- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334100520
作品紹介・あらすじ
新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの公園にある古びたカバの遊具・カバヒコには、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説が。アドヴァンス・ヒルの住人は、悩みをカバヒコに打ち明ける。成績不振の高校生、ママ友と馴染めない元アパレル店員、駅伝が嫌な小学生、ストレスから休職中の女性、母との関係がこじれたままの雑誌編集長。みんなの痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。
感想・レビュー・書評
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あなたは、『伝説』を信じているでしょうか?
“ある時、特定の場所において起きたと信じられ語り伝えられてきた話”、それが『伝説』です。古事記や日本書紀に古代の人々が書き残したこの国のはじまりの『伝説』、9000年前に海中に没したとされるアトランティス大陸の『伝説』、そして、誰もが心ときめかす徳川埋蔵金の『伝説』など、私たちはさまざまな『伝説』と共に生きています。その言葉の響きだけで無性に夢とロマンを掻き立てられもする『伝説』は、一方で”眉唾もの”という言葉と紙一重の存在でもあります。真実を探ろうとしてもさまざまな壁が立ちはだかる『伝説』という存在は、逆に解き明かされないからこそ、いつまでも夢とロマンと共にある存在と言えるのかもしれません。
しかし、『伝説』とは本当に夢とロマンで終わるものなのでしょうか?そんな『伝説』が真実になることはないのでしょうか?
さてここに、都内のある街に伝わる『伝説』を取り上げた物語があります。
『カバヒコにはね、自分の体の治したいところと同じ部分を触ると回復するっていう伝説があるのよ』。
この作品は、『日の出公園』という『団地に囲まれた小さな公園』の隅に置かれた『カバ』の『アニマルライド』に触れる主人公たちを描く物語。そんな主人公たちが、それぞれの痛みから『回復』する様を見る物語。そしてそれは、『 大丈夫、リカバリーしたんだ。もう、前と同じぼくじゃない』と主人公たちが再び顔を上げる瞬間を見る物語です。
『新築マンションだぞ。奏斗も嬉しいだろ』と『中学三年生の夏に父さん』に言われたのは主人公の宮原奏斗(みやはら かなと)。『アドヴァンス・ヒル』という『仰々しい名前の』マンションへ『中学卒業と同時に引っ越すことになった』奏斗は『郊外にあるのんびりした街の公立中学に通』い、『通知表には5が並』ぶ『優等生』でした。そして『都内の進学校を受験』し合格した奏斗は、中学には『心を開けるような友達は僕にはいなかった』こともあって、『さっぱりした気分で』、『新しい家、新しい生活』へと向かいます。『話の合う、僕にぴったりの友達ができるに違いないと思』う奏斗でしたが、『新学期が始まってすぐ、僕はどこにも分類されないことを知』ります。『身の置き場』のない学校生活に困惑する奏斗は、『中間テストを受けて、大打撃を受け』ます。『ことごとく低得点で』、『プライドはズタズタ』になった奏斗。『四十二人中、三十五位』というクラス順位を知らされ愕然とする奏斗。『こんなもの、母さんには見せられな』いという中、『頭を抱える』奏斗は、『自分以外がみんな天才に見える。みんな余裕の顔してる』とクラスメイトたちを見ます。そして、『6を、8に』、『1を、9に』書き換え、『平均点は69点だったよ』と89点に加工された結果を母親に見せ、『やっぱりすごいわねえ』と褒められるも、『どうして僕は、バカになっちゃったんだ…』と思い悩みます。場面は変わり、『そのまま家に帰る気になれな』い奏斗は、裏道へと入り『サンライズ・クリーニング』という店の先へと進んでいきます。そこには、『「日の出公園」と彫られた』石板が入り口に置かれた『小さな公園』がありました。『僕の他には誰もいない』という公園に入った奏斗は、『すみっこにいる動物っぽい姿に気づ』きます。そこには、『ぽつんと一頭だけ』、『カバ』の『アニマルライド』が置かれています。