ツミデミック

  • 光文社
3.75
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334101398

作品紹介・あらすじ

大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中に話しかけてきた大阪弁の女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗ったがー―「違う羽の鳥」 失業中で家に籠もりがちな恭一。ある日小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣の一軒家に住む老人にもらったというそれをたばこ代に使ってしまった恭一だがー―鮮烈なる”犯罪”小説全6話

感想・レビュー・書評

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  • 『あん時の感染者数、覚えてるか?一日千人もいなかった。たった千人にビビりまくって、監視し合って…そのうち、一日何万人って発表されても、社会回せ、経済回せって無視するようになるのにさ』

    2020年に突如世界を襲ったコロナ禍。同年4月にはこの国では誰も経験したことのない”緊急事態宣言”が出されました。マスクが品薄となり、ネット上では高額で取りされ、さらにはトイレットペーパーが店頭から消えるというわけのわからない展開に誰もが右往左往した時代がありました。

    マスクの正しい着用を互いに監視し、垂れるほどのアルコールを手に除菌し、そして人と人が接すること自体をリスクと考えたあの日々。今思い返してみても一体あれは何だったのだろう?一体何の意味があったのだろう?そして、一体何が正解だったのだろう?そんな思いだけが残りました。

    とは言え、コロナ禍なんてもうウンザリ、聞きたくもないというのが多くの方々の正直な気持ちだと思います。あんな時代はとっとと忘れて、ようやく戻ってきた平穏な日常を楽しみたい、それは私も全く同感です。しかし、過ぎ去ったからこそ冷静に見れる、そういった視点はあると思います。過ぎ去ったからこそ、未来に同じ過ちを繰り返さないためにも、コロナ禍の世を第三者的に振り返ってみる。この姿勢はあるべきなのではないかと思います。

    さてここに、そんな『パンデミック』の世を描いた物語があります。世に出た時期の違いから結果として『パンデミック』の初期から後期のさまざまな時代を背景に描き出されたこの作品。そんな背景にさまざまな”犯罪”が止まることなく描かれていくこの作品。そしてそれは、『先が見えない生活』の中に、それぞれの日常を生きた人たちを見る物語です。
    
    『お食事お決まりですかあ』、『居酒屋お探しですかあ』と、繁華街でビラを配るのは主人公の及川優斗。『新しい感染症が流行り始め、繁華街の客足は明らかに鈍っていた』という中に『先が見えない生活』を送る優斗。そんな時、『ふと、視線を感じた』優斗の元に『ひょっとして、関西の人?』と『金髪、真っ赤なトレンチコート…』という『攻撃力が高そうな女』が近づいてきました。『案内してくれる?』と話が進む中に『仕事、何時まで?』と女に訊かれた優斗が『十時』と答えると、『十時過ぎたらこの辺で待っとったらええ?』と返す女は『「ほな決まり」と優斗の腰の後ろに柔らかく指を沿わせ』ます。『正直、半信半疑だった』優斗でしたが、『バイトを終え、裏口から店を出ると女は本当に待ってい』ました。『わたしの知ってる店でええ?』と訊く女は、『お給料巻き上げたりせえへんから安心して』と誘います。『東京に出てきて、いや人生で初めての逆ナンだった』という中に『女に連れられるまま小さなバーに入った』優斗は『カウンターバーのいちばん奥に通され』ます。名前を訊かれ、『大学生?』、『ずるずる行かんくなって一年で中退した』と会話する二人。『自分も名前教えてや』、『平仮名でなぎさ』、『名字は?』、『井上』と女の名前を知った優斗でしたが、『井上なぎさ』と、『フルネームを口に出さず唱える』と『手が強張』ります。『その名前を知っている』と『まじまじと女の顔を見つめ』る優斗。『どしたん?』、『いや、何でもない』という会話の中に、『特に変わった名前でもない。単なる同姓同名や、と自分に言い聞かせる』優斗は、『だって、井上なぎさは』と動揺を隠せません。そんな優斗が『なぎさちゃんは何歳さなん』と訊くも『やや、そんなん訊かんとってよ』とはぐらかされます。今度は『ほんなら、何してる人?』と訊くと『愛人』と『直球すぎる回答』を返す なぎさ。『愛人歴はどんくらい?』、 『東京来てからとおんなじくらい』と会話する先に今度は『都市伝説みたいなやつやねんけど、知ってる?』と『唐突になぎさが尋ね』ます。『K駅におる「踏切ババア」』と続ける なぎさに『背中のうぶ毛がぞぞっと逆立』つ優斗は『まさか。何やこいつは。誰や』と思います。そして、『どういうつもりや』と返す優斗は『俺は、井上なぎさを知ってる』、『ふざけんな』と『カウンターにどんっと拳を押しつけ』ます。『井上なぎさは死んだんや、線路に飛び込んで。お前の言うてる「踏切ババア」って、井上のお母さんやないか。ネタにしてええことちゃうぞ』と思いをぶつける優斗は『最初から知ってて俺に声かけてきたんか?… あれは、俺と井上しか知らんはずや』と戸惑います。そんな中に『二階で、落ち着いて話そ?』と場所を変える なぎさ。『うちら、どこで知り合うたっけ?』と訊く なぎさに『中三の、選挙管理委員会』と答える優斗。『優斗くんとどんな話したっけ?』と続けて訊く なぎさに『裏アカ』、『ー からの、「#家出少女」』と答える優斗に『…ああ』と『ショットグラスを一気に空け』た なぎさ。そんな なぎさを見る中に中学時代を振り返る優斗の過去に隠された井上なぎさの秘密が読者の前に明らかにされていきます…という最初の短編〈違う羽の鳥〉。過去に隠されたまさかの出来事の先にミステリー?を見る好編でした。

