海神 (光文社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334102098

作品紹介・あらすじ

東日本大震災で被災した三陸沖の島に現れた復興支援のプロ・遠田政吉。行政の支援も届かない地獄で救助、遺体捜索などに奔走し、救世主として信望を得るが、のちに復興支援金の横領疑惑が発覚する。島出身の新聞記者、菊地一朗が疑惑の解明のため遠田の過去を探り始めると、そこにはおぞましい闇が――。けんご氏の激推しと映画化決定で再注目の『正体』、『悪い夏』で大ブレイク中の著者が放つ骨太の社会派ミステリー!

感想・レビュー・書評

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  • 染井為人さん著「海神」
    著者の作品はこれで4作品目になる。
    購入するまでタイトルの読みは「かいじん」だと思っていたが、購入時に表紙に小さく「わだつみ」と書いてあるのを見て、また読み間違えていた事に気付いた。

    物語は「3.11 東日本大震災」の復興が主軸になっている作品。実際に岩手県山田町でおきた復興支援金を私用化して横領していた「NPO法人大雪りばぁねっと」の事件が思い起こされる。きっと作者はこの事件を元に本作品を描かれたに違いない。

    どんなに人が死のうが苦しもうが平然と私欲を募らせる輩はこの作品の様に悲しい話だがどこにでもいる。
    私欲を募らせるのは大いに結構だが、他所でそういう輩同士で取った取られたとやっとけと思う。その土俵内で相撲をとれ、その土俵に一般人を、特に被災者を巻き込むな。
    ましてや復興支援金とはどういうお金なのか?知っていながら手をつけている。
    人々の悲しみを乗り越えて復興に向けてと思いの詰まったお金を軽々しく私利私欲の為に懐に納めるその輩達の神経を本当に疑う。
    「人道的」な側面からしてみれば同じ人間、同じ日本人として自分は認めない。
    獣の類いの生き物なのだろう。ならば折に入れて見せ物にして丁度よい。一生折の中で見せ物として暮らしていけばいいだろうと思う。
    そこらの石でも投げつけられながら一生を終えてほしい。

    過激な発言になってしまったが凄く胸糞悪い作品だった。この作品を読んでいて「大雪りばぁねっと」の事も思い出し、余計に腹がたってきている。
    そういう意味では感情移入させられる良い作品だったに違いない。


  • 染井為人『海神』光文社文庫。

    来月は東日本大震災から13年目ということもあってか、東日本大震災や福島第一原発事故に関連する作品が続々と刊行されている。

    先に読んだ熊谷達也の『悼みの海』にも大震災が描かれているし、NHKメルトダウン取材班の『福島第一原発事故の真実 ドキュメント編』と『福島第一原発事故の真実 検証編』はタイトル通り福島第一原発事故をストレートに扱ったドキュメンタリーである。

    さて、染井為人の本作であるが、まさか東日本大震災とそれに関連する事件がモデルになっているとは思わなかった。本作に描かれる遠田政吉の率いるNPO団体は、岩手県山田町で復興支援金横領事件を起こした旭川のNPO団体『大雪りばぁねっと。』がモデルだろう。途方に暮れ、藁にも縋る思いの被災地を喰い物にした酷い事件である。

    テーマは非常に面白いが、余り納得出来る結末ではなかった。


    東日本大震災が起きた2011年と2年後の2013年、そして10年後の2021年の3つの時間軸で物語は進行する。そして、物語は、天ノ島出身の新聞記者の菊池一朗と東日本大震災の2日後に東京からボランティアに来た大学生の椎名姫乃、天ノ島で養護施設の臨時職員を務める堤佳代の3人の視点で描かれる。

    東日本大震災で壊滅的な被害を受けながら本土からの支援を受けられず、住民たちが途方に暮れる天ノ島に遠田政吉を筆頭にNPO団体を名乗る男たちがやって来た。遠田は巧みに住民たちに取り入り、村長から巨額の復興支援金の活用を一任される。

    しかし、遠田たちの復興支援金の横領疑惑が発覚し、新聞記者の菊地一朗が疑惑の解明のため遠田の過去を探り始めると驚愕の過去が浮き彫りになる。

    本体価格900円
    ★★★★

  • 東日本大震災から10年後に浜辺に打ち上げられた金塊を拾った少女

    震災から島を復興へ導いた英雄=震災で一山当てようとする小悪党

    島に復興ボランティアとして訪れた東京の女子大生は地獄に舞い降りた天使と呼ばれる・・・

    震災で両親を失ったジャーナリストは、島を裏切ったかつての英雄の正体を暴き出す為 帆走する

    物語は3人の主人公と三つの時間軸でユックリとそして確実に読み手を小説の中の世界に縛り付けていく・・・

    本書を読んで
    ・東日本大震災を忘れてはいけないという気持ちが湧いてきた
    ・悪い事をしようとする人はいる
    ・どんな事からも儲けを産むこともできる
    ・それでも人の善意というものはある
    ・本書の主人公の一人のようなジャーナリストがいればいいと思う
    ・染井為人さんの作品をもっと読みたいと思った!