『楕円の大きな瞳はちょっと上目遣いで』、『口がにいっと横に大きく広がり、端っこが上が』り、『上向きの鼻は盛り上がった丘のてっぺんに離れて鎮座し、なんとも間の抜けた、あきれるほどのんきな表情』という『カバ』。そんな『カバ』に近づいた奏斗は、『後頭部に太い黒のマジックで「バカ」と落書きされている』のを見つけて心が痛みます。そして、消しゴムを使って消そうとしますが汚れは落ちません。翌日、『学校が終わると公園に直行』した奏斗は、そこに『制服姿の女の子が』いることに気づきます。それは、『同じクラスの』雫田(しすくだ)でした。『宮原奏斗じゃん』、『なんでこんなとこにいるの?え?家、近所?』と語りかけてきた雫田は公園の近くの団地に住んでいました。そんな中、唐突に『カバヒコ〜』と『カバ』に呼びかけた雫田は、『カバ』へと寄っていくと『カバヒコってね、すごいんだよ。怪我とか病気とか、自分の体の治したい部分と同じところを触ると回復するって言われてるの』と続けます。『このみすぼらしいカバに、そんなご利益が』と思う奏斗に、『人呼んで、リカバリー・カバヒコ』と語る雫田は、『このあたりだけの都市伝説みたいなもんでさ』と『腰をなでたらヘルニアが治った』おばあさんの話をします。一方で、『しょせん科学的根拠なんかないし』と言う雫田ですが、『いいことを、聞いた』と思う奏斗は、『僕はバカを治したい。またみんなに「頭いいね」って言われたい』と思います。そして、『美人になりますように』と、『カバヒコの顔をなで』る雫田を見て、『カバヒコの頭に手をや』り、『頭脳修復、たのむよ、カバヒコ!』と祈る奏斗。そんな奏斗を見て笑う雫田に、『久しぶりにほっとした気持ちにな』る奏斗は、『フランクに話ができる同級生がやっと現れた』と思います。そんな奏斗のそれからの日常が描かれていきます…という最初の短編〈第1話 奏斗の頭〉、共通して登場する『カバヒコ』の存在を強く印象づける好編でした。
“2023年9月21日に刊行された青山美智子さんの最新作であるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、7月に瀬尾まいこさん「私たちの世代は」、8月にも寺地はるなさん「私たちに翼はいらない」と、私に深い感動を与えてくださる作家さんの新作を発売日に一気読みするということを積極的に行ってきました。そして、このキャンペーンのきっかけとなったのが2021年9月9日刊行の青山美智子さん「月曜日の抹茶カフェ」でした。そう、私にとって青山さんはなくてはならない大切な作家さんでもあるのです。そして、そんな青山さんの新作が刊行される情報を得て、今回、発売日早々にそんな作品を手にしたというのがここまでの経緯です。
そんなこの作品の帯には手書きで”大丈夫。私たちはきっと、リカバリーできる。”と記されています。そして、帯の下方に小さく”公園の古びたカバの遊具、カバヒコ。カバヒコに触れると、治したいところが回復するという。”と意味深な説明がさらっとなされてもいます。触れると、治したいところが回復する!という『伝説』。長野県善光寺の尊者像など、触れると病気や痛みが治るとされる像は古の世から数多存在します。触られすぎて禿げてしまっているものも存在するなど、人々が苦しみから逃れるために何かに縋ろうとする思いの強さをそこに感じもします。この作品では、そんな『伝説』をもたらす存在が登場します。『リカバリー・カバヒコ』という『カバ』の『アニマルライド』がそれに当たります。では、まずはそんな『カバ』がどのようなものかもう少し詳しく見てみましょう。
● 『カバヒコ』について
・設置場所: 『日の出公園』- 『サンライズ・クリーニング』の先にある『団地に囲まれた小さな公園』の隅
・姿形: 『茶色に近いようなくすんだオレンジ色で、それもところどころ塗料が剝げている』、『楕円の大きな瞳はちょっと上目遣いで』、『口がにいっと横に大きく広がり、端っこが上が』り、『上向きの鼻は盛り上がった丘のてっぺんに離れて鎮座し、なんとも間の抜けた、あきれるほどのんきな表情』の『アニマルライド』
・伝説: 『自分の体の治したいところと同じ部分を触ると回復するっていう伝説がある』
※ 『サンライズ・クリーニングのおばあちゃんもカバヒコの腰をなでたらヘルニアが治った』