    “2023年11月22日に刊行された一穂ミチさんの最新作であるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、2023年9月に青山美智子さん「リカバリー・カバヒコ」、10月に原田ひ香さん「喫茶おじさん」、そして今月初にも小川糸さん「椿ノ恋文」…と、私に深い感動を与えてくださる作家さんの新作を発売日に一気読みするということを積極的に行ってきました。そんな中に、2022年の本屋大賞で第3位にランクインした代表作「スモールワールズ」で有名な一穂ミチさんの新作が出ることを知り、一年ぶりに一穂さんの作品に是非触れてみたいと思う中、発売日早々この作品を手にしました。

    そんなこの作品は、内容紹介にこんな風にうたわれています。

    “先の見えない禍にのまれた人生は、思いもよらない場所に辿り着く。稀代のストーリーテラーによる心揺さぶる全6話”

    “思いもよらない場所”という記述がまさかの展開を予想させるこの作品は「小説宝石」に不定期に掲載された、それぞれに全く関係性を持たない6つの短編が収録された短編集となっています。

    そんな作品は「小説宝石」への掲載時期の関係もあってかコロナ禍の描写が登場します。コロナ禍を扱った作品と言えば島本理生さん「2020年の恋人たち」、寺地はるなさん「川のほとりに立つ者は」、そして瀬尾まいこさん「私たちの世代は」などがあります。2020年に突如世界を襲ったコロナ禍。人と人との接触が悪いこととされた極めて特殊だったあの時代は、一方でその時代を写しとり小説に仕上げる作家さんにとってもそれをないものと扱う方が違和感があったのだろうと思います。そんなコロナ禍の日常が舞台となるこの作品では、コロナ禍で生活が困窮していく人たちの姿が描かれるのが印象的です。幾つか抜き出してみましょう。

    『新しいバイト探さな、飲食以外で何か…。 先が見えない生活は今に始まったことでもないが、未知の病という、去年まで思ってもみなかった不確定要素が不安に拍車をかけていた』

    コロナ禍は特に飲食業界に大きな傷跡を残しましたが、その末端でアルバイトをしている人たちには影響がダイレクトに出ていたことがよくわかります。それは、お子さんを保育園に預けていらっしゃる家庭にも大きな影響を与えました。