  • しばらく前に読み終わったけど、感想忘れてた(・・;)
    そして、あんまり覚えてない、、、
    染井さんは『正体』が★10、これを越えられないかな。
    震災の復興悪質ビジネスの話で、時系列や登場人物目線で章ごと変わる構成は面白い。

    ひっさしぶりに本屋に行ったら楽しくなってたくさん購入してしまった、いつもなら買わないような本まで(^◇^;)本屋恐るべし。ナツイチ?とか、しおりプレゼントあるし。あんま使わないのにねw

  • このお話のすべてはエピローグに、、、
    忘れてはいけない3.11あの日自分はホテルのロビーで映画のような惨劇を傍観していました。
    若い頃宮城県多賀城市に住んでいた時があり、その土地が大被害にあったこと今でも信じられません。お世話になった方々は、どうなっているのかも知れずじまいです。そんな大混乱の中で詐欺、強奪、性犯罪、ホント信じられん!実際にあるんだろうなぁと悲しく思いました。、
    ちょうど読んでいる時に南海トラフ巨大地震注意報が発生されました。自然の力には逆らえないけど、まずは今できる準備を整えることかな?と改めて思った今日この頃、、、

  • 2011年、大震災その日に産まれた女の子が10年後に海で金塊を拾ったことから始まった。2013年、2021年が行ったり来たり、新聞記者の菊池一朗、大学生の椎名姫乃、養護施設の職員堤佳代三人の視点で話が進んでいく。
    復興支援金を横領した遠田はとんでもない悪人だが、最後は海の神が姫乃たちの味方をしてくれたのかな。
    もう一度だけ姫乃に会いたかったと、ナナイロハウスに現れた江村に救いと悲しさを感じた。

  • 海神

    著者:染井為人

    「災害は金になるってことよ」――。東日本大震災で被災した三陸沖の有人島、天ノ島に現れたNPO法人「ウォーターヒューマン」代表、遠田政吉。「復興のカリスマ」と豪語する彼は、見捨てられた島に支援隊を立ち上げ、救世主として君臨するが、復興支援金四億二千万円の横領疑惑が発覚する。地元出身の新聞記者、菊池一朗は、島を冒瀆した遠田の罪を追い、得体の知れない詐欺事件の解明に奔走する。デビュー作『悪い夏』や、映像化決定で話題の『正体』でブレイク中の著者が、圧倒的な筆致で人間の闇に迫る、興奮の感動巨編です。

    この物語を通して、災害という非常事態が浮き彫りにする人間の本性が強く伝わりました。人の弱みに漬け込む最低の人間がいる一方で、人のために自分を犠牲にする優しい人もいる。大災害がきっかけで、人間の弱みと強さが浮かび上がることを実感しました。関東圏に住んでいた私には、東日本大震災の被害は直接的ではなく、計画停電の不便さや未来への漠然とした不安が思い出されます。被災経験がない私たちには、被災者の苦しみや悲しみを完全に理解することは難しいですが、想像力を働かせることで少しでもその気持ちに寄り添い、何か力になれることがあればと改めて考えさせられました。

  • 3.11を死なせてはいけない

    震災で被害にあった島民
    そんな人たちの力になりたいとボランティアをする女子大生
    水難救助のスペシャリストとして島に招き入れられリーダーとなった男
    その男を補佐する表情のない青年
    その島出身の記者

    困っている人が騙される図は顔をしかめたくなる
    小説の中の話だけど、これはきっと日常でリアルにある問題だと思う
    でもきっと「神様は見ている」

  • 自己肯定感の低さを人助けによって補おうとするメサイアコンプレックス。支援者側が救世主的・英雄的にふるまうことで、被支援者側は相対的に立ち位置が下がり支援側に盲信的にすがってしまうことを言うらしい。この連鎖で絶対的な立場の差が出来上がり、ついには支配するもの・されるものの関係に陥ってしまう。遠田と天ノ島の島民との関係はまさにこれに当てはまるだろう。遠田の横領は、島民から向けられる信頼と期待に虚栄心・承認欲求・ヒロイズム志向が満たされた結果、これだけ島民のために尽力しているんだから少しぐらいいい目を味わってもばちは当たらない、ぐらいの気持ちからエスカレートしていったものではないだろうか。

    また、東京では何者でもない、ただの学生であった姫乃も、天ノ島では一転、「地獄に舞い降りた天使」と称えられ、遠田からは復興に必要不可欠な存在、と重用される。島民たちに心から寄り添いつつも、うすうす気が付いていてなお遠田の横領に加担し続けた根底には、自分の存在価値を認めてくれる、評価してくれる人を悪人と認めることは、自分の価値も同時に曖昧なものになってしまう、という気持ちがあった。

    そして、アレキシサイミアの江村。感情はあるが、その感情に自分で気づくことが難しく、感情をうまく言語化できない、というその特性ゆえに孤独で、どんな形であれ求められることでしか居場所を見出すことができない彼が、生きていくために遠田の言うままに行動するほかなかったのは明らか。

    天ノ島の復興支援金横領事件を引き起こしたのは、そんな、三者三様に震災復興に携わることで自己実現を遂げる、まさに共依存的関係。もちろんこの意識は、誰の心にも大なり小なりあるものであり、そういう動機でボランティア活動や援助に携わることも特に悪いことではないように思う。ただ、常にその意識を自覚しておかなければ、歯止めは利かなくなり、やがて、このような大きな悪事を生み出すことにもなるのだろう。

  • 震災の復興支援金をめぐる内容で、色々と考えさせられる話だった。時系列が目まぐるしく変わり混乱しそうになるが、徐々に明らかになる真相にやるせない気持ちになる。

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著者プロフィール

染井為人(そめい・ためひと)
1983年千葉県生まれ。芸能プロダクションにて、マネージャーや舞台などのプロデューサーを務める。2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しデビュー。本作は単行本刊行時に読書メーター注目本ランキング1位を獲得する。『正体』がWOWOWでドラマ化。他の著書に『正義の申し子』『震える天秤』『海神』『鎮魂』などがある。


「2023年 『滅茶苦茶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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