東京下町殺人暮色 (光文社文庫 み 13-1)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334719449

作品紹介・あらすじ

13歳の八木沢順が、刑事である父の道雄と生活を始めたのは、ウォーターフロントとして注目を集めている、隅田川と荒川にはさまれた東京の下町だった。そのころ町内では、"ある家で人殺しがあった"という噂で持ち切りだった。はたして荒川でバラバラ死体の一部が発見されて…。現代社会の奇怪な深淵をさわやかな筆致で抉る、宮部作品の傑作、ついに文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 東京の隅田川と荒川に挟まれた場所にある下町を舞台に描かれる殺人事件の顛末を描いた作品。
    主人公は父子家庭の親子でベテラン刑事と中学生の息子。宮部みゆき氏の最も得意とする設定だろう。
    移ってきたばかりの下町で女性のバラバラ死体の一部が川で見つかるのが発端。それに輪をかけるかのように近所にある身元不明の屋敷では女性が訪れては殺されているという噂が流れていた。その館の主は有名な画家だという。主人公の順は友人の慎吾と一緒にその館に調査に乗り込むが、作品などを見せてもらううちに画家篠田東吾と親しくなってしまう。
    そんなある日、順の家に篠田が人殺しだと告発する文書が投函される。そして第2のバラバラ死体の存在を示唆する文書が警察に届く。

    この作家が上手いと思うのは普通に暮らしている人々に何らかの犯罪が関わったときに日常生活にどのような変化が訪れるのかを丹念に描いているところ。今回は画家の篠田の家の軒先に女性の手首が落ちていたことから警察が介入し、家宅捜索が行われるシーンが最も印象的だった。
    個人が築き上げてきた何かが第3者によって蹂躙される不快感、世間が向ける視線の痛烈さ、犯罪というレッテルを貼られることの悲壮感が非常によく描かれている。こういう庶民の生活レベルでの視座での描写がこの作家は本当に上手い。
    あと宮部作品の特徴といえば登場人物が魅力的なことだろう。今回も主人公の八木沢親子、その家政婦のハツ、画家の篠田など印象的な人物が出てくるが、いささか他の作品と比べるとやや弱いか。
    本作は当時の少年法―20歳以下の未成年は刑罰に処されない―に対する作者なりのアンチテーゼといった意味合いも含んでいる。殺人犯人が少年だったというのは昨今の世情を鑑みれば、特異なものでもないが、作者はそれにもう一捻り加えて、なぜバラバラ殺人を起こしたのか、犯行声明がなぜ警察に断続的に送られてくるのかといった謎を散りばめている。
    真相についてはちょっとある人物の行動に自己矛盾が感じることもあり、私自身は全面的に受け入れることが出来なかった。

    今回は女性のバラバラ殺人と宮部作品では珍しく陰惨なモチーフを扱っている。『パーフェクト・ブルー』の焼死体以来ではなかろうか。
    宮部作品としては『魔術はささやく』、『レベル7』と比べると小品とか佳作といった言葉がどうしても浮かんでしまう。それでも水準は軽くクリアしているのは云うまでも無いが、この作者ならではのテイストがもう少し欲しかったというのが正直な感想だ。

  • 作者初期の作品。平成2年にカッパ・ノベルスに書き下ろしとして出版されたものだそうです。
    なお、初出時は「東京殺人暮色」というタイトルで出版されていますが、平成6年の文庫化の際に「東京下町殺人暮色」と改題され、さらに平成23年にティーンズ向けレーベルに収録されることになったのを機に「刑事の子」と再び改題されています。確かに「下町」はついたほうがよいと思いますが、「刑事の子」はないだろうと思います。まあ商品なので売りたいのは当然でしょうが、でもタイトルだけ変えるって…てか、そもそも今どきの中学生向けの内容ではないだろうと思いますけどね。

    さて、作品自体ですが、安心安定の宮部作品、タイトルに入った「下町」の人情を感じつつ、ラストもハッピーエンドで気持ちよく読み終えることができます。古さを感じる部分…馴染み客の個人情報を安易に教える店とか、「家政婦」さんの存在とか、高級車「シーマ」とか、少年法の改正とか…はあるものの、あまり気になりませんでした。