    『再開したって、いつまた休園になるかわかんないじゃん。先生が感染した、園の子が感染したってきりないし、預かり保育の状況だって読めないよ』。

    リアルな夫婦の会話がそこにあります。自らの感染、お子さんの感染だけじゃなく、保育園の先生や他のお子さんの感染が自身の生活に大きな影響を及ぼすという異常事態。本当に大変な時代だったと改めて思います。そんなこの作品にはコロナ禍の中での状況の変化も描かれます。

    『確かに俺はルールを破ったよ…でも、あそこまで叩かれるようなことだったのか?中傷の手紙が届いて、殺害予告までされて…あん時の感染者数、覚えてるか?一日千人もいなかった。たった千人にビビりまくって、監視し合ってアホらしいにも程があんだろ。そのうち、一日何万人って発表されても、社会回せ、経済回せって無視するようになるのにさ』

    2020年4月の緊急事態宣言に、この国はどうなるのかと誰もが恐れた時代がありました。一穂さんが書かれる通り、そこに訪れたまさしく監視社会の到来はそこから少しでも逸脱する者を厳しく貶めていったのは事実だと思います。そして、時が経ち、当時貶められた人たちのそれからには誰も興味を示さなくなった一方で、その人たちの人生は続いているという現実があります。そこに何があったのか、この作品では、同じようにコロナ禍を描いた他の作品には描かれていない部分が多々描かれています。当時のリアルな空気感を捉えていく物語は、過ぎ去った過去だからこそ第三者的に見ることができるとも言えます。振り返ればさまざまな過ちが浮かび上がる私たちのあの三年間。コロナ禍は過去になって良かったと思いますが、その総括は私たちそれぞれがきちんと成すべきことなのではないか、特に〈さざなみドライブ〉を読んでそのように強く感じました。

    では、そんなこの作品について6つの短編から私が気に入った三編をご紹介しましょう。

    ・〈ロマンス☆〉: 『ママ、自転車くる』という さゆみの声に顔を上げたのは主人公の百合。その前を『颯爽』と『ものの数秒』で過ぎていく男を見て『夢を見ているのかと思うほど、現実離れした容貌』と思う百合は『Meets Deli』と書かれた『バックパック』を見ます。『ステイホーム』で普及した『フードデリバリー』の『Meets Deli』。場面は変わり、同じマンションの耕平ママと『Meets Deli』の『イケメンの配達員』のことを話題にする中に『初回千五百円オフクーポン』のことを教えてもらいます。そして『Meets Deli』を利用し始めた百合は『イケメンの配達員』がくることを『ガチャ』と考えていきます。

    ・〈憐光〉: 『あたしは、気づいたら松の木の下にいた』というのは主人公の松本唯。『高校の教職員用駐車場だと気づ』いた唯は『全員マスクしてる』という生徒たちの姿に『違和感』を感じます。そんな中に『ちりりんと軽やかなベルの音が』します。『うそ、間に合わない』という『次の瞬間、痛みでも衝撃でもなく、かたちのないものが身体の中をさあっと通り抜け』ていきました。『そうだ、あたし、死んでた』と『唐突に理解』する唯。『天国でも地獄でもなく、十五年ぶりの地元にやってきた』という唯は『とりあえず帰ろう』と自宅へと向かいます。そんな中に親友だった つばさと担任だった杉田に遭遇した唯…。

    ・〈さざなみドライブ〉: 『あ、ひょっとして、ツィッターの…?』、『初めまして。わたし、マリーゴールドです…』、『で、あとひとり…』と『ひと気』のない『郊外の駅』に集まった五人はミニバンに乗り込みます。そして、自己紹介をする中、『ああだこうだ話してんの、おかしいですよね』、『今から死ぬのに』という一人の言葉で『車内の空気が急に重たくな』りました。『一緒に自殺をするということ』を目的に『ツイッター上でつながり、集まった』『年齢も属性もばらばらな』面々。『寂れた駅から、さらに人が来ない山中の林道を目指して走る車のトランクには』『練炭と七輪が積んであ』ります。そして…。

    三つの短編を取り上げましたが、他の短編含めこの作品はいずれも全く異なるシチュエーションの中に物語が展開していきます。そして、そんな物語には昨今ニュースで取り上げられるさまざまな”犯罪”が登場します。そして、物語の背景にあるのは上記もしたコロナ禍です。

