人体、5億年の記憶 からだの中の美術館 (光文社未来ライブラリー 0029)
- 光文社 (2024年4月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334102876
作品紹介・あらすじ
私たち人間のからだは、魚であった時代の名残をたくさん抱えている。たとえば、私たちの顔で表情をつくり、口を開いて声や言葉を発する筋肉も、魚だった時代の「えら」の筋肉が変化したものだ。水中で生活する魚類では、顔面に味覚を感じる細胞が集中したが、上陸に伴い、ヒトでは乾燥を避けて口の中の舌でのみ味覚を味わうようになった。――伝説の解剖学者・三木成夫の「人間の見方」を、実際に講義を受けていた著者が解説。
感想・レビュー・書評
-
これはすごい本でした。私たちの体の中には5億年の脊椎動物の歴史が詰まっている。動物を裏返すと植物になり、動物の体内には植物的な世界があるという。
私たちは12という数字をよく使っているが、脳幹の領域には12対の神経が出入している他にも胸椎は12、頸椎7と腰椎5は合計で12、など12という数字は体の中に潜んでいる。そもそも生命は一本の管から発展しているので、人間も一本の管が発達したものだ。
ダーウィンの進化論だけではこれだけ多様で複雑な生命態様を説明することができないと考える人も多いが、私たちはもともと一本の管であり、これから魚やトカゲや猿になり人間となったということも、魚の鰓が退化して首や表情筋ができたことを考えると繋がって理解することができる。「変化」する力というものは凄い力である。たとえば1ヶ月入院するだけで筋力はげっそり落ちることを考えると、使わない筋肉はすぐ退化という変化を起こすのであるから、魚が首を持ちたいと何万年も努力すれば首ができるかもしれない。
クロマニヨン人の脳はホモサピエンスの脳よりも大きかったようであるが、脳も使わなければ退化するということは、クロマニヨン人は現代人と同等以上に脳を使っていたということなのだ。文字がない時代に、私たちが文字を読んだり書いたりして使う脳を、文字を使わない世界で使っていたということなのだ。
この本は人体には脊椎動物5億年の歴史がw刻まれていることを、わかりやすく説明してくれています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者の布施英利さんは、東京藝術大学博士課程(美術解剖学)修了後、三木成夫先生の紹介で養老孟司先生の助手として東京大学医学部で解剖学を学んでいる。
美術だけでなく医学としての解剖学も学んでいるので、人体の仕組みについても詳しい。
普段、無意識にしている動作で幾つも学びがあった。
・腕は真横までしか上がらない。腕を頭の上まで上げるには、肩を上げなくてはならない。
・指を動かす筋肉はどれだ。腕を握りながら指を曲げてみると、腕の筋肉がもごもごと動いているのがわかる。
確かに、ピアノやバイオリンなどで指を使い過ぎた時に起こる腱鞘炎は、酷使された「指そのもの」でなく手首以降の腕に現れる。
説明されれば「そうだよね」と実感できるが、肩を動かさずに腕だけ上げているように思い込んでいるし、指も指の関節当たりの筋肉で全て動かしているような気になっている。
ヒトのからだの仕組みって凄い。 -
人体、5億年の記憶
奇妙な授業解剖学者・三木成夫 甚大の中の動物と植物
人体の中の「動物」:運動系ー骨格と筋肉 神経系ー脳と神経 感覚系ー目と耳
「こころ」はどこにあるのか?
人体の中の「植物」;吸収系ー胃腸と肺 循環系ー心臓と血管 排出系ー泌尿。生殖器
ヒトのからだの5億年:胎児と3歳児の個体発生 人のからだには5億年の生命記憶
からだの中の美術館
目:中世フランスの光 目の誕生 科学・芸術の目
内臓;一本の管 無脊椎動物 30億年のかたち
脊柱:バッター・ボックス 脊椎動物 柱で支える
肺:オペラ 空気を吸う 呼吸で描く
足:立つことの美学 地球の重力
手:手の解剖学 撰を描く 意志を彫る
脳:脳の中の美術館 ピカソとデュシャン 遠近法 絵画と星座 -
美術解剖学研究者である著者のリマスター版文庫。人体という不思議に迫った第一部と、芸術からそれらを振り返る第二部。三木成夫という解剖学者のワンダーな感じと、人体……生物の身体にそもそも備わっている自然を言語化すること、とても面白く読んだ。ヘッケルの言葉「個体発生は、系統発生を繰り返す」が染み渡った一冊。