さてどうでしょうか。公園によく見られる『アニマルライド』、それが『くすんだオレンジ色』の『カバ』ということでどことなくイメージいただけると思います。そんな『カバ』に、隠された力がある!それがこの作品の一つのポイントです。この作品は五つの短編が連作短編を構成しており、そんな五つの短編全てにこの『カバ』の『伝説』が登場します。つまり、『カバ』が短編を繋ぐキーになっていると言えます。青山さんと言えば連作短編というくらいに連作短編のイメージが濃い作家さんですが、ポイントはそんな連作短編の作りの差異です。青山さんはこれまでに12の小説を発表(絵本仕立ての作品等企画ものを含む)されており、12の作品は以下の4つに分類されると思います。
① 人と人が繋がっていく連作短編
→ 「木曜日にはココアを」、「月曜日の抹茶カフェ」、「赤と青とエスキース」
② 一つの場所、モノが起点・きっかけをつくる連作短編
→ 「お探しものは図書室まで」、「月の立つ林で」、「X」
③ ファンタジー系連作短編
→ 「ただいま神様当番」、「猫のお告げは樹の下で」、「鎌倉うずまき案内所」、「Y」
④ 企画もの(さてさてのレビュー形式では取り上げるのが難しいため泣く泣く未読)
→ 「いつもの木曜日」、「マイ・プレゼント」、「ユア・プレゼント」
さて、この”カバヒコに触れると、治したいところが回復する”という作品は、”X”に分類されるものでしょうか?、それとも、”Y”に分類されるものなのでしょうか?…さて。ということで、その答えは、モニョモニョ…これから読まれる方のお楽しみとさせていただきたいと思いますが、いずれにしても極めて青山さんらしい物語がそこには展開していきます。
※上記のように分類をまとめてみて、青山さんご本人?担当編集者さん?の作品作りのバランスの絶妙さに本屋大賞常連の理由の一端を垣間見た思いです。
では、次はそんな五つの短編について触れておきましょう。青山さんの作品らしく、それぞれの短編には何かしらの悩みを抱えた主人公たちが登場します。
・〈第1話 奏斗の頭〉: 『中学卒業と同時に引っ越』し、『都内の進学校』に進んだのは主人公の宮原奏斗。『希望を胸に高校に入学した』奏斗ですが、レベルの高い授業についていけず、『自分以外がみんな天才に見える』、『どうして、どうして』と、思い悩んでいます。そんな中に『カバヒコ』の存在を知った奏斗は…。
・〈第2話 紗羽の口〉: 『夫の佳孝』の提案でマンションに引っ越してきた紗羽が主人公。娘のみずほが年長に上がるタイミングでの引っ越しに戸惑うも新生活をスタートした紗羽ですが、『通園バス』の見送りに集まる『ママ友』との付き合いに馴染めず思い悩みます。そんなある日、『カバヒコ』の伝説を聞いた紗羽は…。
・〈第3話 ちはるの耳〉: 『耳がふさがれるような閉塞感に苛まれ』、『耳鼻科』で『耳管開放症』と診断されたのは主人公の新沢ちはる。『ウェディングプランナーとしての仕事』をしている ちはるでしたが、あることが原因で自信を無くし『一ヵ月で五キロ以上痩せ』、会社を休職します。そんな中、公園で『カバ』を目にします…。
・〈第4話 勇哉の足〉: 『小学校四年生に上がるタイミングで』転校してきたのは主人公の勇哉。そんな勇哉は『駅伝大会』のクラス代表の最後の一人を『くじ引き』すると聞いて『足をねんざしたことにしよう』と作戦を立てます。作戦成功、逃れることができましたが本当に足が痛み出します。そんな中、公園の『カバ』の話を聞き…。
・〈第5話 和彦の目〉: 『都内の出版社、栄星社に勤務して三十年』という情報誌『ラフター』の『編集長・溝端和彦』が主人公。そんな和彦は『ずっと疎遠になっていた母親が気がかり』でいますが、けんかばかりだった過去を思い出し一歩を踏み出せません。自身も老眼が気になる中、幼い頃遊んだ公園の『カバヒコ』の元を訪れ…。
五つの短編に登場する五人の主人公たちの年齢、境遇はそれぞれに異なります。唯一共通なのは、『アドヴァンス・ヒル』という『五階建ての新築分譲マンション』の住人であるということだけです。そんな五人は、それぞれに悩みを抱えています。〈第2話 紗羽の口〉の主人公の紗羽は、娘の幼稚園の『ママ友』との距離感に思い悩んでいます。〈第3話 ちはるの耳〉の主人公・ちはるは、あることがきっかけで『ウェディングプランナーとしての仕事』に自信をなくし休職しています。そして、〈第5話 和彦の目〉の主人公・和彦は老眼が気になる年齢に差し掛かる中に、一方で年老いた母親のことを気にかけつつも、今までのけんかばかりの関係性の先に一歩を踏み出すことができません。そんな主人公たちは、それぞれのきっかけの先に公園の『カバ』の『アニマルライド』の伝説を知り、『自分の体の治したい部分と同じところを触る』ことで、その『回復』を願います。