    ただ、ミステリとして偶然に頼りすぎている部分…股の間から「火炎」を見て気がついたこととか、「シネマ・パラダイス」のマッチとか…が多いのが、まだまだ書き慣れていない感じがします。(上から目線で恐縮ですが)大作家の新人時代の作品って感じがして新鮮です。でも、下駄が屋根に当たったぐらいでは、シーマはコントロールを失くさないと思うんだ…。

    あと、蛇足ですが。
    宮部みゆきの作品を再読(比較的古いものから)していて、気がついたことがあります。結構パターン化されているのです。

    意外な探偵役(犬だったり、家政婦だったり。いつも「この探偵役をシリーズ化すれば5~6冊は出せるのに」って思います)、ラストに用意されている大立ち回り(「パーフェクトブルー」でも「夢にも思わない」でも、この作品も)。
    そして、「何かに怒っていること。」。「理由」ではバブルの崩壊と家族の在り方の変貌に、この作品では、「想像力のない少年たち」に。

    パターンがあっても何ら面白さを損ねるものではありませんが、何となくへー、って思ったので自分用の覚えとしてメモしておきます。

    さらに蛇足ですが、刊行後20年以上経っても、幸い、作者が怒っている相手が多数派になってはいません。昔に比べて増えてきた気はしますが…。

  • 読んでて昔読んだような気もしたけど、家の本棚にあった本をお風呂で読んだ。

    凶悪な犯罪をするのは想像力がないから。
    そうかもしれない。
    自分じゃない相手の立場に立てる想像力って何事にも大事。

  • とても読みやすく、また舞台も私の住んでいる場所と近くておもしろく読めたんだけど・・・
    なんでこんなにラストがおざなりなんだ・・・? 現代の子どもたちの無知や短絡思考による犯罪みたいなものを描きたかったのかもしれないし、現代の親の子どもへ対する複雑でエゴきわまる思いを描きたかったのかもしれないが、どっちにしてもラストまでは非常に引き込まれ、ラストで「えええええ」とがっくりきてしまった。終わりよければすべてよし、はかくて正しい。「今までドキドキした時間を返せー!!」と言いたくなる。それでも印象に残る場面場面や、愛すべきキャラクターは捨てきれないのでこの評価。うーん、多作の作家にはそれなりの覚悟をもって臨まねば・・・なのか・・・

  •  現在は改題されて「刑事の子」のタイトルで出版されている。
     最近では歴史小説・SF小説が多い著者の、初期の頃の長編ミステリー。捜査一課の父が追う事件とは別に、ある奇怪な噂の真相を探る中学生の息子、この2人の視点から物語が紡ぎ出されるという最近では一般的になった構成だが、当時はまだ珍しかったのかもしれない。
     現代とは違い、まだモバイルが一般的ではない時代ゆえ、噂の広まり方などにある種の懐かしさすら感じるが、それはそれで急展開が少ないので事件を追いやすい。現代ミステリーの古典版といった感じかもしれない。

  • 久々の宮部みゆきさん作品。
    模倣犯や火車などの作品が好きなので今回もハマった。
    2日で一気読み。
    順のお父さんかっこいいなー

  • 面白かった
    家政婦のハナさんが只者ではない
    去年マリエンバートでを観たくなった

  • 少年探偵団風。殺人事件をめぐり、下町や画家、家政婦さんたちや友達とのやりとりが面白く、簡単なのでサクサク読めた。

  • 順、家政婦のハナさん、父の道雄、画家の東吾、才賀、不良の若者たち、順の友だち

    下町であるけれど、時代とともにかわっていく人間模様。
    残虐なバラバラ殺人事件の犯人は、、!とドキドキしながら読み進めているうちに、あっという間に読了。

  • あっという間に読めてしまう1冊でした。刑事とその息子と家政婦とが中心になっていてほっこりするけど、取り扱う内容については考えさせされた。戦時中の様子を描いた「火炎」、息子への間違った愛情、そして現代でも特に考えさせられる少年法。かなり前の作品とはいえ、今でもそれぞれが重要で考えていかなくてはならい課題が盛り込まれていて、最後の最後まで飽きなかった。強いて言うなら、ネタバラシのシーンが呆気なかったかな。それまでがすごく作り込まれていた感じがしたので。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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