    『世界じゅうがパンデミックに陥って、この先どうなるんだろうと不安になればなるほど…』

    そんな空気感の一方で”犯罪”は止むことなく続いてきた現実もあります。ニュースに恐怖を感じる私たち、それも一種の『パンデミック』とも言えると思います。そんな中に、この作品の書名を思い出します。「ツミデミック」という奇妙な書名は調べてみてもそういった言葉があるわけではないようです。一方で『ツミ』という言葉と『パンデミック』という言葉が繋がります。

    “犯罪”+『パンデミック』= 「ツミデミック」

    なるほど、そういうことか、書名の意味に納得する一方で、この作品は表紙から受けるインパクトもとても大きなものがあります。赤地の表紙に大きく描かれた黄色の菊の花。天皇家の御紋章でもある菊には基本的には悪い意味はないようですが、黄色い菊には”破れた心”という意味もあるようです。そう、この作品に蠢く不穏な空気感、そこに展開するさまざまな”犯罪”を匂わせる物語には読む手を止められなくなっていきます。

    中学時代に死んだはずの同級生との再会?を描く〈違う羽の鳥〉、息子が臨家の老人から旧一万円札をもらった先にまさかの”犯罪”を見る〈特別縁故者〉、そして十五歳で妊娠した娘と対峙する父親の姿を描く先に自身のまさかの真実を知る〈祝福の歌〉などそれぞれの物語は全く異なる背景のもとに描かれていきます。そして、その先にえっ?という展開が描かれていく物語は、若干強引なストーリー展開を感じさせる部分があるものの一つの読み物としてはとても良くできていると思います。そして、基本的には読後感良い結末を迎えるこの作品。コロナ禍の日常にそれでもなくならない数多の”犯罪”、そしてその背景にある裏事情を描いたこの作品。代表作「スモールワールズ」含め短編にとても相性の良い一穂さん。この作品にはそんな一穂さんの読ませてくれる物語がありました。

    『マスクを求める人々が薬局の前に列をなし、転売が横行…今となっては「馬鹿馬鹿しい」のひと言に尽きるが、あの頃は誰もが切実だったのだ』。

    三年間にわたって続いたコロナ禍の世を背景に、それでも止まらない”犯罪”の数々を描き出したこの作品。そこには、『パンデミック』ならぬ、まさしく「ツミデミック」な物語が描かれていました。コロナ禍の始まりから終わりまでを一冊に描くこの作品。そんな中にメジャーどころな”犯罪”が重なってもいくこの作品。

    “稀代のストーリーテラーによる心揺さぶる全6話”という紹介が伊達ではない、ぐいぐい読ませる物語が詰まった素晴らしい作品でした。

    • アールグレイさん
      さてさてさん
      お久しぶりですヾ(^▽^)ノ
      いつもいいねをありがとうございます!
      ――毎日TVで感染者数が、日本地図上に表になり表されていま...
      さてさてさん
      お久しぶりですヾ(^▽^)ノ
      いつもいいねをありがとうございます!
      ――毎日TVで感染者数が、日本地図上に表になり表されていました。
      我が家は毎年インフルエンザに注意し、マスクを使っていたので、コロナ時にはその残りがありましたが、やはり私が使うもの位はと、手作りにしました。あの頃はそうだったのです。
      除菌スプレーは玄関に今でも置いています。
      マスクも人ごみにはかかすこと無く、です。コロナ数は落ち着きましたがインフルエンザも流行っているとのこと。
      さてさてさん、気を付けて下さいね!
      (’-^*)
      2023/11/25
    • さてさてさん
      アールグレイさん、こちらこそお久しぶりです。お元気でいらっしゃいますでしょうか?
      発売日早々に一気読みするシリーズ企画で一ヶ月に一度程度最...
      アールグレイさん、こちらこそお久しぶりです。お元気でいらっしゃいますでしょうか?
      発売日早々に一気読みするシリーズ企画で一ヶ月に一度程度最新刊を読み続けていますが、書かれた時期の関係でコロナ禍日常のものが本当に多いなあと思います。色々なサイトのレビューを読んでいると、コロナ禍でもそれを出さないで描いて欲しいという声をよく見ます。みなさん、流石に辟易されたのだろうなと思います。やがて時が経つと歴史の授業に登場する未来があるのかもしれませんが、残念ながらまだまだ記憶が鮮明な分、生々しいですね。
      なお、それ以上にこの作品では、昨今話題の犯罪が多々登場するのが印象的でした。世の中、コロナ禍であろうがなかろうが犯罪はなくならない、コロナ禍が終わろうが犯罪は人の世が続く限りなくならないのだろうなあと思いました。
      2023/11/25
  • コロナ禍における罪をテーマにした短編作品集。一部好みの作品もあったが、全体的になんだか深みがないというか、いまいち気持ちが乗り切れず読み終える作品が多かった。ライト過ぎるというか。故に読後感は悪くない。
    一穂さんの過去作品含め、相性があまり良くないのもあるのかもしれない。あくまでも一個人としての感想として本棚に残す。 ★3.0