『人呼んで、リカバリー・カバヒコ』というその存在の力にすがる主人公たち。この作品では、そんなそれぞれの思いが叶うのか、『回復』できるのか、物語はその先の主人公たちのそれからが描かれていきます。『どんどん自信がなくなっていった』とそれぞれに思い悩む主人公たち。『私ばっかり、どうして私ばっかり不幸なんだろう』とそれぞれに思い悩む主人公たち。そんな主人公たちがそれぞれの短編の結末に見せる姿に思いが込み上げるこの作品。そこには、誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添ってくださる青山美智子さんらしい物語が描かれていました。
『カバヒコってね、すごいんだよ。怪我とか病気とか、自分の体の治したい部分と同じところを触ると回復するって言われてるの』。
五人の主人公たちがそれぞれの人生に思い悩む姿が描かれたこの作品。そこには、他人には決してうかがい知ることのできない主人公たちの心の葛藤を見る物語が描かれていました。決して特別ではない主人公たちの苦しみを自分に置き換えてもしまうこの作品。読後、近くの公園の『アニマルライド』を触ってみたくもなるこの作品。
“大丈夫。私たちはきっと、リカバリーできる。”という本の帯の言葉が優しく心に響いてくる、そんな作品でした。 -
お気に入りの青山美智子さんの新刊が出たので本屋さんに行ってきました。
一字一句味わいながらじっくり1編づつ読もうと思ってたのに気づいたら一気に読了してました。
お得意の連作短編で今回の作品もしんみりと心に響いて良い感じでした。
工場跡地に建てられた5階建の新築マンションに越してきた住民たちの物語です。
古くからひっそりとある公園のカバの形をしたアニマルライド。痛みのある部分と同じところを触ると回復するとゆう都市伝説のカバ、人呼んでリカバリーカバヒコ、カバだけに
ここがクスッと微笑むところww
登場人物みんなにナイスリカバリーって声かけたくなりました。
カバだけにっw-
しじみさん、こんにちは!
私もいつか読みたいと思っている作品です(*^^*)
でも、まだ図書館にはないから(^-^;
ナイスリカバ...しじみさん、こんにちは!
私もいつか読みたいと思っている作品です(*^^*)
でも、まだ図書館にはないから(^-^;
ナイスリカバリー、いいですね!!
しじみさんらしいっ!
早く図書館に入らないかなぁ~2023/09/24 -
かなさーーん、こんばんは w
早く図書館に入るといいですねw
新刊なのであまりネタバレしないように書きましたが、青山さんの遊び心も散りばめ...かなさーーん、こんばんは w
早く図書館に入るといいですねw
新刊なのであまりネタバレしないように書きましたが、青山さんの遊び心も散りばめられていて楽しめました(≧∀≦)2023/09/24
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大好きな作家さんの1人である、青山美智子さんの新作!もう、青山美智子さんらしさ溢れる作品で、心優しいストーリーと文の語りにとにかく癒されるし、ホッとすること間違いなしです!この作品を読んでほろっとしてしまうと同時に、自分も会社やプライベートで、人間関係のストレスを抱えてるんだなと変な自覚も生まれました。
神様、図書館、下絵、ラジオときて今作の題材は遊具であるカバヒコ。カバヒコに触れた人は、触れた場所が治るという言い伝えがあるとかないとか…
そしてカバヒコに助けを求めるように5人の登場人物が現れます。5人はそれぞれ人間関係や勉強などの悩みを抱えていて…というストーリー。
今回の作品は「赤と青とエスキース」、「月の立つ林で」と比べて、「リカバリー」を題材にしてることもあって、割とストレートな作品である印象を受けました。登場人物たちにちょっとした関わり合いはあるのですが、短編自体はそれぞれ独立してるので、隙間読みにはちょうど良いかなと思うと同時に、続編も期待できるなと思いました。
まぁ色々書きましたが、感想の大部分は「カバヒコが愛おしい…」ってことに帰結します笑 -
タイトルと表紙から、青山美智子さんの過去作品との類似を連想してしました。古い遊具のカバ(愛称カバヒコ)が動いて、さぁ〝お告げ〟が来るぞ、来るぞ、え? 来ないんかーい! ファンタジーじゃないんですね‥。でも、「リカバリー・カバヒコ!‥‥カバだけに」なんて、青山さん、オヤジ入ってますね(^^)
