、主人公である筈の矢吹駆の存在感が、これまでになく薄い。気がする←

    お得意の薀蓄語りと勿体ぶったラストの事件解明以外、彼が出てるシーンはどれだけあったかしら?と見返したら、意外にあったのでビックリ。ナディアの心象描写がこれまでになくシリアスだったから、そこに注意が向いてたのかな?そもそも、前作を読んだのも数年前だしなあ。既読作品だって、彼はそんなに出張ってなかったものね…。何だかちょっと他人行儀な存在に思えてしまった。

    今回の薀蓄テーマは『精神学』。
    フロイトやオイディプス王など、半端に知ってる私としては中々美味しく頂けそうなテーマだったのですが…うーん、カタリ派にときめいたあの日の高揚はいずこへ〜(笑)。
    このシリーズで初めて斜め読みしてしまいました。
    事件の本筋には関わってこないけど、この薀蓄部分こそ今シリーズの核なのになあ。でも、次作も出たら読むのよ、ノベルスで←

    ところで、バルベス警部の駆に対する信頼の高さって何なん?笑



    ルーマニアからの亡命者が惨殺されたのを皮切りに、全身から血を抜かれて殺害されるという猟奇連続殺人が発生した。ギリシャでの事件以降、情緒不安定になっていたナディアは事件に興味を持てずにいたが、友人に紹介された精神医の元を訪れたのを契機に、事件の渦中に巻き込まれることになる。

  • 異なる2つの殺人事件が微妙に絡み合う展開のため、登場人物や事件につながる行動の把握が難しいが、それでも矢吹駆シリーズの他作品に比べて、読みやすいと感じた。

    犯人(と言っていいのかどうかわからない人も含めて)の動機も犯行方法も、(同意はできないが)意味としては理解できた。また、アリバイトリックは今回はないので、そこも気にしなくてよいのが読みやすかった理由の一つかも。

    哲学的な議論のところも、従来作品と比べてわかりやすく、少なくとも神話や宗教の話が出てこない議論はついていくことができた。

    今回の精神分析は、事件のある重要な部分の真相(に関する駆の推理)にかかわってきて、これはこれでミステリー小説おなじみのあるトリックに関する解釈として楽しめた。

    また、最後に明らかになる事件に関する重大な真相(?)に関する部分は、このシリーズの犯人に関するお約束とも言うべき結末なのだが、それがあの人ではなく、あの人に起こった点が、従来のこのシリーズとちょっとずれていて、意外な感じがした。

    これにより、ミステリー作品としての意外性は獲得できたと思うが(実際私個人としては楽しめた)、犯人の観念に関する追求という意味で、従来のシリーズに比べて弱くなったのは否めない。

    本来は観念に囚われた結果○○してしまう犯人が、本人以外の意思として○○してしまう結果に形上なってしまっており、(犯行自体も本人の意思といい難いところも含めて)犯人の印象が弱くなってしまうという意味で、非常にぜいたくな悩みではあるが残念だった。

  • 笠井潔『吸血鬼と精神分析』読了。矢吹駆シリーズも本作で遂にミステリというジャンルがおまけになったような印象。しかし、内容は小説として纏まりいつになく読み易かった。もちろん、思想的な内容は作品のテーマとして貫かれており、今作では、ミステリに成り代わって新しい軸にまでなっている気がする。そういう意味では後期クイーン的問題に対する笠井潔の解答なのかもしれない。今作は、精神分析が取り上げられ、ラカンとクリステヴァへの批判が大きな主題となっている。特にファルスを根源的な記号とする点に対して、アブジェクシオンを対置して、神学的に脱構築するような展開は面白かった。やはり精神分析がファルスに依存している点については、首肯し難いし、アブジェクシオンについてもすっきりしない。問題は、人間が如何に特権的な象徴的動物になったのか、ということだろうが、納得いかないのは結果的に欲望のレベルで人間を特権化している点だ。だから、動物は生理的な快不快を超えた感情がないというような結論になる。動物も象徴界には参入しているとすれば、人間との違いはシニフィアンが滑落しないということか。であるならば、固定化された記号関係、つまり無限の感覚がないということだ。これは、数の概念が恐らくないということ、笑わないこと、と整合的な説明が出来そうだ。

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