  • 「ロマンス☆」、「憐光」、「特別縁故者」が印象的だった。

    「ロマンス☆」はイケメンのフードデリバリーに妄想し壊れていく主婦の話。自分と同じような人を呼び寄せる感のある、ちょっと怖い話だった

    「憐光」は気がつくと校庭に立っていた女子高生の話。自宅周辺で起きた水害や彼氏、友達の真実が段々と分かっていく。真相が分かるに連れ辛くなる

    「特別縁故者」は人生を投げかけている元料理人と一人暮らしの老人の話。こんなうまい話は無いだろうと思うのだが、好きな話でした

  • 一穂ミチさん「ツミデミック」
    本作品は第171回直木賞受賞作品。
    自分にとって初読みの作家さんでもあり読んでみる事に。

    作品は6篇からなる独立短編集。調べてみたら「小説宝石」で各々単独で発表されていた作品と知った。「小説宝石」や「文藝春秋」等の小説本は読んだ事がないため全く知らなかったがこういった作品を発表と同時に読めるという点ではとても興味を惹かれている。今後はそういった小説本も目を通していきたい。

    作品の背景はどれも数年間続いたコロナ禍が舞台となっている。
    世界中でパンデミックに陥ったウイルス感染に人間の持つ罪の多さを併せて書き上げられたと思われる「ツミデミック」
    タイトルは造語だが作者のメッセージがきっと込められているのだろう。このレビューを書いた後で作者の作品に対してのインタビュー等を読んでみたいと思っている。

    米澤穂信さんの「満願」を読んだ時と同じような読後感があり、テレビで昔やっていた「世にも奇妙な物語」を観た後の様な読後感。どの篇も少し薄暗くグレーがかった作品に感じられる。全体的に向く方向が一辺倒にならず単独で色んな模様を描かれているのだが、同じ背景で描かれている為読んでいて統一の感情が常にありコロナ禍での一変した生活や窮屈さを思い出させられる。全編面白かった。

    ただ文量が各篇50頁弱、全体でも300頁も無いのでもう少し読み応えを期待してしまった。長編とは言わないがもう少し各篇に読み応えが得られればもっと最高だった。

    直木賞受賞作品との事だったので手を伸ばした作品、それならば傾向としてもっと長い作品だと勝手に解釈していた為に招いた読後感だと感じる。
    作品とは関係ないが「直木賞」という選考自体も統一したものがあるのかないのかよく分からなくなってきている。
    受賞前に読んでいれば変な先入観無しで読めただろう作品だったと思った。