とある公園の古びたカバの遊具には、体の治したいところと同じ部分を触ると回復する、という都市伝説があるのでした。病気や怪我に御利益のある薬師如来系のイメージですかね。
全5話の章ごとに異なる主人公が登場し、その視点で描かれる連作短編集で、共通点がカバヒコとの交歓を軸に据えているところです。
読み進めると、どうも主人公たちは具体的な病気や怪我をしているわけではなく(具体症状もあり)、周囲からは分かりにくい辛さ・苦しさを抱えています。その悩みの描写が誇張し過ぎずリアルで、共感を得られると思いました。
主人公たちが、苦境からどう立ち上がり回復していくか、この辺が読みどころになっている気がします。
カバヒコは何もしないけれども、主人公たちが愚痴をこぼし、悩みを打ち明け、心情を吐露します。そして、カバヒコの他に回復のきっかけとなるキーマン的な存在が出てきます。
回復の起点は身近にあり、思い込みや偏見を見直し捉え直すことで、少し成長した自分に変われる‥、そんな青山さんのメッセージと受け止めました。 -
青山美智子さんの新刊。青山さんの新しい小説を読む度、心に刺さるフレーズが散りばめられており、本当にすごい。これまでどんな経験をすると、このように読者に刺さる話が書き続けられるのだろう!
公園にあるカバのアニマルライド「カバヒコ」を軸とした連作短編集。本作でも、小学生から中年男性まで、様々な主人公が、それぞれの生活で悩みや辛さを抱えている。タイトルの通り、それが「カバヒコ」によって「リカバリー」されていくのだが、カバヒコの存在だけでなく、主人公が周りの人の優しさや思いに気づくことで傷が癒えていく様子も描かれており、とても心温まる。何事も自分の「物事の見方」を変えるだけで、感じ方は大きく変わり、ひいては人生を好転させる。それがいつも簡単にできれば苦労しないのだが、知っているだけでも元気の源になる。一気読みしてしまったが、とても心地良い読書時間を過ごすことができた。心身を労わりながら、そして周囲の大切な人たちに感謝しながら、自分のやりたいことをやっていこうという思いを新たにした。 -
青山さんの連作短編は毎回ほっこり癒されて、繋がりにわくわくして、名言の数々に救われる。
リカバリー・カバヒコ。小さな公園のぼろぼろの遊具だけれど、ひょうきんな顔とある界隈で密かに語り継がれる伝説とで、ひとから愛されている。
私も「カバヒコ〜!」って言いながら、いろんなところをなでなでしたい。ヒーリング効果高めなカバのアニマルライドだ。
主人公たちが抱えるのは、私たちが日常的に抱く心と体の不調だ。
第1章「奏斗の頭」
進学校で勉強についていけなくなった高校生
第2章「紗羽の口」
苦手なママ友の付き合いが苦しいお母さん
第3章「ちはるの耳」
ストレスで耳管開放症になってしまった女性
第4章「勇哉の足」
仮病の足が本当に痛くなってしまった小学生
第5章「和彦の目」
家族の付き合い方と老眼に悩む中年男性
どの話も(老眼は未経験だけれど)、共感できるところがあって、登場人物たちと一緒にリカバリーしてもらえた。
私は特に勇哉の話が好き。読み終えたときにすごく気持ちの良いお話だった。 -
素敵すぎる本です。温かさがつながっていくと感じるのは、登場人物が次々にカバヒコを通じてつながっていき、それが温かさのバトンで広がっているように感じられるからだと思います。
私もカバヒコなでたい。もう過去の傷から解放されたいと思い、心の中でカバヒコを作って撫でてみようと思いました。リカバリーできるように、そしてもっと楽に生きられる自分になりますように。 -
公園にあるカバの乗り物遊具。
治したい(直したい)と思っている体の箇所に触ると、治して(直して)もらえるということから、リカバリー·カバヒコと呼ばれる。
人伝で伝わったその都市伝説が、今日も訪ねてくる悩める人々をリカバリーするかもしれない。
そんなリカバリー·カバヒコにまつわる5編からなる物語です。
願いは悩みなんだろうなと思いながら、実は悩んでいることに気がつけば、ほぼ解決したようなもの。
あとはその悩みが解決するきっかけが起きるのを待つのみ。
その悩みが起きるきっかけこそが、何も語らぬ、何十年とそこにあるリカバリー·カバヒコというのが良く、作者らしい面白さだなと思いました。
