伊達邦彦全集 1 (光文社文庫 お 1-21)

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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334723484

感想・レビュー・書評

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  • なかったのだが、新潮文庫版。面白かった。
    当時としたら、画期的なハードボイルドだったのだろう。

    『彼はすでに、不吉な観念に生きる一個の悪霊と化していた。』

    目的を定め達成する為に必要な、ありとあらゆる努力、根回し、鍛錬を怠らない邦彦。
    これを別の方向へ向けられなかったのだろうか?

    『彼の中にあった一切の人間的なものを、無慈悲に奪いさった巨大な機構に対して、飽く事なき執拗な反逆を企てる』
    そして、『現世の快楽を極めつくし、もうこの世に生き甲斐が見出せなくなった「時」が来たら後ただ冷ややかに人生の杯を唇から離し、心臓に一発射込んで、生まれて来た虚無の中に帰っていくだけだ。』

    決してカッコいいと思ってはいけない。憧れてはいけない。悪は悪であり、正しい道ではない。

    完全なる破壊神。
    デートの時、一緒に映画を観ていて、『甘ったるいラブシーンにうんざりして、ステージに駆けよって客席に自動小銃でもブッぱなしたら胸がすっとするだろう』とは邦彦らしくてくすりとさせられる。

    『自分には明るく健やかな青春時代はあっただろうか。心の中にポッカリと空白な部分が出来て、そこは死んでいた。これは戦争の子だけのもつ悲しみか。ただ誇れるのは、ギリギリの青春を血みどろに生きぬいてきたことだけだ。』

    最後はやはり自分のした事と同じ事で、幕を閉じるのだ。
    「野獣」は「死すべし」なのである。
    『復讐』を成した後に残るのは何なのか?爽快感でない事は確かだと思うが…ちょっと興味はある。

  • ハードボイルの名作。伊達邦彦やばすぎる。
    今の時代では絶対に生み出されるのことのない作品。
    衝撃的なまでに悪と破壊のエネルギーに満ちている。
    甘さも弱さも無く息をするように悪事を働く邦彦の生き様が清々しいまでに突き抜けており他の追随を許さない。尊敬したくなるほどの強さに圧倒された。

  • 「野獣死すべし」の不協和音が頭の中をリフレインして止まなかった。強烈なストイシズムが生み出した非情美を描き出している。
    大藪春彦23歳のデビュー作であり、ローンウルフ・伊達邦彦の記念すべき誕生作である。大藪春彦の情念が過剰なばかりに撃ち込まれた、悪のヒーロー物語だ。
    作品の完成度や正義感にこだわる読者には向かない、破壊欲剥き出しの問題作とも言える。

    学生時代、クラスメートに薦められ読んだ。それが読書に目覚めるきっかけとなり、思い入れが深い。何度も読み返したが、いつまでも色褪せないことに驚く。アメリカン・ハードボイルドが甘ったるく感じてしまうほどのインパクトがある。

    大藪ハードボイルドの原点に酔う。
    主人公・伊達邦彦はハルピン生まれ。敗戦時に難民として、命からがら引き揚げてくる。他国者(よそもの)の邦彦が当たり前の中学校生活を送るには、戦いとらなければならなかった。出入りや闇商売の一方、ロシア文学を読む。名門高校に難なく入学。新聞部でコミュニズム論を書きなぐり、天皇批判で停学を喰らう。演劇部に入り、芝居の方法論を学ぶ。大学。サッカーに熱中し、さらに一人で美術部を作り、絵具をキャンバスに叩きつける日々。授業に何の興味もなく、下宿でアメリカン・ハードボイルドの探偵小説を貪り読む。ボクシング、射撃、そして自動車運転テクニックを磨く。卒論は「ハメット=チャンドラー=マクドナルド派に於けるストイシズムの研究」。大学院に残り、アメリカ文学を専攻する。そして、計画していた完全犯罪を決行する……。
    ここまでに、邦彦の心情が刺激的な言葉で語られている。
    殺人という美学への憧憬、己の能力の最後の一雫まで傾けて目的を成し遂げなければならないという執着。その強烈な決意との心の葛藤にニヒリズムが窺える。
    「完全犯罪の夢が彼の頭中にくすぶり始め……」
    「女に精神を求める様な間抜けには死んでもなりたくない」
    「犯罪、特に殺人には生命の昇華がある」
    「自分以外に頼りになるのは、金と武器だけだ。金で買えない物に、ろくな物はない」
    漆黒の髪はおのずから渦を巻き、彫った様に浅黒く端正な顔は若々しい。甘い唇には孤独の影があるが、憂いを含んで深々と光る瞳には夢見る趣がある。そんな伊達邦彦が躍動する本書は、今後も最高の1冊であり続けることだろう。

    なお、この文庫本には「渡米篇」が収録されている。有名なアメリカン・ハードボイルド・ヒーローたちが、伊達邦彦に叩きのめされるパロディである。

  • 徹頭徹尾の犯罪者が主人公なのでなんとも。途中から復讐劇になるが、本人がそもサイコパスなのでそれも理由づけだけのようで鼻白んだ。
    たまにセンチになってみても利用した人は全員殺すし。
    悪漢小説っていうんでしょう。

  • 2.9

  • ダークヒーロー伊達邦彦の登場。今や国産ハードボイルドの古典的名作。迷ったら読むべし。

  • 発表当時では衝撃的な名作だったろう。しかし、いま読むと驚きは少ない。それだけ、現代がやばい時代になっている証拠なのかもしれない。

  • 勧められて読み始めましたがこれはすごいですよ。稀代のアウトロー伊達邦彦が大学の入学金の強奪をやりおおせるまでのお話ですが、伊達邦彦はアグレッシブが過ぎる。

    高校生の頃は新聞部で記事書きながら演劇にのめり込んで演出脚本を務め、かと思ったら美術部を自分で作って絵に打ち込む。

    大学に入るときに、事務所に集められた入学金の山を見て入学金の強奪を夢想するようになると大学生活はその準備期間に位置付け、ジムに通いサッカー部と射撃部に入り、その間に防衛大学から拳銃を盗み、小説の翻訳をやって卒論書いて大学院に進学。

    自作サイレンサーを工作しつつ予行練習に製薬会社の現金を強奪し、千枚にも及ぶ翻訳を完成させハーバード大学の大学院の入学許可を手にして、同級生を籠絡して現金強奪を成功させる。

    この間にもバンバン人殺してるし行動力お化けが過ぎるよなんなのこの人…。まだ復讐編渡米編が併録されてますが、もう伊達邦彦を敵に回して勝てるわけがない恐ろしい…!

  • 時間があれば。

  • 懐かしい。そしてなんとも古くさい。金額の単位が2桁足りないんじゃないかというくらい。こういうのが流行った時代もあったんだねぇ。

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