  • 連作短編集。

    「違う羽の鳥」
    痛ましい話だけどミステリアス。
    死んだのはクラスメイトか、その親友なのか。

    「ロマンス☆」
    コロナ禍でイケメンの配達員に惹かれミーデリにはまった女性の悲劇。

    「燐光」
    あまりにも酷い人たちに囲まれていた高校生の少女、唯。死んで幽霊になって自分が死んだ理由を知ってしまう。

    「特別
     縁故者」
    これはいい話でした。職を失った男が独居老人の家で料理をするようになり、そして老人のピンチを危機一髪の機転で助けます。

    「祝福の歌」
    これもいい話でした。高校の教師の妻、高校生で妊娠した娘を持つ50代の夫、達郎。娘の菜花は子どもを産みたがっていますが相手の男はダメ男。そして達郎の出生の秘密がわかります。明るい話でよかったです。

    「さざなみドライブ」
    パンデミックの世の中に集まった6人の老若男女はSNSで知り合った自殺志願者たちでした。中には俳優、中一の少女、小説家の僕もいて。これもちょっといい話。




    一番よかったのは「祝福の歌」。最初の三篇は悲痛さを強く感じました。
    一穂ミチさんは最初に読んだ『スモールワールズ』がやっぱり一番よかったと思います。
    この短編集でも、色々と変化球を投げていらっしゃいましたが。

    • mihiroさん
      まことさ〜ん、こんばんは(^-^)/
      一穂さんってほんとに、引き出しの多い作家さんですよね〜!
      こちらでもそれは感じましたが、私もまことさん...
      まことさ〜ん、こんばんは(^-^)/
      一穂さんってほんとに、引き出しの多い作家さんですよね〜!
      こちらでもそれは感じましたが、私もまことさんと同じで「スモールワールズ」が今のところ1番好きです〜( ´꒳`*)人(*´꒳` )
      2024/03/28
    • まことさん
      mihiroさん、おはようございます♪

      やっぱり私も最初に読んだ『スモールワールズ』の衝撃が忘れられません。
      この作品はちょっとホラ...
      mihiroさん、おはようございます♪

      やっぱり私も最初に読んだ『スモールワールズ』の衝撃が忘れられません。
      この作品はちょっとホラーでしたね。
      読了した晩にホラーな夢をみてしまいました(笑)。
      2024/03/29
  • ふわりとした世界観に人間の陰影が描かれる。言葉運びやセリフが美しいミステリー短編集 #ツミデミック

    本作はコロナ禍を舞台に、人間の醜さや勝手さ、そして悲哀を描いたミステリー短編集。コロナ社会はあくまでエッセンス程度で、描いているのは人間です。

    先生らしいシンプルかつ美しい文章、切り取った場面のセリフのセンスも光ってました。暖かな世界に誘ってくれるのですが、そこは闇側の世界なのが面白いですね。しかも扱ってるテーマとしてはありがちなんですが、物語の運びや切り方に独自性があって、すっかり作品に惹きつけられてしまいました。

    私たちは日ごろ、犯罪を犯したり、社会からはみ出るようなことはしないだろうと思って暮らしています。実はそんなことはなく、少しのきっかけで接点が開けてしまうんでしょうね。自らを省みてしまう、恐ろしい物語でした。

    ■違う羽の鳥
    飲食店へのアテンドバイトをする青年が、パパ活女子に出会う。彼女には見覚えがあって…

    都会の暗闇と生きづらい世の中を切り取った作品。懐かしい思い出の中にも胸が張り裂けそうな事実がある。人間の内側に潜む不愉快さと、不条理で不公平な世界で生きる若い世代の無念さが伝わってくる作品。