そして、短編は独立しているものの、前の短編で悩みに気が付き、リカバリーされた登場人物が、次の登場人物に多少影響を与えるという、これぞ、ザ青山美智子ワールドだなと思いました。登場人物達がどんな風に出て影響し合うのか、毎回同じようなパターンじゃね?と思うかもしれませんが、これを楽しむのも青山美智子作品なのかな?と思います。
そんな本作品から感じたことは、通常は5体満足であるはずの私達は、5体のどこかに悩みを抱えていて、どこか不満足だということ、そして、その不満足は何らかの形でリカバリーされて日々生きているということです。
そう、実はリカバリー·カバヒコこそ私なんだろうなと思いました。
何十年とそこにある遊具カバヒコは、決して綺麗なまま残っているわけではなく、剥げていたり、たくさんの傷がついていて、落書きだってあります。
しかし、その傷や剥げ、時には落書きがあっても、何十年と経てば、それは人によっては味になる。
いろんな傷がついたかもしれない、雨風に晒されて剥げた部分はあるかもしれない。
しかし、それこそがリカバリーされて来た証拠で勲章なんだということなんじゃないかと思いました。
リカバリーは、良い結果を招いたかどうかはわからないですが、きっとその傷を乗り越えた先には新しい何かが見えるはず。
そして、傷だらけのその姿でただそこにいるだけで人の救いになっているかもしれない。
そんなことを教えてくれた本作でした。
あなたの頭には、リカバリー·カバヒコはどんな風に映るだろうか。
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2023/09/24
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>コルベットさん
こんにちはです。
読んでいて、願い事って、思ってみれば自分の悩みだなぁと思いました(笑)
深そうに見えて、読んでいる...>コルベットさん
こんにちはです。
読んでいて、願い事って、思ってみれば自分の悩みだなぁと思いました(笑)
深そうに見えて、読んでいる時にそんな大したことは考えてなかったかもしれませんが(笑)2023/09/24
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またまた青山美智子さんに癒されました。カバヒコは都市伝説か!ただの噂か。カバヒコを通じて人との新たな繋がり出来、悩みも解消していく連作短編集。みんな心の底ではわかってる、それを気づかせてくれるカバヒコ。経験と記憶でもっと強い自分へ!
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ジェダイパパ6986さん、
お読みになられましたね。お書きになられている通り、癒しの青山美智子さんの一冊だと思います。ジェダイパパ6986さん、
お読みになられましたね。お書きになられている通り、癒しの青山美智子さんの一冊だと思います。2023/09/30
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著者プロフィール
青山美智子の作品






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私は同じ作家さんの作品が三冊揃わないと読めない制...
私は同じ作家さんの作品が三冊揃わないと読めない制約がありまして、青山美智子さんの作品大好きなのにここしばらく読めないもどかしさの中にいました。「リカバリー・カバヒコ」が刊行されて発売当日に一気読みしました。相変わらずの青山美智子ワールドがそこにあってホッとしました。yukimisakeさんのレビューも楽しみにしております。
こちらこそよろしくお願いいたします。
コメントをいただきありがとうございます。
青山さんのトーク賞&サイン会に行かれたことがあるのです...
コメントをいただきありがとうございます。
青山さんのトーク賞&サイン会に行かれたことがあるのですね。先日、この作品刊行の一環でTV番組に出られていたのを拝見したのが私の唯一動く青山さんを目にした機会です。直接お会いしたいですね。
青山さんの作品は大好きな一方で、私は三冊セットでしか読めないので、前回の読書からかなり空いてしまいました。また、これから三冊貯まるのを待たないといけないので青山さんの作品を次読めるのは年単位で未来です(涙)。新作がとにかく楽しみです!