<女王の初期作品! すでに一度読んだら忘れられなくなる名作の条件を備えている>
山村美紗初期の意欲作、1980年の『エジプト女王の棺(ひつぎ)』。人気作家となり量産体制に入る前のミサミサが著したこの作品は、もともと彼女には違った資質もあったことを示しています。後年の軽さやスピード感のかわりに、一つ一つ精緻に論理を積み上げていくじっくりテイストが心地いい、初心の表れた好作です★
エジプトと京都の二拠点型(!?)という壮大な舞台設定で、美術品をめぐるストーリーに女子中学生が関わる社会事件も絡み、一筋縄ではいかない構成をとる長編☆
京都美術館で行われていたエジプト展から、展示物を盗み出そうとした男が謎の死を遂げます。その2年後、修学旅行中の女子中学生が宿の屋上から転落死。彼女が遺した言葉「エジプト・ミイラ」の意味とは……!?
娯楽作品の体裁をとりながらも社会問題への警鐘を鳴らす野心作。重々しくならない調子で問題提起を忍ばせる、美紗サスペンスのテクニックが、より大きな重大なテーマに使われたことに注目したい!!
また、「日本のアガサ・クリスティー」という渾名に私はさほど思い入れがなく(笑)、「美紗は美紗でしょ、違う魅力があるよ★」と生意気にも思っているのですが……、本作は確かに、良い意味でクリスティーを彷彿とさせる味を楽しめます☆
ところで聞きかじりですが、人の記憶に深く刻まれる名作の条件として、何かひとつでも、固有名詞が脳に刻み込まれるというものがあるのだとか。登場人物の名前か、もしくは作中で鍵を握るアイテム名など……★ なるほど、名前を覚えられないと、いくら面白い作品でも後世まで残ることは難しいですよね。
その点、本作は「カ○○○容器」という名称が連呼されていて、記憶に焼きつく効果絶大★★★ もったいないので伏せておきますが、一度読んだら何度だって「『エジプト女王の棺』といえばカ○○ス容器!」と条件反射的に思い出す読者が少なくないでしょう★