    ■ロマンス☆
    子育てにつかれた妻と理解のない夫、フードデリバリーサービスの配達員にイケメンがいると聞き…

    希望の光に誘われてしまう気持ちがわかるし、気づかず間に深みにハマってしまうこともわかる。人間って、悉く弱く寂しい生き物ですよね。

    ■燐光
    災害時に亡くなってしまった女子高校生、幽霊となって友人や教師たちの今と過去を巡る物語。

    なかなかのお話ですが、最後まで淡く優しい世界観で包まれるのが魅力。ただただ主人公の幸せを願わずにはいられない。

    ■特別縁故者(おすすめ)
    うだつの上がらない元料理人の物語、息子を通して気難しい老人と出会い…

    短編なのに、登場人物の魅力が強く表現されていました、素晴らしい作品です。大好き。昭和のホームドラマを観ているようで、知らないうちに涙が流れていました。

    ■祝福の歌(おすすめ)
    高校生の娘が妊娠してしまって… 夫婦と家族の在り方を描く物語。

    テーマは母親、微妙な心情描写がいちいち深く、おそらくこの物語は男性には書けない。様々な要素が含まれている一作にもかかわらず、場面切り取りが上手。心温まる作品。

    ■さざなみドライブ
    ネットで知り合った五人組がリアルで出会う。気恥ずかしさから距離感をとりながら会話をするが、この集まりは…

    どうしてこんな世の中になったんでしょうか。少しでもいいから世の中のためになることをしたいし、全員で取り組むべき課題。いい社会にしましょう。

  • Audibleにて。面白かった!

    全て同じような話なのかと思いきや、違う方向にいく話もあり、オチが予想できない面白さも楽しめた。
    短編の順番も良いし、イヤミス加減もちょうど良い。

    全ての話に共通しているのはコロナ禍。

    振り返ってみれば、あの時は全てが異常だったな…。
    テレビを付ければコロナの感染者数や死亡者数ばかり流れ、マスクや消毒を求めて朝一から行列のドラッグストア…。
    いつまで続くのか先が見えない恐怖や閉塞感。

    読者である私たちもそれぞれに大変な経験をしているので、この本の中で苦しんでる人達のことも共感できるように思う。

    「ロマンス☆」「特別縁故者」が特に良かった。

    すぐにスッと物語に入り込めて、終わってもその後の主人公たちのことが気になってしばらく想像してしまう。
    イヤミス過ぎず、グロさもなく、奇抜などんでん返し狙いじゃないのも私好み。
    他にも一穂ミチさんの本を読んでみたくなった。

    ブク友さんたちのレビューを見て選んだ本。
    いつも本当に参考になるのでありがたいです。

  • 一穂ミチさん、はじめまして♪
    発売から気になっていた本書、多くのブク友さんの本棚に飾られているのも知っていました。

    昨日、いつものツタバで「となりのナースエイド」を読み終えた後に読み始めていたんです。
    が、美容院の予約をしていたので途中までしか読めませんでした(><)
    (じゃあ、買って読めよ!!ってツッコミはなしで(笑))

    LOOPで60分無料CPが始まったことを知り、みなとみらいまで電動キックボードに乗ってチョコっとドライブ♪
    いつものツタバで抹茶フラペチーノを飲みながら読み終えました(*´▽`*)♪

    <あらすじ>
    コロナ禍を背景にした人々の「罪」に焦点を当てた作品です。この作品には6つの短編が収録されており、それぞれがコロナ禍で生じた様々な罪を描いています。

    違う羽の鳥 - 夜の街で客引きのバイトをしている優斗は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗る女性に出会います。過去の記憶と現実が交錯し、優斗は戸惑いながらも真実を追い求めます。

    ロマンス☆ - フードデリバリーサービスを利用することになった女性が、配達員に恐怖を感じる物語です。彼女の視点から、壊れていく心理が描かれます。

    燐光 - 15年前の豪雨で亡くなった少女が幽霊となり、コロナ禍の現世に戻ってきます。彼女は目撃した真実を通じて、過去と現在をつなげます。

    特別縁故者 - 飲食店を解雇された男が、近所の偏屈な老人の財産を得ようと謀ります。しかし、その過程で予期せぬ優しさと希望に触れることになります。

    祝福の歌 - コロナ禍に翻弄される人々の中で、自殺志願者の死出のドライブが生きる希望に変わる物語です。

    さざなみドライブ - コロナ禍の中で生きる人々の業が、罪なのかどうかを問いかける作品です。社会的な収束後の世間の変化を描きながら、人生の続行をテーマにしています。

    これらの物語は、コロナ禍という特殊な状況下での人間の葛藤、罪悪感、そして赦しを描いており、読者に深い印象を与える内容となっています。


    本の概要

    大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中にはなしかけてきた大阪弁の女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と目の前の女の話に戸惑う優斗はーー「違う羽の鳥」  調理師の職を失った恭一は家に籠もりがちで、働く妻の態度も心なしか冷たい。ある日、小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣の一軒家に住む老人からもらったという。隼からそれを奪い、たばこを買うのに使ってしまった恭一は、翌日得意の澄まし汁を作って老人宅を訪れるがーー「特別縁故者」  先の見えない禍にのまれた人生は、思いもよらない場所に辿り着く。 稀代のストーリーテラーによる心揺さぶる全6話。

  • 罪+パンデミック=ツミデミック
    ということのようで

    コロナ禍が舞台の
    犯罪小説の短編集でした


    コロナはホントにいろんな人を狂わせたなと
    改めて思います


    外出自粛中の取締りのような空気
    マスク不足でのパニック
    医療従事者への偏見
    ワクチンへ不安


    自分の知らない一面を知ることにもなり
    家族や友人の知らない一面も知ることになりました


    どんな考え正解かもわからなくて
    タイミング次第では叩かれて
    人によっては疎遠になって
    ウイルスよりも人間が怖いなと思った病気でした


    ちょっと落ち着いてきた今
    それを改めて思い出した作品でした


    特に面白かったのは『ロマンス⭐︎』かな

    とにかく旦那ムカつくー!
    なんなんだ!ってイライラしてたら
    怖い展開でした
    ひー!!


    なかなかいい短編でしたが
    やっぱり長編が好き
    (短編のレビューでいつも言ってる気がするけど)


    長編も楽しみにしてます(^^)

  • 2021〜2023年に「小説宝石」掲載。
    コロナ禍に巻き込まれ、それまでの生活基盤が揺らいだ人達。犯し、犯された犯罪小説集。
    短編6編、全て巧妙に 設定、登場人物を変えてくる。“稀代のストーリーテラー”という帯の称賛にも納得する。
    コロナのパンデミックは、それまでの日常にキレツを入れて、キレツがあったものは、崩壊させたと思う。禍がなければ、そこまでの不和に至らなかったかもしれないし、その罪を犯さなかったかもしれない。非日常時の言動に人格が見える。
    「ロマンス⭐︎」の主人公の罪への振り切り方が
     好き。
    「燐光」の 死んでる主人公の前向きさが好き。
    と、考えると一穂さん、女子の方が根幹強めに書いているかもしれない。


    みんみん大好き、一穂ミチ。
    サイン本確保しておきました。
    表紙裏黒地にシルバーでサインですよ。
    いつの日か、お渡ししたいと思ってます。
                  ( ̄^ ̄)ゞ

    • おびのりさん
      京極堂コラボのマニュキュアあったけど、どう?
      京極堂コラボのマニュキュアあったけど、どう?
      2024/01/04
    • 土瓶さん
      おびのりさん。
      ……そんなのあるんだー!!
      京極堂とマニキュアって、どんな取り合わせやねん。
      「呪」とか「怨」とか「怪」とか、およそめ...
      おびのりさん。
      ……そんなのあるんだー!!
      京極堂とマニキュアって、どんな取り合わせやねん。
      「呪」とか「怨」とか「怪」とか、およそめでたくなさそうな文字がついてきそうだから遠慮しときまーす。
      というか、そもそも塗る趣味ないし(笑)

      1Qさん。サインください。色紙なんかじゃなく、白紙の小切手にサインだけしてもらって送ってくれたらそれでいいですよ。
      よろしくー( ̄▽ ̄)
      2024/01/04
    • 1Q84O1さん
      土瓶師匠
      えーっと…
      それは…

      ムリ!(・o・)
      土瓶師匠
      えーっと…
      それは…

      ムリ!(・o・)
      2024/01/04
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著者プロフィール

2007年作家デビュー。以後主にBL作品を執筆。「イエスかノーか半分か」シリーズは20年にアニメ映画化もされている。21年、一般文芸初の単行本『スモールワールズ』が直木賞候補、山田風太郎賞候補に。同書収録の短編「ピクニック」は日本推理作家協会賞短編部門候補になる。著書に『パラソルでパラシュート』『砂嵐に星屑』『光のとこにいてね』など。

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